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「自分が変わったことで、多くの仲間を得られた」日産自動車株式会社 村野秀造さん

「技術で日本を豊かにする」という大きな志を持ちながらも、周囲とのコミュニケーションが苦手。技術に対する興味も人並みだった...と話すのは日産自動車株式会社に 2019 年に入社し、生産部門で働く村野秀造(むらの・しゅうぞう)さん。大志を叶えるためにも、まずは自分を変えなければと Venture Challenge Program を通じてレンタル移籍に挑戦することにしました。村野さんが行き先に選んだのは、倉庫内の荷物の搬送やピッキングを行うロボットを開発・販売するRapyuta Robotics(ラピュタ ロボティクス)株式会社

移籍した当初、仕事にはすぐに慣れたそうですが、上司との関係性がうまくいかず、頭を抱える日々を過ごしたそうです。しかし1年の月日を経て、これまでを振り返った村野さんは「これまでの社会人人生で一番大きな収穫だった」と、とても良い変化があった様子。移籍中に起きた出来事や、その想いをお聞きしました。
(※ 本記事は2023年4月にインタビューしたものです)


「自分を変えたい」と踏み出した


ー日産では、どのようなお仕事をされていたのでしょうか。

自動車の溶接に関する技術開発を行っていました。簡単に言うと、軽量化や強度を上げるために必要な技術を研究、開発する部署です。

ー技術職として経験を積んで3年だそうですね。なぜ、レンタル移籍に応募しようと思ったのでしょうか?

レンタル移籍の公募を見た時に「自分を変えるチャンス」だと思ったんです。私自身、正義感が強いうえに、正論をズバズバと言ってしまうタイ プ。周囲にも「もう少し人の気持ちを考えて発言した方がいい」と言われたこともあって。将来的には、人の気持ちを理解できるリーダーになりたいという思いもあり、今挑戦すべきだと感じました。

もう一つは、いつか経営に関わる仕事をしたいという大きな目標があるからです。私は昭和一桁生まれの祖父と暮らしていたので、日本のために頑張りたいという気持ちがとても強くて。 また、祖父は経済や産業に関わる仕事をしていたため、その影響から、特に日本を経済的に豊かにすることと、そのための科学技術の重要性を私も強く認識していました。

そんな背景から、「技術で日本を豊かにする」ということに関心を持っていました。だからこそ、日本の科学技術、産業の基幹である自動車産業、またその中でも高い技術力を誇る、日産で働きたいと思ったという経緯もあります。今は技術職を経験 して技術に関する見識を得て、最終的にはそれを活かして経営の根幹に関わる仕事に就きたいと考えています。

この大きな目標を達成するために、まず自分が変わること。そして経営戦略に関わる仕事を体験すること。この2つの点を目的にレンタル移籍に挑もうと思いました。

ーとても大きな目標に対して、どのようなポイントで移籍先を選ばれたのでしょうか。

技術開発に携わっていると、「どんなに良い技術を生み出しても、自動車が売れるとは限らない」というジレンマを感じることがあります。技術開発、生産、マーケティング、セールスなどさまざまな要素が組み合わさって、自動車が“売れる”のですが、開発分野ではエンドユーザーであるお客様とは接点が少なく、うまくいかない原因がわかりづらい。ですから、お客様とコミュニケーションがとれる場面を体験したいと思ったんですよね。そして、お客様と密に関わることのできる職種で採ってくれるところを探していました。

ー移籍先の「ラピュタ ロボティクス(以下、ラピュタ)」に対して、最初はどんな印象を持ちましたか?

会社のWebサイトに「きつい・汚い・危険な仕事を自動化し、人々がより知的で創造的な仕事にチャレンジできる社会の実現」と書いてあったんです。こうしたコーポレートパーパスって建前だけになってしまうこともあると思うのですが、それを本気でやろうとしているのだと、役員の方との面接で感じました。お話を聞いて、より一層「世の中に役立つ製品・サービスを生み出すアイデア」を吸収したいという想いが募りました。

あとは、ラピュタの製品は日産の現場に導入したら面白いのではないかと思い、興味を抱きました。ラピュタは倉庫内の荷物のピッキングや搬 送をアシストするロボットを主力製品として開発しています。これを日産の工場の現場や部品倉庫に導入することができれば作業効率をあげることができるのではないかと。

まずは、お客様視点を学ぶことから


ー移籍後は、どのような仕事に取り組まれたのでしょうか?

最初の1ヶ月は、ロボットを導入していただいているお客様の元へ行き、不具合を修正する対応をしていました。エラーやバグを修正して、情報を収集する...という現場でのカスタマーサポート業務をひたすらやっていました。ベンチャーらしく、最初は先輩の後について見て覚えて、あとは実践あるのみ(笑)。わからないことがあったら先輩にSlackで聞き、とにかく現場で手を動かして覚えました。

次に現場である倉庫内の環境を加味しながら、どうすればもっと作業効率をあげられるかを考慮して、ロボットの設定をカスタマイズすることに取り組みました。ただエラーを修正するだけでなく、もっと踏み込んでお客様の抱える課題を把握して解決策を提供する。結果的に顧客の満足度が上がり、次の製品の購入につながることもある。今後において必要な視点を得られたと思います。

ー「お客様とコミュニケーションがとれる場面を体験したい」という目的を果たすことができたんですね。

そうですね。技術開発だけをやっていると、「この性能を何%上げよう」と細かな数字ばかり追ってしまうんです。しかしお客様からすると、完成した製品が自分たちにとってどうかという点が重要です。私が経験した仕事でいうと、お客様の現場にどんな課題があるのか。そして、ラピュタのロボットをどのように活用したら効率よく作業できるかなどの話をしながら、お客様視点で製品に求められる"品質"についての知見を増やすこと ができました。根本的なことかもしれませんが、技術者から利用者へ視点を切り替えることができたと感じた期間でしたね。

ー後輩の指導も担われていたそうですね。

指導というような大層なことではありませんが、仕事のやり方を後輩にあたる方に伝えていく場面が徐々に増えていきました。

どんどん会社の規模が大きくなるタイミングだったので、時期を問わずに後輩が入社してきました。半年を過ぎたあたりからは、自分の仕事をや りながら後輩のOJTを担当する場面がありました。皆さん10歳以上歳上の方なので、伝え方をかなり意識し、勉強になりました。同時にロボットを現場に導入する仕事も始まって。導入にあたり、設定のファイルを作ったり、現場の環境に合わせてカスタマイズしたり。これまで行ってい たカスタマーサポート、サクセス(顧客満足度の向上)も行いながら新しい仕事も、後輩のサポートも行っていたので、かなりバタバタしていましたね。

ベンチャーでぶつかった、大きな課題


ー忙しく過ごされる中で、特に大変だったのはどんなことだったのでしょうか?

直属の上司と意見の食い違いがあり、大きくぶつかってしまいました(笑)。大企業では、小分けしたタスクに落とし込む、 PDCAサイクルにのせて物事を進める...ということがスタンダードですが、それがラピュタにはなかったので、ずっと「計画を立ててやりましょう」と提案し続けていたん です。部署のみんなが仕事を抱えている状況で、お客様の現場に行く人が足りない。そうなったときに「もう少し効率よくできるのに」という想いが強 くなり過ぎて、上司に意見を言うことが多々ありました。

上司は「まずは目の前のことから取り組む」というタイプの方でしたから、お互いに譲らず...という状況で。でも冷静になってみると、私はベンチャーのリアルな環境に対する理解が伴っていなかったことに気づきました。大企業は資金も人も潤沢にあるから、プランを立てて取り組むという手間がかけられる。また、ベンチャーでは入社してくる人の経歴もスキルもバラバラです。そのため個人の技術力の差が大きく、サービスを提供するそれぞれの現場によって対応できる人、対応が難しい人 がいたように思います。そういった状況であることがわからずに、「こっちにも人をまわしてほしい」「もっと効率よく指示してほしい」と要望ばかりを言ってしまっていました。

ーその状況をどのように打破したのでしょうか?

上司が、ストレートに意見を返してくれたので、私も言いたいことを包み隠さず伝えるようにしていました。私を特別扱いすることなく、ラピュタの一員として扱ってくれた。自分の意見をはっきりと言える環境に身を置けたからこそ、自分を内省し、ラピュタが置かれる環境や上司の考えも考慮しなければならないと、少しずつ考えが変わっていったように思います。

それと、メンターの伊賀さんとのやりとりも、私自身の思考を変えるきっかけになりました。毎週毎週、報告書を提出し伊賀さんにフィードバックをいただいていたのですが、伊賀さんは最初から具体的なところに踏み込むんじゃなくて、雑談から入って緊張をほどいてくれました。

「とにかく思っていることを話して」と言って、むき出しの感情も受け止めてくれたんですよね。自分の意見を押し付けるのではなく、自分自身で考えて内省する機会をたくさん与えてくださったことがとても助けになりました。伊賀さんと出会う前の私は、誰に対しても、淡々と自分の意見で押し切ろうとして、威圧的に感じる人も多かったと思うんですよね。伊賀さんと接するうちに、相手の話を理解しようとするスタンスを持って意見を伝えたり、アドバイスをすることができるようになり、上司や周囲との関係性も少しずつ変わっていったように感じています。

ー周りの方から見て、村野さんに対する印象がずいぶん変わったのではないでしょうか。

ラピュタのある先輩は「最初はエリート意識が強くて頑固な人だったけど、今は『親しみやすい仲間』に変わった。大きく成長した証拠だ」って言ってくれて。その言葉は、結構嬉しかったですね。

自分が変わったことで、多くの仲間を得られた


一共に働くメンバーとの関係性も変化していったんですね。

そうですね。特に最後に関わったプロジェクトの成功も大きかったんじゃないかと思います。これまで自分たちで賄っていたカスタマーサポートの一部を外注するというプロジェクトがあり、メンバーの一員として取り組ませていただきました。

プロジェクトがうまく進んだことも良かったことの一つですが、現場に行く業務が減ったことにより、部署のみんなと顔を合わせることが増えました。 これまではみんながそれぞれの現場に行っているので、オンライン会議か、Slackで報告し合うことがほとんどだったんです。実は慣れるまで、結構きつかったですね。

上司とも直接目を見て話すことで意思疎通が取りやすくなり、最後は、色々と教えてくれる先生のような存在になってくださったと思っています。 また、このプロジェクトを通じて部署が一つのチームのような雰囲気になり、この仕事をやってよかったと心から思うことができました。

ー苦しかった分、喜びもそれ以上のものがありますよね。

はい。また、最後に僕の送別会を開いてくださったんですが、他の部署にも声をかけてくれて、たくさんの方が集まってくれました。仲間って認めてくれたんだなって。大人になっても仲間ができるって、こんなにも嬉しいものなんだなと思いました。

社員旅行の1枚。英語でプレゼンを行うワークショップなどを行い、村野さんも参加

大志を叶えるため、まずは技術を磨く


ー濃厚な1年間だったと思いますが、改めて振り返っていかがでしたか。

「自分を変えたい」という当初の目標に対しては、以前より人とのコミュニケーションに対する苦手意識が減ったと思います。少しは親しみやすく なったかな(笑)。

仕事の面で言うと、知見の深い分野を持つことも、キャリアを築くうえで必要なことだという学びがありました。とくに「カスタマーサポートの一部を 外注する」というプロジェクトに関わらせてもらったとき、これまでカスタマーサポートに関わらせていただいたおかげで、解像度が高い意見を発言できたり、アイデアを持ったりすることができました。

また、移籍終盤の2ヶ月弱、事業戦略を立てる会議に参加させてもらうことができ、その中でも自分自身が専門分野を持つことで気付くことのできるポイントがいくつもあったこと。またそれらの会議には、カスタマーサポートの専門家である上司やソフトウェア技術開発の責任者が参加しており、事業開発責任者から多くの意見を求められていました。それを見て、「専門性も重要なんだ」と気づけたことは、大きな学びだったと思っています。

ー移籍を終えて日産に戻ったばかりですが、今後はどのようなことに取り組みたいですか?

結局のところ入社前から持っている志は変わらず、日産という大好きな会社の製品、技術を用いて、どれだけ世の中に役に立てるかに挑みたいと思っています。そのための仕事として、経営の根幹に関わる経営戦略や企画の仕事に就きたいという目標があります。ですから、元々は 技術職としてある程度経験を積んだら、視野を広げるために網羅的に日産での仕事を経験したいと考えていたんです。

ただ、先ほどお伝えしたように今は専門性を持つことの重要性も感じているので、この1年は配属された生産技術の開発業務に再度しっかりと取り組みたいと思っています。「技術の日産」で経営に関わるためには、技術に対して知見の深さが必要だと改めて考えるようになったからです。

機会があれば、車を使ったサービスの事業にも関わりたいですね。短い期間ではありますが、ラピュタで学んだカスタマーサクセスやカスタマーサポート、ソフトウェアの開発や品質保証の仕方、新しい組織の作り方や変革についての知見を活かして、それらの事業に関わっていきたいです!

Fin

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協力:日産自動車株式会社 / KAPOK JAPAN 株式会社
インタビュー:渡辺裕希子
撮影:宮本七生
提供:株式会社ローンディール
https://loandeal.jp/

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