「会社という枠を超えたチャレンジ」 株式会社リコー 萩田健太郎さん × 株式会社NTTドコモ 泰松遼さん
2020年6月までの半年間、「レンタル移籍」を通じ、株式会社チカクで働いていた、リコーの萩田健太郎(はぎた・けんたろう)さん。そんな萩田さんは現在、イノベーション本部で、新規事業のための研究開発を担当しながら、カタリストとしても活動しています。カタリストは、リコーが開催するアクセラレータープログラム「TRIBUS(トライバス)」において、選出されたプロジェクトのいずれかを担当し、実現化に向けて伴走します。
そんな萩田さんが伴走しているのは、コミュニケーションロボット「unibo(ユニボ)」を展開する、ユニロボット株式会社。プロジェクトの立案者は、2021年3月まで同社にレンタル移籍をしていた、NTTドコモの泰松遼(やすまつ・りょう)さん(※ 4月現在はNTTドコモに帰任)。
2人は大企業側の元移籍者と、ベンチャー側の現役移籍者という関係で、この3月まで、ひとつのプロジェクトの実現を目指してきました。そこには、大企業とベンチャー、両方を経験しているからこその取り組みも。
2020年10月から約半年間に及ぶ2人の活動を伺いました。
(※ 本記事は、2020年3月のインタビューをもとにしています)
ベンチャーの立場がわかる
2人の大企業人材
—萩田さんが、TRIBUSのカタリストとしてユニロボット社のプロジェクトを担当することになったのは、移籍者仲間の泰松さんがいらっしゃったからなのでしょうか?
萩田:そうです。泰松さんとは、元々つながっていたわけではなくて、移籍者のコミュニティでお名前を知っていたくらいでした。たまたまリコーの同期移籍者が、「泰松さんが(TRIBUS)に参加してる」って見つけてくれて。それで、担当したいと名乗りをあげました。挙手制で伴走するプロジェクトを選べるので。
泰松:TRIBUSにエントリーしたあと、15チームが選出されて、そこにユニロボット社も選ばれて。そうするとリコーのカタリストの方がついてくださるのですが、萩田さんとはそこからご一緒していただいてます。
ー萩田さんはTRIBUSのようなアクセラレーターに関わるのは初めてだということですが、プロジェクトの伴走者となってみて、いかがですか?
萩田:大変なこともありますけど、基本、楽しいですよ。僕は、レンタル移籍の経験を活かして、この先、社内起業したいって思っているんですね。でも、リコーでは研究開発しか経験がないので、営業チームの動きとかマーケティングとか、全然わからない。それを知らずして事業化できないよなって。なので、こうしたプログラムに参加することで、いろんな人の考えが知れたり、出会いもあって、得るものも大きいです。アクセラレーターをいくつも経験されている泰松さんから教えていただくことも多いですし。
泰松:そんなことないです(笑)。でも、ユニロボットに移籍してから、TRIBUS以外にも、3つくらい、選抜されて進行しているプロジェクトがありますね。ユニロボット社では、お客さんと一緒にユニボをソリューションにしていこうという、協業の動きがメインなので、大企業と協業検討できるアクセラレーターは貴重な機会です。
写真左:NTTドコモ 泰松さん / 右:リコー 萩田さん
ーなるほど。ちなみに、具体的にはどのようにプロジェクトを進めていらっしゃるのでしょうか?
泰松:プロジェクトの募集時に「はたらく人の創造力を支え、ワークプレイスを変えるサービスの提供」というテーマが設けられていたんですね。その上でユニロボットでできるソリューションを提案しているので、すでにベースはあって。カタリストをはじめとするリコーのみなさんと、「それを実現するためには、具体的にどうしていこうか」という話し合いをしています。
萩田:僕以外にも何名かのカタリストと事務局メンバーなどがジョインして進めている感じです。僕の動きとしては「(リコー内の)この部署とつないだら何か展開できるんじゃないか」とか、一緒に取り組める可能性のあるチームを探したり、紹介したり、その先を一緒に考えたり、そういうことをしています。
泰松:萩田さんが「こういうチームがあるよ」とか、「このテーマならこういう事業があるよ」とか、いろいろ教えてくださっています。萩田さんがすごいなって思うのは、ただ部署に繋いでくれるだけじゃなくて、「この部署に提案するなら、この切り口がいいと思う」と一緒になって企画してくれるところです。調整のハードルが高そうでも、「僕から言ってみます」と切り開いてくれもしました。とっても頼りになりました。
萩田:めちゃくちゃいいこと言ってくれてますね(笑)。ただ、泰松さんの方から、「いつまでにこうしたい」ってしっかり提示してくれていたので、他のカタリスト達も「動かなきゃ」って意識を持って行動できたのだと思います。
それから、たぶん僕は、泰松さんのいるベンチャーの立場で物事を考えているのかもしれない。当然ですが、ベンチャーの動きとリコーの動きがかなり異なるので、できるだけ泰松さんが求めているであろうスピード感でこの活動を進められるように考えています。あとは絶対成果を出したいって思っているだろうなって(笑)。チカクにいたあの頃を思い出しながらやっています。
「新事業をつくっていこう」
熱量高いチーム
—萩田さんはベンチャーで得た視点を持ってアクティブに動かれているようですね。苦戦したことはありませんでしたか?
萩田:ありましたよ(笑)。リコー内のことがわからなすぎて。社内でコネクションをつくるのが大変でした。営業チームに「商材としてユニボ(ユニロボット社のコミュニケーションロボット)を取り扱える可能性があるか」、その辺りを聞きたかったものの、誰に聞いたらいいのか全然わからなくて。なので、他のカタリストの方に聞いたり、紹介してもらったり。そんなところから地道に動いていました。ただ、みなさん本業があって忙しいので、すぐに話が進むかというとそうでもなくて。面白そうって思ってもらって、一緒に取り組めそうな人を探すのは苦労しましたね。
ー具体的に動けそうな部門は見つかったのでしょうか?
萩田:そうですね。ヒアリングをする中で、あるアプリを販売している営業チームが、ちょうど、ロボティクス系の商材を扱いたいっていう需要を持っていたことがわかったんです。そこで「どういう領域でどういう使い方が可能か」、そのあたりを一緒に考えて動いてもらっています。実際にお客さんにヒアリングしてみるなども行っていて、座組を考えるところまでもっていきたいですね。
ー泰松さんは苦労された点はありましたか?
泰松:必ずしもカタリストのみなさんの部門と協業検討できるわけではないので、周りも巻き込みながら、調整していただくのが大変でした。ただ、その壁をこえる熱量でカタリストの方がコミットしてくださっている。「新事業をつくっていこう」という強い意思を感じましたし、行動してくださっていました。本当に、いいチームで進められています。
萩田:モチベーションはみんな高いと思います。僕の場合は、泰松さんとの取り組みを形にしたいっていうのはもちろんありますが、プロジェクトを通して世界が広がるというか、新しい可能性に出会える、そういうのも嬉しいですね。
ー切磋琢磨しながらも新たな可能性を楽しんでいらっしゃるわけですね。ちなみに萩田さんは戻ってから9ヶ月程度経ってますが、ベンチャーでの経験は本業でも活きているのでしょうか?
萩田:めちゃめちゃ活きていますよ。今は新たな研究開発の部門にいて、自由にやらせてもらっています。法的な部分でペンディングになってしまったのですが、実は、戻ってきてから、新たなお弁当サービスを立案しました。
「自分たちのこういう技術があるからそれを使ってサービスを考えよう」みたいな考え方はあまりしたくなくて、身近な課題と趣味の料理からビジネス提案してみようって。ユーザーヒアリングして、小さなMVP(Minimum Viable Product:実用最小限の製品)を回すところまでやってみました。そういう検証実験のフェーズまでできたのも、チカクで徹底的にユーザーファーストの考え方と、リーンスタートアップのやり方を学ばせてもらったからです。
泰松:そうやって実践できているのは、すごいですよね。
会社という枠を超えて
ーそういう泰松さんも、ドコモに戻って、新規事業を考えていらっしゃるとか?
泰松:そうですね。もともと、ソリューションアドバイザーという営業職だったんですが、一方で事業創造にも関わっていました。世の中にまだ実装されていないドコモの新しい技術と、お客様のアセットを組み合わせて、見守りロボットやバトミントンのVRゲームとかをつくっていました。なので、そうしたこれまでのキャリアとユニロボットでの経験を活かして、戻ってからは、エンタメ系の新規事業をやりたいと考えています。
ーこうしたアクセラレーターの活動もそうですが、ユニロボット社での経験も今後に活きそうでしょうか?
泰松:もちろん。話しきれないくらいありますが、ロボットソリューションをつくる現場を見られたのは、本当に良い機会だったなぁと思います。どのようなプロセスがあるのか、どのようにしてソリューションをつくっていくのか、それを間近で見られたのは良かったですね。
今回のリコーさんとユニボの提携も、今の立場で関わり続けることはできないのですが、何かドコモの立場からご一緒できることはあるかもしれないと考えています。
萩田:ここまで一緒にやってきたので、ぜひご一緒したいですね。僕としては、この先、単にユニボをリコーで取り扱うだけではなくて、リコーの技術とユニロボットさんの技術を組み合わせて一緒にサービス開発をする、みたいなところまで発展できたらいいなって思っています。それに、本業で取り扱っている研究テーマにおいても、実は今後、ロボティクスの分野と連動できそうなこともあるんです。そこも探っていけたら。
ー様々な可能性がありそうですね。
萩田:そうですね、僕はとりあえず、リコーで子会社化できるくらいの事業を一つ創るところまでやっていきたいと思っています。それも今あるテーマを育てるのではなく、新たなテーマで考えてみたい。リコー内で完結するのではなく、出資を募ったり、買収も視野に入れたりしながら、取り組んでいきたいですね。
泰松:僕も会社という枠を超えた活動をしていければと考えています。今、社内の有志活動で、コミュニティ運営をしています。たとえば、リコーさんとドコモでコミュニティをつくって事業創造の機会を設けたり、萩田さんや僕はベンチャーで新規事業をやってきたので、そのやり方をシェアしながらみんなで事業開発したり、そういうこともできたら。ということで、萩田さん、これからもよろしくお願いします(笑)。
萩田:こちらこそ!
to be continued…
▼ 関連記事
【レンタル移籍とは?】
大手企業の社員が、一定期間ベンチャー企業で事業開発などの取り組みを行う、株式会社ローンディールが提供するプログラム。ベンチャー企業の現場で新しい価値を創りだす実践的な経験を通じて、イノベーションを起こせる人材・組織に変革を起こせる次世代リーダーを育成することを目的に行われている。2015年のサービス開始以降、計47社 134名のレンタル移籍が行なわれている(※2021年4月1日実績)。→詳しくはこちら
協力:株式会社NTTドコモ / 株式会社リコー / ユニロボット株式会社
文:小林こず恵
写真:宮本七生
提供:株式会社ローンディール
https://loandeal.jp/