【大企業のエンジニアが、ベンチャーで事業開発をしてわかった。
「仕事は一人でやるものじゃない」】
東芝テック株式会社 廣瀬崇史さん
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【大企業のエンジニアが、ベンチャーで事業開発をしてわかった。
「仕事は一人でやるものじゃない」】
東芝テック株式会社 廣瀬崇史さん

東芝テック株式会社から、コネクティッド・バッテリーを基軸にDXソリューションを提供するノバルス株式会社へ約半年間の「レンタル移籍」を経験した廣瀬崇史(ひろせ・たかし)さん。
新卒で入社以来12年間、ハードウェアエンジニアとしてキャリアを積み上げてきた廣瀬さんが、ベンチャー企業での新規事業開発に参加した最初のきっかけは、外の環境に身を置いてみたいという好奇心からだったそうです。そんな廣瀬さんは、ベンチャーから戻った今、「チャレンジを迷っている人がいたら、踏み出した方がいい」と語ります。その理由とは? お話を伺いました。

エンジニア歴12年。
外の世界で自分の力を試したくなった

——東芝テックで担当されていた業務を教えてください。

ハードウェアシステム技術部で、飲食店や小売店向けのPOSシステムの開発・保守やプロジェクト管理に携わっていました。2008年に新卒で入社してから、12年間エンジニアとしてキャリアを積んできました。

高校生の頃、ちょうど携帯電話が流行り始めて。これからきっとこの分野が伸びていくんだろうと漠然と思ったんです。それで、大学では通信工学を専攻して。

入社を決めた理由は、RFID技術(電波を用いてデータを非接触で読み書きするテクノロジー)における将来性や、就職説明会に参加した際、雰囲気がとても良く、そうした働く環境にも魅力を感じたからです。

——エンジニアとしてキャリアを重ねていた廣瀬さんが、今回レンタル移籍にいくことになったのはどのような経緯があったのでしょうか?

「より成長できる外の環境に身を置いてみたい」

と思ったからです。

東芝テックは、社内公募などの制度はあるものの、基本的にジョブローテーションが少ない組織。一つの業務を極め、専門性やスキルを高めることができる環境で、仕事自体は楽しんでやれていました。

ただ30代半ばに差し掛かり、ふと「このまま居心地がいい場所にいつづけていいのだろうか」と思い始めたんです。純粋に、「外の世界はどうなってるんだろう」という好奇心もありましたね。

そういったモヤモヤを感じているとき、上司からレンタル移籍サービスについて声をかけられました。当時、他の事業部で移籍経験があった人はいたものの、詳細は知らなかったので、「移籍」と聞いて正直最初はピンと来ませんでした。それでも、ベンチャーに行けるのはチャンスなのではないか、挑戦してみたいと思ったんです。


「顧客志向のモノ創り」を身につける

——ちょうどキャリアについて考えているタイミングだったんですね。レンタル移籍にどんなことを期待していましたか?

2つあります。1つは、「縦割り組織が抱える課題解決のヒントを得たい」ということ。

東芝テックは創業から歴史も長く、グループ会社も含めると非常に規模が大きい組織です。ある程度仕方がない部分はあるものの、意思決定やコミュニケーションのスピードに課題意識を持っていました。移籍を通して、この課題感を払拭する手がかりを得られれば、と思ったんです。

——大企業ならではの課題感ですね。もう1つは?

「エンドユーザーに近いところで仕事がしてみたい」

という思いですね。東芝テックが掲げる経営理念は「ともにつくる、つぎをつくる。~いつでもどこでもお客様とともに~」です。もちろん経営理念は知っていましたが、日常業務の中で「お客様とともに」歩んでいる実感がどうしても持てなかった。

自分たちが生み出したプロダクトが最終的にお客様の手に渡ったあと、ユーザーの声を直接聞く機会があまりなかったんです。お客様が私たちの作った製品をどんな風に使ってくれているのか、喜んでくれているのか。

エンドユーザーの近くに身を置きながらモノ創りを行うことで、東芝テックが創業から大事にしてきた「顧客志向」を体現できるのではないかと思いました。


これまでのキャリアが通用しない場所へ

——移籍先にノバルスを選んだのはどうしてですか?

コネクティッド・バッテリー「MaBeee」の“スマホとつなぐ未来の電池”という革新的なアイディアに強く惹かれたことと、「高齢者のみまもり」という社会貢献性の高い事業内容が私自身の志すビジョンとマッチしたからです。

また、移籍前に、自身の人生を振り返り「ミッション・ビジョン・バリュー」を言語化する場があったのですが、その中で、私は今までバンド活動に時間を割いてきたことを再認識したんです。同時に、お客さんの心を揺さぶるような楽曲を提供できるよう、メンバーと詰めていったことなどを思い出しました。

そうした経験もあって、「お客様に寄り添ったサービスを通じ、感動や活力を生み出したい」という気持ちもあって。ノバルスの事業を学ぶことで、自分の志も実現できるのではと感じました。

——ノバルスに移籍してから、廣瀬さんはどんな業務を担当したのでしょうか?

ビジネス開発部の一員として、既存の「家族みまもりサービス」事業の販売促進や機能改善、「MaBeee」を活用した他社との協働提案を行いました。

ノバルスは、代表の岡部さんを含めて20名ほどの小さな組織。裁量の大きい仕事ができる反面、自律的に動いて成果を出さなければいけないプレッシャーと隣り合わせです。

エンジニア歴12年の私ですが、せっかく移籍をするなら今までのキャリアが通用しないビジネスサイドに行きたいと考えていて。未経験の業界で、未経験の職種。

もちろん苦労もあるだろうと覚悟はしていましたが、それだけチャレンジする意義があると思ったんです。

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左はノバルス 代表取締役の岡部さん、右が廣瀬さん

当事者意識と自走力に圧倒されて

——大きな覚悟を持っての移籍だったことが分かります。初めての業界・職種への移籍を通して、大企業とベンチャー企業のギャップを感じたことはありますか?

まず、商品やサービスそのものの価値で勝負しなければいけないことに難しさを感じました。

「家族みまもりサービス」のユーザー数拡大のため、事業開発部門として新業態の開拓をすることになったのですが、まだ認知度もそれほど高くない企業やサービスの話に、耳を傾けてくれる担当者は多くなくて。アポイントにすらつながらない。

これまでは大企業のネームバリューのもと、ある程度説明せずとも通用していた部分はあって。正直今までそんな経験をしたことがなく、衝撃でした。

新業態へのアタックにおいては、まずお客様が抱える課題を仮定して、「ノバルスのリソースを使えばこんな風に解決する」と適切にアプローチするマーケットインの思考が求められます。

それと並行して、ただ闇雲にアタックするのではなく、4Pの視点をもって戦略的に確度の高い提案先を絞って、アプローチすることが重要で。それにより、少しずつですがリアクションも増えていって、期待感が増していったのを憶えています。
こうしたことが実現できたも、事業部の仲間と「頑張ろう」と一致団結して動けていたことが大きいですね。また、メンターの酒井さんが毎週励まして下さったので、モチベーションが維持できました。

——そうだったのですね。他にも大企業との違いを感じたことがあれば教えてください。

シビアな経営に対する当事者意識が、メンバー全員に浸透していたことに驚きました。

ベンチャーですから、当然資金や人的リソースなど経営資源は限られていて。資金も潤沢ではない中で、チャレンジは続けつつも、失敗を重ねると会社全体に大きな影響を与えかねません。それに、メンバーが一人減ったら仕事は回らない。常に緊張感がありました。

そんな中で開かれた全体会議で、代表の岡部さんから「今期の目標を達成しないともうあとがないかもしれない。ゴールから逆算して、今自分が何をすべきか考えてほしい」と。今まで会社の資金について考えてもいなかったのですが、目の当たりにして、ベンチャーの方々の覚悟を感じました。

日常のさまざまな場面でも、「もっと自分ごと化して考えて」「雑草魂でやらないと」とメンバーの口から自然とお互いを鼓舞する言葉が出てくる。一人ひとりが圧倒的な責任感と自走力を持ち、目の前の仕事に対峙する姿に大きな刺激を受けました。

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MaBeeeを使ったセミナー時の1枚


前例のない挑戦。失敗を恐れず、「まずやってみる」

——ノバルスでの仕事で、印象的なエピソードがあれば教えてください。

一番思い出深いのは、ワークショップの主催です。

開催の目的は、ノバルスの基幹商品であるコネクティッド・バッテリー「MaBeee」を活用し、世の中に新たな価値を生み出す事業をともに創ってくれるベンダーと出会うこと。

ウェビナー説明会を実施したあと、選定したベンダーの方々とアイディアを具現化するワークショップの2部構成にしました。

——特にどんなことに苦労されましたか?

限られた時間の中、関係者を巻き込みながら、最初から最後まで一貫してプロジェクトを実行したことですね。

まず、移籍して1〜2ヶ月ほどで岡部さんから「10日後にウェビナーをやるから。担当は廣瀬さん」と言われまして(笑)。大きなプロジェクトを信頼して任せていただいたことは嬉しかったものの、ノバルスとしても前例がなく、もちろん私自身も初めての挑戦。

何から手をつけていいかわからず、最初は頭が真っ白になりました。

私にできるんだろうか。不安に駆られていたとき、「とにかく失敗を恐れず、やってみて」といったようなことを岡部さんやメンターの酒井さんから言っていただいて。やる前から尻込みしてしまっていましたが、その言葉を聞いて、

「まずはやってみよう」

と気持ちが切り替わりました。

——「やるしかない!」と気持ちが変わったのですね。

そこから、集客、告知、企画の準備をしていきました。結果的に、ウェビナーは当初の集客目標には届きませんでしたが、集まっていただいた数社の中の1社と後日ワークショップを開催。

「MaBeee」を活用し、社会課題にアプローチするアイディアが徐々に具体的なものになっていき、ワクワクしたのを覚えています。今後、サービスとして形になっていくかもしれないので、楽しみですね。


周りを巻き込んで、価値を生み出す

——他に移籍期間中に大変だったことはありますか?

「家族みまもりサービス」アプリの機能拡充を行っているとき、進め方に迷いが生じて仕事が停滞してしまったことがありました。

もともと2人で業務を行う予定だったのですが、他の業務の兼ね合いで急遽一人で任されることになったんです。誰に相談すればいいかもわからず、どう進めればいいのか一人で悶々と悩んでしまって。

——どのように乗り越えたのでしょう?

社内の有志メンバーと一緒に、ブレストの時間を設けることになりました

初めは少人数でやっていましたが、次第に週一回の「啓蒙会」と称した定例会議に。私はファシリテーションとして、中心になって会を回すこともありました。

原点に立ち返って、そもそも「家族みまもりサービス」が社会にもたらす意義は何なのか。競合他社の優れたサービスから学べることはないか。メンバーで意見を出し合いました。

一人で考えているときは、自社のアプリだけに目がいってしまい手詰まりになっていましたが、複数人でアイディアを出すことで視野が広がり、どんどん新しい案が浮かぶようになったんです。

そこからは、よりユーザーに刺さる機能をアプリに搭載するため、ユーザーインタビューの設計や分析などを行い、岡部さんの意見ももらいながら、実行に移していきました。
大きなアップデートこそしていませんが、サービスの世界観を反映したキャラクターを考えたり、新機能の要件定義をして開発の着手まで進めたり。

あらためて、

「仕事は一人でやるものじゃない」

と痛感しました。
周りを巻き込み、共創していく大切さや楽しさを感じた出来事です。

その仕事が本当にお客様のためになっているか

——ノバルスでの移籍期間を経て、廣瀬さんが学んだものは何だと考えられますか?

たくさんありますが、大きく2つです。1つは、会社のビジョンを咀嚼して自身の行動に落とし込む大切さ。

冒頭でお伝えした通り、私はこれまでの会社生活で、東芝テックの経営理念の中の「お客様とともに」を本当の意味で自分ごと化できていませんでした。

目の前の作業だけに夢中になるのではなく、その仕事が経営理念に従った行動になっているか、社員一人ひとりが考え、行動まで落とし込む。それは強い組織づくりにもつながると思っていて。

ノバルスでは、実際にエンドユーザーの声を聞く機会も多くありました。また、アイディアが浮かばないときは「経営ビジョン」という原点に立ち返って考えました。

そうした過程を通して、自社のサービスがお客様に価値を提供できているんだ、という手触り感を持つことができたんです。

常に「顧客志向」を持ち、お客様の課題解決につながっているか考え抜いた時間は、私にとって大きな財産になりました。

——もともとお話ししていた課題意識が払拭されたのですね。もう1つは?

他者を巻き込み、ともにビジネスを創り上げる過程です。東芝テックは大きな組織である一方、競合他社や他部門との連携はあまりなく、自分の「横」や「外」で何が起きているか認識できていませんでした。

同じ目的のためにそれぞれの企業が持つリソースを活用し、一緒に手を取り合って業界全体を盛り上げていく。協業ワークショップなどを通して、今までなかった視点を持つことができましたね。


社会に貢献できるビジネスを「ともに創る」

——移籍を終えて、現在はどんな業務を担当してるのでしょうか?

今は、2021年4月に新設された「パートナー戦略室」で、外部企業との連携の仕組みづくり、産学との共同研究に携わっています。
具体的には、これまで東芝テックがPOSシステムなどの取引で培ってきたデータなどを活用し、新たな価値を社会に提供できるパートナー企業との共創などを行っていく予定です。

今は、共創のための土台づくりを整備している段階で。小売業界だけではなく、その他の業態にも目を向けていきたいと思っています。

社外とのつながりをより活性化させていくことになりそうで、ベンチャーでの経験が活きる機会もあり、嬉しいですね。

——具体的にノバルスでの学びが活きていると感じた場面はありますか?

東芝の共創プログラムに参加することになって、グループ会社の社員とその場で出たアイディアをもとにプロトタイプやビジネス設計までを創り上げる機会がありました。

限られたリソースの中で、いかに優れたアウトプットを出すか。ノバルスで協業ワークショップの主催をしたときのことを思い出しました。

それから、移籍中に感じた、「会社のビジョンを自分ごと化する」ことや「周囲を巻き込みビジネスを創りあげる」ことの大切さは、これからも社内で積極的に発信していきたいと思っています。

ちょうど最近、上司との定期的な1on1や経営幹部との対話会が開催されることが決まったんです。部門の垣根を超えた交流会も始まります。

これまで以上に、「対話を通してお互いを理解し、よい仕事をしよう」という空気が社内に醸成されてきている気がしますね。

——最後に、廣瀬さんの今後の目標を教えてください。

お客様に感動と活力をもたらせるような新しい価値を世に生み出し、社会に貢献していきたいです。この想いは以前と変わりませんが、よりいっそう強くなりましたね。

もし今後、社内でレンタル移籍にチャレンジするか迷っている人がいたら、こう伝えたいです。

「まずは一歩、踏み出してみてほしい」

外での経験は、マイナスになることは決してありません。それどころか、これからのビジネスは外との共創なくして成立するとは思えないので、外でそれを体感できるのはとても有益だと思います。大変なこともありましたが、気づきや学びが想像以上にありましたので。

これからはベンチャーで学んだことをどんどん社内でアウトプットし、後輩たちに背中を見せていきたいです。会社全体によい影響を与えていける存在になれたら嬉しいですね。

12年間のエンジニアのキャリアがありながら、あえてベンチャー企業の事業開発という未知の領域に踏み出した廣瀬さん。根底にあるのは、「外の世界を見てみたい」「もっと成長したい」という好奇心と野心でした。移籍期間中、想定外の出来事で思うようにいかず、手が止まってしまったこともあった廣瀬さんですが、レンタル移籍という限られた時間だからこそ、思いっきりやってみようとチャレンジができたと言います。
「自分自身の背中を見せ、会社全体によい影響を与えたい」と語る廣瀬さんの姿を見て、これから新しい風を巻き起こしてくれるのだろうと確信したインタビューでした。


Fin

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インタビュー:安心院彩
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