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ベンチャーで確信。「組織は自分の手で変えていける」 NEC 清水謙杜さん

「今、自分はなんのためにこの業務をしているのだろうか」。
めまぐるしい業務に追われ、目の前のタスクをこなすだけでせいいっぱい。新設部門のため、相談したくても誰に頼ればいいかわからず、周囲の役立っている手応えも得られない。そんな中で、日本電気株式会社(以下、NEC)の清水謙杜(しみず・けんと)さんはモヤモヤした気持ちを抱えていたといいます。そんな中で飛び込んだのがレンタル移籍でした。行き先のベンチャーはテクノロジーを活用してお金にまつわる諸問題を解決する株式会社400F。清水さんは新たな環境で、これまで知らなかったスキルを次々と身につけていきます。前向きに挑戦し続けられた理由を、清水さんは400Fの「優しい環境」のおかげだと話します。そしてその経験は、清水さん自身の働き方や、組織のあり方を捉え直すきっかけになっていきます。1年間の成長の日々について、お話を伺いました。
 (※ 本記事は、2023年4月に取材したものです)


「優しくしよう」のバリューに惹かれて

——NECで担当していた業務を教えてください。

放送系のお客様を担当する部署で、SEとしてシステムの運用や保守を4年ほど担当していました。その後部署内で異動があり、新しいサービスを立ち上げるための新規事業企画部門へ。この新規事業企画部門でSEとして、企画職の方が考えた企画の草案をシステム化する業務に半年間携わりました。

放送系のシステム運用保守の場合、やるべきことが決まっていて、計画的に業務を進行することが求められます。一方、企画部門では新しい案件が次々に舞い込んできて、やるべき作業がコロコロ変わります。チャレンジングな環境で、目まぐるしさがありましたね。部署自体が新しいので、知見があり相談できるような人が周囲におらず、次第に自分がどうすれば役立てるのかわからない状況に陥っていきました。

そんなタイミングで、レンタル移籍を知りました。当初は「ほかのベンチャーを体験できるって面白そう!」という単純な好奇心から応募していたのですが、選考が進む中で、自分の課題を解決したいと考えるようになっていきました。

——移籍先として選んだのは、「お金の問題を出会いで解決する」をミッションに掲げる400Fですが、どんな基準で400Fに決めたのでしょう?

 まず、SE職以外の業務ができる企業を探していました。違う仕事をすることで新しいスキルが身につくと思ったからです。それから、小規模すぎるベンチャーだと業務の領域が広すぎてついていけなくなる不安があったので、10〜20人規模の企業を探していました。

400Fに興味を持ったのは、サイトに掲げられているビジョン、ミッション、バリューを見たことがきっかけ。バリューに「優しくしよう」とあって、そんなふうに書いている会社ははじめてだったんです。他人に優しくするのは当たり前の価値観だと思うのですが、あえて書くのは何か理由があるのかもしれないと思いました。

「お金の問題を出会いで解決する」というミッションにも惹かれましたね。どういうことをする会社なんだろう? と興味が湧きました。実際に面接をさせていただくととても雰囲気も良く、また、僕自身に興味を持ってくださっているのがわかり、ぜひここで働いてみたいと思うようになりました。

400Fのメンバーと清水さん(前右)

 移籍から2ヶ月でぶち当たった壁

——400Fに移籍してからのことを聞かせてください。

マーケティング部に配属となり、デジタルマーケティング広告の運用を行いました。400Fの製品の広告に関する業務全般の担当で、具体的には広告の制作、配信後の効果測定、新しく出稿する媒体の開拓などですね。NECにいた時は経験したことがない仕事で、日頃から目にしていた広告の仕組みを知り、新しいことをたくさん学ぶことができて、最初の頃はとにかく楽しかったです。

400Fの雰囲気がよかったことも大きかったと感じています。400Fはメンバー間のコミュニケーション量がかなり活発で、そのための仕組みも整っていました。たとえば、Slackのようなチャットツール。スタンプ機能を使った交流は距離を縮めてくれました。全員がアバターを持っている仮装オフィス空間もネット上に用意されており、アバター同士が近づくと会話ができるような仕組みで、気軽に話しかけられるような環境でした。リモートワークが中心でしたが、おかげで活発にコミュニケーションできましたね。

——順風満帆なスタートですね。

移籍開始時、代表の中村さんが「好きに動いてください。もしも間違った方向へ進んでいたら、その時は言いますから」とおっしゃっていました。おかげで周囲の顔色を変にうかがうことなく、安心して働くことができましたね。

ただ、最初は素人なりに学ぶのを楽しんでいるだけでよかったのが、移籍2ヶ月を過ぎた頃から、結果に結びつかないことの重大さに気づいて焦るようになっていきました。

——結果に結びつかない。その壁をどう乗り越えたのでしょう?

これまではアイデアや新しい企画を考えるとき、自分の知識の範囲内や、ちょっと本を読んで得た情報を使ってアウトプットしているだけだったんです。でも追い込まれる中で、外部セミナーに参加したり、マーケティングを事業としている会社に相談に行ったりして、積極的に勉強するようになりました。

こうした勉強は、これまではほとんどやっていませんでした。そもそも追い込まれるほどアウトプットを求められなかったこともありますし、NECが大きな会社なので知識を持っている人がいる場合も多く、周囲に甘えてしまっていたのだと思います。

周りとのコミュニケーションも見直しました。この頃、広告運用の一つをある会社に代行してもらっていました。その会社の方は基本的な運用はしてくれるものの、それ以上に踏み込んで関わってもらえていない印象がありました。だけどこちらから積極的に連絡したり、新たに提案したりすると、だんだん相手からも提案してくれるようになったんです。

僕が完成しきれていないアイデアを口にした時も、「それなら、こういうやり方がありますよ」とアドバイスしてくれるようにもなりました。コミュニケーションを増やすとお互いのモチベーションが上がり、一緒に事業に取り組む存在になれるんだと実感した出来事でしたね。

——積極的なインプットや周囲への働きかけで、状況を改善できたのですね。

なかなかすぐにとはいきませんでしたが、移籍から半年経ったくらいから成果も見えはじめました。その頃、目標としていたユーザー集客数もはじめて達成できたんです。

達成した時は、喜びよりもほっとした気持ちが大きかったですね。スタートアップは一人ひとりの成果が経営に直結するので、結果を出せていないことに思った以上にプレッシャーを感じていたのだと思います。目標を達成したことで、ようやく運営に貢献できた安心感がありました。

「やってみたい」気持ちに正直に

——後半戦、成果がではじめてからはいかがでしたか。

前半の半年間、マーケティング部は実質的に僕を含めた2人だけだったのですが、この頃外部から転職してきた方がマーケティング部長としてジョインしました。経験豊富な上長が入ったことで一気に広告領域が安定し、数字も伸びていきました。その仕事を間近で見て、改めてマーケティングの面白さを知る一方、自分にスキルがあったらこんなに伸ばせたんだ、という悔しさの両方を感じていましたね。

広告運用が軌道に乗ったことで、僕自身の手が少し空きました。それで、やみくもに数字を求めるのではなく、ユーザーの質を高めるためデータ分析をすることにしたんです。その頃、別の部署で分析専門チームが立ち上がったので、上長に「チームを兼任させてもらえないか」と頼み込み、快諾していただけました。

——自ら兼任を申し出るのはすごい行動力ですね!

所属していたマーケティング部にはデータ分析に強い人がいなかったので、専門的な知識がある人の近くで勉強したいと思ったんです。自分の「やってみたい」という気持ちに正直になって、ほかの人を巻き込んで行動できた瞬間でしたね。

データを細かく分析することで、サービスを多く利用してくれるユーザーを効率的に集客する指標を作ることができ、400Fに貢献できたと思っています。この頃には、移籍も終盤。新しく覚えることがたくさんあって、移籍当時のような「学ぶことが楽しい」という前向きな気持ちで仕事に打ち込む日々でした。時間は足りなかったけれどつらさはまったくなくて、とにかく楽しかったですね。

——最後まで楽しく、やりがいを持って走り抜けたレンタル移籍だったことがうかがえます。

そうできたのは、やっぱりコミュニケーションがしっかりできていたからなのだと思います。僕は一人で悩んでいると、不安な感情がどんどん増えてしまいます。そういう時、400Fにはちょっとした雑談でもいいから話せる環境が整っており、リフレッシュ出来たり気持ちの整理ができたことは大変助かりました。

——400Fのメンバーとの会話で、印象に残っているものはありますか?

移籍して1、2ヶ月の頃、CFOの鵜月さんとの面談で実績が目標に追い付いていないことを相談したことがありました。その時に言われたのが、「野心的かつ実現可能な目標を立てましょう」という一言です。ベンチャーや新規事業の領域では、どうしても夢のような数字を目標にしてしまいがち。長期的にはそれでよくても、短期間でやろうとすると実現不可能になって潰れてしまうことがあるのだと。この言葉を聞いたことで、現実的に目標を見直すきっかけになって安心しました。今後も同じ状況に陥った時に思い出したい言葉です。

——メンターの方とのやりとりでは、どんなことが印象に残っていますか?

僕は感情や気分で動いてしまうところがあって、気分が乗っているとたくさん仕事をするけど、乗らないとあまり進まないんです。メンターの深田さんは僕の気分が乗っていない時も厳しく見守ってくださいました。それから、「うまくいった時に『よかった』だけで終わらせない。なぜうまくいったのか、深く考えて学びに落とし込みましょう」と一緒に考えてくださり、とても大きな存在でした。

 組織に対する考え方が変わった

——移籍を終えて、変化したことや成長を実感するのはどんなことですか?

行き詰まった時、何をすればいいか自分で考えて行動に移せるようになりました。それから、400Fで働けたことで自分の組織に対する考え方が変化したと思います。

移籍前は、組織は勝手にできあがってしまうもので「不満を持つ対象」というイメージがありました。でも、400Fで働く中で、組織は自分たちの関わりによって良くしていけるものなんだと考えるようになりました。僕は新しく知り合った人とすぐに仲良くなれる性格ではないのですが、400Fは交流の仕組みが充実していたことで、コミュニケーションがしやすかった。どう組織を変えていくか? という視点を獲得できたのは、大きな変化だと思います。

——新たに獲得した視点は、NECに戻ってからも役立ちそうですね。現在はどんな業務を担当しているのでしょうか?

移籍前と同じ新規事業企画部門に所属しているのですが、これまでがSE職だったのに対し、現在は実際にサービス案を考える企画職になりました。移籍の経験を活かして動こうとすると企画職のほうが自由に行動できるので、いい変化だと思っています。

戻ってきて感じたのは、NECのメンバーが、コミュニケーションをまったく取れない組織ではなかったということです。企画職とSE職の違いがあるとはいえ、チームには積極的にコミュニケーションを取ろうとしてくれる人もいるし、今まで自分が着目していなかっただけだったのかもしれないと気づくことができました。ただ、コミュニケーションを活発化するための仕組みづくりはまだまだ改善の余地があるので、自分でも試行錯誤しているところです。

——具体的に、これまでどんな試行錯誤をしたのでしょう?

まずは、プライベートから仕事のことまでなんでも投稿できるチャンネルをTeamsの内に作りました。こうしたコミュニケーションが苦手な人もいるため全員ではありませんが、多少は効果があったかなと感じています。

それから、400Fではオンライン上で集まって簡単なゲームで遊ぶ会を定期的に行っていました。ゲームを通してメンバーの人となりがわかる実感があったので、NECでも開催したことがあります。距離が縮まって、ちょっとした業務の相談などもしやすくなった手応えがありますね。

また、移籍前に企画部門で自分が何をしたらいいのかわからず、周りにも教えてくれる人がいないという状況に陥った反省を活かして、ナレッジを共有する仕組みづくりも行っています。企画職に一人ベテランの方がいるのですが、みんなが毎回その方に質問するので、教える時間が奪われ、質問するかどうかでメンバーの知識にも偏りが出ていました。Notionというドキュメント管理ツールを使って知識をため、効率的に共有できるようにしています。

——400Fでの経験から、組織をよくしていく、仕組みから変えていく、という視点が身についたことがうかがえました。最後に、今後の清水さんの課題や目標を教えてください。

企画職で自分がリーダーとなってプロジェクトをまわした経験がないので、近いうちに挑戦してやりとげたいです。あとは、やはりコミュニケーションを増やしていきたい。チーム内は改善できつつあるので、今後は営業職やSE職とのコミュニケーションも積極的に行っていこうかと。それがリーダーとしてプロジェクトに関わる上でも重要になるだろうと思っていますし、チームのコミュニケーション活性化に取り組んだ経験を応用しながら、少しずつ組織を変えていきたいですね。

組織は勝手にできあがってしまうものではなく、自分たちで良くしていけるもの。400Fでの移籍を経てNECに戻ってきた清水さんは、まずは身の回りから改革を進めます。「変えていける」ということは、可能性に開かれているということ。うまくいかないことがあっても、また立て直せるということではないでしょうか。その気づきを得た清水さんの表情からは、落ち着いた自信が感じられました。

Fin

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協力:日本電気株式会社 / 株式会社400F
インタビュー:小沼理
撮影:宮本七生
提供:株式会社ローンディール
https://loandeal.jp/

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