「大企業の外に出て、見えたものは?」ベンチャーで修羅場を経験した大企業人材のリアルな声
ーそもそも、ベンチャーに行くきっかけは何だったのか?
川井:まずは、レンタル移籍に行くことになった経緯も含めて、自己紹介をお願いします。
北村:私は、東京海上(東京海上日動火災保険株式会社 / 以降、東京海上)で長年営業部門に所属しているんですが、会社が死ぬほど大好きで(笑)。会社の人も大好きだし、組織のためにどうやって働くか、ということだけを考えてきました。転職を考えたなんてことも1度もありませんでしたね。
一方で、慣れなのか、ここ数年は昔ほどモチベーションがあがらず、仕事に対してモヤモヤが続いていたという状況でした。「東京海上の看板がないと仕事なんて絶対できない」と思ってたので、「居座りつくぞ」って思っていたのですが(笑)、人事からレンタル移籍の話を聞いて、せっかくなのでチャレンジをしてみようと。社会の外で自分がどの程度通用するのか、みたいなことも知りたかった。
増田:僕は、レンタル移籍から戻って、サントリー(サントリー食品インターナショナル株式会社 / 以降はサントリー)の飲料のマーケティング部門にいますが、それまでは営業の仕事をしてきました。レンタル移籍のきっかけですが、当時参加した社内研修で、将来どういう仕事をやりたいかとか、自分の強みは何か、みたいなところを結構深堀りしたんですね。その時、将来はサントリーのエリアマーケットを拡大して、人々を豊かにするような仕事がしたいなっていうことを漠然と思い描きました。ただ、営業しか経験がなかったので、どうしたらそこにたどり着けるのか、どういう能力が必要なんだろうみたいなところが全然わからなくて。
そんなときにベンチャーで働くチャンスがあるっていうのを人事から声掛けてもらって。戸惑いはあったんですけど、やりたいことを実現するためのヒントを得るきっかけだったり、自分が変わるチャンスになるかなと思って、行くことにしました。
竹内:私は、東洋製罐(東洋製罐グループホールディングス株式会社 / 以降、東洋製罐)の、イノベーション推進室で社内の新規事業の推進支援などに取り組んでいます。入社して最初は食品の研究開発部門にいて、その後は知財部門に異動。2020年に今のイノベーション推進室に来て、そのあとすぐ、レンタル移籍に参加しました。
レンタル移籍をすることになった経緯は、みなさんと少し違っていて。会社に導入されていたわけではなく、たまたま社外でレンタル移籍を知ったんです。それで、「ぜひ行きたい!」と思って、会社に「行かせてください」と直談判して実現しました(笑)。
入社11年目のときで、会社が嫌ということは全然なくて。周りの方たちも良い人たちばかりで、北村さんと同じく辞めるという選択とか転職ということではなかったんですが、子育てと仕事の両立でがむしゃらに働いていたのがある程度リズムができ始めた頃で、なんとなくモヤモヤしていて。「外の世界ってどうなんだろう」って思ったのが最初のきっかけでした。
最初のきっかけから、レンタル移籍中、戻ってからのことをマンガにして会社のプロジェクトサイトで無料公開していますので、よろしければ皆さんご覧下さい。
ー実際にどのような修羅場を経験したのか?
川井:移籍先では、どんなことを経験したか簡単に教えてもらえますか?
北村:私が行ったinahoは、テクノロジーで持続可能な農業を実現することをミッションとしている、自動野菜収穫ロボットを作られている会社です。
その中で、新たな収益化のためのコンテンツ作りや営業活動などを担当しました。ただ、業界も働き方も一緒に働く人も全然異なる中で、意思の疎通みたいなところがなかなか難しくて、最初は自分の力不足を感じつつも、なんとかやり抜いたという感じです。
増田:移籍先のKAPOK JAPAN(以下、カポック)は、木の実由来のカポックというサステナブルで機能的な素材を使っててアパレルブランドを展開していました。僕を入れてフルタイムで働いているのが3人だったので、全体を見るような仕事をしていました。たとえばマーケティング施策を副業で関わっている人たちとチームでやっていくみたいなことや、PR業務ではメルマガやリリースを発信したり。あとは、海外にいる研究者の方とのやりとりだったり、本当に初めてばかりのことでした。
竹内:私が行ったRelic(レリック)は、企業の新規事業開発や、イノベーション創出の支援などを事業としている会社でした。私も、新規事業をサポートをする業務をしていたんですが、当時はまだ東洋製罐でもイノベーション推進室に移動したばかりだったので、「イノベーション? どうやって?」みたいな感じで、最初は何もできない自分に悩んだりしました。
川井:みなさんそれぞれ初めての環境で修羅場も経験したんじゃないかなと思いますが、具体的に聞かせてもらえますか。
増田:大きく2つあって。1つ目は修羅場というか、苦しかった期間の話なんですが。最初の頃は、自分はどういうところで貢献できるんだろうっていうのを見出すのがすごく苦しかったなと。一緒に仕事をする仲間が副業で参加している人たちなんですが、たとえばデザインとかマーケティングとかR&Dとか、それぞれのプロフェッショナルなんですよ。みんながプロの中で、僕自身が今までのキャリアの中で生かせるものはないんだろうか、どうやって貢献すればいいんだろうって悩んだのが最初の修羅場です。
2つ目は、やむを得ない事情でマーケティングのメンバーが抜けたこと。経験のない中で、自分がやらなきゃいけなくなって。どうしていいかわからないし、合っているのかもわからない。そんな中でいろんな人を巻き込みながら進めることで、成長できた転機にもなったかなと。
川井:他に頼れる方がいない状況になって、修羅場だったけど成長できたという実感なんですね。竹内さんはどうですか。
竹内:常に修羅場という感じではありましたが(笑)。特に、ということでお話しすると、私は「志のある人を支援したい」という強い思いがあってRelicに来たのですが、周りがプロばかりなので、「うまくできなかったらどうしよう」っていうのがあって、一歩踏み出せない。失敗したらどうしようって行動が起こせないみたいな時期がありました。でも期間は決まっているからそこで何かやらないといけない。こうした環境が修羅場でしたね。
それから、ウェブのデザインのこととか今まで全然やったことがないのに仕事が回ってきて。本当にできなすぎて13回くらいやり直しになったり(笑)。ベンチャーらしいとても良い経験をさせていただいたのですが、辛いときはもう誰かやって、みたいな気持ちになっていましたね。
川井:いきなり振られるのはベンチャーならではですね。北村さんはどうでしょうか。
北村:皆さんと重複するところもあるんですけど、最初の2、3ヶ月は、「私はここにいていいんだろうか」っていう存在意義のなさに打ちひしがれてたんですよ。何の利益も何もアウトプットも出せていない状況がずっと続いていたので、その時はきつかったですね。
役割が明確に決まっていなくて、良く言えば何やってもいい、悪く言うと何やっていいかわからないっていうところが結構あって。これまでは与えられた仕事をやっていたんだっていうことを実感しました。
それから、東京海上にいるときは若年層に向けて「自分が1年間いるんだったらいくら稼がなきゃ駄目なんだよ」っていうのを一生懸命言ってたんですけど、全然リアルじゃなかったなって。今月いくら稼いで、何人にお給料払うから幾ら消えるっていう、「会社のお金が口座に入っている」という感覚を初めてリアルに感じました。inahoでは、「私はここに売上が積み上げられてない」っていう恐怖感はすごかったです。プレッシャーが全然違うんだなと思いました。
川井:増田さんも共感されてますけど、そこはカポックでも感じましたか?
増田:財務諸表を見せてもらったこととかもあるので、数字がリアルに入ってきましたね。本当に日々勝負していかなきゃいけないんだなっていうのをすごく感じました。これまでは、自分の予算が達成する達成しないとか、そういう世界でしか利益を見ていなかったので。
川井:修羅場をどうやって乗り越えたか、ということも聞いたみたいですね。竹内さん、いかがでしょうか。
竹内:レンタル移籍の事前研修で「WILL発掘ワークショップ」っていうのをやるんですね。自分は何をしたいのかっていうのを言語化するプログラムなんですが。ここで自分のWILLが見出せたことがすごく心の支えになっていました。自分がどうなりたいのかっていうのがはっきりしたことで、つらいときもそれを思い出して「いやいや私はここで諦めてる場合じゃない」みたいな(笑)。奮い立たせて乗り越えたっていうのがあります。
それから、メンターさんの存在も大きくて。いつでも相談できるような関係性なんですが、「失敗が怖くて動けないんです」って言ったら、「まずはアクションするんだよ。とにかく量をこなそう」って伴走してくださって。気持ちに寄り添ってくださったので乗り越えられたなと思います。
川井:北村さんはいかがでしょうか。やっぱりメンターの存在も大きかったですか。
北村: そうですね。今まで大勢の人に囲まれて仕事してたんですが、フルリモートだったのでinahoの方ともあまりお会いすることもなくて。そうした閉鎖的な環境の中で、すごくリードしてくださいました。やっぱり人と会わない中で目線がすごく近視眼的になりがちというか、今日の仕事をどう片付けるかで躍起になってる私を、うまく引っ張り上げていただいて。メンターの方がいてくださったからこそだと思ってます。
あとは自分の精神力で乗り越えたところもあって。これまでエンジニアの方と直接仕事をする機会もなかったので、会社として「やりたいこと」と「やるべきこと」という部分で意思疎通が難しかったのですが、伝えてみて、ぶつかっては軌道修正してみたいな感じで諦めずにコミュニケーションを取り続けた結果、少しずつ分かり合えるようになったということはありました。
増田:皆さんと同じような話になってしまうんですけども、やっぱりメンターの方の存在っていうのは大きかったかなと。自分も成長したいし、会社にも貢献したいっていう中で、両立できてるのか?がわからないみたいなことを悩みとして伝えたら、「本当に小さいことでも貢献になる」って話をしてくださって。やっぱり一つひとつ丁寧に積み上げていくことが大事なんだ、ということに気づけました。
ーベンチャーでの経験は大企業でどう生きるのか?
川井:ここからは、ベンチャーでの経験をどうやって大企業で生かしているかということについて伺ってみましょう。竹内さんいかがでしょうか。
竹内:私は戻って8ヶ月程経ちますが、Relicで、たとえ少人数でもスピーディーに成果を出すということを経験してる分、自社に戻ってからも、「こうしたい」「こうした方がいい」」みたいなアイディアがどんどん浮かんでくるようになりました。ただそれを周りに伝えるのが本当に難しいというか、もどかしいというか。ベンチャーから帰ってきて「すごい変わった」とか、「やりづらい」って思われたら嫌だなっていうのもあって(汗)。
なので部員一人ひとりと毎週1on1 をすることにしたんですね。みんながどんな課題を感じているのかとか、「私はレンタル移籍に行ってこういうことを感じた」とか伝えたりして。上司に対しても後輩たちに対しても、まずコミュニケーションを密に取ることをやりました。
実はこれってレンタル移籍者あるあるなんじゃないかなって。レンタル移籍仲間と話すと、1on1 を始めたとか、会話を増やすようにしたという声をよく聞きます。お2人はどうですか、そういうことありますか?
北村:私はまだ戻ってきて2ヶ月程なんですが、仰っていることはすごくよくわかります。それってやりたいことを実現するときに手段を選ばないっていう発想があるんじゃないかなって。人間関係をきちんと作ってることの中から実現できることがあったり、何かを生み出せたりっていう経験が多分あるから、それを大事にすることによって次に繋がるっていうところの意識が強くなったのかなと思いました。「できる人でやろう!」みたいな。なので、私も他部との関係性みたいなことは結構大事にするようにしてます。
増田:僕も北村さんと同じく戻って2ヶ月程ですね。今は営業からマーケティング部門に移って、まずは仕事を覚えなきゃいけないという状況で、まだ生かせているわけではないんですが。カポックでは人数も少なかったのでかなり密にコミュニケーションを取れていました。一方でサントリーの部門は人数も多いので、カポックにいた時のようにコミュニケーションをしていくには、自分から動いていかないといけないなとは思っています。
川井:ちなみに、「移籍して愛着心は高まるのでしょうか」といった質問をいただいてるのでみなさんに聞いてみたいと思いますが、まずは北村さんどうですか。元々会社は好きということでしたが。
北村:私は、ちょうどいい距離感を保てるようになったと思っています。元々好きすぎて「会社にはこうあって欲しい」みたいな理想が強すぎて、時代に合わせて会社が変わろうとしていることに対しても拒否反応があったんですね。
でも外に出たことで、客観的に見られるようになったのと、自分がいかに育ててもらったかということも実感できて、少ししなやかになれたというか、変わることも許せるようになりました。まだまだ吸収できるものはあるっていう自分の伸びしろもそうですし、会社の伸びしろも感じられるようになって。なので答えとしては「より良い愛情に変わった」という感じです。
川井:竹内さんも激しく同意されてましたけど?
竹内:そうですね。外に出ることで、東洋製罐の良さっていうのがめちゃくちゃ感じられたんですよ。今までは当たり前だと思っていたことが実はすごいことなんだって実感できたというか。東洋製罐は100年以上も事業を継続させてるわけですが、ベンチャーに行って1年もたせるのがどれだけ大変なことかってわかったので、事業を継続させていることが本当に素晴らしいことなんだって感じるわけですね。100年間でどれだけの人を幸せにしてきたのかって想像すると胸が熱くなって。
また、新たに自社が社会にできることはまだまだたくさんあり、社内の技術や人材をもっと社会に生かしていきたいって思いがすごく強くなりましたね。なので私は愛情がより深まりました。
増田:僕もサントリーが好きで入社したので、元々愛着はあるんですが。変化といえば、よりサントリーのブランド力を実感しました。カポックで、本気でみんなにおすすめしたいと思えるようなアパレルを作っても、知名度がないことでなかなか興味を持ってもらえない、購買に繋がらないということを経験して。だからブランドを育てるのがいかに大変なことか、わかりました。
サントリーは100年以上続く中で培われたブランドと強固なサプライチェーンを持っています。この2つがあるからこそ、お客さんに届けることができるわけです。届けられるからこその大きな責任とやりがいもあります。そうした恵まれた中で仕事ができることのありがたさを感じましたし、もっと貢献していけたらと思うようになりました。
川井:みなさん、ありがとうございました!
Fin
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