見出し画像

エーザイの実践から学ぶ人的資本経営の本質【人事のための対話会レポート #30】

こんにちは。ローンディールの笠間です。
今回は、11月に開催された第30回の内容を、ダイジェスト的に共有させてください。

ローンディールでは、月1回、「人事のための対話会」という場を開催しています。大企業・ベンチャー問わず、人と組織の可能性を信じ活動をされている方が集まって、特定のテーマに対して他社事例を聞いたり、それぞれの課題を共有した上で意見交換する、というものです。人事の方々の越境機会として、人事の方が安心して語り合える環境をご用意しています。(対話会を立ち上げた思いについては、こちらをご覧ください!)

事業環境が急速に変化する中、「人的資本経営」は企業の持続可能性と競争力を高めるカギとして注目を集めています。11月の対話会では、「人的資本経営」の先進事例として注目を集めるエーザイ株式会社から、チーフHRオフィサー(CHRO)の真坂さんをゲストにお迎えし直接お話を伺いました。

エーザイ社は人的資本に関する情報開示も積極的に行っていらっしゃるので、開示を主導しているグローバルHR戦略企画部 志方さん・三瓶さんにもご参加いただきました。制度や手法だけにとどまらない熱い想いが語られ、参加者の心が揺さぶられる場面が沢山ありました。

本記事では、その講演内容や参加者との声についてハイライトをご紹介します。

エーザイ社の人的資本経営

エーザイ社は、「ヒューマン・ヘルスケア(hhc)」という企業理念のもと、患者様や生活者の皆様を第一義に考えた事業活動を展開しています。社員は、イノベーションの創出を通じて企業価値を高め、hhc理念の実現に直接貢献できる唯一のステークホルダーであるため、、社員一人ひとりの能力や成長を支える「人的資本経営」を企業戦略の要として位置づけています。

2022年から現在までの流れ

2022年、エーザイ社を取り巻く社内外の環境で、人的資本経営に関連する重要な2つの変化がありました。それは、自社定款の一部変更(企業活動における「人的資本」の重要性を明確化)と、経済産業省が主導する「人材版伊藤レポート2.0」の公開です。これらの動きを受けて、同年7月には統合人事戦略が策定され、「社員の健康」「最適な働き方の追求」「人材成長の加速」、そして「結果として事業や組織の飛躍的成長につながる」というストーリーを基に人事施策が実行されたそうです。

さらに、2023年には、国内製薬企業として初めて、人材情報に特化した報告書「Human Capital Report 2023」をリリースしました。そして、想定読者やコンテンツ、課題認識などの観点から振り返りを行い、それを踏まえて、2024年7月に「Human Capital Report 2024」をリリースしました。

(対話会参加者の声)
人事内で「自分たちらしい開示とは何か?」という問いに真剣に向き合ったとのことだが、一人ひとりが当事者意識を持っており、「攻めの人事」という印象を受けた。

Human Capital Report 2024の特徴

「ありのままを社員にもっと知ってもらえれば、エーザイはさらに素晴らしい会社になれる」という考えのもと、読者ターゲットを社員および将来の求職者に設定。また、「社内外のステークホルダーにエーザイのありのままの姿を知っていただき、その上で得られたご意見を今後の取り組みに活かしていく」という姿勢が、報告書の根底にあるそうです。

また、より親しみやすい報告書を目指し、役員から一般社員まで、グローバルで活躍する50人以上の社員インタビューを掲載しています。それぞれのインタビューでは、社員の業務だけでなく、プライベートな場面も紹介されており、エーザイ社で働く人々の魅力や多様な側面が伝わる内容となっています。

加えて、人的資本経営の達成度を追う独自のKPIとして「E-HCI(Eisai Human Capital Index)」を策定したそうです。エンゲージメント(人財価値の発揮度)・人的資本ROI(人的資本投資に対する収益貢献度)・人的投資効率(給与総額を起点に社員が社会に与えたインパクト)を総合的に評価し、人的資本経営の進捗を定量化し、さらなる改善や成長のための具体的なアクションにつなげています。

(対話会参加者の声)
人事は一般的に「閉鎖的・受け身」となりがちなイメージがあるが、それとは真逆のスタンスを強く感じた。

ただ形式的にPDCAを回すのではなく、事実をしっかり受け止め、それに基づいて「次にどうするか」を具体的に考え続ける姿勢に、誠実さと本気を感じた。

開示を通じた対話と、そこから生まれる継続的な取り組み

開示を通じて社内外のステークホルダーとの対話が大きく広がり、その接点は感覚的にこれまでの2~3倍に拡大したといいます。具体的な社内の反響としては、「社員インタビューを見て親しみが持てた」「人事制度の解説を読んで、これまでの変遷を初めて知った」といった声が寄せられ、社員一人ひとりが自社への関心を深めていることが感じられるそうです。

また、情報を発信して終わりではなく、社内へのマーケティング活動にも力を入れています。報告書へのアクセスは増加傾向にあり、認知をさらに広げるための工夫として、プロモーションツールの活用(ポスターや動画、Tシャツ、会議用の背景画像等)や、意見交換を活発化させる取り組み(Project Aka-Chochin)が行われています。

投資家からも人的資本開示に対して多くのフィードバックが寄せられ、それに対して人的資本施策の意義や進捗を丁寧に説明し、透明性のある対話を通じて信頼を構築する取り組みを進めています。

(対話会参加者の声)
開示して終わりではなく、「対話」を促す活動を続ける重要性を感じた。

人的資本開示はあくまで1つのツールで、人事として目指す姿を実現するためには、「ツールを活用しきる」というしたたかさが重要だと感じた。

人事制度の情報を簡単な動画やメールリストで発信する形式に変えたところ、他部署でもコミュニケーション方法を工夫する動きが広がったとのこと。この事例を通じて「小さく始めること」と「自分たちから動き出すこと」の重要性を再認識した。

「仕事で胸躍る瞬間を増やしたい」「もっとよい日本にしたい」という真坂さんの言葉に込められた情熱が、非常に強く伝わってきた。

対話会♯30を終えて

今回の対話会を通じて、改めて「自己開示」の力を実感しました。会社側の状況を開示し、時には課題や弱点もさらけ出すことで、社員が「一緒に考えよう」と思える環境がつくられていくのではないでしょうか。経営方針の浸透や風土変革に悩む人事の声を日頃お聞きしますが、会社が「自己開示」をして透明性を上げることは最初の一歩ではないでしょうか。

また、開示を主導した三瓶さんは人事未経験の「越境者」で、「人事は色々いいことやってるのに社員に伝わっていない」という外から見た感覚を議論に持ち込んだそうです。前例を疑い、あるべき姿を本質的に議論することも重要だと感じました。

12月は「人事としてのキャリアの歩み方」をテーマに開催予定です。霞が関の働き方改革主導をしてきた長野 浩二さん(内閣人事局)をゲストに迎えます。「人事こそ越境して柔軟な思考やリアリティを持つべきという想い」から、2024年は「脱人事!」を掲げ、活動されてきたそう。長野さんのお話をお聞きしながら、人事として大切なことや実現するためのアクションを考えます。参加者の皆さんの2024年を振り返る時間にもしたいと思っています。どうぞご参加お待ちしています。

もし本レポートをご覧いただき、ご興味をお持ちいただいた方は、お気軽にお問い合わせいただければ幸いです!(問い合わせフォームリンク)


いいなと思ったら応援しよう!