「ビジネスも人生の喜びも、アップデートされた」起業家が大企業人材のメンターになって得たもの
ー起業家でありメンターであるということ
酒井さんが代表を務めるユニロボット社は、コミュニケーションロボットunibo(ユニボ)を主軸とし、クラウドサービスである“unirobot cloud”の開発を行うなど、「ロボティクス」「クラウドAI」における最先端をいくベンチャー企業。「コミュニケーションテクノロジーに、心とあたたかさを宿す」という同社のメッセージの背景には、「ドラえもんのようなパートナーロボットが、家族の一員にいる世界」を目指す酒井さんの思いが込められている。
そんな酒井さんがメンターとして関わるようになったきっかけは、レンタル移籍者の受け入れだった。はじまりは今から5年前。当時、受け入れを検討していた酒井さんは、面談にやってきた大企業人材と会話し、「この人とだったらおもしろい仕事ができるかも」そう感じたそう。
酒井さん自身も大企業で15年勤めた経験があり、大企業人材のポテンシャルはよく理解していた。そのため、受け入れに不安はなかったという。結果的に、5年間の間に4人の人材を受け入れた。
「お互いにとって、すごくいい関係性が作れたなと思ってます。主には新規事業や営業をお願いしたのですが、伴走しながら私自身も色々チャレンジさせてもらいましたね。組織としての基盤もまだない頃だったので、企業文化や制度設計など、汗をかきながら一緒につくりあげてきました」
大企業人材と、受け入れたベンチャー企業の社長。最初はそうした立場だった酒井さんだが、のちにメンターとしても関わるようになった。つまり、“ユニロボットではないベンチャー企業”に移籍する大企業人材に寄り添い、メンタリングを行うというもの。
「きっかけは、移籍者を受け入れた際に、メンターの方がその人に寄りそう姿勢を見て、感銘を受けたんです。移籍者はベンチャーという未知の環境で、様々な悩みと葛藤を抱えます。そこに伴走しているのがメンターです」
「当然、私も受け入れベンチャーの代表として移籍者と接しますが、共に仕事をしていく仲間なので、業務の具体的な話がメインになるため、やっぱり立場的に違うんですよね。メンターという、身近な味方であり、フラットな立場で助言してくれる存在がいてこそ、壁を乗り越えて、半年や1年で大きく成長ができる。近くで見て、そう感じました」
「なので純粋に、メンターになってもっと人の成長に深く携わりたいなって思ったんです(笑)。大企業人材にとって、間違いなくターニングポイントとなる貴重な経験になる。そうした時期に関われることって、すごく喜ばしいことなんじゃないかって思いましたし、自分自身も成長できるんじゃないか、そんな期待もありました。そんな話をしたら、『やってみませんか』と、お声かけいただいて」
ー人生のターニングポイントに携わる喜び
「人生のターニングポイントに携わりたい」と語る酒井さん。その背景には、人の成長を応援する気持ちと共に、酒井さん自身の原体験も大きい。
「実は大企業時代、トレーニーとして1年半、ニューヨークに駐在していた経験があって、そこが私の人生の転機になったというか、大きなターニングポイントでした。そこで得られたことが、忘れられない経験になっているんです」
「たとえば、自分自身で考えるということや自分で発言するという、主体性を持つ経験をたくさんさせてもらいました。自分の責任範囲も広がったこともあって、これまではなかった使命感みたいなものも芽生えたんですよね。日本の大企業しか経験がなかった自分からしたら、どれもはじめてのことばかりで。周りのサポートもあって、本当にいい経験ができたと思っています」
ニューヨークのトレーニーでは、「個性を出さないとサバイブできない世界だった」と話す酒井さん。それはベンチャーという環境でも同じだという。
「主体性が必要だったり、大きな責任を持って行動するなど、ここでの経験は、ベンチャーに近いものがありました。なので、大企業からベンチャーに来て働くということは、私が感じたように、みなさんにとっても間違いなく貴重な経験になるんじゃないかって。そういう人生の大事な時期に携われるって、やりがいがあるというか、喜ばしいと思うんですよね」
自らの原体験を思い返し、「ベンチャーに挑む大企業人材のサポートをしたい」、そうした思いに駆り立てられたそうだ。
「”あえて”新しい場所に行って、新しいことに挑戦してみるって大変だけど、すごく大事だと思うんです。今までやりたかったけどできなかったことや、気持ちを抑え込んでたことがあったとしたら、それを解放できるのが越境だと思います。与えられた仕事だけをしているのではなく、自分で仕事をつくっていくっていう経験は、人生を変えるはず。だからどんどん挑戦して欲しいって思いながら、みなさんと向き合ってます」
ー事業のやり方をアップデートできた
そんな思いからメンターとして関わって2年間。酒井さんは4名のメンターを担当した(1名は現在進行中)。当初、「自分自身も成長できるんじゃないか」、そんな期待もあったというが、実際、自らの成長と広がりを実感しているという。
変化のひとつは、「事業のやり方をアップデートできたこと」だという。
「新規事業のプロセスや、これまでやってきた仕事の回し方を客観的に見られるようになりましたね。悩んでいる移籍者の方に、自分なりの考えをお話しすることで整理できたというか。私自身、事業開発から営業活動までやってきていますけど、元々は大企業でコーポレート部門にいた人間なので、教えてもらったことがないわけです。ユニロボットをつくってから、自分で積み上げてきたものなんです。だから今回、新規事業のプロセスを伝えるにあたり、自分の経験に照らし合わせながら、専門の方と意見交換したり、セミナーに参加したり、勉強もしました(笑)。そうすることで、自社の事業に生かせる新たな発見もたくさんありました」
”他社の事業”に向き合う移籍者との対話、ということも、俯瞰して考えることができたひとつの理由。
「ずっと自分たちの事業だけに向き合っていると、それが当たり前になりすぎて色々なことに気づかないんですよね。それが、他社の課題などに触れたことで、かなり視野が広がったんじゃないかなと思いますね」
ー異なる業界と深い関係性が築けた
それからもうひとつ。「異なる業界との関係構築」も、メンターという立場だからこそできたことだという。
「ベンチャーの経営者や、大企業側とのつながりは明らかに広がりましたね。たとえば、私が担当させてもらった移籍先ベンチャーは、次世代バッテリーや農業、地域創生などに取り組んでいます。自分のいるロボティクスの業界とは違うつながりができたり、新しい分野のことが知れたのはすごく良かったですね」
「経営者同士、困ってることって共通していることも多いので、共感し合えることも多くて。多かれ少なかれ、経営者は悩みや課題を抱えていたりするので、ざっくばらんに話し合える関係性をつくれたのは大きな財産ですね。これはメンターという立場で深く寄りそうことができたからこそだと思っています」
「そうした関係性が増えたことで、ご縁をおつなぎすることも増えました。元々、人を紹介するということは事業とかと関係なく、好きでやっているんですが、その幅が広がった感じがします。それに、つなぐだけじゃなくて、分野が違うからこそ、何かのきっかけで両社で一緒に取り組めることや、協力しあえることが将来的に出てくるかもしれませんしね。普段の仕事ではおそらく出会えなかっただろうこうしたご縁を頂けたのも、メンターをやって良かったなと感じている点です」
どんな起業家が大企業人材のメンターに向いていると思うか、酒井さんに聞いたところ、「人」がキーワードだと話してくれた。
「まず、『人が好き』というのは絶対だと思うんですね。人の成長を応援したいということでもいいと思います。そこがないと、多分、自分の仕事が忙しくなったときに、後回しになってしまうというか、ドライになってしまう。私自身も人が好きですし、成長を応援したいから続けていける。むしろ、そこがあれば大企業経験があるないとか、業界とか関わらず、楽しめるんじゃないかなと思います」
起業家としての“顔”と、メンターとしての”顔”、両方を並行させることで、仕事も人生も幅が広がったという酒井さん。本業をメンタリングに生かし、メンタリングで得たことを本業に還元する。人に本気で向き合った結果、そうしたいい循環が生まれている。だからこそ、今もメンターを楽しんでいる。
ユニロボット社が手がける新しいクラウドサービスは、現在、様々な業界で導入され、大きく広がりつつある。それでも「まだまだやりたいことがいっぱいある」そうだ。
メンター経験を通じて、経営者としての幅が広がった酒井さん。
「実は今度、ユニロボットでこんなことを……」。
笑顔でビジョンを語る酒井さんは、これから先、どんなことを仕掛けていくのか、楽しみで仕方ない。
Fin
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