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「すぐビジネスの第一歩を踏み出せる面白さ」日産自動車株式会社 斎藤 俊輝さん

2017年に日産自動車株式会社に入社し、マーケティング&セールス部門で戦略企画やマーケットインテリジェンスに携わってきた斎藤俊輝 (さいとう・としき)さん。「社会に対して影響力のある仕事をしたい」という思いで、マーケティングの部門を志しました。
マーケットインテリジェンス部で充実した日々を過ごしていましたが、2022年4月から1年間、Venture Challenge Program を通じて、代替肉(大豆ミート)の開発から販売までを行うフードテックベンチャー・ネクストミーツ株式会社レンタル移籍します。
斎藤さんはなぜ移籍を決意したのか、そして、何を得て帰ってきたのか。1年間の経験を伺いました。
(※ 本記事は2023年4月にインタビューしたものです)


ベンチャーでも経験が生かせるかもしれない


――以前は、マーケットインテリジェンスの部門にいたのですね。

就活の時点でマーケティングに興味があり、グローバルな市場で社会に対してインパクトのある仕事ができると思って、日産自動車への入社を決めたんです。

最初の3年間は戦略企画本部にいたのですが、専門的なスキルを得たいと思い、当時の上司にも相談をし続け、希望を叶えていただきマーケットインテリジェンス部に異動しました。市場調査の知識もビジネススキルも身につく環境で、とてもいい経験を積むことができました。

――順調にキャリアを築いてきた中で、なぜレンタル移籍に?

マーケットインテリジェンスでの仕事の1つに、10年後のトレンドの兆しを見つけて、社内に提案するプロジェクトがあったんです。半年くらいかけて役員への提案まで漕ぎつけたのですが、実現には至りませんでした。このプロジェクトに心残りがあって、若干落ち込んでいた時にレンタル移籍の公募が始まりました。いいタイミングだと思いました。

――ベンチャーに行けば、事業展開のヒントが得られそうだと?

それもありました。あと、漠然と憧れを抱いている部分もあったんです。ベンチャーに就職した友人が、「自分の会社には圧倒的成長できる環境がある」「責任者を任されて、こんなことをやった」と話す様子を見ていたので、実際に自分も経験してみたいと思いました。

ベンチャーは、新しいデジタルツールを活用するなどして、とにかく意思決定が速いというイメージでした。その中に身を置いたらスピード感で酔いそう(笑)という不安があった一方、マーケットインテリジェンス(市場調査や分析を通じてお客様やビジネスのインサイトを理解する役割)での取り組みには自信があったので、その経験も生かせるのではないかという期待もありました。

すぐに第一歩を踏み出せることが面白い


――移籍先は代替肉を開発するネクストミーツでしたが、なぜ志望されたのでしょう?

ネクストミーツの“地球を終わらせない。”という理念がシンプルでわかりやすく、共感できたからです。代替肉を開発・販売することで環境負荷を抑える、という理念のダイナミズムに魅かれました。

もう1つ選んだ理由になったのが、代表の佐々木さんの人柄です。移籍前に面談を受けた際、「代替肉を広めたら世の中が良くなるよね」とピュアに話す姿を見て、この人のもとで働きたいなと。

――佐々木さんの思いが、斎藤さんを動かしたのですね。それにしても全然違う業界ですね。

そうなんですが、事業内容を整理してみると、既存の市場に代替肉という新しいものをぶつけていくという点は、日産自動車が取り組んでいる電気自動車に似ていると感じたんです。新たな市場を生み出すプロセスや頭の使い方は、真似できるところがあるかもしれ いと思いました。

――なるほど。ちなみにベンチャーの環境には、すぐ馴染めましたか?

当時のネクストミーツはメンバーが30〜40人いたんですが、私と同じように理念に魅かれて集まった人たちだったので、同じ方向を向いている感覚があって、馴染みやすかったです。中には大手食品会社から転職してきた人もいて、境遇が似ていたので話しやすさもありました。 ちょうどネクストミーツがメンバーを増やしたタイミングで、入社したばかりの人がいたことも輪に入りやすかった理由だと思います。

――その中で、どのような業務を任されたのでしょう?

営業チームに配属されて、食品メーカーとのコラボを目指す法人営業を担当しました。移籍1週目で、企業をリストアップして、メンバ ーに共有し、「ここは伝手がある」「ここはまだ連絡を取ったことがない」と判断してもらい、実際に連絡を取るところまでいきました。

想像していた通り、動き出しの速さを感じましたね。そのスピード感に酔うことはなく、むしろ、すぐビジネスの第一歩を踏み出せることに面白さを感じました。

――斎藤さんに合っていたのかもしれませんね。ちなみに営業はうまくいきました?

序盤は食品会社出身のメンバーについていく形だったので、問題なかったです。SDGsの流れで、代替肉に興味を持ってくれるメーカーも多く、商談もスムーズに進んだ印象でした。

突然おとずれたピンチ! 営業担当は自分だけ


――躓くことなく、進んでいったのですね。

出だしが順調だったので、最初はこのまま1年過ごせると思っていました。ですが、移籍3ヶ月目に、ウクライナの一件や米国市場の騰落などの影響で、資金調達が難しくなり、事業の見直しとともに組織が縮小することになりました。

私自身はというと、ローンディールの皆さんも日産の上司や人事部も心配してくれて、移籍を中断するという選択肢を提案してくれまし た。でも、ネクストミーツに残るという選択をしました。 せっかく関わったネクストミーツになんとか貢献したいという気持ちもありましたし、この状況は私にとってもチャンスではないかと捉えたんです。自分1人で何もかもやらなければいけない状況に身を置くことで、成長につながるのではないかと。

――その後、事業は無事に回っていきましたか?

私が営業を一手に担うことになったので、1人ではとても回せませんでした。その際に、メンターの松川さんからかけられた言葉がヒントになったんです。

「2つ大事なことがある。割り切ることとやり切ることだ」って。 自分でコントロールできないものはひとまず脇に置いて、コントロールできるものに集中する=“割り切る”。

そして、一度やると決めたら、最後まで“やり切る”という意味です。営業案件を整理しながら取捨選択して、すぐに売上につながる案件を探っていきました。結果的に、以前から声がかかっていた飲食チェーン店とのコラボの企画に注力することで、無事に売上目標を達成することができ まし た。

――“割り切る”と“やり切る”で、見事にピンチを乗り越えたんですね。

はい。あと、マーケットインテリジェンス部にいた頃によく言われていた「配属1年目でも周囲から見たら調査の責任者だから、プロ意識を持ちなさい」という教えが、役立った気がします。 食品業界の常識や専門用語など、わからないことは多かったのですが、ネクストミーツの代表として取引先に出向く以上はオドオドせず、堂々と振る舞うことで信頼してもらえた感覚があります。

商談の場で、“地球を終わらせない。”という理念をしっかり伝え続けたことも、売上につながった要因だと感じています。代替肉は優れた商品ですが、新しいものは振り向いてもらいにくいので、何のために開発しているのかということを伝える必要があったんです。

――「代替肉って何?」「ネクストミーツって何?」というところから、説明していくということですね。

丁寧に伝えることを心がけたことで、卸会社の方々が協力的になってくれて、私に代わってネクストミーツのことを宣伝してくれたり、商談の場をセッティングしてくれたり。そこから商品の導入が決まったケースもあり、誠実に向き合うことの大切さを実感しました。

中学校で食育の授業をする一コマ
中学校の調理実習、学生の調理してくれたネクストミーツ商品

責任者として取り組んだからこそ、経験できたこと


――移籍中の出来事で、特に印象に残っていることはなんですか?

特に鮮明に覚えているのは、移籍最終月のことです。あと2週間くらいで移籍が終わるって時に、結構なやらかしをしました(苦笑)。 とある小売り業者さんとの縁があって、ネクストミーツの商品を店舗に置いてもらえることになったんです。ただ、コミュニケーションミスによって、条件に合わない商品を卸してしまって。

――その場はどのように収めたのですか?

ミーティングの場を設けて、迷惑をかけたことへの謝罪をしたうえで、コミュニケーションミスがあって双方が勘違いしていたことを、丁寧に説明しました。結果的に先方も「商品の相性はいいので、引き続き取引させてください」とおっしゃってくれました。

――無事に取引を継続できたのですね。

冷静に対応できたのは、問題が発生したことを佐々木さんに伝えた際に、「やってしまったことの理由は探すとして、エンドユーザーとなるお客様にとって一番いい解決策を考えなきゃね」という言葉をかけてもらえたからです。 商品を買ってくれたお客様がいるということは、今後も取り引きを続けたほうがいいはずだと考え、関係を継続する方法を丁寧に伝えることができました。 今回のことは本来起きてはいけないことなのですが、自分が責任者として裁量権をもって取り組んだからこそ、経験できたことだと感じています。緊急事態にどう対応するべきかといった点を身を持って痛感した、貴重な経験になりました。

――お話を聞いていると、斎藤さんは何もできずに立ち止まってしまう、ということはなさそうですね。

日産自動車にいる頃から、とりあえず動かないと進まないし、周囲とコミュニケーションを取っていったほうが仕事は捗る、という感覚で動いてきたところはあるかもしれません。ネクストミーツの営業が私1人になってからは、とにかくやるしかなかったので、私の特性もハマった気がします。佐々木さんとも密にやり取りしていたので、困って立ち止まる前に相談できたことも大きかったですね。

ネクストミーツ代表・佐々木さん(右)との1枚

自分が実行する側に回りたい


――改めて1年間ベンチャーへ移籍して、どのような学びを得られましたか?

学びは大きく2つあって、1つは意外となんとかなるんだなってこと。日産自動車での経験しかなかった自分は、社会人としてきちんと成長できているか不安だったんですが、ネクストミーツで求められる仕事ができて、自信がつきました。

もう1つは、日産自動車は人・金・モノのリソースがいっぱいあって、恵まれた環境にあると気づけたこと。とある企業とのコラボ案件で10 万円の協賛金を支払う必要があったのですが、当時のネクストミーツには 10 万円を捻出するのが難しい状況でした。そこで、交渉の末に原材料の供給をすることで、コラボを実現することができたのですが...。

その時、日産自動車はなんて恵まれた環境だったのだろうってハッとしました。人・金・モノのリソースがたくさんあるのだから、積極的に使ってもっとインパクトのあることができるんじゃないかと思うようになりました。

――外に出たことで、日産自動車の特長を再認識されたんですね。

はい。あと、学びというか成長した部分もあって、業務全体の解像度が上がった気がします。ネクストミーツでマーケティング担当や開発担当の人と話し、悩みを共有し、いろいろな立場の人の目線で商品を見たことで、相手の考えを想像できるようになったんです。

日産自動車に戻ってからも、業務に取り組む時に、この部署の人はこう考えるだろう、と先回りできるようになった感覚があります。相手の考えを想像できると、どう伝えたらスムーズに進むかといったことも考えられると思うんです。今はいい意味での焦りがあります。日産自動車ではレンタル移籍のような期限がないからこそ、気持ちが高まっている間にすぐ行動に移さなきゃ、というマインドになっていますね。

――現在の業務はどのようなものですか?

ベンチャーから帰任後は、特定の車種のマーケティングの実行責任者という立場で日々の業務に取り組んでいます。これまでは「この車をどのように売るか」という視点で取り組んできましたが、今後は「この車を活用して、人や社会のどんな困りごとを解決できるか」という視点で考えていきたいんです。ネクストミーツの“地球を終わらせない。”という理念にも通じるのですが、日産自動車でももっと広い視野で取り組みたいですね。。

――そのために、始めていることはありますか?

改めてお客様のことを理解して求めているものを知り、この困りごとはこの商品で解決できるだろうという順序で、マーケティング活動を進めていきたいと考えています。

そして、いいものはどんどん取り入れていくべきだと思うので、自分の経験を社内で共有したいという気持ちもあります。私が得た学びや視点についての話が、これまでと違う考え方をするきっかけになったらうれしいです。

――得た情報を伝えていくことが、変化の一歩になりそうですね。

そうですよね。日産自動車は豊富なリソースがあるし、話を聞いてくれる人も多いので、夢をもってどんどん動いていったほうが得だと感じています。「ベンチャーだから圧倒的に成長できる」とは限らなくて、大手企業だからこそできることもたくさんあるはずです。

小規模なスタートアップだからフットワーク軽く動ける部分があるのは事実なので、そこはスタートアップの力を借りながら、必要に応じて大手のリソースで活用する。そういったコラボを増やして、共存していくのが、これからの社会の形なのかなって思います。


Fin


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協力:日産自動車株式会社 / ネクストミーツ株式会社
インタビュー:有竹亮介(verb)
撮影:宮本七生
提供:株式会社ローンディール
https://loandeal.jp/

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