「持続可能な社会を叶えるために、私たちが取り組むこと」日揮株式会社 藤間裕美さん
日揮で、プラントエンジニアとして機器や設備の設計に携わっている藤間裕美(ふじま・ひろみ)さん。自分が設計したものが形となり、社会を動かす一端を担えることに魅力を感じて新卒で入社し、現在は13年目となります。エンジニアとして日々の仕事に奮闘する傍ら、社外活動にも参加している藤間さん。みなとみらいエリアにある企業に所属する有志の集まりに参加する中で、SDGsに対する取り組みを始めた企業の話を耳にするようになります。
「徐々に変化する社会の流れをキャッチできているのだろうか」「持続可能な取り組みを取り入れるためには、どうしたらいいのだろうか」。湧き上がった思いを実現するために、一定期間、ベンチャー企業で働く「レンタル移籍」で学びを得たいと考えた藤間さん。移籍先に選んだのは、特殊冷凍テクノロジーを用いてフードロスの解決を目指す、デイブレイク株式会社でした。
半年の移籍期間で藤間さんは、これまでとはまったく違う畑の仕事にもかかわらず、宣伝やレシピブログの立ち上げなどの施策を実行し、大きな功績を残しました。そこにはどんな思いや考えがあったのでしょうか。
多様な視点をもつために
ー日揮株式会社では、どのような業務を担当されていますか。
現在は主に製薬会社向けの医薬品製造プラントの設計を担当しています。機器単体ではでなく、製品の生成から廃棄物の処理に至るまでプロセス全体の設計にも関わる仕事です。その中でもプラント全体のつながりや、使用する側の使い勝手を考え、いかによりよいものを生み出せるかということに注力しています。
ーデイブレイクを、移籍先に選んだ理由を教えて下さい。
第一に、デイブレイクはCSV(Creating Shared Value)の体現に取り組んでいるからです。CSVは、社会課題を解決する事業に取り組むことで、社会貢献をしながら利益を生み出すという考え方です。社会的な価値と経済価値を両立することはとても難しいことですが、デイブレイクはそれをまさにやっている企業。どんな想いで、どんな取り組みをしているのか、現場で感じたいと思ったんです。
また、もともと私自身が関心をもっていた、サーキュラー・エコノミー(循環型経済)に取り組んでいることも決め手のひとつとなりました。規格外として廃棄されてしまう野菜や果物を、特殊冷凍技術を用いておいしく価値あるものへと生まれ変わらせるビジネスを行い、フードロスを減らすことにつなげています。
ーまさに、持続可能な取り組みですね。
「持続可能」というワードを今後の自分の仕事に当てはめたいと思ったときに、それを体現しているビジネスに触れる必要があると感じました。ワードだけを切り取って取り入れるのではなく、実際にその現場に立ち、理解しておきたかったんです。
調べて、知って、自ら動いて身につける
ー移籍した当初は、どのような業務に取り組まれましたか。
最初の2ヶ月は、フローズンフルーツ「Heno Heno」のECサイトのオペレーション構築を担当しました。ECサイトは立ち上がったばかりだったので、みんなで「どうやるんだろう?」と協力しながら手探りでスタートしたといった感じでした。
ーこれまで、ECサイトに関わったことはあったのですか?
ECサイト自体は始めて触るものでしたが、日揮での仕事は、クライアントの要望に沿った新しいプラント・設備を設計・建設すること。知らないものを調べて知って、自分の知識とするという行為に、もともと抵抗感はないんです。サイトの構築は、どういう仕組になっているのかを理解し、これまでの知見を活かしながら業務を進めていくことができました。
ただ、いままで関わってきたのはBtoBの事業で、今回はBtoCの事業。また、ECサイトの構築だけでなく、お客様からの受発注までを担っていました。その間、お客様から商品に対する率直な意見が聞くチャンスがたくさんあったので、その後の業務にとても役立ちましたね。
▼「Heno Heno」のECサイト
ーその他には、どのような業務に携わっていましたか。
ECサイトの立ち上げに伴い、オフィスと加工場間のコミュニケーション方法や、受注から発送までのオペレーションをどう確立していくのかが課題となっていたので、解決に向けて取り組んでいました。
まずは加工場に入って、フルーツの加工から梱包し、発送するまでの手はずを1から取り組みました。そうすると加工場の流れがだんだんわかってくるので、加工場の視点も見えてきて。少人数で加工場をよりよく回していけることを重視して、オペレーションを組み立てることができました。
ー最初の2ヶ月で、かなり濃厚な時間を過ごされたんですね。これまで円滑に物事が進んでいる印象を受けますが、困りごとはなかったんですか?
早々にエンジンをかけて業務に取り組めたのは、信頼して仕事を任せてもらえたからだと思います。デイブレイクの皆さんが、ウェルカムな空気で私を迎えてくれたので、自分の考えや提案も伝えやすい環境でした。
スタート時は、自分のスキルをどのように活かせるか手探りの状態でしたが、例えばコミュニケーションを促進するために、オフィス、加工場それぞれの言葉をそれぞれの現場に合わせた言葉に変換するなど、日揮で得たスキルが活かせるのだと感じました。
お客様の声から得たヒント
ーその後はどのような業務に携わっていたのでしょうか。
冬場はフローズンフルーツの需要が下がってしまうので、積極的にプロモーションを行うことになりました。マーケティングのプロセス、専門用語ひとつひとつ、周囲の方に教えていただきながら勉強しました。ただ、自分なりに進めているものの何がベストかわからず、その時は不安に感じていたように思います。
ーどのように不安を乗り越えられたのですか?
他にもマーケティングを行っている方がいたので、私が同じことをやってもデイブレイクのメリットにはならないと思い、自分なりにできることを考えました。それが、ブログとメールマガジンの配信です。
「Heno Heno」では野菜も扱っているのですが、調理法をお客様から質問されることもありました。素材の良さは理解していましたが、どうやって調理すればいいいのかというアイデアは社内で持ち合わせていませんでした。そこで、おすすめのレシピをブログで紹介することをはじめたんです。
ー仕事の傍ら、レシピ開発まで行うのは大変だったのではないでしょうか。
家に帰ってからレシピを作って、写真を撮って…というのは、ちょっと大変でしたね(笑)。社内で私を含めて4名、レシピを考えるメンバーがいて、野菜を担当分けして、各自1ヶ月に5〜6品のレシピを考えるというような体制をとっていました。それをLINEで共有して、ブログでアップするようにしていました。
フルーツや野菜を活用するレシピを考えるようになったことで、食材への理解を深めることができました。そのまま食べる以外にも、料理の時短になることやいろんな料理に使えることを身を持って体験したので、自信を持っておすすめできるようになりましたね。
他にも新しく入ってきたフルーツの紹介や、品種ごとの違いや栄養価なども記事にしていました。結果的には80記事以上、更新することができました。
ー購入者からすると、うれしい情報ですね!
無農薬・減農薬のとてもいい食材ばかりなので、もっと多くの人に知っていただきたいという思いもありました。なかでも面白かったのは、「柑橘の皮を売って欲しい」とお客様から要望があったことです。こちらから発信することで良い反応をいただき、それを実際に商品化できたのはうれしかったですね。
ーメルマガには、どんな内容を掲載していたのですか?
メルマガは、セールのお知らせやおすすめしたい野菜などについて書きました。どういった言葉を使うと開封率が上がるのか、購入率が上がるのかということもテストしながら書いていたので、とても勉強になりました。日本で出回っているフローズンフルーツは、ほとんど海外産なんです。国内産のフローズンフルーツの適正価格が曖昧なので、セールなどで購入者の反応を見ながら価格の見直しも行いました。
発信を続けていくと、企業からも多数お問い合わせをいただくようになって。「フードロス」というワードに対して反応が多くあり、メディア取材やカフェやレストランから扱いたいというご連絡をいただきました。
大事なのは共感
ー発信やメディア対応などの経験はあったのですか?
実はプラベートでもSNSはほとんど利用したことがありませんでした。けれど、BtoCのビジネスにおいて、ブログやSNSは必要だということは理解していたので、とりあえずやってみよう!と進めることができましたね。
その後も、他のメンバーと一緒に「Heno Heno」のペルソナを考えたり、Instagramにおいてどんなハッシュタグが適しているのかをリサーチするなど、どうやったら認知が広がるのかを考え続けていました。その中で料理研究家の方とコラボレーション企画を考えました。SNSでフードロスについて発信してするなど、「Heno Heno」のユーザー層とも一致するのではと。
オファするにあたり、メールは2〜3日かけて推敲し、会社の理念や「Heno Heno」への思い、なぜご一緒したいのかという自分の素直な気持ちを込めました。結局その企画自体は叶わなかったのですが、「Heno Heno」に共感していただき、商品が良いからということで、SNSでご紹介してくださったんです。
ーよかったですね!
紹介していただいてから、たった半日の間にHPのアクセス数もインスタのフォロワーも大幅に増え、売上にもつながりました。実は、移籍前から密かに、この方と「Heno Heno」は相性が良いのではと考えてはいたのですが、深く考えすぎてしまい、提案まで持っていくことができなかったんです。でもこうして、自分の中の解像度を上げて、思いを込めてアクションを起こしてみたことで、共感を得ることができ、良い結果になりました。今までは、しっかり時間も費用もかけてアウトプットしなければと思っていたのですが、そればかりではなく、共感を広げていくことも大事なんだと、この件を経て、学んだことです。
芽生えてきた、アート思考
ー多岐にわたる業務を行う中で、ベンチャーならではと感じた部分はありましたか?
大企業内で仕事をする場合は、上司に説明するための資料づくりなど説明するために時間を費やすこともあるのですが、デイブレイクでは、社内に了承を得て実行するまでのスピードは短かったと思います。「次はどうしようか?」と言う話が日常的に行われていたし、席の後ろにいる担当者と話して「やってみよう」とすぐに進められる。その時間の差は大きいと感じました。
移籍中に「アート思考」の本をメンターの出川さんに紹介してもらって読んだのですが、ベンチャーではそういった思考が当たり前になっている気がします。アート思考はみんなが良しとするものではなく、自分が良いと思うものを大切にして新たなアイデアを生み出す方法ですが、それが現実化するのだということを体感できました。
日揮に戻って新しいアクションをするときも、まずはやってみようという経験が活きてくると思います。
ーその他に感じた違いはありますか?
大きい企業は説明までの道のりは長いですが、大きな予算を獲得できます。しかし予算をかけることが大切なのではなく、いろんな角度のアイデアをお金かけずにできるか探索する。これもひとつの学びとなっています。
写真左:藤間さん / 写真右:デイブレイク代表 木下さん
「社会をよりよく」その思いが、すべての原動力
ーレンタル移籍を経て、どのような環境変化がありましたか?
今回の学びを経営会議で発表したところ、社内的にも認識してもらえて、新規事業に関わるプロジェクトにも参加できるようになりました。他にも、昼会という社内の有志が集まる場で情報を共有するなど、社内での活動にも積極的に取り組んでいます。
ー周囲の反応もよさそうですね。
経営会議ではフードロスの視点を社内にも取り入れたいという方もいたり、プレゼン資料を見てメールをいただいたり、多くの方から良いリアクションを頂いています。社会の変化について気になり始め、レンタル移籍を希望したのですが、その感覚は間違いではなかったので、今後もそういった意識をより強く持ち続けたいと思っています。
ーご自身の中で変化はありましたか?
物事を一側面だけでなく全体のライフサイクルをとらえる視点を得ることができました。規格外になった食材が農家でロスになっているということに加え、お店や家での廃棄など、フードロスだけでもさまざまな側面を持っていることに気づくことができました。
規格外と言うと、食べれないもの、廃棄するものというイメージがついてしまいがちですが、すごくおいしい。「Heno Heno」だけでなく、一見価値がないとされているものでも、ある人から見ると魅力に感じるものもあるんだと気づかされました。そういった視点を持つと、私達の身の回りにもそういった可能性があるものはたくさんあります。自分の仕事の中でも、循環型社会に繋がるようなものの可能性を再発見し、新たな価値を生み出すプロジェクトに携わっていきたいですね。
半年間、走り続けた藤間さんの根底にあったのは、「社会を良くしたい」という強い思い。どこにいてもその変わらない思いがあるからこそ、ためらわずに動き続けられるのだと感じました。日揮では、新たなプロジェクトにジョインする藤間さん。持続可能な社会の実現を目指し、挑戦はつづいていきます。
Fin
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協力:日揮株式会社 / デイブレイク株式会社
インタビュー:三上 由香利
写真:畑中ヨシカズ
提供:株式会社ローンディール
https://loandeal.jp/