『ヤフーの1on1』著者 本間浩輔さんに聞く!越境による個人の多様な経験を、組織の成長に変えるには?
越境の魅力は「強烈なリアリティ」
笠間:本間さんには1年以上前からローンディールのアドバイザーとして私たちの取り組みを見ていただいていますが、そもそも本間さんは「越境」という取り組みの価値や意義をどのように捉えているのでしょうか。改めて聞かせていただけますか?
本間さん:やっぱり「リアリティ」じゃないかな。どんなにいい本を読んでも、研修を受けても、結局それを学びとして昇華させるのはリアリティだと思うんです。そして、まさに人材育成で苦労するのはその点で、ただ教えるだけじゃなく、学習転移(学んだことを新しい状況で適用すること)を起こさせることをしたいわけです。
そしてその転移には、「強烈なリアリティ」があるっていうことが極めて重要なんですよね。それに一番近いのが「越境」だと思うよ。ケースメソッドをやってみたりグループ討議をしてみたりするけど、所詮、越境のリアリティと比較したら霞んでしまう。
笠間:なるほど、ありがとうございます。その中でも私たちはベンチャー企業への「越境」ということにフォーカスしているわけですが、この点についてはどうでしょうか?
本間さん:イノベーションは移動距離に比例するという話があるよね。たとえばバックパッカーで世界中を回った人の方がいろんなことを知っているというニュアンスに近くて、大企業の人にとってみたらそれくらい遠いところに行って衝撃的なリアリティと出会うという感覚だろうなと思う。
笠間:これまで企業は、どうやってこういうリアリティを獲得してきたのでしょうか?
本間さん:社内でガンガン異動させるとかっていうやり方があったよね。だけど、そういう機会を企業の中で作りづらくなってきている。そう考えると、越境くらい効果のある選択肢って他にないんじゃないかな。
越境経験を組織にどうやって還元するか
笠間:今、私たちが特に力を入れているのは「越境経験を組織にどうやって還元するか」というところなんです。課題と感じているのは、越境経験者と上司の経験のギャップです。
越境したメンバーが経験してきたことって、上司は未経験なんですよね。だから、どんな経験をしてきたか上司が理解できない。そして結果的に、越境者の経験をうまく活かすことができない、ということになってしまいます。でもこれは構造的に仕方がない部分もあると考えていてるのですが、自分が経験したことがないことを他者に促し、組織で活かしてもらうということはできるのでしょうか?
本間さん:そうだよね。きっと上司は越境経験の1%も理解できないんじゃないかな。だけど、越境経験がどういうものだったのかということをじっくり聞いてあげて、一緒に解釈していくことはできると思うんですよね。
笠間:例えばベンチャー企業に越境してきた人がいたとして、具体的にどういうやり方が考えられるでしょうか?
本間さん:もしその人がベンチャー企業の経営者からすごく影響を受けてきたということがあるとします。そうしたら、自組織にある課題に対して、上司から「この課題、ベンチャー企業の経営者だったらどんなふうに解決すると思う?」というような問いを立てる。そうすると、越境経験者は、自社の課題を自分の視点で捉えるのではなく、全く異なる視点から事象を捉え、解説をしてくれるはずです。
「そういう視点をぜひ聞かせてほしい」というスタンスで上司の方がコミュニケーションを取ってくれたら、組織の中に越境経験の解釈を根付かせていくことができると思うんですよね。テクニック的には「name it」なんて言いますが、その経験に名前をつけてあげる、みたいなやり方もあると思います。
笠間:そうすると、越境者がもっと成果を出しやすくなるかもしれませんね。
越境経験は大河の一滴
本間さん:ただ一方で、育成論的にいうと、安易にすぐ結果が出るということは考えない方が良いと思う。あらゆる人材育成がそうであるように、越境経験も同じ。数年経って何かしら成果と呼べるものが出た時に、振り返って、「大河の一滴が、越境経験だったな」ということに気づく。そういうものなんじゃないかと思うんですよね。
笠間:でもそうなると、目の前の業務で結果を出すことは諦めるということになるのでしょうか?
本間さん:いや、そうではなくて、それは積み重ねなんだと思う。さらに言えば、結果が出るかどうかという以前に、越境経験者が組織にいるということはすごい価値のあることだと思う。ジョーカーのように、異なる視点を持ち込んでくれる可能性があるから。そういうのを引き出すために、1on1の応答技法というのが使える場面もあるのではないかな。
笠間:まさにこういう越境経験を組織に広めていくための1on1ということですね。
越境者を増やすための1on1
笠間:それでは、最後に、これから一緒に1on1講座をやらせていただくわけですが、本間さんご自身として、どのような期待を持っているかお聞かせいただけますか?
本間さん:世の中には1on1講座も増えたし、技術論はいくらでもある。だけど、本当の目的は1on1をできる人を増やすことではないよね。越境者を増やし、かれらが越境を通じて得てきたことを組織に還元してくれるようになることがゴール。
どうやって「経験を解釈するか」「組織で活かすか」というところで、1on1の技法を使える場面があると思うんだよね。そういうものを参加者の皆さんと考えていけたらいいなと思っています。
笠間:これからの講座でご一緒できることを楽しみにしています。本日はありがとうございました。
Fin
【お知らせ】
本間 浩輔氏が監修する上司のための1on1講座を9月より開講
ー越境学習経験者の上司を対象に、個人の経験を組織に還元する1on1スキル強化を支援ー