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「挑戦というワクワクが、僕らを照らす」日産自動車 大久保翔太【後編】

日産自動車からコネクテッドロボティクスへ。
6 ヶ月のレンタル移籍を通じて、何を考え、何に悩み、 どう乗り越えたのか...挑戦するようになるまでの経験について書いています。
移籍期間が残り1ヶ月となった今の思いをそのまま、綴ります。
→ 前編はこちら

ーコミュニケーションは、波紋を起こす一石になる

自力で成果を挙げ、仕事に対する当事者意識が増すと、「駅そばプロジェクト」を成り立たせるためには自分が頑張らないといけない、と強く思うようになりました。はじめはそれが自身のやる気アップに繋がっていたのですが、徐々に限界がきます。

個別の開発についてはスピーディに成果を挙げられるようになったはずですが、プロジェクトの ToDo が大きくなるにつれ、すべてを消化するにはやはり、明らかに時 間が足りません。「前に進めなければいけない、でも何から手を付けて良いかわからない」と、再び、途方に暮れてしまったのです。

この悩みを週報に書いたところ、メンターの方から、「それを同僚や先輩社員に相談してみた?」 と尋ねられました。そのとき初めて、頑張ろうと思うあまり、すべて自分で抱え込んでしまっていることに気づきました。

移籍序盤には私の支援にかなりの時間を割いてくれていたので、一日でも早く自立しな ければならないと思っていました。「駅そばプロジェクト」を任されているのは実質自分だけ。ならば自分でなんとかしなければ、と、自分自身にプレッシャーをかけていました。 しかし、いざ周囲に相談してみると、なぜこの程度のことで悩んでいたのかと思うことがいくつもありま した。私が膨大だと思っていた ToDo リストに、優先度をつけて整理したことで、本当にやるべきことをギュッと絞り込むことができました。これは同僚や先輩との相談、議論や意見や先方とのコミュニケーション通して、周囲からの客観的な視点を得ることで初めて気づけたことでした。

また、解決方法が思いつかなかった課題も、雑談の中で何気なく思いついたアイデアによって一気に解決することもありました。このように、悩んだら周囲に頼るという、一見当たり前のことがやはり重要であると気づくことができました。

この経験について、メンターの方は「波紋を起こす」と表現してくれました。水面に向かって石を投げると波紋が起き、それに周りの人が気づいたり、水面に浮かぶものが揺れ動いたりします。自分一人で抱え込んで悩んでいる状態では周りも気づきませんし、何も動きません。
であれば、とりあえず石を投げて、水面に波紋を起こしてみることで、周囲の助けを借りたり、刺激したりして、それを起点に状況を打破できないか模索することができます。

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ー“中途半端なまま動けない”という自分の弱点

これら、バッターボックスと波紋の学びは、いずれも行動を起こしてみることが大事だ、という学びに集約されます。そして、この共通点をもって、自分の持つ「考えてから動く癖」が弱点となる局面について知ることができました。

また、つい考えてから動きたくなってしまう自分は、中途半端で暫定的な状態を外に開示するのがなにより苦手なのだ、ということに気づきました。
たとえば、バッターボックスの例では、大した出来ではない最初の試行が外に見えてしまうことに抵抗を感じましたし、波紋の例では、何をすればよいかわからない 途方に暮れた自分が外に見えてしまうことに抵抗を感じました。 しかし、この移籍によって、「中途半端でも構わない、むしろ自分の中にしまっておくことの方がリスクで、どんどん開示したほうが良いこともたくさんある」と知りました。この気付きは、移籍を通した社会 人としての成長に留まらず、自分自身のパーソナリティをよく理解する上で非常に重要なものだったと思います。

ー誰も正解を知らない、それでも前に進む

肩書はエンジニアであっても、技術開発とは異なる側面に触れることが多くありました。 特に印象深かったのは、移籍序盤に「駅そばプロジェクト」のビジネス上の戦略について考えたことです。

先輩社員と相談しながら、自分なりに「駅そばプロジェクト」に意義を考え、経営陣に提案しましたが、 鋭い質問に十分に答える事ができず、説得するどころか逆に課題点が露呈するだけの結果となってしまい、 とても悔しい経験をしました。しかし、鋭い質問を投げかけてきた経営陣ですら、これまで世の中に存在していなかったプロダクトがどんな価値を発揮できるのか、売れるのか、わかるはずはないのです。わからないからこそ、自分たちの信じる価値を創り上げ、世の中に問う。それこそがベンチャーのミッション。 そう思うと、ベンチャーという環境の難しさの真ん中に自分がいることに気づき、これが移籍の醍醐味だと思いました。

改めて日産での仕事を振り返ってみると、思えば、答えがはっきりわかっていたことは一度もありませんでした。その点では、ベンチャーであろうが大企業であろうが、置かれている状況は同じです。しかし、 その状況に対してどう取り組むかに差がある、と思いました。日産では、チームメンバーや上司、そのまた上司と大勢で議論をした結果をもって、合意や承認を得ることで、正解がわからないことの難しさをぼかしていたのではないか。一方で、ベンチャーではその難しさに真っ向から立ち向かっていることを、強く実感しました。

この強烈に悔しい経験は、新たな好奇心のきっかけにもなりました。
技術が実際に顧客に価値として届くまでには、開発そのものだけではなく、資源配分、財務、宣伝など様々な視点から道を整えなければならないのですが、自分はその中で開発しか知らなかったからです。今後、 自分が開発に携わった技術の価値が、自分の知らない観点によって本意でない形に変わってしまったら、 きっと悔しいだろうと思いました。 幸いにも、様々な視点を持った専門家と近い距離で仕事ができるので、技術者以外の視点から技術を見る目を養う上で、この上ないチャンスでした。

そこで、移籍前にはなかった目標を移籍中に新しく立てました。
それは、技術を経営の視点から見る力を養い、CR のビジネス戦略について提案をし、貢献することです。 まずは「駅そばプロジェクト」のリーダーとして開発を推進し、プロジェクトを成功に導くことへの責任 を果たしつつ、ビジネス戦略についてアイデアを練り、経営陣に向けて議論をする時間を作ることに決めました。現時点では、これぞというアイデアにはたどり着けず、ビジネスの難しさを痛感しています。し かし、希望もあり、かつて会議で鋭い質問を投げかけてきた経営陣に、興味を持ってもらえるようなアイ デアを徐々に出せてきた実感があります。一度抱いた志は曲げず、成果が出るまでやり抜く思いです。

ー巨大なビジネスが抱えるジレンマ

移籍を通して、日産と CR の違いを実に様々に体感しています。
移籍経験を持ち帰るという立場から、日産に足りなくて CR にあるもの、という視点で日産の課題に注目することが多くありましたが、CR のビジネス戦略について議論し、その難しさを知るにつけ、日産という巨大な企業が、世界中で高品質な自動車を販売し、その巨大なビジネスを成立させていることは、尋常ではないと思いました。 これまで長い時間をかけて築き上げてきたビジネスであり、組織であるからこそ、その維持にかかる労力も膨大であり、目の前に迫る変化に素早く対応するのが難しい。これは、日産に限らずあらゆる大企業が 直面している『イノベーションのジレンマ』(M・クリステンセン 著)です。
日産という巨大な組織が正当にアップデートされたら、世の中の自動車に与えるポジティブな影響は計り知れないと思います。 組織に変化を起こすきっかけの一つとして、レンタル移籍というチャンスに自分を送り出してくれた日産に心から感謝しています。自動車を心から愛する一人の“少年”として、そして巨大な組織を刺激する良き異分子として、「世の中の人々をワクワクさせられる」ような、より魅力的な自動車を造り上げることに、 この移籍経験で得た力を注ぎたいと思っています。


ーーー最後に。
私の率いる「駅そばプロジェクト」は、一つのクライマックスを迎えました。成果であるそば調理ロボットが、2 月18 日〜21 日に幕張メッセで開催された「ホテルレストランショー2020(HCJ2020)」でついにお披露目となったのです。これまで一生懸命作り上げてきた、まだ世の中にないプロダクトが、たくさんの人に触れることにとてもワクワクしましたが、正直に言うと、それと同じくらい不安も感じていまし た。そんな私を待っていたのは、器用に調理をこなすロボットを興味深そうに見つめる視線、たくさんの 質問、そしてそばの試食を美味しそうに食べる来訪者の笑顔でした。もちろん課題はまだまだありますが、 このプロジェクトを率いたことをとても誇りに感じられる 4 日間でした。

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そして、展示会の終わった今、移籍期間は残り 1 ヶ月となりました。
このあと、「駅そばプロジェクト」は店舗納品という、さらなるクライマックスを迎えます。まさに私が移籍に求めていた「アイデアが世の中に出る」ことを最も濃く経験できる時間です。いったいどんな困難が待っているのだろうかと思うと不安は尽きませんが、もう怖くありません。今は、不安を超えるワクワクが私の足元を照らしてくれるからです。
CR の「そば調理ロボット」が、一人でも多くの店員さんを助けられますように。そして、一人でも多くのお客さんに美味しいそばを届けられますように。そう祈りながら、残りの移籍期間も全力を尽くします。

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大久保 翔太
(※本手記は、2020年2月末に執筆したものです)


Fin

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【レンタル移籍とは?】

大手企業の社員が、一定期間ベンチャー企業で事業開発などの取り組みを行う、株式会社ローンディールが提供するプログラム。ベンチャー企業の現場で新しい価値を創りだす実践的な経験を通じて、イノベーションを起こせる人材・組織に変革を起こせる次世代リーダーを育成することを目的に行われている。2016年のサービス開始以降、計32社78名以上のレンタル移籍が行なわれている(※2020年1月実績)。→詳しくはこちら

協力:日産自動車株式会社 / コネクテッドロボティクス株式会社
撮影:宮本七生
提供:株式会社ローンディール
https://loandeal.jp/

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