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イノベーション創出をリードする3名と「大企業のイノベーションに必要な人材とは?」公開会議

社会の不確実性が高まり、組織変革が求められる中、多くの企業がイノベーション人材の育成に力を入れています。大企業で創造や変革に取り組む人材をベンチャー企業で育成する「レンタル移籍」プログラムを提供してきたローンディールも、これまで38社のプログラム導入事務局の方々と試行錯誤しながら人材育成に取り組んできました(2020年8月現在)。しかし、「イノベーション人材」という表現は時に曖昧で抽象的な議論になってしまうことがあります。

そこで、大企業においてイノベーション創出をリードする3名のゲストを迎え、改めて大企業のイノベーションに必要な人材について考えるオンラインセミナーを企画しました。当日はオンラインホワイトボード “miro” を使い、参加者からの質問も交えながら、公開会議のような形で進行しました。その一部をお届けします。

当日、ご登壇いただいたのは、NTTドコモで新規事業創出プログラム「39 works」を運営する笹原優子さん、パナソニックの新規事業創出プラットフォーム「Game Changer Catapult(ゲームチェンジャー・カタパルト)」代表で、パナソニックを中心とした大企業発のスタートアップ創出支援を行う株式会社BeeEdgeの取締役である深田昌則さん、そして三井不動産が運営するBASE Qにて、大企業のイノベーション創出を支援する光村圭一郎さんです。

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(左上:進行=ローンディール・及川静香、中央上:ローンディール代表取締役社長・原田未来、右上:株式会社NTTドコモ イノベーション統括部グロースデザイン担当部長 笹原優子氏、左下:パナソニック株式会社 Game Changer Catapult代表・深田昌則氏、右下:三井不動産株式会社 BASE Q運営責任者・光村圭一郎氏)

ー新規事業 or 既存事業? 大企業におけるイノベーションとは?

ーーそれぞれご自身の経歴やいま携わっているプロジェクトについてご紹介いただいた後は、大企業において、新規事業を作るイノベーションと、既存事業をカイゼンしていくイノベーションについて、ディスカッションを進めました。

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”miro”上にメモしたそれぞれの自己紹介

深田:大企業の中でイノベーションを起こす、というミッションを考えた時に、圧倒的に課題が大きいのは、既存事業のトランスフォーメーションだと思います。これができない、遅れているというのは特に日本企業の大きな課題です。また、リーンスタートアップをやっている人材とか、起業家をやっている人材が、実はトランスフォーメーションをやる時に実はすごく有効な人材だということもありますね。

原田:最終的に既存事業に帰してくるために、いったん新規事業に振るみたいなことでしょうか?

深田:そうです。我々のGame Changer Catapultでやっている活動は、直接的には既存事業のトランスフォーメーションを目的にはしていないものの、人材とかノウハウ、社外のネットワーク含めて社内のトランスフォーメーションに効きますと、経営幹部には説明しています。

原田:新規事業でやりながら体得した従来にはないプロセスをもって、既存事業に持ち帰っていくことっていうのが、新規事業の役割になっているという感じなのでしょうか?

笹原:副次的にそうなってきている感じかもしれないですね。今いるのがイノベーション統括部という部署なのですが、実は、部署立ち上げの時の目的は、事業を生むことでプロセスイノベーションをしたいということでした。それまでは、例えば以前は、1年半前から企画して、ウォーターフォールで開発して、サービスローンチして……とやっていたのが、リーンに変革していったりとか、そういうやり方を学んだ人が既存事業の事業部に異動して、プロセスイノベーションに取り組んでいたりしていますね。

光村:新規事業やイノベーションに取り組むことで得られる経験値や知見は、すべてのビジネス領域に適応可能なものだと感じます。

原田:なるほど。

光村:新規事業と既存事業は、今の時代においては本質的にはそんなに変わらないと思っています。既存事業側もトランスフォーメーションが求められている中、オペレーションだけやっていればいいという仕事はもはやないと思っていい。そういう中で新規事業を作った経験値はすごく活きると思っています。もう一つ大事だと思っているのは視座。新規事業はバーチャルなプロジェクトであり、プロジェクトのオーナー、すなわち会社の経営者になるというようなこと。年功序列型が生きている大企業では、20代30代はマネージャーとかディレクターではなく、担当者ということになりますが、新規事業のプロジェクトを持った途端、オーナーであり経営者になる。そういう高い視座と現場の目の両方を持てるようになるわけです。

笹原:視座の高さは本当にそう思います。

深田:昔は現場にいろんなことを任せていたんです。15時くらいになると上司がいなくなっていて、携帯電話なんてなかったので、会社の近くにある雀荘に電話するといた、みたいな時代。だから現場でけっこうやってんたんです。昔は会社にもそんな余白もあり、コンプライアンス的にもあまりうるさくなく、ステイクホルダーからの目もあまり気にすることなく、自由にやれていた部分があるんです。でも2000年代になって、ちゃんとした理屈を持って若い人たちに仕事を任せようという意味で新規事業という名前を使ってやっているところも多い。事務局側のストーリーとしても、新規事業という枠組みにすると、上司からすると経験していないから口を出せないので、そういう口を出せない分野をつくろうともしています。

ーーここで参加者の方から「イノベーション人材がオペレーションにも対応できるということですか?合う人材を選ぶか、経験させて人材を選ぶのか?皆さんどちら優位で選ばれているのか興味があります。」と質問をいただきました。

光村:オペレーショナルな内向きの仕事と外向きな仕事、つまり内政と外交は、違う仕事だなという感覚はあります。一般的に、大手企業の中で外交で外と繋がってどんどん新しいネタを持ってきて、新しい価値観を入れる窓口になるというポジションを務められる人はそんなに多くないという実感値があります。そういう強みを持っている人は、どんどんやらせたほうがいいのでは、思っています。先ほど言った話と矛盾するかもしれませんが、人の個性や強みとして、どちらに向いているかという観点はあるんじゃないでしょうか。

深田:オペレーショナルとそうじゃないみたいな話って、境界が曖昧になっている部分もあると思います。従来、オペレーションだと思われていた部署が実はけっこうクリエイティブで、プロフィットセンターで利益を生み出せるような時代になっている。新規事業の中では、クリエイティブマインドを持った人と、ロジカルシンキングを持った人と、オペレーションをきっちりやる人をチーム化して走らせるというケースもある。自分はオペレーションな人であると思い込んでいる人でも、新規事業にトライしてほしいですね。

光村:新規事業自体、一番初めのもやもやしたところから何らかの新しいアイディアやコンセプトを発見しようという段階もあれば、立ち上げて具体化していく段階、さらにはスケールしていくというな段階もある。その中には一部オペレーショナルだなと思えるものもいっぱいありますし、境目が曖昧になっていますよね。

深田:あまり明確に決めないほうがいいですね。

ーイノベーション人材は育成できるのか? 新規事業のタネを見つけるには?

ーーNTTドコモでは、技術者の高齢化や人手不足の課題を抱える建築鉄骨業向けに、XR技術を使った作業支援ソリューション「L’OCZHIT」を提供する「株式会社複合現実製作所」が2020年8月4日に設立されました。笹原さんが運営する「39 works」および社内ベンチャー制度を活用し、プロジェクトリーダーが社長となり、事業化された新会社です。参加者の方から笹原さんに、「その会社の社長はどんなバックグラウンドですか? 意図的に経営人材として育成していた節はあるんですか?」と質問をいただきました。

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IoTゴーグルを着用することで、鉄工所での溶接など、ベテラン職人でも時間のかかる作業が簡単かつ正確にできるようになる

笹原:いい質問。嬉しいです。ありがとうございます。研究開発をしていた、天才プログラマーです。最初はエンジニアと自分のテクノロジーに対する興味が中心だったんですが、この事業をやり始めてから、お客さんと一緒に話を聞きながら作っていき、会社設立にあたっては経営の勉強とかもして、どんどんビジネスのほうの理解もしていくようになって、事業計画とかも自分で描けるようになっていきました。

原田:事業が人を育ててたみたいな……。

笹原:そうですね。変わっていく姿を見ていたので、リリースがものすごく嬉しかったです。

光村:事業計画書が書けるというのはスキルだと思うんですが、マインドみたいなところも変わっていくものなんですか?

笹原:マインドが変わっていくとは例えばどういう感じでしょう?

光村:経営視点とかビジョナリーといったことですね。

笹原:ビジョナリーかどうかはちょっと違う気はしますが、経営目線はありますね。お金の使い方とかも考えるようになるし。エンジニアの人たちが立ち上げた他のプロジェクトでも、「最近、収入けっこうあるみたいだね」なんて話をしたら「開発費これだけかけてますからね、まだまだですよ」みたいなことを話すようになって、「え!?」と驚くことがあったり。

原田:そんなこと言うタイプではなかったのに、みたいな驚きですか?

笹原:そうです。開発したいとか、これ面白そうだと思うというところがスタートだったので。

深田:俺はエンジニアでシステムを開発するほうが得意だから、経営は誰かに任せたいみたいな発想はなかったんですか?

笹原:自分で事業オーナーにもなりたいし開発もしたいしと、両方もっていたタイプでした。

深田:経営は人任せにしたい、俺は開発だけしたい、みたいなタイプだったら選ばれなかったという可能性はあるんですか?

笹原:どうですかね。ただ事業を作りながら大きく変わったのは、実際に鉄工所の皆さんとお話ししたりとか、事業の実際が分かっていってからだと思います。

光村:深田さんの問いって、すごく重要だと思います。会社ができても順風満帆にいくことばかりではなく、苦しむことだっていっぱいあって、特に大企業の中ではその苦しみは独特なものがある。歯を食いしばって続けていけるかどうかって、すべて自分でやっているんだという当事者意識みたいなものが大きい。エンジニアで、得意なことだけやりますよっていうパターンだときついんじゃないかって思いますね。

笹原:そしたら選ばれなかったかもね、ってことですよね。

光村:三井不動産の制度だったらそうなっていたかもしれません

深田:大企業はビジネスに最適・効率化された組織なので、どうしても一番得意なことをやらされる。たとえば営業は営業が、経理は経理が、人事は人事がやるといった具合です。そういう意識が染み付いてしまった人たちが一定数いて、この人たちが悪いわけではないのですが、そのシミツキを剥がすのが、社内で苦労している部分でもあります。特に技術者の世界で評価されている一級の技術者は、なんで俺が金勘定しなければならないんだ、みたいな極端なことを言う場合があります。既存事業の場合はそういう人が活躍していたりするんです。

原田:笹原さんの例で言うと、最初から、技術もやりたい、経営もやりたいというタイプでなかったとしても、お客さんと触れたり、課題に触れていくことによって、経営も自分でやってみたいと変化していける部分なのかなぁと、聞いていて思いました。

笹原:あとは、この人たちの課題を解決しなきゃとか、そこに市場があるからやっていこうと思っていれば、続けていくためにお金のことは考えなければならないし、経営目線にならざるをえないので、そういうところで変わっていくんでしょうね。続けたくなるモチベーションが高くなるというか。

深田:先ほどの鉄工所の話がヒントになると思います。そういう人たちに触れると、専門性だけではだめなんだ、と思えるような原体験になったんでしょうね。

原田:レンタル移籍者も同じで、今までマーケティング調査でN=何千、何万というデータを調べて何かを判断していたところから、1人の人のつらさに共感して、これをどうにかしなきゃみたいなことに触れたときに動きが変わるみたいなことはあるなぁと。

ーーここで、大企業におけるイノベーション/新規事業の取り組みパターンについて、光村さんが事前にカテゴライズした図(原田いわく「光村理論」)に基づいて改めて整理しました。

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光村:新規事業は、大きく3つに分けられると思います。1つは、誰も取り組んでいない領域で新しい事業を作るブルーオーシャン型があります。2つ目は、自社ではまだやっていない新規事業として、すでに成立している領域に対して、自分の会社の勝ちパターンやアプローチで参画するというモノマネ型。3つ目は、ベンチャー企業などが見ようとしているいろんな将来の可能性、顧客・市場のインサイトみたいなものを、彼らのものを尊重しながら、大企業のリソースを活かして成長させていくアクセラレート型。ベンチャー連携がわかりやすいですが、場合によってはジョイントベンチャー作るとか販売連携するとか、M&Aするみたいな未来像もあるのかな。

原田:先日、BASE Qの伴走支援で立ち上げられた三井不動産ワールドファーム株式会社はどれにあたるんでしょうか?

光村:1番のブルーオーシャン型と3番のアクセラレート型のハイブリッドですね。農業のスマート化という意味では、農業生産法人としてのワールドファームというスタートアップがすでに持っている知見がある。三井不動産はスマート農業事業に対する知見を持っていなければモノマネをすることもできない。だから資金や様々なリソースを提供してアクセラレートしましょうと。一方で、農業生産法人を中心に、農業領域における郊外の新しい街づくりをやりたいと思っている。これはまだ世界で取り組んでいる不動産デベロッパーもいないので、ある意味ブルーオーシャンとして三井不動産が取り組もうとしていると。

原田:笹原さんのさっきの複合現実製作所は、MRという技術はあるが、それを鉄工所みたいなところにあてはめているという意味で、1になるんですかね?

笹原:これにあてはめると1ですね。

光村:ブルーオーシャン型に求められるのは、こういうものって可能性あるんじゃない?社会に必要とされているんじゃない?という仮説を自分で考えられるかどうかですね。

ーーここで参加者から「世の中のペインを探せなくて困っています。見つけるコツはありますか?」との質問をいただきました。

光村:世の中のペインって、街を歩いていてもそのへんに見つかると思うんです。身体の不自由な方を見たり、荷物が重くて困ってるおばあちゃんを見たりしても困ってるなと思うし、自分自身が不便だったり不満に思っていることもペインです。ペインが見つからないということよりも、それを自分の会社で取り組むペインとして、自分の会社のコンセプトやビジョンと接続させるほうが難しいのではないでしょうか。

原田:先週、ローンディールでイベントをやった時に小国士朗さんが、日々生活している中で「違和感をリストアップしている」という話をしていたのですが、発想力を磨くという意味ではコツといえばコツかもしれないですね。(参考:「筋のよいアイデアはどのように生まれるのか?」フロントランナー3名の思考プロセスに迫る

深田:イントレプレナーを育てようという文脈でいうと、「被災地に行け」っていうような話もありますよね。たとえば熊本の被災地をみると、これは自分がなんとかしないとと、心の中に火が灯る経験ができる。そういう圧倒的に困っている地域に積極的に足を運ぶというのは一つのやり方ではありますね。

笹原:15年前くらいにどこかの大学の行動経済学か何かのセミナーに行ったときに、人間には1日に7個気づけることがあると言われたんです。ちょっと目線を上にしてみたりするだけで、見えてくるものが変わってくる。改善しなければならないことでなくてもいいから、その時に見つけたものや気になることを調べたり、色々なものをいろんな視点から見てみる訓練をすると、もっと気付きやすくなると思います。私もたまに忘れちゃうんですが、「そうだ、7個!」って思った時に目線を上げて散歩しただけでいっぱい気づいたんで。そういうのからちょっとずつやったらいいと思います。

光村:一方でペインばかりじゃないとも思うんです。たしかにペインってマーケットの存在を示してるんだけど。もっと純粋に面白いこととかワクワクすることやればいいんじゃない?って思うんです。純粋に、これ欲しい、これができたらワクワクするみたいな理想、からスタートする新規事業アイディア。どんな世界が欲しいのかな、2030年こうなっててほしいなみたいな妄想や想像を我慢しないこともあるなと。

深田:他人の課題みたいなものを一生懸命やることに長けた人もいるけど、他人の課題にはあまり興味がなくて、自分のやりたいことをやるんです、という強さがある人もいますよね。やはり明確に課題があるほうがマネタイズしやすいということもあるのかと思いますが、ワクワクするよね、やっぱり面白いよね、ということもやらなければならないと僕は思っています。

原田:僕も、自分自身がレンタル移籍をしたかったからこの事業をやっているんですが。お三方は、そういう相談をたくさん受けてきているだろうから、ペインが見つけられないという相談に対して、答える時の熱量がすごいですね(笑)。

深田:BeeEdgeの支援を受けて、パナソニックからベンチャー企業を立ち上げた浦はつみ(現在はパナソニック休職中)は、とにかくチョコレートドリンクを出したいというパッションだけでここまで来てますからね。国内営業担当なのに、パリのサロンドショコラに出張しましたとか、無茶苦茶なことをやりながら……。

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パナソニック社内では実現できなかったチョコレートドリンク事業のアイディアを、Bee Edgeの支援によって事業化したミツバチプロダクツ株式会社

光村:そういうのめちゃくちゃ大事。冗談半分に聞こえちゃうかもしれないけれど、大企業ならではだと思うんです。原田さんは自分が欲しいからって、それをベンチャースタイルで作ったというのは尊敬しますが、現実的に、ベンチャー企業でワクワクするだけではVCから資金調達できないです。VCは、他人の金を預かって、10年で利益を作って返さなければならないプレッシャーの中で働いている人たちなんで、どうしても数年単位でマネタイズできそうなものではなければ投資できないという宿命を抱えているわけじゃないですか。それに対して大企業は、VCに比べれば長期的目線は持ちやすいし、多少の遊び金は使える。そういうゆとりが生きてこない限り、逆に言えば大企業がベンチャーに勝てる要素なんて何もないんじゃないかって思います。大企業はわくわくすることを純粋にやってほしいなと常々思っています。

深田:賛成ですね。

ーイノベーション人材に求められるスキル・マインドとメタ認知

ーー続いて、同じく光村理論に基づき、イノベーション人材にはどのような人材が向いているのかを、改めて整理しました。

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光村:ブルーオーシャン型には、世の中の人が見落としたり気づいていないような未知の課題を発見できることがケイパビリティとして大事ですね。そして課題だと思ったら、当事者として自分も取り組むために挑戦すること。それを1人で成し遂げられないとすれば、みんなが共感できる言葉に置き直してビジョンとして提示して支持を得るような能力も必要です。モノマネ型って皆さんあまり関心しないやり方かもしれないけれど、実は、すでにどこかで走り始めているビジネスにおいて何が鍵なのか、肝なのかということを見抜けない限り、ちゃんとしたモノマネはできないんですよね。

原田:なるほど。

光村:アクセラレート型は、例えばベンチャー連携で言うと、ベンチャーがやろうとしている新しい未知のビジョンに共感しないと、まず進まない。共感がひとつのトリガーになっている。他人が掲げているビジョンと自分の共感したビジョンと自分の会社のビジョンの接続するという編集作業があって、かつ、アクセラレートさせて大きくしていくには、社内のリソースを動かして供給していかなければならない。そうなると、社内を説得して、抵抗を排除して、など、社内政治のスキルが求められます。既存ビジネスのカイゼンとなれば、既存事業のビジネスモデルを熟知していなければ課題の勘所もわからないですよね。

原田:先ほどの外交型と内政型という話ですが、両方できる人にならなきゃいけないのか、役割分担してタッグ組めたほうがいいのか、どっちなのでしょうか?

光村:脳味噌の使い方が右脳と左脳くらいバラバラな話なので、分けたほうがいいと思っています。共感して「いいよね、それってメイクセンスだよねー」みたいなノリと、どういう順番で社内を説得して、わからない人にはこういう言葉遣いで、みたいなことは違う。それを1人でできたらスーパーマンだと思います。外を向いて働きかける人たちを支えるためにも、中で受け止めてあげる人も必要だなと思います。

原田:笹原さんや深田さんって、受け止めてあげる係ですかね?

笹原:はい、私は受け止めてあげる係です。中を色々と調整しに行くのとかが基本的に得意で好きなので、喜んで受け止めさせていただきます。

原田:なるほど。じゃあ39worksでどんどんやってほしいみたいなタイプは、ブルーオーシャン型に書かれているような感じの人だといいなぁということですか?

笹原:こういう感じの人がいいです。あとは、かろやかに一歩を踏み出せる人。人の話に聞く耳を持ってくれる人。フレキシブルな人がいいなって。自分のアイディアに思いがありすぎると人の話を聞けなくなってしまうことって多いんです。自分もアイディア出そうとすると、急に聞けなくなってしまうんですよね。成功させたいから聞いたほうがいいのに、頑固になってしまうから、聞ける人がいい。

深田:僕はどちらかというと外交的な仕事が好きなんですけど、中のポリティクスを回すというのも大事で、両方やる。これが7:3なのか3:7なのかは個人のバランスがあるかもしれません。多分、光村さんもやってるんだと思います。9:1くらいかもしれませんが(笑)。

光村:うん、9:1くらいですね(笑)

深田:拒否しちゃうとだめだと思っています。

光村:うん、ゼロにしちゃだめ。僕も内政部分が過半数になっちゃうとマインド的に厳しい部分があるんですが(笑)、9:1でいいやって割り切れているのは、今の僕の上司だったり仲間が受け止めてくれるから、9:1に甘えていられる。でもその仲間たちも、僕が1はやるって姿勢を見せないとついてきてくれないと思うので、それはバランスだと思うんです。

笹原:えー、中の調整、楽しいですけどね。

深田:それは笹原さんのすごいところ。

笹原:やりましょうか?

深田&光村:是非やってほしいなあ(笑)

笹原:各部の人がいろんなコンテキストで喋るから、それを知るのが楽しくて。「あ、そういうことでここが反対なのか」ってことに気づいたら対話がしやすくなる。そのチューニングが大好きです。

ーーここで参加者から「課題解決型思考の人は、既存事業には向いていると思いますが、新規事業にもっていくと小さくまとまる傾向がある気がします。大企業だからこそ新規事業側には猪突猛進であえて視野の狭い人がいいと思うのですが、どうでしょうか?」と質問をいただきました。

笹原:猪突猛進なんだけど、成功のためにいろんな話を聞ける、深く攻めていくけど話を聞ける、みたいな人がいいかな。あとはミクロでずっと見ているんだけど、ふっとマクロのレンズに付け替えができるとか、そういう人が向いているなと思います。今と先を同時に見れるとか。

原田:なるほど。外交と内政の話もそうですけど、どっちかしかできないってことではだめで、比率はあれど、一見、矛盾するところをうまく両立させていくというところが大きいのかもしれないですね。

光村:やっぱり大事なのはメタ認知力ですよ。自分が一体何者で、自分の強みや弱みが認識していることってまず大事だと思っています。外交と内政の話も、僕は確かに外交9:内政1かもしれない、もしかしたら1もやっていないんじゃないかという疑いもあるわけなんだけれども(笑)、内政ってものがあるっていうことを認識していれば、気構えや動きが違ってくる。それも、会社ってこう動くはずだよな、会社の中の意見構成ってこうなるはずだよな、人ってこういったらこういう風に傷ついたり怒ったり喜んだりするよな、といったことを構造的に認識・理解しているからできることだなと思うんです。実際に動いた時にはどうしても自分の癖が出ちゃうのだけれど、知らないよりは全然いいかなと。そこの認識力・理解力が大事かなと思います。

ーー最後にご登壇いただいた3名から一言ずついただきました。

笹原:イノベーション人材をどんどん一緒に作っていければと思っています、そうしたら日本はもっと良くなる。皆さんのアイディアももっと聞きたいなと思います。今日は濃ゆい人たちとばかり話していましたが、ありがとうございました。

光村:脱却しなくちゃいけないものは「サラリーマン根性」という言葉。ちょっとステレオタイプな言い方になるかもしれませんが、上とか会社から与えられたビジョンにしたがって粛々とやり、それに対する対価を給料という形で得ること。それと真逆な人がイノベーション人材といっても差し支えないかなと思っているくらい。人間って、どうなりたいかより、こうなってはいけないと考えた方が簡単にできたりするので、とりあえずサラリーマンであることをやめましょう。

深田:楽しかったです。イノベーション人材になるべくして生まれてきた人がいるというよりは、人生のどこかでそうなるのだと思います。誰でもイノベーション人材になれると思うし、全員何かの仕事でイノベーションに取り組んだほうがいいなと思っていますので、そういう意味ではここに参加されている方々はみんなイノベーション人材だと思ってやっていただけたらいいなと思います。新規事業開発だけがイノベーションではないということですね。人事・経理・オペレーションの人たちも利益を生み出せる、面白いイノベーションを起こせると思います。ありがとうございました。


参加者から「皆さんのセッション、第2回が欲しいくらいです!」とコメントが上がってくるほど白熱したディスカッションが交わされ、あっという間に過ぎた1時間半。ご参加の皆様、そしてこの記事をご覧いただいた皆様にとって、イノベーションの目的や求める人材像について、改めて考えを深める機会となれば嬉しいです。

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大手企業の社員が、一定期間ベンチャー企業で事業開発などの取り組みを行う、株式会社ローンディールが提供するプログラム。ベンチャー企業の現場で新しい価値を創りだす実践的な経験を通じて、イノベーションを起こせる人材・組織に変革を起こせる次世代リーダーを育成することを目的に行われている。2015年のサービス開始以降、計38社100名のレンタル移籍が行なわれている(※2020年8月実績)。→詳しくはこちら

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協力:株式会社NTTドコモ / パナソニック株式会社 / 三井不動産株式会社
Report:黒木瑛子
提供:株式会社ローンディール

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