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「”企業の挑戦”から得た教訓」経済産業省 田口周平さん-前編-

 昨今、終わりの見えないコロナウイルスの影響より、多くの企業が変革を余儀なくされている。ニューノーマルに合わせて、試行錯誤しながらも、挑戦を続けていかなければ生き残れない。当然それは、国でも同じこと。大きな分岐点にある日本経済。国の施策次第で、どちらにも転ぶ。

 経済産業省で、コロナ対策における、中小企業向けの金融政策を行っている田口周平(たぐち・しゅうへい)さんは、現在、前例のない取り組みの中で、日々、奮闘している。「4月以降、ずっと対応に追われている」と、忙しそうな様子の田口さんだが、中小企業の支援には、人一倍熱が入る。
 田口さんは2020年3月までの7ヶ月間、ベンチャー企業へ行き、事業再生に携わった。しかし結果的に “会社をたたむ”という結論に至り、その最後を見届けている。その経験こそが、“コロナ禍における中小企業の資金繰りを支援する”立場にある田口さんに、少なからぬ影響を与えているようだったーーー。

スタートアップの肌感と“稼ぐ”経験を求めて

まずは、田口さんの経歴に触れておきたい。田口さんは現在、経産省に入省して6年目。中小企業向けの金融政策を行っているが、それまでは災害支援など、人命に大きく関わる仕事に携わってきた。

「2015年に入省して、最初は原子力政策や、デジタル化関連の政策を行う部門にいて、そのあと省全体の統括部門に配属になりました。ちょうどその頃は、西日本の豪雨や北海道の大地震などが相次いでいて、災害対応にも携わりました。必要な物資をコンビニに揃えたり、避難所にクーラーを届けたりとか、そういう動きをしていました」

一つの遅れが命に大きく関わる。
緊張感ある、かなり重要な任務だ。

「半端なかったですよ、緊迫感…。国の政策って、どうしてもエンドユーザーが見えにくいんですね。でも災害は違う。自分たちが送り込んだものひとつで、多くの人が喜んでくれるのが目に見えてわかる。ボランティアの方が、物資や食料を届けている一方で、トイレがないとか、クーラーやトイレがないとか、ボランティアでは手が届かない生活必須用品が幾つもあって、そういったところを補っていました。そうした必需品が目に見えて供給されていく様子がわかり、やりがいがありました」

貢献度も高く、やりがいもある仕事を経て、
田口さんはレンタル移籍を通じてベンチャーへ行った。
なぜ、ベンチャーでの経験を必要としたのか。

「スタートアップの実態を知りたいというのもありました。例えば政策課題として『スタートアップで働く人材を増やしていくことが必要』だと言われているものの、そもそもどういう人材が必要なのか、リアルなところが全然わからない。だから、スタートアップの肌感や、経営者の考え方を知れる機会になるんじゃないかなって」

「それに、経済産業省にいて、経済や産業を相手にしている立場にいながらも、お金を稼ぐ大変さを経験したことがなくて、それを得たいと。グローバルに活躍する企業を増やさないといけないとか、地域経済の持続的な発展に寄与する企業を増やさないといけないとか、一般論としては良く言いますが、その前提には企業に金を稼ぐ力がないといけないはずで。でも、公務員は自分たち自身で金を稼ぐ必要はないから、その難しさが良く理解できていなかったんです。あとは、役所にいながらスタートアップで働いた経験のある人ってまだそんなにいるわけではないので、力になれるとも思ったし、自分にとって良いタグ付にもなるなと考えたんです」

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会社の運命を背負って

現場に行って自らが経験することで、物事の本質が見えてくる。
そんな中で、田口さんが選んだのが株式会社VALUだ。VALUは、個人が自分の価値をシェア・トレードできるフィンテックサービス。「人に投資し、人を応援する」をコンセプトに、新しい評価基準を提唱するスタートアップ。

「僕らは物事の価値を判断する際に、金銭価値を用いることが多いです。経済効果○兆円の政策とか、一泊○万円のホテル、と言ったり。けれども、これまで定性的な評価しかできていなかった、信頼とか友情のような価値観が、テクノロジーによって見える化することが可能になりつつあります。SNSのいいね数とかフォロワーはその代表例ですよね。こうやって、我々の価値基準が『お金』という物差しから、『信用』に移りつつある中で、国の制度や政策をどうアップデートしていくのか、もともと興味がありました」

「それに『評価の基準を変え、お金の流れを変え、フェアな世界をつくる』というVALUのミッションにも共鳴しました。それから、VALUは暗号資産をサービス内で扱っていたのですが、暗号資産に関する規制である『改正資金決済法』が成立しており、その対応をしないといけないという状況だったので、スタートアップ側から見て、国の規制ってどう見えるのか知りたかったというのもあります。あとは、役所となるべく遠くて、規模も小さくてエッジの立ったところの方が、自分の幅が広げられるんじゃないかという期待も」

「新たな評価基準」「スタートアップから見た規制」。自らの関心に加え、あえて仕事を幅広く経験できる場を選んだ田口さん。慣れない環境で、マルチに仕事をこなしていくことに不安はなかったのだろうか。

「マルチな仕事をしないといけないのは、実は役所も同じです。そんなイメージないかもしれませんが(笑)。もちろん一人ひとりに与えられている仕事ってありますけど、そればかりでもなくて。それ以外にも、臨機応変に必要だと思うことを日々やっている感じです。『やることは決まっていないけど、やるべきことをやる』みたいな。そういうことって当たり前ですし、仕事を作って動かしていくっていうところでは、役所もベンチャーも変わらないかなって」

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こうして大きなハードルもなく、スムーズにジョインできた様子の田口さん。一方、思い描いていたベンチャーのイメージとはかなりギャップがあった。

「移籍してすぐのこと。数ヶ月後には次の資金調達をしないとまずい、というような状況でした。資金決済法の施行も迫っていたので、規制対応のためにこのくらいの資金調達が必要で、そのためにはこのくらいの売上を生まないといけない、…というような追い込まれた感じで。正直、多少なりとも想像していたスタートアップキラキラ感はありませんでした(笑)」

VALUがこのような状況に追い込まれたのは、『改正資金決済法』による影響が大きい。この法律は、暗号資産の利用者保護などの観点から、2020年春に金融庁が施行したもの。VALUのように顧客の暗号資産を管理する事業者も、暗号資産交換業者として審査を受け、登録する必要があった。しかし、体制を整えるために必要な費用も工数も莫大だった。
だからこそ、VALUでは資金調達を必要とした。そして、資金を集めるために、VALUの価値を、より高める必要があったのだ。

そのタイミングでジョインしたのが田口さんだった。
しかも田口さんのミッションは、ユーザーと売上の両方を伸ばしていくという資金調達に関わる超重要なミッション。チームでの取り組みだったとはいえ、プレッシャーも大きい。

「『達成したい!』という気持ちは当然ありつつも、かなり追い込まれていた状況でした。トライアル&エラーをもっと繰り返すべきだったのかもしれませんが、実際9月に移籍して、3ヶ月間くらいで実績を残さないと資金調達は難しいという状況でした。なので限られた時間で、意味あることしかできないっていう…。いろいろやれる環境はあったものの、トライを繰り返し続けられる余裕はなくて」

稼げなければ終わり。迫るタイムリミット

トライアルできるタイムリミットまでわずかしかない。
検証も必要だが、大玉を打たないと意味がない。

「施策も思いつくし、こうすればユーザーが増えるのでは? というイメージはいくつかありました。ユーザーがどういうフラストレーションを抱えているとか、獲得できていないユーザーはどこにいるのかとか、使ってもらうためにはどうしたらいいのかって、そういう企画立案のプロセス自体は、今までの仕事のやり方と変わらなかったので」

「でも、その施策を打ったところで、ユーザーを100人は増やせるかもだけど、それではインパクトが小さすぎるわけです。うまくいったとしても、売上がグンと伸びる要素にはならない。VALUの既存サービスをグロースさせるためには、数万人規模でアクティブユーザーを獲得しないと、目標とする売上につながらないというジレンマがありました」

「3ヶ月程度で数万人規模を増やさなければいけない」というのは、個人を相手にしているサービスでは難易度が高い。とはいえ、立ち止まっているわけにはいかない。

「地方創生でVALUを使えないかなって考えました。VALUは、誰かが誰かを応援する世界で成り立っている。それってどこで起こっていることかなって考えた時に、『すでに何かのファンになっている人ならここを使うかもしれない』って。なので、この地方が好きだけど、貢献できていない。思いが届けられていない。ふるさと納税のように自分が好きな地方を応援するサービスが、まだあまりないということから、地域とその地域を応援したい人とつなげることで、ある程度のマーケットができるんじゃないかと」

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そして田口さんは自らその可能性をリサーチし、動いてみた。
その結果・・・。

「・・・でも盲点があって。地方でVALUを使える人ってそういるわけでもない。まず、サービスの利用がビットコインを介さざるを得ないという入口部分のハードルが高くて。実施に向けて検証してみた結果、ユーザーが増やせたとしても、12月くらいまでに数万人増えるかっていうと、そういう絵は描けず、サービス反映まではいきませんでした」

その後も、様々な可能性を探った。
しかし、いずれも短期間でスケールが見込めるものではなかった。



「やっぱり、自分のミッションとして、売上を作りたいっていうのがあったのに、全く貢献できなかったことが心残りです。行く前はもうちょっとできると思っていました、正直。ちょっとユーザーが増えればお金も増えていくってイメージしていたんです。でも、どういうビジネスモデルでどうやってサービスが成り立って、稼ぐためには何が必要かってすべてが曖昧で、甘かった。こういったサービスはある程度のマスを獲得しないと売上には繋がらない。そこの難しさを実感しました」

期間も、割ける工数も限られた中でのアプローチは、想像以上に厳しかった。そして、追い込まれた中で、新たな決断をしていくことになるーーー。


→後編はこちら


【レンタル移籍とは?】

大手企業の社員が、一定期間ベンチャー企業で事業開発などの取り組みを行う、株式会社ローンディールが提供するプログラム。ベンチャー企業の現場で新しい価値を創りだす実践的な経験を通じて、イノベーションを起こせる人材・組織に変革を起こせる次世代リーダーを育成することを目的に行われている。2015年のサービス開始以降、計38社100名のレンタル移籍が行なわれている(※2020年8月実績)。→詳しくはこちら

協力:経済産業省、株式会社VALU
ストーリーテラー:小林こず恵
Photo:宮本七生
提供:株式会社ローンディール
https://loandeal.jp/
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