人と組織の新しい関係性をみんなで考えよう!「個人の価値観の多様化を、会社の成長につなげるには?」
組織と個人の関係をより良くする4社の仕掛け
原田:今日は、さまざまな立場から個人と組織を支援しているみなさんと一緒に、「個人を活かせる組織づくり」のヒントを探っていければと思います。まずは、順番にそれぞれのお取り組みの紹介をお願いします。
表:ミツカリは、データを活用して個人と組織が力を最大化できるよう、取り組んでいる会社です。具体的には、社員の性格・価値観を検出する「適性検査」や、社員の感情や悩みを検出し、離職・休職傾向の早期発見などができる「エンゲージメントサーベイ」を提供しています。
これまで感覚で進めていた人材配置や人事施策をちゃんと可視化して、意思決定につなげていくお手伝いができればと考えています。実際、離職が10分の1になったなど、嬉しいお声をいただくことも増えました。また、「社員の方に負担をかけない、楽に実施できる」ということも大事にしていて、適性検査が10分程度で終わるのも特徴です。
櫻井:エールは、「聴いてもらう時間が誰にとっても当たり前にある社会へ」というビジョンで活動しており、社外人材による「オンライン1on1サービス」を活用した大企業向けの研修プログラムを提供しています。キャリアコンサルタントやコーチングなどの資格を持っている社外人材約4,000名と、最適なマッチングを行っています。
実は、身近な人同士ほど互いの話を聞くのが難しいという現状があります。これは個人の聴く力とは関係ありません。ですので、利害関係のない第三者の立場だからこその、良質な「聴いてもらう体験」を提供しています。具体的には、管理職の傾聴力を高めるトレーニングや、自己理解を深めてキャリア自律をサポートするプログラムを行っています。
鈴木:私たちハッカズークが取り組んでいるのは「アルムナイ」です。日本では、これまで退職が出口となるのが一般的でしたが、お金も時間も投資した従業員が、退職して関係が終わってしまうのではもったいないですよね。
そこで、企業とアルムナイをつなぐクラウド型システム「Official-Alumni.com(オフィシャル・アルムナイ・ドットコム)」などを通じて、退職した個人と組織の新しいつながりを構築しています。
また、アルムナイというと、採用や再雇用にフォーカスされがちですが、そこだけではなく、従業員がより定着をするような組織にするためにはどうしたらいいか、退職者とのつながりなど、日本の企業と個人の関係性を変えるような領域まで踏み込んで展開しています。
原田:ローンディールは3つの越境プログラムをご提供しています。創業時から取り組んでいるのが「レンタル移籍」で、半年から1年、フルタイムでベンチャー企業に行き、事業を立ち上げるといった経験をするというもの。そして、業務時間の20%・3ヶ月ベンチャーに参画する「side project」。オンラインで毎週ベンチャー経営者とディスカッションを行い、他流試合を経験する「outsight」があります。
越境を通じて、個人や組織の創造性を高めていくということに取り組んでいます。今日のキーワードの「エンゲージメント」でいうと、社外に出ることで、「自分の会社はこんなに恵まれた環境だったんだ」と自社のいいところに気付き、仕事への意欲が高まったり、組織への愛着が深まるという事象も起こっています。
短期的な数値評価が困難な中で、どのように広がっていったのか
原田:ここからは、ざっくばらんに話していければと思います。それぞれの取り組みがどのような背景で必要とされてきたのか伺ってみたいのですが、櫻井さん、いかがでしょうか。
櫻井:そもそもエールのサービスは、漢方薬みたいなものだなと思っているんです。組織の何か具体的な課題に対して特効薬を処方するようなものではなく、もっと手前のところ。
たとえば、社員一人ひとりが、自身の特性や価値観とか、自分が持ってるバイアス・思い込みへの理解を深めてもらうことで、自己理解が深まると、目の前の人とのコミュニケーションが少し良くなって。そうすると組織に変化が生まれてきて、エンゲージメントにも影響が出てくる。そうやって徐々に変わっていく漢方薬のようなサービスだと思ってます。なのですぐに変化は現れないですよね。逆に言うと、「逆戻りもしづらく、変化したものが定着しやすい」という良さがあります。
そうした中で、やはり「エンゲージメント」という指標が注目されてきたことが大きかったと思います。エールのプログラムを受けるとエンゲージメントが上がるというのは、統計的に出ていましたので。また、1on1が流行ったというか、どこの会社も普通にやるようになったっていうところも大きかったですね。上司部下で1on1をすることが増えると、外部の人との1on1との違いや、価値や効果などが比較できるようになりました。
原田:僕らも人事の方とお話する中で、「1on1は取り入れています」という声をよく聞くようになりました。まずは1on1が市民権を得た上で、社員の定着などという部分で、エンゲージメントの話とうまく絡み合ってる感じでしょうか。そういう意味では、エンゲージメントど真ん中? 表さんのお話も聞いてみたいですね。
表:ミツカリのサービスも、たとえば離職率が図りやすい指標にはなるものの、やっぱり動き出してから結果が出てくるまで、1年くらい継続してみないとわからない。なので、まずは「エンゲージメントサーベイ」のエンゲージメントスコアを観察していくなど、細かなKPIを積み重ねていきました。
そうした中で、数万人規模で使ってくださる企業がありまして。分析してみたところ確証を持てる結果が導き出せたり、いい事例が出てきたところから広がっていきました。
原田:やっぱりひとつ特殊な事例みたいなものが出てくると、それが文化に落ちていくというか、そういうサイクルはあるんじゃないかなと思います。
僕らは、起業時からいちばん言われるのは「そんなことしたら辞めちゃうよね」という話。けれど、さきほど申し上げたように、むしろエンゲージメントは上がっている傾向がある。データとしても、戻った後に辞める率というのは、戻って1年以内だけで見ると3%位という結果も出ていて。そうやって数字が出てくると安心して、マイナス要因がちょっと減るというのはありますね。
鈴木:我々の場合、「再雇用の人数」が指標にされてしまいがちなんです。ただ伝えているのは、そもそも「企業とアルムナイの理想な関係性はなんですか?」ということ。まずはそこから考えていく必要がありますし、そのためには、人事だけではなく事業部含めて、社内を巻き込む必要があるので、そうしたところも力を入れています。
もちろん、短期的な成果ももちろん出さなきゃいけないんですけど、すごい長い時間かけて定着した慣習があるなかで、たった1年で全部ひっくり返るみたいなことってないですよね。
そういうマジックみたいなことを求められることもありましたけど、「時間かかるのは当たり前だから根気強くいこう」と、すごく熱い思いを持った人事の人たちもいて。「長くかかってもちゃんと変えていこう」といういう方も増えてる感じはしますね。
変わっていく、人と組織の関係性
原田:「これからの人と組織の関係性」を考えていきたいと思いますが、現状、どのようなことが起こっているのか、それぞれからお話しいただけますか。
櫻井:僕たちの場合、「(社員の)現場でのコミュニケーションや振る舞いを変えてほしい」っていう人事の方が結構いらっしゃるんですね。
ただ、それ以前に「役割認識を変える」ことが大事かなと。上司部下、会社と個人という上下関係が前提だったものから、互いが対等であるということが腹落ちしないと、いくらその場のコミュニケーションや振る舞いを変えても、あまり意味がないのではと思います。
原田:対等になっていくことが、これからの組織に求められるということなのでしょうか。
櫻井:エールでは、「ブロック塀」と「石垣」で組織をたとえるのですが、「ブロック塀」は均一的な形の石を積み上げることによって強さと高さを出していくというこれまでの組織のやり方。石垣は、それぞれの石の形の違いを理解した上で、組み合わせていくという、多様性を活かしたこれからの組織の作り方。
後者においては、それぞれ形も大きさも硬さも違うので、上から下に「こうなりなさい」「こうしなさい」と指示するだけでは成り立たないわけです。それぞれ違う石を積み上げるわけですから、「自己理解」と「他者理解」が必要になります。社員一人ひとりが、自分はどんな形でどんな大きさ・硬さをしているのか。他者はどうなのかを理解することが大事だと考えています。
表:労働人口が減って、会社と働く人の関係性が変わらざるを得ない。というのもありそうですね。労働人口が減って、働く側が有利になることが構造上起きている。そういう背景もあって、対等であるべきという発想の方も増えているんじゃないかなと思いますね。
原田:今後ますますパワーバランスが変わっていくかもしれません。でも、それをポジティブにとらえて、価値創造に繋げていこうという流れになればいいですよね。
鈴木:どっちがいいかというと、誰だってやっぱり対等な関係がいいって言うと思うんですよ。一方で、労働人口が減っていくほど、囲い込みたいという企業も増えると思います。そうなると「どうやったら自分たちが優位に立てるか」みたいな考えになって、社員をコントロールしようとする可能性もある。
原田:でも、社外という選択肢も当たり前になりつつある以上、高い塀を建てておけば誰も出ないかっていうと、それは無理ですよね。
かつ、ビジネスのライフサイクルみたいなものもどんどん短くなっていって、常にイノベーションを起こしていかなきゃいけないという中でいうと、やっぱり自分たちだけで何か完結することって少なくなっている。だから、外をうまく活かしていくというのは、必須の能力になっていくんだろうなという感じはしますよね。
個人の多様性を活かした組織の作り方
原田:では、どうやって多様な個人を活かす組織を作っていけばいいのか。具体的なやり方や考え方として、どのようなものがあるでしょうか。
櫻井:たとえば、自律型人材でいうと、「個人が人間として自律する」ということもちろんあるんですが、「組織の中で自律的に動けるか」が大事だと思っているんです。これは似ているようで、大きく違う。
僕はエールでは、自律的に動いてると思うんですが、小学校のPTAでは全然自律的じゃなかったりする(笑)。これはつまりこの人が仮に自律的な人間だったとしても、組織との関係性の中で自律的にいられない可能性があるということ。組織が何を目指していて、どこに向かっているのか。その中で自分は何をやりたいのか、どうありたいのか、その組織と個人の重なりがちゃんと見出せることで、やっと組織の中で自律性が発揮できるわけです。
そのためには、やはり「自己理解」が大切で、まずは考える時間を作ることが必要。また、越境することによって違う世界を体験して、そこで何が起こったのか、内省することも大事ですよね。そうやって、社員一人ひとりが、「自分はどういう価値観を持って、何を大切にして働きたいのか。生きたいのか」ということを言語化していくサポートが、多様な個人を活かす意味では重要かなと。
もうひとつは「組織についての理解」。これには「聴く力」が非常に重要だと考えます。上司が部下の話を聴くこともそうですし、部下が上司の意図を汲み取る力とか、管理職が経営の意図をちゃんと受け取る力も、ぜんぶ聴く力が必要です。
そうやって聴く力が高まると、互いの理解が深まっていくし、多様性を活かすことが自然と起きるんじゃないかなと思いますね。
原田:多様な個人を活かす組織をどう作るかの答えは、「自己理解した人、他者理解ができる人を増やしていく」ということでしょうか。表さん、どうでしょうか。
表:すごく大事だと思います。ただ、いきなり「自分はどんな人間なのか」「自分たちの会社の特徴は何か」みたいなのを理解するのってめちゃくちゃ難しくて。それをやるのにやっぱり比べるというか、定量化するみたいなことは大事なんだなって、改めて感じています。
我々としてや適性検査をする中で、A社の人材はこういう特徴で、一見、同じ仕事をしているように見えているB社には、全然違う人が多いとか。そういうことが見えてくると、「自分たちにはこういう特徴があるんだ」ってことが可視化できます。
それがわかった上で、「ここは変えない」という部分と、多様性を受け入れる部分を定義しておくというのはすごく大事なのかなと思いました。
原田:「レンタル移籍」では、ベンチャーに行く前に「会社のどんなところが好きなんですか」とお聞きすると、「人がいいんです」って答える方が多いんです。きっとそうなのだと思いますが具体的に「どう、人がいいのか」はわからない。だから、定量的することでもっと輪郭がはっきりしてくるのかなと改めて感じました。
最後に。多様なアルムナイ人材に向きあっている鈴木さんはどうでしょうか。
鈴木:一口に多様な個人といっても、そこにはグラデーションがあるということを認識することが重要ではないでしょうか。たとえば、大企業でいきなりスタートアップ出身者を中途採用してもうまく活かせないかもしれない。でも、退職してスタートアップで仕事をしていた人を改めて採用するなら受け入れやすいんですよね。
実際に受け入れてみたら、「ちょっとした多様性を受けるのはそんな悪くないじゃないか」ってなるわけです。「レンタル移籍」もそうだと思いますけど。
そうやって徐々に組織が受け入れて、変わっていって、体制ができていく。そのプロセスがすごく大事なんじゃないのかなと思いますね。
原田:確かに同じ釜の飯を食った人間が言うことなら聞ける、みたいなこともありますからね。多様性の中にもグラデーションがあるっていうのは、なるほどと思いました。
さて、今日は「人と組織の新しい関係性」についてお話ししてきました。自己理解や他者理解、見える化、グラデーションなど、さまざまな視点から考える良い機会となりました。皆さん、ありがとうございました!
Fin
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