経産省職員から期間限定の漫画編集者へ!コルク代表・佐渡島氏から教えてもらった、仕事への向き合い方
経産省の看板を外して、漫画編集者になってみた
ーーそもそも岡村さんはどんな動機で、レンタル移籍に参加したのでしょうか。
岡村:新卒で経産省に入省して、7年目になります。今後のキャリアを考えた時、留学や転職などさまざまな選択肢が浮かぶなか、レンタル移籍の存在を知りました。期間限定で転職のような経験ができるなんて、こんな贅沢なチャンスはない!(笑)と参加を決めました。
経産省ではクールジャパンに関わっていたり、実は、プライベートでは演劇の脚本を書いていたりすることもあって。「コンテンツを現場で作ってみたい!」と相談し、コルクを紹介してもらいました。
コルク代表の佐渡島さんは、『ドラゴン桜』や『宇宙兄弟』といった超名作漫画の編集を手掛けられたことで有名な方です。自分から制作の現場を見たいと言っておきながら、果たしてやっていけるのかと不安だらけのスタートでした。
ーー実際、コルクに移籍してどうでしたか。やはり大変でしたか。
岡村:慣れないコンテンツ制作においても大変でしたが、それ以前に「会議では真っ先に発言を求められる」「空気を読んではいけない」「『すみません』から会話を始めてはいけない」とか。これまでの環境とは180度違って戸惑うばかりでしたね(笑)。
でも、佐渡島さんとマンツーマンで仕事をさせてもらうなど、たくさんのコンテンツ制作に携わることができて、本当に贅沢な時間を過ごせました。
移籍者を受け入れ、組織が変わるきっかけをつくりたい
ーー佐渡島さんはどのような期待から、大企業人材の受け入れを決めたのですか。
佐渡島:「レンタル移籍」受け入れの話を聞いて、当社の置かれた状況にマッチしそうだと感じて決めました。というのも、当時は人の出入りが少なく、メンバーが固まりつつある状況でした。かといって新しい人を積極的に採用しよう、というフェーズでもない。
こうした状況に、優秀な助っ人が来てくれるとどうなるのか。その人に業務を「教える」ことで、自分たちがもう一度成長できるのではないかと考えました。
ーーなるほど。新しい人材が来ることで社内にも刺激になるということですね。
佐渡島:外部で優秀とされている人が、どれくらいの早さで自分たちの組織で働けるようになるかは、自組織の強さを見極めるバロメーターにもなります。
採用でよくあるのは、成否を採用する人のせいにしてしまうこと。でも、経産省で活躍している人が当社で活躍できないとしたら、問題はうちの組織にあると気づくことができる。現場の認識が変わるきっかけになるのではという期待があり、受け入れを決めました。
「自分の利益も考えて仕事をする」
初めてのYouTube制作を通じて学んだこと
ーー移籍中、岡村さんは具体的にどのような業務を担当しましたか。
岡村:編集者として、漫画家さんと一緒に企業のブランディング案件の漫画を作ったり、『1年で億り人になる』という書籍を漫画化すべく、漫画家さんと一緒になって出版する経験をさせてもらったり。漫画家を育成するためのスクール事業の立て直しなど、移籍前は想像もしていなかったことをたくさん経験できました。
なかでも学びが大きかったのは、佐渡島さんとマンツーマンで取り組んだYouTubeショートです。佐渡島さんから、サウナで企画会議をしようと言われて、「サウナだとメモが取れません」と言うと、「メモなんて取らなくていい」と。ストーリーがシンプルだと頭に残る。頭に残らないコンテンツは面白くないから忘れていいのだと。もう衝撃でした(笑)。
それから、YouTubeショートを作る際に、「仕事をもっと利己的に考えた方がいい」というアドバイスももらいました。
ーー利己的に考える。それはどういうことでしょうか。
佐渡島:岡村くんは本当に貪欲で、たくさんのことをとにかく吸収したい、社長の僕と働きたい気持ちを強く持っていました。だから敢えて、普段の業務とは別に、僕のショート動画を撮るという仕事をつくってお任せしました。
ショート動画の内容は細かく定義しておらず、新人漫画家が成長するために必要なマインドを僕が語るという方向性だけ決めていました。岡村くん自身が自分を漫画家に投影して、成長するために必要なマインドを聞けたらいいのでは? と考えたからです。
創作活動とは、自分の心から出てきたものを、みんなが受け取れるように変換・編集する行為です。だから、自分の利益も考えて、仕事をした方がいい。コルクで一番重要で基本となる創作のエッセンスを岡村くんに経験してもらいたいと考えて、お任せしました。
岡村:そもそも仕事とは人のためにやるものであって、自分のためにやるなんて考えたこともなかったので、毎日が衝撃と学びの連続でしたね。
ーーそれは仕事への向き合い方が大きく変わりそうですね! 逆に、経産省での経験が役立ったと感じたシーンはありましたか。
岡村:想像以上に、さまざまなシーンで役立ちました。たとえば、経産省には「総括」という仕事があります。課で行われている仕事の全てを把握して、関係者に指示を出す仕事です。あらゆる業務が降ってくるので大変煩雑ですし、民間ではあまり活かせない役所特有のスキルだと思っていました。でもあるとき、コルクの同い年のプロジェクトマネージャーとランチをしていて、彼の仕事が経産省の総括と同じだと気づいたんです。
コルクでうまく回っているチームには、優秀な「総括」がいる。みんなの仕事を把握して、適切な采配をする「総括」の仕事は、経産省の外でも十分に通用する。これは僕にとって大きな気付きでした。そして同い年の彼にとっても、「経産省でもハイパフォーマーになれる」という僕の指摘は新鮮な発見だったようです。
移籍者が去って、現場が本気で採用に乗り出した
ーー岡村さんを受け入れたことで、改めてコルク側に気付きや変化はありましたか。
佐渡島:いくつもあります。岡村くんには、コルクの社員全員をランチに誘って仲良くなってほしいと伝えていました。コルクのコミュニケーションのハブ的な役割を担ってくれたらいいなと思って。実際、みんなを誘って対話してくれていました。
また、(岡村くんは)とても素直な性格で、たとえばコルクが大切にしているミッションや行動指針に対して、「これってどういう意味ですか?」と僕に聞きに来る。そして聞いた内容を「この言葉ってこんなに深い意味があったんですね」と周りに話す。すると、周りにいた人間の受け取り方が変化する、ということが起こったんです。
ーーそんなことがあったのですね。
佐渡島:もうひとつ変化として大きかったのは、現場の採用へのスタンスです。「岡村くんみたいな人を採用したい」と、採用を自分ごととして捉えて本気になった。
岡村くんに任せる仕事がどんどん増えたことで、移籍が終了していなくなった後はどうしたらいいのかと、嬉しい悲鳴が現場からたくさんあがりました。今後どう業務を回せばいいのか、みんなで真剣に話し合って業務を整理し、設計するようになりました。すごくいい変化です。
そして岡村くん自身も、すごく変わったと思います。たとえば何かアウトプットをするとき。これまでは「誰にも批判されないようにするには、どう伝えたらいいのか?」という前提で自分の考えを伝えていました。でも、最初に自分の考えを全て吐き出して、後からリスクヘッジで内容を修正する思考回路へと変わっていった。
うちに来たことで思考プロセスもアウトプットも、明確に変わったのが印象的でしたね。
「言われたことをやるだけが仕事じゃない」
外の世界で知った、会社の評価よりも大切なもの
ーー岡村さんは現在、移籍を終えて経産省に戻っていますね。コルクでの経験は現職で活きていますか。
岡村:経験の全てが活きていると感じます。経産省に戻って考えるのが、政策もコンテンツも、本質は同じではないかということ。頭にすんなり入る政策でなければ忘れ去られてしまいます。心に残るシンプルなメッセージを発信し続けることで、世の中は変わるんだと、佐渡島さんとコルクの皆さんから教えてもらいました。
そんなことを考えていたら、経産省でSNSを担当することになって。昨日は18本のショート動画を撮影したんです。最初はショート動画に懐疑的だった省内の空気も、「こんな簡単に撮れるのか」と少しずつ変わってきて。経産省ってすごく柔軟な組織なんだと、改めて自分の置かれた環境の良さにも気付きました。
ーー仕事への向き合い方や、キャリア観の変化はありましたか。
岡村:一番大きな変化は、会社での評価が気にならなくなったこと。佐渡島さんやコルクの方々とは今でも定期的に会って、お話をしています。話すだけでたくさんの学びがあって、自分の成長って会社の評価だけがモノサシではないと思うようになったんです。
そうなると、上司から言われたことをやるだけが仕事じゃないという発想にもなってきて。すごい変化ですよね。移籍によってここまでキャリア観が変わるとは思っていなかったので。自分の変化に驚いています。
ーー今後の岡村さんとの関わり合いや、期待していることはありますか。
佐渡島:今後も、さまざまな形で会えたらいいですね。越境が終わっても、縁は続くもの。縁が続くような関係性を構築できたことが良かった。
会社とは、村みたいなものだと思います。長く住み続ける人もいれば、引っ越しで出ていく人もいるし、少しの間だけ訪れる旅人もいる。旅人が来ると大抵の場合、村では騒動が起きる(笑)。そして村のみんなの絆が深まったタイミングで、旅人は去っていく。物語の定番ですよね。これがレンタル移籍ではないでしょうか。
岡村くんは経産省の看板を外して一人の人格として僕らと出会い、付き合ってくれていますが、この先日本のエンタメをコルクはコルクで考えて、経産省は経産省で考えるなかで、「経産省の岡村くん」としてコルクと対峙する日がくるかもしれない。
両社が見ている視界の違いや、アプローチの違いを共有しながら、別の形で協力し合える日が来たら面白いですね。
Fin
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