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京セラが考える、これからの研究開発者の育成に大事なこと。キーワードは「社員のワクワクと越境機会!?」

電子部品やファインセラミックスの製造をはじめ、多彩な事業を展開する京セラでは、人材育成制度を積極的に導入しています。中でも、あらゆる事業の根幹となる研究開発本部では、メンバーのキャリアプランを支援する取り組みを始めるなど、研究開発者の育成に意欲的です。執行役員であり、研究開発本部長の仲川彰一(なかがわ・しょういち)さんは、「メンバーのみんなにはワクワク楽しく仕事をしてほしい」という思いから、キャリアプランをマネジメント層と一緒に考える取り組みや、越境機会の提供などを行っています。
そこで今回、研究開発本部を率いる仲川さん、そして同部門からベンチャー企業へレンタル移籍した越境経験者・古見健太(ふるみ・けんた)さんに、これからの研究開発者のキャリアに必要なことについてお話を伺いました。「多様な経験を積む大切さ」を実感しているお二人だからこその展望とは?


「キャリアプランの明確化」が仕事のモチベーションを生む


――まずは、おふたりの経歴から教えていただけますか?

仲川:私は1988年に京セラに入社し、最初は鹿児島の総合研究所(現・ものづくり研究所)に配属されました。社内にシミュレーション技術を普及させる仕事から始まり、セラミックスや燃料電池の開発にも参画しました。その後、2年間事業部で燃料電池の製造も経験した後、総合研究所の所長を任せていただき、マネジメントする側に立って、現在に至ります。

古見:私は2012年の入社から約8年間、生産技術開発部に所属し、事業部を横断した技術の開発に取り組んできました。2020年に経験したレンタル移籍を機に、研究企画部に異動し、研究開発戦略の立案に関わっています。最近は、京セラが注力する重点市場について市場情報を収集・分析し、将来どのような事業を展開すべきか、研究開発を行うべきかについて検討する業務がメインです。

――京セラ全体における人材育成とは別に、研究開発本部でも独自の人材育成をされていると伺いました。仲川さんが主導で進められているのですか?

仲川:はい。研究開発本部全体のマネジメントに携わる中で、人材をいかに育てるかが重要だと感じ、積極的に取り組んでいます。私が新人の頃は先輩の背中を見て成長していくものでしたが、今はある程度育てる仕組みをつくらないと、難しいのかなと感じています。

当社のフィロソフィの1つに「仕事を好きになる」というものがあります。与えられた仕事を好きになるくらい、打ち込むことが大事だということです。ただ、現場を見渡すと、そうではない人も多く、「仕事に対してワクワクしていないのでは」と感じました。人は勝手に育つものだと思っていたのですが、育てようとしないと育たないんですよね。

メンバーに「今後どうなりたいの?」と聞いても、答えが返ってくる人はほとんどいませんでした。だから、まずは各々のキャリアプランを明確にする支援から始めようと思い、2023年度から試験的に取り組みを開始しました。

Profile 仲川 彰一さん
1988年京セラ(株)に入社。総合研究所(現・ものづくり研究所)に所属し、シミュレーション技術の普及と開発、セラミックスの衝撃破壊の研究、車載用セラミック基板の開発などに従事。2011年よりSOFC形燃料電池の開発に取り組み、2014年より事業部にて事業化に携わる。2016年、総合研究所、2019年先進マテリアルデバイス研究所、2021年4月より研究開発本部を担当し、現在に至る。

――キャリアや目標を明確にすることで、仕事へのモチベーションや成長につながるということでしょうか?

仲川:そう思っています。私自身、入社した際に「いつ頃までにどうなっていたいか」と考える機会がありました。将来像が明確だとするべきことが見えて、自然と行動が変わり、モチベーションも上がります。言われたことをやることも大切ですが、目指したい姿を目標に設定することで、人生をもっと豊かにできるはず。我々マネジメントサイドも個々の目標を理解していれば、それに応じたサポートができますしね。

マネジメント側が「視野を広げるサポート」をしていく


――キャリアプランの支援をもう少し詳しく教えていただけますか。

仲川:入社から数年経ったタイミングで、自身のキャリアプランを決めてもらうという取り組みです。ただ各々に決めてもらうだけでなく、マネジメントサイドがレビューさせてもらい、メンバー本人や部門の上長にヒアリングして、どのような方向に進んでいくか一緒に決めていくのがポイントです。

現場でばりばり研究し続ける道もあれば、ある程度経験を積んだ段階で事業部に移る道もあると思います。例えば、いずれ人材育成に携わりたいと考えている研究開発者がいたら、現在の業務と平行してリスキリングプログラムを受け、マネジメントや育成のスキルを身につけ、スムーズに移行できるようにするという計画を立てられますよね。

――研究開発以外の部門でキャリアを積んでみたいと考えている人には、古見さんが経験されたレンタル移籍などの越境学習はマッチしそうですね。

仲川:まさにそうですね。

古見:私自身、レンタル移籍を経験した当時、社内での異動も考えたのですが、もっと変化の大きな環境を経験してみたいという想いから、ベンチャー企業への移籍を決断しました。戻ってきてからは現在の研究企画部に異動しましたが、移籍した1年間で新たな環境に飛び込む経験を積めたことで、京セラ帰任後もスムーズに動けていると感じています。

Profile 古見 健太さん
2012年京セラ(株)に入社。生産技術開発部に所属し、セラミック製品の生産プロセス開発や新製品開発などに従事。2020年、レンタル移籍制度を用いてFinTech系ベンチャー企業の(株)400Fに1年間移籍し、WEBマーケティングを中心とした自社サービスへの集客などに携わる。2021年、京セラ帰任と同時に研究企画部に異動し、中長期での新規事業創出に向けた研究開発戦略の立案などを担当。現在に至る。

――古見さんの移籍先は、お金の悩みを抱えるユーザーとお金の専門家をマッチングするWEBサービス「オカネコ」を運営する株式会社400Fでしたよね。

古見:はい。いわゆるフィンテック企業で、マーケティングを担当しました。京セラでは金融もマーケティングも触れたことがなく、研究開発とはまったく違う畑だったので、考える前に動くしかないという状態でしたね。

仲川:古見さんみたいな体験をしていると、ものの見方が変わるので、さまざまなことを経験するって大事ですよね。

実際、研究開発本部のメンバーにキャリアプランを提出してもらったのですが、3分の1くらいは研究開発以外の分野に興味を持っているということがわかりました。なので、研究開発以外の道も考えている人には、我々マネジメント側も視野を広げるサポートをしていくつもりです。

人生は一度きりですから、早いうちに自分の理想のキャリアに気づいて、そのための機会を多く持つことが大切になる。入社2年目くらいでキャリアプランを立てて、30歳、40歳、50歳といった節目も決めてもらい、そのタイミングでヒアリングするといったサイクルが回っていくといいのかなと。もちろん、その都度キャリアプランは変わっていってもいいと思っています。

外の世界に飛び込むことで見つかる「新たな視点」


――自ら描いたキャリアを会社がフォローしてくれると、意欲的に働きやすくなりますね。

仲川:自部門の外に出てみる経験は重要です。研究開発本部は事業部と一緒に仕事をすることも多いので、かつての私は事業部の仕事をわかっているつもりになっていました。しかし、実際に事業部に移り、自分で製造して利益を出す経験をすると想像と違うことを思い知らされました。外に出てから研究開発に戻ると、ものの見え方が変わりました。

もちろん社内の越境だけでなく、レンタル移籍などでスタートアップに行く、グローバルリサーチャーの制度で海外に行くといった選択肢もありますよね。スタートアップのような事業に近い現場に行くことで当社のフィロソフィを体感できると思うんです。私も事業部で赤字続きだったとき、フィロソフィに救われました。

――外を見ることが、自社を見つめ直すことにもつながるんですね。古見さんは、レンタル移籍を経験して見えたものはありましたか?

古見:移籍当初は慣れない環境で、カルチャーショックが多くありました。ただ、スタートアップの雰囲気を体感した経験が、今になって活きていると思います。

――どのような経験が活きたのでしょうか?

古見:当時、移籍先の副社長とメンバーと3人でチームを組んでいたのですが、自分から情報を収集しないと進まない場面がありました。そのため、途中からは、自ら情報を収集し、積極的に仕事に参画することを心掛けるようになりました。京セラに戻ってからも、自分の業務に必要となる情報は自ら動いて取りに行くことの大切さを実感しました。

仲川:自分事としてとらえられるようになった、ということかな。うまくいかない理由を外に求めてしまうと、成長も改善もしないですよね。

古見:そうですね。もし外に出ることなく、ずっと京セラに居続けていたら、上司に文句だけ言って、自分が動くというアクションにはつながらなかった可能性もあります。

――重要な気づきですね。

仲川:環境を変えようと思うと、相当のエネルギーが必要ですよね。越境に挑戦する人はそれだけの覚悟を持っているので、できる限り我々も背中を押してあげたいですね。

古見:私の移籍先はまったく違う業界のスタートアップで不安もありましたが、温かく受け入れてくださったので、無事に馴染めました。あまり怖がらずに外に出ることが大切だと思います。

これからの人材に必要なものは「感度の高いアンテナ」


――改めて、これからの研究開発者の方々には、どのようなスキルやマインドが必要だとお考えですか?

仲川:一番は、アンテナの感度と広さを高めることです。社会課題を捉えて新しいことを始めるには、さまざまなものを組み合わせる必要があると思います。そのためにも、いろいろなことに興味を持って触れていかないと、発想は増えていきません。だから、アンテナの感度を上げて、外に出るチャンスも活かしてほしいですね。

我々としても、メンバーがしっかり育っていかないと成長は見込めないので、人材育成にしっかり取り組んでいきたいです。1回きりの人生なので、メンバーのみんなにもワクワク楽しく仕事をしてほしいですし。

――ちなみに、古見さんはキャリアプランをどのように描いていますか?

古見:スタートアップで多少なりとも経営視点を経験した身として、京セラでも経営に関わってみたいと思っています。技術を極めるよりも、市場や顧客を見ながら、価値あるものを提供する仕事がしたいという気持ちのほうが強いですね。

仲川:研究開発本部をどうしていくか、という現在の仕事も、経営に近いものがあるよね。研究開発投資に見合ったアウトプットを出すだけでなく、メンバーのやりがいにもつながる組織に変えていくのは、不確実性が多すぎて、生産計画より難しい(笑)。

古見:あえて難しい方向にチャレンジしている感覚はあります(苦笑)。スタートアップで、自分と同世代の方々が経営視点を持って頑張っている姿を見て、感化された部分も大きいです。20代でも社会や市場を見ながら、やりたいこととやるべきことを明確にしている人がいて、すごいなって。

仲川:まさに見え方が変わる経験だよね。これからを担う世代なので、どんどんレベルを上げていってくれることを期待しています。

古見:先輩方が培ったものを吸収し、さらにアップデートするというサイクルを繰り返していけるよう、頑張ります。


「研究開発者のキャリアプランの支援」という取り組みをスタートした京セラ研究開発本部。目指す先を明確にすることで、必要なスキルや経験が可視化され、これから何を行っていけばいいかが見えてくる。そして、成長の手段のひとつとして、レンタル移籍をはじめとした越境学習がある。会社のサポートを受けながらそのステップを踏んでいくと、メンバーも自身のキャリアに対してポジティブになれるでしょう。今回の取り組みは、人材育成のロールモデルのひとつとなりそうです。

Fin

▼ 参考(古見さんの移籍中の記事)
「初めてのマーケティングで知った“ユーザー目線”の重要性」

協力:京セラ株式会社
インタビュアー:有竹亮介(verb)
撮影:宮本七生
提供:株式会社ローンディール
https://loandeal.jp/

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