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【第5章 ロケット雲を見ながらNTT西日本を想う 】 世界で唯一「流れ星」を売る男 〜早くプロフェッショナルの一員になりたい〜

「移籍者たちの挑戦」シリーズでは、大企業で働く社員が、「レンタル移籍」を通じて、ベンチャー企業で学び、奮闘し、そして挑戦した日々の出来事を、ストーリーでお届けします。
 今回の主人公は、NTT西日本から株式会社ALEに移籍中の梶原浩紀さん。梶原さんは2018年4月から移籍を開始し、2019年3月に移籍が終了しました。そんな梶原さんのストーリーを連載でお届けしていきます。

<過去記事>
第1章 「プロフェッショナルを目指して、 NTT西日本からベンチャーへ」
第2章「第2章 何者になりたいのか?」
第3章「火星でインターネット!?」
第4章「流れ星を売れない男!?」

—戦略的に仕込む

人工衛星「ALE-1」の打ち上げが1月17日に確定した。
その情報が公になると、予想通り、各種メディアからの問い合わせが殺到した。(※ 実際の打ち上げは天候などの諸事情により1月18日に行われた)

広報を担当して約8ヶ月。
メディアブリーフィングをはじめ、様々な場面でメディア対応をしてきた梶原は、この情報公開によりどれくらいの反響があるのか、どう対応したらより良い露出につながるのか、その感覚がだいぶ分かっていた。

そのため、いつ打ち上げが発表されても良いように、11月に入った頃からは前もって仕込みを始めており、すでに関係があったメディアや、以前取材してくれた関係者には、まだ日程は公表できないものの、予め取材の打診をするなど準備を整えていた。

こうした事前の準備もあり、問い合わせが殺到しても慌てることなくスムーズな対応ができた。

また、梶原が力を入れたこととしては、打ち上げを行う内之浦宇宙空間観測所がある鹿児島のテレビ局への打診。

今回の(広報活動の)目的は、日本全国の人に広く打ち上げを知ってもらうこと。
そこで地元や業界のみならず、主に首都圏に拠点を置くマスメディアから発信する必要があると考えた。しかし実際は、首都圏のメディアを現地に誘致するのはハードルが高い。

まずは主要テレビ局が母体となっている、鹿児島支社を持つテレビ局に取材をしてもらい、その素材を提供するなどの連携を行うことで全国に届けようと考えた。

十分な素材があることで、現場への誘致が難しくても取り上げてくれやすくなると思ったからだ。だからまずは(鹿児島にある)テレビ局に取材を打診し、その確約を急いだ。

結果、2社の取材が決定。
梶原はこれら仕込みを進めながら思った。

「これってある意味、営業活動と一緒なのかもしれない……」と。

全国に(打ち上げという一大イベントを)届けるために広報活動を行うのと、多くの人を巻き込むイベントを行うために営業活動を行うのと、根本的には一緒なのかもしれない。

それに今回のPR次第では、営業活動がしやすくなるかもしれない。
全然進んでいない営業活動のことを少しだけ気にしながらも、梶原は1月の打ち上げに向けて集中した。

—高まる緊張と高揚感。いよいよだ……

気がつけば12月も半ば。
この日梶原は(鹿児島県にある)内之浦の観測所にいた。

翌月の打ち上げに向けた公開会見が行われたからである。
発射場には、すでに打ち上げ予定のロケット・JAXAのイプシロンロケット4号機があって、それを取材してもらうことがメインだった。

当日は様々なメディアが来てくれた。梶原は名刺交換をしつつ、打ち上げ時の取材を改めて打診するなどフォローを徹底した。

また、梶原は打ち上げ時の会見の司会も行うことになっていたため、帰ってきてからも、台本制作をはじめ、現地との調整、取材時の段取りなどに追われ、あっという間に年末を迎えることになる。


———そして1月。

梶原は、打ち上げの数日前に、ALEのメンバーとともに現地入りした。
1月17日の予定だった打ち上げは、天候などの諸事情により翌日18日に延期になった。

梶原は緊張していた。
メディアや関係者だけではなく、ALE事業の支援者をはじめ、様々な形で応援してくれている人たちがこの日を楽しみにしている。打ち上げの成功を見守っている。

「今自分ができることとを精一杯やりたい、会見を成功させたい!」
そんな気持ちでいっぱいだった。
それと同時に高揚感も最高潮に達していた。

ずっとずっと待ち望んでいた今回の打ち上げ。
ALEのみんなが同じ気持ちだったに違いない。

1月17日、打ち上げ前夜。
会見のリハーサルを無事に終えた梶原は、ただ、打ち上げの成功を祈るばかりだった。

空に瞬く星を見上げて、ただただ祈った。

—ロケット雲を見ながらNTT西日本を想う

そして迎えた1月18日、打ち上げ当日。
ALE社員全員が見ている前で、人工衛星「ALE-1」は華々しく空へ飛んでいった。

打ち上げは成功した。
それは一瞬のできごとだった。

しかし、とてつもなく長かったように思う———。

梶原は岡島から聞いた話を思い出す。
2011年、しし座流星群を見た時から始まった岡島の想い。
最初は周囲から冷ややかな目で見られ、それでも諦めずに仲間を集めて研究開発を着手。

ここまで様々な困難があっただろう。
しかしその夢は、今こうして着実に実を結ぼうとしている。

岡島が「絶対に実現させる」というブレない強い意志を持っているからこそ成し遂げられたこと。この10ヶ月、誰よりも近くで岡島の想いに寄り添ってきた梶原はそれを改めて感じた。

「ALE-1には、岡島さんの想いが詰まっているんだ!」

梶原は高空に消えゆく人工衛星を見上げながら、心で大きく叫んだ。
こみ上げる想いとは、まさにこのこと。

それと同時に「この熱い想いをどうやったらNTT西日本のメンバーと共有できるのか」そんなことも考えていた。

「社会人になって、(岡島さんのように)熱い想いを持って何かに取り組んだことがあっただろうか?」

梶原は自問自答しつつ、メンバーの顔を思い出す。
(NTT西日本の)みんなもそれぞれやりたいことがあるはず。
少なくとも入社した時、ビジネスデザイン部に配属された時は、何かしら想いを抱いていたはず。

しかし日々の忙しさや、自分一人ではどうにもならない環境によって、気がついたら諦めてしまっている人も多いのではないか、そう感じていた。

せっかく外に出る機会を与えてもらった自分だからこそ出来ることは何か……。みんなが熱い気持ちを取り戻せるよう、社内の雰囲気を変えていきたい。

梶原は、薄れゆくロケット雲を見つめながら、そう思った。

こうして、人工衛星「ALE-1」は、夢、未来、そしていくつもの想いを乗せて、無事に宇宙へ飛び立った。
2020年の人工流れ星プロジェクト「SHOOTING STAR challenge」へ向けて着実な一歩を踏み出した。

打ち上げが終わると、いよいよ梶原の準備した会見がはじまる。
記者から様々な質問がされる中、CEOの岡島は「打ち上げの瞬間は言葉にならなかった」とその心境を語る。岡島が記者に答えるその横で、梶原はこれまでのことを思い出し、ひとり胸が熱くなっていた。

———後日。
この会見は多くのメディアに取り上げられ、梶原の広報作戦は成功した。

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打ち上げ後の会見の様子。司会も務めた梶原(左)と、CEOの岡島(右)

—Twitter施策としてカウントダウン

今回の打ち上げを経て、ALEのTwitterのフォロワーは1,000人を超えた。

今までは限られた業界の人たちが多かったが、今回を機に宇宙分野とは関係ない一般の人も増えた。応援してくれる声も増えたように感じる。

打ち上げに向けた準備をしながら、梶原は、ALEのメンバーと共にTwitter施策にも取り組んだ。

例えばハッシュタグ企画として、「#ALE初号機応援」で質問を募り、それにTwitter上で答えていくという、少しでも宇宙を身近に感じてもらうための、ファンとのコミュニケーションを主としたものだったり。インターン生のアイデアで「(打ち上げまでの)カウントダウン」ツイートをやることになったり。

その成果もあって、Twitter上では新たなファンが増えていた。
https://twitter.com/ALE_StarAle

—残り2ヶ月。正直イメージはできていない

打ち上げ後のメディア対応などに追われ、1月も終わろうとしている。
この数ヶ月のことを振り返りながら、梶原は少しだけ自信を取り戻していた。

例えば打ち上げの事前番組として、大きく取り上げてくれたNHKのとある番組。何ヶ月も前からディレクターとやり取りをしていて、番組構成やメッセージを考えて、一緒に作品を作っている感覚だった。

これら仕込みによって、1千万人以上の人がALE-1を目にしてくれた。
少しでもALEの役に立てたと思った。

しかし、移籍期間も残り2ヶ月。
来月(2月)には、自分の後任とも言えるPR担当が入ってくる。

梶原は、早く引き継いで、自身は営業活動をやろうって考えている。
お金をもらうのは無理かもしれないが、次につながる案件を1つでも2つでも作って、4月以降の協賛獲得に貢献できるような状況を作りたい。

とは言え、打ち上げの広報活動をやりきった梶原は、残りあと2ヶ月でどういう状態になったら良いのか、それがまだイメージできていなかった。


第6章へ続く


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「&ローンディール」編集部よりお知らせ

株式会社ALEでは、一緒にプロジェクトを推進してくれるメンバーを随時募集とのことです。詳しくは、会社概要の「採用情報」をご覧ください。
http://star-ale.com/

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取材協力:西日本電信電話株式会社、株式会社ALE
storyteller 小林こず恵
提供:株式会社ローンディール
https://loandeal.jp/

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