【ダイジェスト版】 人事のプロフェッショナル海老原さんと考える 『2031年、企業人事はいかに戦うべきか』
社会の変化がますます加速していく中、10年後の2031年、企業の人事が取るべき戦略や果たすべき役割はどう変わっていくのでしょうか。
労働人口の減少、テクノロジーの進化など、労働環境は劇的な変化の過程にあります。さらに、大企業においては、グローバルな環境下での競争、環境問題等の社会課題への対応、多様な人材マネジメントの必要性等、多くの課題が山積しています。ローンディールは「レンタル移籍」を通じて、劇的に変化していく状況の中で、「未来思考で組織・人材の成長を目指す中長期的視点」と「目前の成果・利益を優先する短期的視点」をどのように両立すべきか、その狭間で起こる”人事の葛藤”を目の当たりにしてきました。
そこで今回、人事のプロフェッショナルである海老原さんをお招きし、オンラインイベントを開催。「10年後の企業人事」をテーマにお話しいただきました。その一部をダイジェストでお届けします。
ー少子化でもホワイトカラーは減らない
海老原:今日は、”間違いなくこの10年で変わる構造”についてだけお話ししますが、その前にみなさんにお伝えしたいのは、とにかく社会の動きをよく見てほしいということ。
たとえば、今から約10年前、グローバリゼーションがテーマになりましたね。当時を振り返って、それがなぜだったかわかりますか。2010年に1ドル80円台の円高水準となったことで、企業は外に行きやすくなったわけです。そうした”外部環境”の影響を受けて、グローバリゼーションがトレンドとなった。
つまり、社会の動きに連動して人事は変わっていくということです。
それをまずは念頭においていただきたい。
それから、基礎条件も理解しておく必要があるでしょう。
「いい人材が足りない」という声を良く耳にしますが、
ホワイトカラーの供給は減っていない。
むしろこれから増えていきます。
今後絶望的なまでに枯渇していくのは、いわゆる現場の戦力人材である非ホワイトワーカーです。
大卒者を見てください。30年前に比べて20万人も増加している。ホワイトカラー予備軍は少子高齢化でも減っていないんです。少子高齢化イコール人材不足と考えてはいけません。
※ イベント時の資料より抜粋
ー人材不足は男型社会の問題!?
女性活躍が会社を救う
もしも「いい人材が足りない」というような声があがっているとしたら、その企業はまだまだ「男型社会」である可能性が高いですね。女性を活用できる仕組みにする必要があるでしょう。
大企業がこの30年間でどう変わったのかというと、当時は、30代前半の女性は全体の5%しかいなかった。総合職でいえば1%を切るくらい。でも今は30代になっても3割も会社に残っているわけだから、管理職の3割が女性になるというのは当たり前の話ですよね。結婚しても約80%は残り、子どもができても約70%はやめていないという事実がある。こんなに構造が変わっているのに男型社会だったら、人が足りなくなるのは当然です。これについていけない企業は、それこそ少子高齢化の波に飲まれて、人手不足になるでしょう。
つまりは、「男女共同参画体制が整っていれば、ホワイトカラー領域では、人材の量も質も不足は起きない」ということ。ダイバーシティ、女性活躍って言われている背景は、社会シフトであることに気付いてほしい。男型社会から男女共同参画へ脱皮できた企業が勝つということです。
※ イベント時の資料より抜粋
ー非ホワイトカラーの枯渇
このように、ホワイトカラー領域は女性活躍でなんとかできる部分もあるでしょう。一方、非ホワイトカラーはそうした策がない。
先ほど大卒が増えているという話をしましたが、高卒はどうかというと、当時100万人だったのが今では20万人を切るかどうか、かつての5分の1ですよ。非ホワイトカラーは絶望的な状況です。でも多くの人は絶望感を持っておらず、乗り切れると思っている。
というのも、これまでは「衰退産業」から人が出てきたり、主婦・高齢者・学生など、今まで労働力ではなかった人たちの力でなんとかなったわけです。
ですが、衰退産業からの流出はもう行き着くところまで来てしまっていますし、先ほど申した通り、女性は出産しても休業を取って働き続けるので主婦のパート雇用は減少するでしょう。いわゆる「M字カーブ」の凹みがなくなっている。
それから、高齢者の労働力に期待しようと思っても、期待できるのは主には75歳未満の前期高齢者の話。一方、今後の日本は、前期高齢者は減り、75歳以上の後期高齢者が増えていく。つまり、これ以上のフォローは期待できないわけです。
ですので、これまで主婦や高齢者のパートで補っていた販売サービス領域などにおいては、特に人材不足が進み、業務効率化が重要になるでしょう。
ー加速する「RPA」で変わる職業観
そこで、これからの10年で期待されるのが「RPA」です。事業プロセスを自動化する技術であるRPAが、非ホワイトカラー補充策として活躍するでしょう。
RPAによって素人がプロ並みのパフォーマンスを出せるようになったりする。
たとえばコールセンター業務に取り入れることで、経験に関係なく、誰でも今の数倍のパフォーマンスが発揮できたり、果樹農家でいえば、プロじゃないと収穫が判断できないとされていたものが、RPAによって誰でもできるようになるわけです。
※ イベント時の資料より抜粋
つまり、生産性の向上と熟練の壁の崩壊が起こり、人材が多様に活躍できる。これまでの、「一人前になるのに10年かかる、だから他の職業ができない」という状況から、
「どこでもいつからでも苦なく働ける社会」になる。
難しい仕事はAIが考えてくれて誰でもプロになれる。
なので、先ほど、非ホワイトカラー補充策と言いましたが、ホワイトカラーの仕事であっても、努力せず淡々と仕事をしているようでは、AI代替が容易になって、仕事がなくなる可能性が高いでしょう。これがRPAによる労働変化です。
苦なく成長できてしまうから、働くってなんだろうってなる。「職業感」も崩壊していく。誰でもどこでも働くことができ、すぐに熟練になれるということは、嫌ならすぐにやめられる。
要するに、
「何になりたいか?」ではなく、
「何をやりたいか?」 が大事になってくる。
総合職で長く勤め上げるよりもそういうキャリアの方がいいと言う人が増えるかもしれません。
そうやってドライに働くのか、ロマンチックの方向で働くのか、二極化するのでは。
それから、これまで価値が高いと見られてきた職業の価値も崩壊するでしょうね。「この職業は価値が高くて、この職業は価値が低い」という、一般的にタテの構造で見られていた職業の価値が、ヨコの価値観に変わっていく。
この10年でどう変わるか、面白みのひとつかもしれません。
最後にもうひとつ大事なことをお伝えすると、日本は活用がうまいから、RPAが加速すれば、いろんな展開が期待できるでしょう。でも、RPAによって「キャリアがこう変わって、人材がこう変わって、社会がこのようにシフトしていく」という社会観をしっかり持って取り組まないと、世界に広がらない。
ぜひとも大企業で働くみなさんには、RPAを広げていくにあたり、社会観・世界観を持って取り組んでいただきたいですね。
ー「複雑なものを解いていく力」が必要
最後に、この日のモデレーターである原田(ローンディール代表)からの質問を一部抜粋。
原田:会場からこのような質問が来ています。「RPAによって就業感が変わっていく中で、どこまで人材育成の投資をしていっていいのか、疑問を感じます。また、ホワイトカラーにどこまで影響があるのでしょうか」とのことですが、いかがでしょうか?
ローンディール代表・原田未来
海老原:まず、ホワイトカラーでもPRA・AI化は進むと思います。AIに任せておけばいいっていう生き方の人もたくさん出てくると思います。ただ、「AIでは嫌だ、もっと上に行きたい」という人をしっかり育てた方がいいでしょう。ある程度のことは誰でもできちゃうので、上位層はさらにレベルをあげていかないといけない。
RPA・AIが進めば進むほど、上流はもっとハードな研鑽が必要になるし、これからの時代、問題はどんどん複雑になってくる。なので、そうした複雑なものをどう解いていくかを練習する必要がある。それには、やったことのない、知らない世界に行って働くという、レンタル移籍はちょうどいいんじゃないですか。
海老原嗣生氏
原田:そうした「複雑性を乗り越える力」が必要となる機会が増えてくるということでしょうか。
海老原:RPAが浸透したら、RPAを束ねる組織というのはさらに複雑性が増すと思います。すぐ辞めちゃう人がいたり、多様な価値観で働く人が増える中で、そういう人たちを管理するのに必要になるでしょう。
ちなみに欧米は、エリートになるにはタフアサインメントが必須で、かなり大変な仕事をわざわざやらせるわけです。だからレンタル移籍も、20代後半の若い頃から抜き出ている人材とか、30代前半のそうした予備軍のタフアサインメント経験として使ってもいいんじゃないですか。取引先や出向先の関係性とか、偉いとか偉くないとか関係ない中での経験は、いい試練になる。
原田:大企業の評価軸とベンチャーで活躍できる軸は違うので、そうした環境下で仕事ができるというのも良い試練になるということですね。
海老原:なると思いますよ。弛んでいる人や、今のままでいいんだって思っている人にとって、”いいショック”になるでしょう。
原田:ありがとうございました。
Fin
プロフィール
海老原 嗣生
サッチモ代表取締役、厚労省労働政策審議会人材開発分科会委員、大正大学特命教授、中央大学大学院戦略経営研究科客員教授
1964年東京生まれ。大手メーカーを経て、リクルートエイブリック(現リクルートキャリア)入社。新規事業の企画・推進、人事制度設計等に携わる。その後、リクルートワークス研究所にて雑誌「Works」編集長を務め、2008年にHRコンサルティング会社ニッチモを立ち上げる。『エンゼルバンク-ドラゴン桜外伝-」(「モーニング」連載、テレビ朝日系でドラマ化)の主人公、海老沢康生のモデルでもある。人材・経営誌「HRmics」編集長、リクルートキャリアフェロー(特別研究員)。『AIで仕事がなくなる論のウソ』(イーストプレス)、『人事の成り立ち』(白桃書房)、『人事の組み立て~脱日本型雇用のトリセツ~』(日経BP)等、書籍多数。
【ローンディールイベント情報】
◉ 11/11開催「レンタル移籍から戻って何してる?新規事業、マネジメント・組織改革をリードする3名の”今”」
◉ 11/16「会社を辞めずに『好きなこと』でムーブメントをつくるには?|サウナキャンプ主催:大西洋さん」
◉ 11月&12月開催「あなたは、仕事や人生において何をしたい人なのですか?」 自分自身のWILLを発掘するワークショップ
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レポート:小林こず恵
提供:株式会社ローンディール
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