見出し画像

研究職10年の落合さんが、なぜ、 たった1年で事業創出を期待される人材になったのか?【前編】

「まさか自分が、1億円の資金調達をすることになるなんて…」
そう話すのは、パナソニックに入社以来10年、リチウムイオン電池の研究開発に従事してきた落合章浩(おちあい・あきひろ)さん。
落合さんは2018年秋から1年間、ロボティクスのベンチャーにレンタル移籍し、想像を超えた経験をして戻って来ました。現在はその経験を活かして、新規事業創出の真っ只中、新たなストーリーを創造する日々を送っています。
研究職しか経験のなかった落合さんが、なぜ、たった1年で事業創出の現場で活躍を期待される人材になったのか? 落合さんを大きく変えた、パラレルな365日に迫ります。


—リチウムイオン電池の研究から、最先端のロボティクスへ

ーー落合さんが「レンタル移籍」に興味を持ったのは、過去の出向経験から。“外に出ることで変化する”実経験を、自ら持っていたからでした。
落合さんは、2009年パナソニック入社。入社以来、車載用のリチウムイオン電池の研究開発をしていました。
学生時代から化学を学び、リチウムイオン電池の研究をしていた落合さん。当時、環境問題について考えることも多かったことから、CO2削減に貢献できる研究開発に憧れ、パナソニックを選びました。そして希望通りの部門に配属となり、研究に没頭する日々が続きます。

それから月日は流れ、入社して5年目の頃、落合さんは、社外に出向し、研究に携わる機会を得ました。入社以来、初めて外の世界を見た落合さんは、衝撃を受けるのでした。

「同じ研究職でもこんなに違うやり方があるのかと、驚きました。パナソニックはソロプレイで進めることが多いのですが、出向先はチームで進めるスタイル。どっちがいい悪いではないですが、研究ってこうしなきゃいけない! っていうのが、思い込みだったんだと知り、だいぶ視野が広がりました。この経験があったからですね、今回レンタル移籍に手を挙げたのは。

やっぱり、外に出ると変わるっていうのを自分で経験していたので、今回もそれを期待していました。実は、ちょうど今の仕事に、風穴を開けたいと思っていたタイミングでもあったので…。

長くリチウムイオン電池の研究開発に携わる中で、技術者としては成長したと思うし、きちんとアウトプットもしてきたつもりです。でもある程度、土台ができている中で進めてきたので、世の中に対して大きなインパクトを与えられたかというと、そうでもなくて。この先も今までのやり方でいいんだろうか…って悶々としていました。なので、AIとか成長期にある技術領域に触れてみたい、新しいやり方を手に入れたい、と考えていたんです」

画像1


—やってみたらできた。生まれた自信

ーーこうして、落合さんが移籍先に選んだのは、Telexistence株式会社(以下、TX社)。遠隔地のロボットを通じて、操作者は視覚・聴覚・触覚を感じることができるという、テレイグジスタンス(遠隔存在)ロボットの製品開発・事業開発を行うベンチャー企業。
未だない、イノベーティブなロボットの事業化を目指す同社の取り組みは、落合さんにとって魅力的だったようです。

「すごいぶっ飛んでるんですよね、発想が。ロボットに憑依して、“幽体離脱感覚”をもたらす技術? 何それ! ってビビッときたんです。面談の時、CEOの富岡さんから『毎日ガラスを食べて、深淵を覗けますか?』って言われたんですけど、むしろ、環境的にきつい方が成長できるんじゃないかと思って、決めました。

実際に移籍が始まると、知財・安全・保守などの規格周りから、ロボットのデモストレーション、プロマネ、それから資金調達と…想像以上に関わる範囲も広くて。知財とかは、経験もあったんですけど、とにかくロボティクス・VR・AIなどリチウムイオン電池以外の技術のことが全くわからず、最初は苦労しっぱなし。

例えば、クライアントにロボットのデモを行うなどもしていたんですが、ボタンひとつで動くわけではなく、プログラムで起動させたりするんですよ。だから(プログラミングの知識も)ある程度わからないと理解できない。当然僕はわかんないわけで、最初はもう…やばかったですよ。CPOの佐野さんにいろいろ教えてもらいながら、それで何とか…という感じです。

それから、安全規格の領域でいうと。ロボットを動かすときに、危険じゃないように、技術者と安全技術を高めていく仕事なんですが、リスクを洗い出して規格を決めていきます。当然やったことないですから、とにかく手探りです。同時に、プロマネを任せてもらったり、資金調達をやったりもしていたので、あらゆる脳みそを使いました。とにかくパナソニックでの研究職とは頭の使い方が180度違う…。

ただ、同時期にいろんな業務をしたことで、自信になったこともあって。
何かというと、自分は研究者として材料をいじるくらいしかできないと思っていたんですけど、やってみると、案外いろんな業務ができるもんなんだなぁと(笑)。当然サポートしてもらいながらですけど。
特に自信になったのは、ロジカルに話すこと。どの業務も、社内外の人とコミュニケーションをとりながら進めることが多くて、議論する場も結構ありました。場を重ねていくうちに、どんな場でも、論理的に話せているようになって。本当、いい機会をもらったなって思います」

画像2

「CEATEC JAPAN 2018」での1枚。ロボットのデモのサポートで参加。一番左が落合さん。

—落合さんは及第点だね、と言われて

ーー「案外できる」。TX社のあらゆる業務と格闘しながら、自らの行動に自信をつけ、順調に思える落合さん。しかし、こうして自分のペースをつかむまでは時間がかかった様子。落合さんが変わったのは、あるショックな経験からでした。

「移籍して3ヶ月経った12月年末の1on1で。TX社のフィードバックで『落合さんは及第点です』って言われました…。理由としては、『TXでは、与えられたものに対して結果を出すのはできて当たり前で成果とは言わず、期待以上の成果が出て成果と言える。』ということだったんです。当時はめちゃめちゃ頑張っているつもりでいたので、マジかー! って普通にショックでした(笑)。

悔しくて、『じゃあどういう動きを求められているのか?』って確認しに行きましたね。そこで気づいたのは、コミュニケーションが足りないということでした。ソロスタイルで仕事を進めていくことに慣れていたので、ちょっとした質問をするとか、協力してとか、そういうことに躊躇してしまっていて…。これを聞くのは恥ずかしい、みたいなプライドもあったんだと思います。でも、素直に人の話を聞いたり、わからないことを解決していかないと、その次に進めないなって実感しました。その頃からです、周りからも動きが変わった、と言われるようになったのは」

画像3

ロボットを囲み、TX社のメンバーとの1枚

ーーこうして、ベンチャーで働く感覚を掴んでいった落合さん。
後編では、移籍してたった2週間目に告げられた、資金調達の話を伺っていきます。

→ 後編を読む

▼関連記事
その他、大企業からベンチャーへ、移籍者の奮闘ストーリーはこちら


【レンタル移籍とは?】

大手企業の社員が、一定期間ベンチャー企業で事業開発などの取り組みを行う、株式会社ローンディールが提供するプログラム。ベンチャー企業の現場で新しい価値を創りだす実践的な経験を通じて、イノベーションを起こせる人材・組織に変革を起こせる次世代リーダーを育成することを目的に行われている。2016年のサービス開始以降、計36社95名のレンタル移籍が行なわれている(※2020年4月実績)。→詳しくはこちら


協力:パナソニック株式会社 / 株式会社BeeEdge / Telexistence株式会社
ストーリーテラー:小林こず恵
提供:株式会社ローンディール
https://loandeal.jp/


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?