「越境思考」を掲げる村田製作所社員の“挑戦意欲”を刺激する仕掛け
それぞれの場で輝ける人材を増やしていきたい。
人材育成プログラム「Make2030」とは?
楠原:まずは、人材開発部で実施されている人材育成プログラム「Make2030」について、西田さん、ご紹介をお願いできますか。
西田:「Make2030」は次世代リーダー育成にフォーカスしたプログラムです。2021年に“村田製作所がありたい姿”をまとめた「Vision2030(長期構想)」を策定した際、「この構想の実現には十数年後に経営リーダーになる30代~40代前半のメンバーの育成が重要」と考え、実施しました。
参加メンバーには、変革の課題を見つけ、仲間を巻き込み、共に解決していけるリーダーを目指してもらうため、社内の中長期の取り組みに対する理解を深める講演や経営課題の設定・アクションプランの提案を行うチーム活動の場を提供します。
チーム活動の一環で、情報を得るために他社や大学などに赴くというアクションも推進しました。期間は2022年5月~2023年9月の約1年半で、参加人数はマネージャークラスの方134人でした。
楠原:かなり大規模ですが、このようなお取り組みは以前からされていたのでしょうか。
西田:この規模は初めてです。10名程度の参加者で、事業コンセプトを考えてもらうプログラムなどはありましたが、少人数だけでは「未来の経営リーダーの育成」が追いつかないので、規模を拡大しまして。かなり裾野を広げました。
そうしたことで、バックグラウンドの異なる多様なメンバーが集まり、広がりも生まれました。
楠原:拡大したメリットもありそうですが、一方で、参加者を送り出す部門長の理解を得たり、参加者の意欲を維持したりするのは大変だったのでは。
西田:まずは経営層に経営リーダーの育成の重要性を伝え、経営層から各部門に対してメッセージを発信してもらうことで理解を深めていきました。
参加者の意欲を保つという部分では、別の育成プログラムへの参加経験がある管理職層の方々にメンターとして壁打ち相手になってもらいました。1つ上の階層の先輩が抱えていた悩みを知ったり、リーダーの道を歩もうと決めた理由などを聞くことで、参加者の気持ちが高まったように思います。
楠原:「Make2030」を今後、どのように発展させていきたいとお考えでしょうか。
西田:実施して思ったのは、対話やディスカッションにおいて、「健全な意味でのコンフリクトは恐れるものではない」という認識をもっと広めたいということです。意見のぶつかり合いを楽しみながら、自身が本当にやりたいことを見出すフェーズに引き上げていきたいと考えています。
メンバーの中には、そもそも「自分がやりたいことに気づいていない人」もいると思うので、その想いを発掘し、それぞれの場で輝ける人材を増やしていきたいですね。
「ベンチャー留学」がもたらしたもの
社員が「自ら動いていいんだ」と変わった
楠原:ここからは、技術・事業開発本部が導入いただいている「レンタル移籍」のお取り組みについて改めて伺えますか。
大山:ローンディールさんが展開しているレンタル移籍を導入し、「ベンチャー留学」という名称で実施しています。希望するメンバーに、半年間ベンチャーに行ってもらう制度で、これまで10人が参加しています。ちなみに、もともとは技術・事業開発本部内で実施していましたが、現在は全社のメンバーを対象に実施しています。
「ベンチャー留学」を経験することで、広い視野や想像力を獲得し、社内の組織や風土、価値観、仕組みに対して新しい価値を生み出し、自らアクションを起こせるイノベーション人材になってほしいと考えています。また、社外に出ることで事業の種を得ることも期待しています。
(ベンチャー留学)経験者の中には、自ら一歩踏み出す人も出てきており、実際、新しい事業の種が芽吹こうとしています。今後も次々と新しいイノベーションが生まれることを楽しみにしながら、制度を運営しています。
楠原:それは嬉しいですね。当初は技術・事業開発本部だけでの取り組みでしたが、全社での募集を始めたのはなぜなのでしょう。
大山:経験者を見ていると、事業創出に限らず、既存事業や組織運営に関わる知識やスキルも得て帰ってくることがわかりました。また、いままで一歩を踏み出せずにいた人たちが「自ら動いていいんだ」と気づき、変わった姿を見て、全社にこういう人材を増やすことが重要だと感じたからです。
最近は国内の関連工場からの応募もあり、多様なメンバーが「ベンチャー留学」を希望しています。
楠原:ちなみに、こうした取り組みを、人材開発部としてはどのように見ていますか。
西田:(ベンチャー留学経験者の)経験談を聞く機会があり、すごくいい取り組みだと思いましたね。入社当初に抱いていたやりたいことが、日々の業務に追われて忘れてしまいがちですが、「ベンチャー留学」はそのやりたいことを思い出し、可能性に挑戦できる場だと感じました。
また、ベンチャーの全体像を見ながらその中で自分の役割を見出し、やりがいを感じられるという、得難い経験を積めると感じています。
「越境思考」を持つ人同士がつながり
少しずつ社内の壁が取り払われていく
楠原:ここからは視聴者の皆さんからの質問に答えていただきましょう。「ベンチャー留学」に対して「留学者の能力判定はしましたか?」という質問が届いています。
大山:重視しているのは能力よりもコミュニケーションスキルです。ベンチャーに学びに行くので、人から指摘されたときに素直に対応できることが大切で、スキルを発揮するための留学ではないと考えています。
楠原:ちなみに、留学者を受け入れているベンチャーのリピート率は97.5%に上ります。あらゆる方面の業務で80点を出せる大企業の人材は、事業を立ち上げる段階のベンチャーにとっては貴重な戦力だからです。心配せずとも寄与できると思います。
続いての質問は、「『ベンチャー留学』で他社を知った人材が流出するのでは?」というものです。
大山:留学者全員が自社のいいところを再認識して帰ってきてくれるので、現状は流出したケースはありません。
楠原:自社のよさや可能性に気づき、エンゲージメントを高めて「帰ったら事業を起こしてみせる」と取り組む方がほとんどですよね。ローンディールで取っているデータでも、移籍(留学)から1年以内に退職した方は3.5%と、一般的な離職率より低いです。
大山:留学者は自社での新規事業立案を目指す方が多いですし、ビジネスの種を生み出す「創発活動」というプログラムをはじめ、社内にも新たな事業に取り組む部門や風土があるので、外に出ようと考えないのだと思います。
楠原:「創発活動」は魅力的な取り組みですよね。村田製作所さんから留学される方々は既存事業の組織に属する方が多いですが、皆さんイノベーター気質を持ちつつ、戻ってから既存事業で活躍されているのも特徴的ですよね。
続いては、「役員層に越境学習の重要性を実感してもらえない。どう説得したらいいのか」という質問です。
大山:当社の役員はむしろ「ベンチャー魂を発揮しよう」と発信していて、外を見ることが大切というベースができていたので、導入しやすかったのだと思います。
楠原:ここでつまずく会社もありますが、どの会社にも越境経験がある役員はいるものです。海外事業を立ち上げた、子会社を設立したといった経験も越境になるので、役員の経歴を見て越境経験がありそうな人に話し、ムーブメントを大きくしていくというやり方もありますよね。
最後の質問になります。「施策を実施したことで、社内の壁を取り払うことにつながりましたか?」という質問にもお答えいただけますか。
西田:「Make2030」に参加したメンバー同士やメンターとのつながりが生まれ、新たなチャレンジをしたり、一緒に活動を始めたりといった派生した関係ができつつあると感じています。
大山:他組織の人の顔を知ることが増え、部門を超えたつながりが生まれ始めていると思います。部門を超えた有志団体が発足するなど、確実に広がっていますね。
楠原:越境経験者同士って自然とつながり、関わり合いますよね。社内のハブとなる人がさらに増えていくと、徐々に組織の壁も溶けていくのだと思いますし、越境経験に期待するところですね。西田さん、大山さん、本日はありがとうございました!
Fin