「エンジニアから新規事業開発へ」ベンチャーで活かされた大企業の経験とは
ゼロイチフェーズから関われるベンチャーへ
ーー横井さんはベンチャー研修前、和歌山の製油所でプラントエンジニアをされていたとお聞きしました。どのような理由からベンチャー研修を希望されたのでしょうか。
横井:実は学生時代にバックパッカーをしていた関係で旅行関係のWebサイトの運営をしていたり、OEMで食品を製造して商品設計やパッケージデザイン・販売などを行った経験があったので、事業やサービスをつくるということに元々関心が高かったんです。入社後も、個人でWebサイトやWebサービスの制作などは続けていましたし、自社で何かアイデアを活かせないかと社内起業制度にも応募していました。
新規事業の立ち上げにはいろんな課題がありますが、やはり1人目の顧客を見つけること、そしてその顧客を増やし、サービスを継続していくことが難しいと感じます。ENEOSで新規事業に取り組みたいと考えた時に、新しい事業を立ち上げ、規模を拡大しているフェーズのベンチャーに入って、経験を積んでみたいと思っていました。
もう1つは、未来に向かってみんなで新しい動きをしていく、そんな環境に身を置いてみたいという思いがあったからです。私が所属していた旧和歌山製油所は既にビジネスとして成熟していたため、事業を急拡大するようなフェーズではありませんでした。でもかつてはこの製油所も最先端のもので溢れ、活気付いていた時代があったわけです。もっと自分にも何かできることがあるのではという思いも湧いてきて、今回、手を挙げました。
ーー行き先のベンチャーは、どのように選びましたか。
横井:初期フェーズで事業立上げに関する包括的な経験を得たいという目的があったので、立ち上がって直ぐの少数精鋭の企業を探しました。人が少ないほど携わる領域が広がると思ったからです。その結果、Pathfinderを推薦していただきました。
自分でもPathfinderを調べてみたところ、ビジョンや考え方に非常に共感できるなと思ったことが決め手になりました。
ーーせっかくなので小野崎さんにお答えいただきましょう。横井さんの仰っていた考え方とは、具体的にはどのようなことなのでしょうか。取り組んでいるサービスも含めて教えていただけますか。
小野崎:私たちは今現在、片道専用レンタカーとカーシェアサービスを運営しており、最終的には自動運転の運用サービス開発を目指して事業をしています。
たとえば、東京にある自宅から名古屋の近隣の友人宅までいくとしたら、レンタカーかカーシェアで東京駅へ向かい、新幹線に乗って名古屋、名古屋からはバス、もしくはレンタカーやカーシェアーというように駅等で簡単に乗り捨てて、乗り換えができるレンタカー、カーシェアのサービスを生み出したいと考えています。そのためにまずレンタカーとカーシェアの片道専用移動及びの回送マッチングサービスから始めています。
公共交通機関などを利用して、出発地から目的地への移動を最適な交通手段による一つのサービスとしてとらえ、シームレスな交通を目ざす新たな移動の概念のことをMaaSと言いますが、そこにレンタカー・カーシェアを発展させた自動運転の車も入れてサービス展開を考えています。
ーー今回は、横井さんが1年間限定で事業に参加しましたが、そもそもどんな人材を必要としていたのでしょうか。
小野崎:事業の立ち上げということで、多様な視点を持った方にジョインしていただきたいと考えていました。私は、元々はトヨタ系商社で自動運転の各地での実証実験や新規事業に携わっていましたが、もっと他の業界や職種からの視点も必要だと感じていたので、今回の受け入れを決めました。
特に、横井さんはエンジニアでありながらも、学生時代に事業を行っていたことや、社内事業コンペの参加など、そういった経験も活かしてもらえそうだと感じましたね。
大事なのは、限られたリソースの中でどう動くか
ーーここからはベンチャー研修がスタートしてからについてお聞きしていきます。横井さんは仕事の取り組み方などでギャップを感じたことはありましたか。
横井:最初に戸惑ったことは…そもそも何から手をつければいいかわからなかいくらい、やるべきことが無限にあったことでしょうか(笑)。その一方で人材や資金などのリソースは限られているわけです。
まずは小野崎さんやメンバーの方々々と話して現状把握を行いました。その結果、重要視すべきことを定め、レンタカー・カーシェアの車両の数・拠点の数を増やすことから着手しました。
ーー現状把握を行うことも大変だったかと思いますが、そのあたりは苦労なく取り組めたのでしょうか。
横井:事業を動かしているキーマンがいたので、その人に聞けばすぐに現状把握ができる状況でした。それがずっと横にいる小野崎さんだったので。
小野崎:横井さんが入るまで、私が一人で対応していましたから(笑)。
ーーリソースが限られていることに対しては、どのように解決していったのでしょうか。
横井:それはマンパワーで乗り切るしかない部分もありましたね。業務委託のメンバーもいたので、任せられるところはお願いしていましたが、現場の仕事も結構多くて。拠点開設や車の契約書や申請書を書いたり、現場で車を動かしたり。前半は、自分で現場仕事もやりながらオペレーションを組んでいくというようなことに注力していました。
ーー東武鉄道との協業において事業開発を任されていたということですが、どのような役割を担っていましたか。
横井:これは小野崎さんがアクセラレーションプログラムに参加したことをきっかけに、東武鉄道がカタレンのサービスを用いて、日光の観光地をバリューアップさせるために何かできないかという提案を頂いたことから始まったプロジェクトです。途中からは私が引き継ぎ、マーケットリサーチから提案、契約、プロモーション活動、サービスを出すところまで担当しました。
サイクリスト向けの観光サービスを作りたいという要望があったので、鉄道を利用して観光地の駅まで足を運んでもらい、そこから自転車を乗せられるカーシェアを展開できたらと。
▼協業に関するリリース
ーーマーケットリサーチやプロモーションは、エンジニアの仕事からはかけ離れている領域ですよね。
横井:全然違いますね(笑)。でも個人的に取り組んでいたWebサイトの制作の際の知見が、少し役立ちました。誰に向けてつくるか、何を訴求するのか、マーケティングの要素は取り入れてつくっていたので。
ただ、今まで体系的にマーケティングや事業開発を学んだことがなかったので、全体像をつかむのにとても苦労しました。例えばSNS広告のキーワード選定などのやり方はわかるんですが、集めた情報をもとに、どうやって売れる仕組みをつくればいいのか。そこは社内にマーケティングに詳しい方がいたので、意見を仰ぎながら事業を組み立てていきました。
ーー大企業で働くうちに身についた経験や考え方で、役に立ったことはありましたか。
横井:これまでプラントエンジニアとして、製油所で起きたトラブルの対策のとりまとめを何年もやっていたので、基本的に問題の根本原因を調べることが身についていたようです。そういうトラブルに対して目の前に起きている事象だけでなく、しっかり掘り下げて解決方法を探すなどの対応力は、どの仕事にも通じるなと思いました。
まずはやってみようの精神で
ーー1年を振り返り、Pathfinderで働いたことで、どのようなことが得られましたか。
横井:学ばせてもらったことは無数にありますが、しいてあげるなら3つですね。
1つ目は、物事を始めるハードルが下がったということ。小野崎さんをはじめとして、Pathfinderの方たちはフットワークがめちゃくちゃ軽い。「まずはやってみよう」という人ばかりで。
たとえば、LINEでどのようにお客様対応をするかという議題があがったときに、「チャットbotを活用するのもありだよね」という意見がでたんですが、すぐに「じゃあやってみようか」という話になるんです。時間かけて検討するなら、まずやろうという雰囲気があり、自分が物事を考える時も自然と決断が早くなりました。
一方で、大企業ではそうはいかないこともあります。構造や環境に違いがあると理解しているので、不満とかは特にないんですけど、あの頃は決裁ルートがシンプルでよかったなと、今戻ってきて少しだけ思います(笑)。
2つ目は、人との関係性・繋がりの重要性です。僕が思う小野崎さんのコアコンピタンスは、人とのコミュニケーション能力を活かしてネットワークを広げたり、コミュニティをつくっていることじゃないかと感じています。
本当に顔が広くて、人と出会ってビジネスが生まれたり、アイデアをもらえたり。人のつながりから優秀な人が採用できたり。1年間そばで見ていると、関係性の構築ってやっぱり大事なんだと痛感したという感じです。
ーー横井さんは、関係構築は得意な方ですか。
横井:あまり得意ではないですね(笑)。人との関係を築くことって答えがないじゃないですか。エンジニアの仕事が好きだった理由は、例えば定量的にデータやリスクを示せば、相手は同意してくれるみたいな、ある程度答えが分かりやすい世界だったんです。
でも人と関係性を築くには合理性だけでは駄目だと理解しています。ですので、苦手であっても今後は意識していきたいなと思っています。
最後の3つ目は、やはり事業をつくる上では、フォアキャスティング(データに基づいて未来の目標に近づける)とバックキャスティング(目標とする未来像を実現するための道筋を立てていく)の両方が大事だということを、事業を行っていくうえで身に染みて感じました。
ーー小野崎さんからみて、横井さんが1年間で変化したと感じる部分はありますか。
小野崎:スタートアップって、たとえば資金が少なくなってきたから節約する方向でとか、資金調達が近づいてきたから結果出さないととか、目まぐるしく環境が変わるんですよね。うまくいかない状態が続くと潰れる可能性だってある。こんな危機感って大企業にいると体感できないじゃないすか。
エンジニアで培った何が問題かをあぶり出して解決に導くアプローチは横井さんの強みでもあるんですけど、環境がめまぐるしく変わる中ではそれだけではうまくいかない時もある。でも徐々に環境の変化をうまく感じ取って、許容度合い、胆力がついてきて、理解した上で主体的に社外への対応してくれるようになったとは思います。
ーー小野崎さん自身が、横井さんと働いたことによって刺激を受けたことや気づきはありましたか。
小野崎:横井さんは、オペレーションの整理や中長期を見据えたプロジェクト管理は、うまいなと感じました。ほぼ丸投げでもうまくやってくれて。日々オペレーションも変わっていくから決め打ちできないところもありますが、横井さんの姿をみて、自分も仕組みづくりもやっていかなきゃと強く思いました。
それから、大企業で働いてきた横井さんが持つ考えやノウハウは、若手の頃からスタートアップで働いてきた弊社のメンバーにとっても刺激になったと思います。
横井さんは、オペレーションを整理する力もあるし、新規事業開発においても対外的にもまとめ上げて着地させることのできる人。戦略だけ、オペレーションの構築だけできるという人は多いですが、両方できる人は少ない。自分でスタートアップの立ち上げができるレベルだと思いますね。
ーー横井さんは、ENEOSに戻られて、未来事業推進部に配属になったんですよね。今はどのような仕事をされているのでしょうか。
横井:ENEOSにはCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)機能を持つ組織があり、それが未来事業推進部にあたります。この部署で、投資先とENEOSの事業部門との間で新しい事業開発ができないか考え、検討していく仕事になります。
まさにPathfinderで担当した、他の企業とアライアンスを組んだ経験が生きる部署だなと思っているので、しっかりと学びを活かしていきたいです。中長期的な目線を持ち、社内と社外のアイデアを結合して、既存事業の拡大や新規事業立上げを推進できる人材になりたいと思います。
ーー最後にベンチャー研修に挑戦したいと思っている人にメッセージをお願いします。
横井:自分の仕事をアップデートさせたい、他の分野や仕事にも触れてみたいなど、変化することに少しでも興味がある人は、まずは挑戦してみてほしいと思います。行く前は、色々不安に思ったり、どんなメリットがあるんだろうと考えると思いますが、おそらく自分が思ってもいなかった気づきを得たり、学べることはたくさんあります。
過去を振り返ってみると、ひとつ行動することでバタフライエフェクト的にいろんなことにどんどん繋がって、思いもよらなかったところに着地することが沢山ありました。今回のベンチャー研修でも意図していなかった出会い、新しい学びは数えきれないほどあったので、変化したいと思う人なら、まずは手を挙げてみて頂きたいなと思います。
Fin
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