【経産省とスタートアップ、道は違えど志は同じ 「世の中を本気で変えたい」という思いが日本の未来を照らす】 経済産業省 高橋久美子さん
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【経産省とスタートアップ、道は違えど志は同じ 「世の中を本気で変えたい」という思いが日本の未来を照らす】 経済産業省 高橋久美子さん

 今回お話を伺ったのは、経済産業省(以下、経産省)に入省して9年目となる高橋久美子(たかはし・くみこ)さん。「日本がよりよい国になるように」。その一端を担いたいと入省した経産省で、現在はヘルスケア分野のスタートアップ支援に携わっています。

 そんな高橋さんが「レンタル移籍」を通じて行くことになったのは、株式会社コーピー。「AI 技術で人命を救い,平等を拡張する」というミッションのもと、医療や自動車、製造業のようなミッションクリティカル領域向けのAIシステムの研究開発に取り組んでいます。そうした社会貢献に対する志の高いミッションや、社員のほとんどが海外の出身者であるという、多様性のある職場環境などに惹かれ、移籍を決めたという高橋さん。

 半年間の移籍期間の間に、どのような取り組みを行い、何を感じられたのでしょうか。また、現在の仕事に活きている経験とは。じっくりと、お話をうかがいました。

日本を前進させる鍵は、スタートアップが握っている

ーーまず初めに、今のお仕事を選ばれた理由を教えていただけますか。

 大学時代に、中国に1年間留学していたんです。アジアで文化圏が近い国ながらも違いが多く、日本の良さと課題を、肌身で再確認できました。それまでは国際機関で働きたいと考えていたんですが、結局主権国の役割が強いということも知り、日本と世界の発展に関われる国家公務員という道もあるなと思いました。中でも日本の強みは経済力なので、よりインパクトのある仕事ができるのではと思い、経産省を選びました。

ーー現在、入省して9年目とお聞きしました。なぜ今のタイミングで、レンタル移籍に挑もうと思われたのでしょうか?

 スタートアップへの移籍ということが、私にとっては重要でした。2025年の大阪・関西万博誘致のプロジェクトに携わっていた際に、「2025年の日本の姿や、問うべきテーマ」を真剣に考えたんですね。当時、アメリカではトランプ政権が誕生し、格差社会などが問題視されたり、ダボス会議で第4次産業革命が議論されるなど、社会のあり方を見直させられる出来事が多くありました。世界を俯瞰し、日本の経済が徐々に衰退する今、豊かさを維持して生き残っていくためにはイノベーションが大事だと強く感じました。

ーー日本の経済の衰退。それは、どういった部分から感じているのでしょうか。

 世界中の企業の、企業価値を評価した「時価総額ランキング」というものがあるのです。バブル期なので単純比較はできないのですが、約30年前にはトヨタ、NTTなどの日本の大手企業や銀行がトップにランクインしていたんですね。けれど今は、FacebookやApple社など、元はスタートアップだったデジタル系の企業がほとんど上位を占めているんです。日本はかなり出遅れていますが、今後成長する市場へ投資しなければ、更に差は開くばかりです。日本でもスタートアップがもっと活躍できるエコシステムをつくらなければ、と強く思いました。

ーースタートアップの活躍を後押しするためにも、「実情を知らなければ」と移籍を希望されたんですね。

 そうですね。経済産業省といえどビジネスを知らない公務員で、スタートアップは更に特殊です。実態がどうなっているのかを知るとともに、そこで自分が付加価値を出せるのかトライしてみたい、という気持ちもありました。

 レンタル移籍の直前に、JETRO(日本貿易振興機構)という企業の国際展開を支援する組織に関わり、スタートアップの海外進出の支援を行っていましたが、どんな支援が必要なのか、情報不足を感じていて。多くのスタートアップは、人材も資金も少ない。だから支援できることは、何でもしてほしいとなる一方、税金には限りがある。限られた資源の中で、何を支援することが一番効果的なのかということを、中にはいって見極めたいなと思ったことも、移籍を決めた理由のひとつです。

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スタートアップのビジネスとは?手探りで学んだ6ヶ月

ーーレンタル移籍直後、コーピーでは、どのようなことに携わっていましたか。

 メインで行っていたのは、「AIの品質検証」というサービスの事業開発になります。近年登場した深層学習はポテンシャルが大きい一方で、不確実性があります。そういった不確実な部分を、世の中に出す前にテストし、改善提案などを行うサービスです。

 たとえば、車の自動走行。人間を覚えさせて、停車するようにプログラムしてあったとしたら、人が描かれた看板に反応して、車は急に止まってしまうこともある。晴れの日には、日光が反射して学習してあった標識が認識できないとか。特にこうしたミッションクリティカルな分野で重要になりますが、製造業の現場で注目されているAIによる外観検査(品質チェック)でも、「なぜ間違えるのか」がわからず、PoC(Proof of Concept)を実施しても導入に至らないケースが多くあり、そこに貢献できる可能性があります。

 ITソフトウェアの品質検証は今では常識ですが、AIの品質検証は、学術界や開発ベンダーの関心は高い一方、導入企業側のニーズはまだまだこれからという段階。ですから、品質検証がどういう業界で、どんな場面で必要とされるだろうかを情報収集し、仮説を立てることから始まります。顧客のニーズを踏まえて、それが実現できるのかということをエンジニアと話をし、ニーズのあるソリューションサービスを具体化しつつ、関心のある企業を探して営業を行っていました。

ーー「AIの品質検証」という分野があるということを、はじめて知りました。具体的にはどういった仕事になるんでしょうか?

 着任して半月後に名古屋で展示会があり、提携しているマクニカのブースで、私は車の自動走行に関する品質検証サービスをプレゼンさせてもらいました。同社は展示を行うだけでなく、定期的にブース前で10分程度のプレゼン企画をしていたためです。また連携できそうな会社のブースに行って勉強し、AIの品質検証に関するヒアリングもさせていただきました。展示会で関心をもった企業に後日コンタクトをとり、フォローアップしていくという形で、実際に後日営業で再度愛知や静岡へ行きました。

ーー移籍して半月で、プレゼンに立たれたということですか?すごいですね!

 9月に移籍してから、急いで勉強しました(笑)。ビジネス向けのAI講座の講師経験がある社長の説明がかなり上手で、ポイントを丁寧に説明してくれたおかげです。テクニカルな部分を具体的に聞かれたら説明できないんですが、AIエンジニアでない限り、質問がそこまで及ぶことはほとんどありません。そもそも、AIの品質検証ということ自体がまだニッチな分野なので、まずはその必要性やサービスの存在を知ってもらうところからのスタートでした。経産省も着任してすぐにキャッチアップすることが求められるので、特に不安はなかったです。

ーーその他にはどのような業務に関わられていましたか。

 前職の経験もあったので海外展開に携わったほか、スタートアップの資金調達について学びたかったので、ベンチャーキャピタルや銀行との面談にも同席して、勉強させていただいていました。財務状況も共有してもらったおかげで、限られた資金のなかで会社を継続させていかなければならないという切迫感を共有することができたので、「契約をとっていかないと!」とより一層力が入りました。

ーー資金調達から企業へのアプローチまで、かなり多岐に渡って関わっていたんですね。

 幅広く手を出すことで時間が分散してしまいますが、とにかく現場を知りたかったので、社長の予定を見て、呼ばれいてない面談にも同席させてもらいましたし、席替え表の作成とか海外ホテルの予約とかもやりました。経産省でも「総括」という、あらゆる業務に対応する職員が各課にいて、あまり人気がないポストなんですが(笑)、その経験・マインドも活きていたと思います。

 ただ本丸の事業開発については、「品質検証」が必要という問題意識がある企業がまだ多くない分、アプローチに悩みました。社長と相談して品質検証の分野で著名な先生に顧問になっていただき、開発を進めつつ、関心のある企業にトライアルでやってみませんかとアプローチしていました。

ーー先生とのつながりは、どのようにつくっていったのですか?

 それは社長である山元浩平さんが既にご存知だったので、公表されている連絡先へ直接連絡しました。その業界で著名な先生に顧問になってもらうという考えは、スタートアップではよくあることなんです。顧問として迎えることで開発スピードをあげるとともに、世間から信頼感を得る、企業ブランディングにもなります。他にもスタートアップとしてビジネスを進める上での知識を山元さんから聞いたり本を読んだりして、できることから実行していきました。

 私達は普段経産省という看板のもとに物事を進めることができますが、ブランドがない、実績がないところから始まるスタートアップのビジネスは、社長の人間力やチームの能力含め、才能、運などのさまざまなものが重なり合ったうえに成り立つものなんだと身を持って経験できたように思います。

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多様性に富んだ職場環境

ーー今度は職場環境について、お伺いします。コーピーは、かなりグローバルな企業だとお聞きしたのですが、どのような環境だったのでしょうか?

 コーピーでは、正社員のほとんどが外国人です。フランス、エジプト、中国、ブルガリア、ベラルーシ。みんなエンジニアです。エンジニアの中で日本人は、山元社長だけで、社内言語は英語。むしろここでは日本語ができることが強みになりました(笑)。日本において、こういったグローバルな組織が活躍できるのか、グローバルな組織で働くということはどういうことなのか、そういったことを知ることができるということも、コーピーを移籍先に選んだ理由のひとつです。

 また、前職でスタートアップの海外展開支援施策を強化したので、海外展開にあたって具体的にどういう風に取り組んでいて、何が課題なのかというところを知ることも理由のひとつでした。

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ーー実際に多様性の富んだ職場で働いてみて、いかがでしたか?

 良い面でいうと、宗教観や価値観がまったく違う人がいるので、多様な考え方に日常的に触れられるのは、とても刺激になります。また世界トップレベルのAIエンジニアと、英語で仕事ができるというところを魅力に感じて、現役の東大生や留学生がパートタイムで働いているなど、優秀な海外人材が集まるというのは大きなメリットだと思いましたね。

 しかし、言語の問題は大きいなと感じました。契約先には前もって「英語で進行する」という同意は得られているんですが、やはり複雑な局面になると、日本人である社長に対応が集中してしまう。東京という日本で最もグローバルな都市で、相手がグローバルな企業であっても、英語で仕事をするのは難しいという現実があるのだとわかりました。


不安を拭ってくれた、社長のあきらめない強さ

ーーこれまでとはまったく違う分野で、手探りで仕事に取り組むことはとても大変だったように思います。特に大変だと思ったことを教えて下さい。

 さまざまな企業へアプローチをかけたのですが、なかなか思うような反応が得られず、「これで本当にやっていけるのかな」という不安が募っていました。

 でもそこで、山元さんから、やりきる、粘るということを教えていただきました。私が「顧客ニーズが見いだせない」と口に出しても、山元さんは「もっとこういう風にアプローチをしてみては?」と絶対に諦めないで、様々な角度から意見を出してくれる。難しいことを成功させるためには、信念と粘り強い精神力が必要なのだと学ばせていただきました。

 それは今でも、私の中で活きています。今の仕事でも、「無理じゃない?」って思われるようなことを諦めずに「やってやろう!」という気持ちになるのは、その時に見た、自分の直感を信じてやりきる山元さんの姿に影響されているからだと思います。

 物事の中には、時代が追いつくまでに数年かかることもあると思うんですよ。その時には必要と思わなくても、今となっては当たり前になっているものがたくさんあって。謙虚さを持ちつつ、「必ず時代はやってくる!」と強い姿勢をもつことが困難を実現させる秘訣なんだと。教科書的には知っていましたが、身を持って実感しました。

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写真左:コーピー代表 山元浩平さんと、高橋さん

契約につなげたい!ついに迎えた最後の月

ーー紆余曲折があって迎えた最後の月。どのような思いで過ごされましたか。

 最後の二ヶ月間はコロナであまり出勤ができなかったのですが、一つでも契約が取りたいと思っていて。なんとか契約につながるよう、案件を持っていくという努力をしていました。それはテスト期間として無償でサービスを利用してもらうといった内容でしたが、まずは実績づくりが必要だったのと、無償期間が終わった後に有償での契約につながる可能性があると思い、アプローチをつづけていました。

ーーやっとの思いでこぎつけたチャンス。そのために工夫されたことなどがあれば、教えて下さい。

 工夫といえるほどではないですが、顧客のニーズに沿った品質検証をレポートにまとめ、できることを可視化して伝えていました。AIエンジニアにとって価値あることと、事業担当者にとってわかりやすいことは異なるので、社長を含めエンジニアや顧問と話しながら、品質検証の価値がどうやったら顧客に伝わるだろうかということを試行錯誤しました。

 実は、私の移籍が終わったのちに、無償の契約・トライアルができたとお聞きしました。有償と無償の差は大きいですが、少しでも前進に貢献出来て良かったです。

ーー工夫といえるほどではないとおっしゃっていましたが、社長やエンジニアの方々と対話を積み重ね、信頼関係をきづいたからこそ、結果としてつながっていったのだと思います。

そう言っていただけると、うれしいですね。


より良い世の中をつくるために

ーーレンタル移籍を終えて、経産省での仕事に活きていることはありますか。

 一番は、先ほど話した「信念」や「粘り強さ」だと思います。あとは、スタートアップの時間感覚や、資金調達の実情を垣間見えたというのも大きかったと思います。基本的にVCからの出資によって資金調達をするのですが、予期しないことが起こり、ブリッジファイナンスが必要になる局面があって、そこにサポートが届かないケースがあるのは発見でした。

ーースタートアップの実情を知りたいという当初の目的を達成されたことで、広い視野をもって仕事に取り組まれているんですね。

 コーピーで働いてみて、経産省とスタートアップは似てる部分があると思いました。どちらも世の中を本気で変えようと思っている。私達は、社会の仕組みや支援という形で、スタートアップはビジネスという形で。経産省では業界団体や大企業との接点が多いのですが、今後益々スタートアップの声を聞いて施策を立案することが増えると思います。

 現在はヘルスケア分野のスタートアップ支援に携わっているのですが、医療・介護における課題を解決する様々なソリューションが生まれてきています。とはいえ、普及には課題があり、日々試行錯誤しています。コーピーでの経験を活かして、挑戦していきたいと思います。

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 7ヶ月の日々の中で、山元さんやエンジニアの方々と対話を積み重ね、信頼を築いていった高橋さん。経産省とスタートアップというまったく違うフィールドでも、「日本をよりよくしていきたい」という芯となる思いが同じだったからこそ、意見のすれ違いがあっても、信頼関係を育むことができたのではないでしょうか。

 立場は違えど、思いは同じ。みんながそれぞれのフィールドで活躍することで、日本はもっともっと大きく羽ばたいていけるはず。高橋さんのお話を聞いて、そんな未来への希望を感じることができました。

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【コーピーさんより採用のお知らせ】

高橋さんがレンタル移籍した「コーピー」では、現在あらゆるポジションにて採用を行っています。ご興味のある方は以下のフォームよりお問い合わせください。

【レンタル移籍とは?】

大手企業の社員が、一定期間ベンチャー企業で事業開発などの取り組みを行う、株式会社ローンディールが提供するプログラム。ベンチャー企業の現場で新しい価値を創りだす実践的な経験を通じて、イノベーションを起こせる人材・組織に変革を起こせる次世代リーダーを育成することを目的に行われている。2015年のサービス開始以降、計46社122名のレンタル移籍が行なわれている(※2021年3月1日実績)。→詳しくはこちら


協力:経済産業省/ 株式会社コーピー
文:三上 由香利
写真:宮本七生
提供:株式会社ローンディール
https://loandeal.jp/


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