見出し画像

「自分がこの会社に貢献できることは何か?」 視野を広げたら、できることはまだまだあった!

移籍者たちの挑戦」シリーズでは、大企業で働く社員が「レンタル移籍(※1)」を通じてベンチャー企業で学び、奮闘し、そして挑戦した日々の出来事をストーリーでお届けしています。
今回の主人公は、アステラス製薬株式会社から、無人コンビニ「600」を製造・販売しているベンチャー企業、600株式会社に移籍した神田直幸(かんだなおゆき)さん。神田さんは2018年10月から移籍を開始し、6ヶ月間の移籍を終えて、2019年3月に帰って来ました。そんな神田さんのストーリーを全4回でお届けしていきます。

→第1章「営業には向かない。それでも7年以上も続けたワケ」はこちら

【第2章】
営業の売上だけが貢献ではない

ー気持ちは決まった。この人のもとで経験したい!

新規事業部門に配属されて早々、ベンチャー企業へ行くことになった神田。
打診があったのが8月。10月には移籍が始まる。

移籍先を決めるフェーズで神田が条件として出したのは、「少人数の組織で、ゼロイチで経験できること」、「モノづくりに携われること」、「複数回、事業を立ち上げている経営者のもとで働きたい」ということだった。

今まで営業経験しかないため、同部門で今後、新規事業を立ち上げるにあたり、ゼロイチでモノづくりの現場に携わりたい、そして、事業創出を幾度と経験している経営者の側で働きたいと思ったからだ。業種には拘らなかった。

そこで候補としてあがってきたのが600株式会社だった。

600社は2017年に創立された20人規模のベンチャー企業。
菓子・飲料・日用品など、600種類の商品をカスタマイズできる無人コンビニ「600」を製造・販売し、オフィスやマンションを中心に導入している。

同社代表の久保はシリアルアントレプレナー。幾度かの起業を経て、2013年にウェブペイ株式会社を設立し、同社がLINEグループの傘下になったのを機に、LINE Payの事業立ち上げにも参画している。

その後2017年に600株式会社を立ち上げた。神田にとって、久保の経験は魅力的だった。600社で久保との面談を経て、それは確信に変わる。
神田は面談時に久保から「4回目の起業で、成功も失敗も知っている。それを今の会社で活かしている」という話を聞いた。

「だからいろいろ学びの機会を提供できると思います」
久保の言葉に、神田の気持ちは決まった。

(この人のもとで経験してみたい)
経験豊富な久保からレクチャーを受けられることに大きな価値を感じた。

また、すでに(無人コンビニ「600」を)導入している企業はあったものの、本格展開を始めたばかりでこれから広げていくというフェーズ。過去の営業経験が活き、また「600」をベースに事業開発にチャレンジさせてもらえるという環境も、神田を惹きつけた。

画像1

無人コンビニ「600」。中身はカスタマイズできる。

ーベンチャー企業って楽しいかも!

———2018年10月。迎えた移籍当日。

「よろしくお願いします」

神田は初めて現場のメンバーに会った。
社員の半数は20代。30前半の神田は平均年齢より少し上。
若いとは聞いていたものの、アステラス製薬との違いに驚いた。

(アステラス製薬で)神田の席があるフロアはいつも静か。個人作業をする人が多いからだろう。

一方、600社はワイワイしたサークルみたいな雰囲気。コミュニケーションも活発。だが、そのフレンドリーな雰囲気のおかげで、人見知りな神田もすぐに馴染むことができた。移籍前に想像していたよりだいぶ楽しい雰囲気に神田は安堵した。

「これならやっていけそうだ……」
前向きな気持ちで移籍がスタートした。

画像2

オフィスを移転した600社。その移転パーティの時の1枚。後方、中央にいるのが神田(左から4人目)と久保(右から3人目)

ー営業7年半の自負! 「売れない……」という衝撃

600社での神田のミッションは事業開発 兼 営業。
無人コンビニ「600」のプロダクトをベースに、導入拡大のための事業開発を行いながら、自らも営業として売っていく。

当時、本格展開をし始めたばかりで広告なども大きく出してはいなかったものの、オーガニックで問い合わせは入ってきている状態。

まずは問い合わせがあった企業に対して、営業をしていくことになった。営業に関しては7年半、真面目にやってきたという自負がある。

「地方にいても結果を出す……」
その反骨精神で常に上を目指して一直線に努力してきた神田は、全社でもトップクラスの成果を出すまでに成長した。

600社の現場では、営業においては自分が一番のプロフェッショナル。

初めて取り扱う商品とはいえ、
「きっと売れるだろう。役に立てるに違いない」
安易な気持ちでいた。しかし……、売れなかった。

営業先はもともと(「600」に)興味を持ってくれている企業のため、話は聞いてくれる。だが、「いい商品だよね。でも……」と言われて終わってしまうことばかりだった。神田は自分が「売れない」ということに、ただショックを受けた。

ー打開策が見つからない

本格展開はこれからとはいえ、既に複数企業への導入事例はあった。
それでも、スタートして間もない上に、自動販売機でもコンビニでもないという、市場にまだない新しい価値提供をするプロダクトということもあって、その価値をすぐに理解してもらうのは難しかった。

また、自動販売機と比較されることも多かった。
通常の自動販売機の場合は設置にコストはかからないが、「600」の場合は置くだけで毎月設置代として数万円(状況によっては実質0円になる場合もあるが、ベーシックプランは3万円~)が発生する。自動販売機とは提供する価値が異なるため、比較されるべきところではないのだが、「置くこと自体にお金を払うの?」と懸念されることもあった。

今までの提案営業の経験を活かして、コミュニケーションはしっかり取れたと思う。顧客の要望をヒアリングするのも得意だ。だからこのサービスを導入することで、どのような価値を届けられるのか、どういうメリットがあるのか、それはしっかり伝えられたと思う。

しかし、「商品はいいんだけど……」とそこからが進まない。

ー「もう、アステラス製薬に返してください」

「どうやったら「600」が売れるのか……?」
600社は社内環境もよく、仕事そのものは楽しかったものの、成果が出ず、自分がコストであることが苦しかった。

今まで自社ではしっかりと実績を出してきた。
しかしここでは何一つ役に立てていない。

「なんでだろう……」という気持ちとともに、辛かった。
また、神田がコストを意識したのは、ちょうどこの頃、600社が資金調達をしているタイミングだったというのもある。「この調達がなければ厳しい」そんな話も聞こえてくる。

どれくらい資金調達できるかで600社の今後スケールや、社員の給与にも関わってくる。当然、目の前の売上が及ぼす影響も大きいということ。

この時、営業のメインスタッフは神田のみだった。

だからこそ、
「自分が営業だから売れないのでは……。他の人だったら売れるのでは?」
そんな想いに胸を締め付けられる。

「もしかしたら自分のせいでこのまま売上があがらず、いろんな人の人生を狂わせてしまうかもしれない。コストでしかないのは良くない」

そういうネガティブな発想しか浮かばなかった。

神田は、(アステラス製薬の)上司との面談の際、状況を話した。
「もう、アステラス製薬に返してください」と口にしてしまいそうになる程、追い込まれていた。

「思うように成果が出なくて辛い」というよりも、このまま600社のコストになるであろうことが何よりも耐えられなかった。

ー営業の売上だけが貢献ではない

「営業で結果を出すしかないのか、でもどうしたら……」
神田は悩んだ。そして、ローンディールのメンター森との1on1の際、胸の内を話した。

「辛いです……」
そんな時、森からは思いもよらないアドバイスがあった。

それは、
「何も、営業だけじゃなくて、神田さんが(600社に)貢献できることってあるよね? 600のバリューに対して他にできることはない?」
という問いかけだった。

600社には、6つのバリューがある。それは、「愛」「誠実さ」「責任感」「柔軟性」「局面を変える力」、そして「仲間を助ける利他性」。
そのバリューに対して何かできることをしたら、それは十分な貢献になるんじゃないか、 という発想だった。

神田はハッとした。
「営業で成果を上げねば……」
営業で売上を出すことのみが、価値だと思っていた神田はその発想が衝撃だった。

森は続けた。
「例えば「仲間を助ける利他性」で言えば、目の前で困っている人はいないのか、神田さんがサポートできることはないのか、仮に神田さんの過去の営業の話をするだけでも誰かの役に立つのではないか?」

この問いを受けて、神田は社内に目を向けるようになった。
もちろん、自分のミッションとして営業・事業開発を背負ってる以上、ここでしっかり成果を出したい。それでも今は、少しでも600社に貢献できるよう、周りに困っている人がいたらサポートしようと思った。

そのひとつとして、「600」導入企業先の商品の補充を行った。
補充もすべて自社でやっていたため、補充要望があったとしても、どうしてもスタッフの人手が足りないということが発生していた。

そんな時は、「代わりに行きます」と神田は自ら手を挙げ、小さいところから貢献できることを増やしていった。

おかげで、“営業なら営業”と決められことに向かってまっすぐ進むことしかできなかった神田だったが、“自分にできることはないか”と視野を広げたことで、広く「600」の価値を捉えられるようにもなった。

結果、少しずつ気持ちを回復させていった。

→第3章「“プロダクトは変えてはいけない”という先入観」へ続く

(※1)「レンタル移籍」とは?

大手企業の社員が、一定期間ベンチャー企業で事業開発などの取り組みを行う、株式会社ローンディールが提供するプログラム。ベンチャー企業の現場で新しい価値を創りだす実践的な経験を通じて、イノベーションを起こせる人材・組織に変革を起こせる次世代リーダーを育成することを目的に行われている。2016年のサービス開始以降、計24社48名以上のレンタル移籍が行なわれている(※2019年8月現在)。→ お問い合わせ・詳細はこちら

協力:アステラス製薬株式会社、600株式会社
Storyteller:小林こず恵
提供:株式会社ローンディール


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?