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「なぜ、経済産業省は越境学習を推奨するのか」 -経済産業省×ローンディール- オンラインイベントレポート

経済産業省では、大企業人材による新規事業創出のため、令和元年度の補正予算において、大企業人材の「越境」を後押しするプロジェクトを推進しています。本プロジェクトを担当されている、経済産業省 迫田章平さんをお招きし、ローンディール代表・原田とともに、「なぜ、経済産業省は越境学習を推奨するのか」をテーマにオンラインセミナーを開催しました。
本プロジェクトの背景や越境学習を推進するねらいについて一部を要約してお届けします。

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(写真左上:ファシリテーター・ローンディール・及川、右上:経済産業省 迫田氏、中央下:ローンディール代表・原田)

ゲスト:迫田章平さん【略歴】
経済産業省 経済産業政策局 産業創造課総括補佐(2008年経済産業省入省)
これまでエネルギー政策、ソーシャルビジネス振興、中長期の経済産業政策の検討などに携わる。2014年には、原子力損害賠償・廃炉等支援機構に出向し、東京電力内における新規ビジネス創出の現場を経験。
2017年より現職。イノベーションの源は多様性であり、「人材の多様性」とは「個人の中に多様性を持つこと」が重要であると信じ、越境学習の促進をテーマの1つに取り組んでいる。


ー経済産業省が “大企業の新規事業創出”を推進する理由

経済産業省では、令和元年度補正予算事業として、大企業人材の「越境」推進に取り組まれていますが、その背景やねらいについて伺いました。

迫田さん(以下、迫田):経済産業省には、大企業の経営資源を活用した新規事業をどんどん生み出していきたいという思いがあります。そこには、3つの前提があり、一つ目は、大企業の中に経営資源があるということ。二つ目は、一社一社でやるよりも、複数の大企業の経営資源を組み合わせた方が、より新しく大きくなことができるのではないかということ。三つ目は、新規事業の主体は、大企業自らでなくても良いと思っていて、JV(ジョイントベンチャー)と組んだり、スタートアップの器を使うという手もあるのかなと思っています。

まずは昨今のデータを元にご説明します。
この資料は、少し古いものになってしまいますが、5年前(2014年)のデータです。円グラフを見ると、日本では、ヒト・モノ・カネといった経営資源が大企業に集まっていることがわかります。

【概要】大企業人材新規事業創造推進事業(令和元年度補正予算事業2


次に、OECD(経済協力開発機構)の調査になりますが、新製品・新サービスを投入した企業の割合について、欧米の半分というデータがあり、新しいことにチャレンジできていないのではないかなということが、見て取れます。

【概要】大企業人材新規事業創造推進事業(令和元年度補正予算事業3


では、大企業は社外から新規事業を取り入れているのか? というと、大企業がベンチャー企業をM&Aを行った数についても欧米に比べると極端に少なくなっています。 

【概要】大企業人材新規事業創造推進事業(令和元年度補正予算事業5


大企業において既存事業と新規事業を行うという、いわゆる“両利きの経営”では、事業の軸や価値観が違う。そんな中で、バランスをとることが非常に難しいことが想定されます。この点については、実感されている方も多いのではないでしょうか。

【概要】大企業人材新規事業創造推進事業(令和元年度補正予算事業6

ーなぜ、「越境学習」なのか?

こういった状況の中で、新しい事業を生み出すためには、やはり「ヒト」「人材」が鍵になると考えています。では、なぜ越境学習なのか?というと、新規事業創造のためには、“多様性”が必要で、多様性をどのように育むかが課題だと感じているからです。

多様性=ダイバーシティというと、今までは、女性の割合や、外国人がいるかいないか? など、比率や属性で語られてきたかと思いますが、個人の中に“多様な価値観”があることこそが大事なのではないかと思っています。

新規事業とは、“新しい価値”を生むこと

新規事業には、新しい価値を生む土壌が必要

新規事業には、“多様な価値”を許容する環境が必要

新規事業には“多様性”が大事

ー”多様性”をアップデートせよ

そこで、個人の中の“多様性が大事”という視点に立つと、これまでの画一的な社内研修には限界があり、ひとりひとりが外の世界に飛び込んでいく“越境学習”こそが1つの解決策になるのではないかと考えました。

越境学習の目的が、新規事業創出であるならば、新規事業をやっている人のところへ行くのが一番良いのではないか。スタートアップへ行くのが一番の近道ではないかと思っています。

実際、経済産業省の若手もスタートアップで「レンタル移籍」を経験すると、なかなか得難い経験をするのか、すごく立派になってというか、たくましくなって帰ってくると感じています。


ー令和元年度補正予算事業について

成長戦略フォロ−アップ(令和元年6月21日閣議決定)に基づき、今年(2020年)から、大企業人材のスタートアップ出向を応援する事業を開始しました。

大企業人材に越境学習を経験していただき、大企業の経営資源を活用して新規事業を行うことを支援していきます。今年度末までに、様々な取り組みを考えていたのですが、新型コロナウイルスによって状況が変わったこともあり、現在試行錯誤しながら進めている状況です。

=事業概要=
大企業・既存企業に埋もれている人材のスタートアップへの出向等を支援することで、これまで十分に活用されてこなかった経営資源(人材・知財含む)の解放を促し、新規事業に係る経営人材を育成し、新規事業創出を促進します。

=成果目標=
出向等により、所属組織外での唱題の新規事業創造に資する経験を積む大企業人材を創出するとともに、当該経験により向上する能力の評価指標を開発します。

ー具体的なアクション

一方、「越境学習」で多様性を身につけても、組織において活用されない問題をどうすればよいのか、という課題があります。そこで、補正予算事業の中で、越境学習を後押しするための3つの仕掛けを検討しています。
一つ目は「越境学習に行ったからこのスキルが伸びた」など、越境学習での学びを評価するための指標作りを開始しました。

二つ目は、「実際に越境学習に行きたい」と思った時の契約ガイドラインの策定を予定しています。

そして、三つ目は、社外から「越境学習経験あり」の見える化を可能にすることで、横連携の強化・経験の共有につながればと考えています。

評価指標については、色んな軸を作って評価していく予定です。大企業の中で何が比較対象となるのかなど、色んな方と議論しながら進めていきたいと思っています。

ーQ&A

ここからは、セミナーにご参加頂いたみなさまからの質問やコメントを元に、迫田さんと原田が回答した内容をお届けします。迫田さんからの担当者としてのお悩みに対し、コメントをいただくなど双方向に自由闊達な意見交換が繰り広げられました。

Q:越境学習が、戻ってきて活かされないということは実際にあるのでしょうか?

迫田:経済産業省の例でいうと、MBAによく人を派遣していたのですが、戻ってきて中小企業政策担当になった場合など、全く英語も使わない状況になるので「思っていたのと違う」となってしまうことはありました。越境する場合は、目的を明確にした上で送り出すと次に繋がると思います。

原田:戻った後のことも踏まえた上で、設計しながら越境学習をしないと、意味がないことになってしまうというのが、我々が事業を行っている中で痛感していることです。レンタル移籍については、帰ってきてからどうする? ではなくて、行く前から、帰ってきた後どうしていきたいと思っているのですか? という点も含めて、議論しながら、導入を進めています。

Q:現在、自社でも評価指標を開発しているのですが、経済産業省で作成されている指標はいつ頃リリースされる予定でしょうか?

迫田:今年度中に作成し、年度末に公表を目指しています。本当に使えるものかどうかの検証が必要だと思っているので、独自開発されている知見をぜひ共有いただき、一緒に作っていければと思います。

原田:ローンディールも、経済産業省さんが作成される指標についてあてはめてみて、議論しながら、有効性があるかなど検討に関わらせて頂く予定です。色んなものが持ち寄られるといいですよね。

迫田:
柔軟に試行錯誤しながら進めていきたいので、色んな方とコラボしながら進めていければと思っています。ぜひご連絡いただければと思います!

Q:「越境」でベンチャーを経験をした人たちが人事評価上で優遇されると、所属企業で地道に頑張っていた人たちが不公平感を覚えるようなことはないのでしょうか?

迫田:経済産業省の中でも、なんとなくそう思っている部分はあるかもしれません。この点についても、説明が大事だと思っています。この人にはこういうことを期待しているから、と本人にも周囲にも伝えて、周囲も理解していれば「あの人は楽をしている」とはならないのではないかと思います。
普通の人事の、「このポストの方がおもしろい」という不公平感とあまり変わらないのではないかと思います。

原田:既存事業と新規事業の役割分担みたいなところで、既存事業がしっかり成りたっていないと新規事業はできないですし。比率でいうと、9割以上がしっかり既存事業を運用し、残りの1割2割が未来に対する投資をしていくことになるのかもしれません。まさに人事上の棲み分けというか、どこに誰を配置するのかという世界なんだろうと思います。

迫田:個人の人事キャリアに加えて、会社として既存事業で固めるところと、新しいことにチャレンジしてほしいんだ、というまさに“両利きの経営”の戦略の中で、研修が位置づけられているんだと思います。人事部だけの世界じゃないのかもしれないですね。

Q:越境学習した人材がベンチャー企業に魅力を感じて、転職してしまったことはありますか?

原田:これまでの大手企業からのレンタル移籍の事例として約100件の案件がありますが、移籍先に転職したケースは0件です。そもそも人選の段階から、組織に還元するという趣旨のもと、その意識を持った方を選んでいます。その上で、戻った後どう活かしたら良いか? という点も組織全体で考えているので、ちゃんと戻ってきています。


外の会社を見てみたら、外から見るほど華やかじゃなくて、大変なこともたくさんあります。大企業で働かれている方は、大きなインパクトを起こしたいという志向性を持たれている方が多いので、ベンチャー企業で社会変革を起こそうとすると、何十年かかるかわからない……。逆に言うと、大企業は基盤の整った状態からスタートできるので、冷静に判断して戻ってくるという印象もあります。

Q:越境にもフルタイムの就業という形と、プロボノのような形で隙間の時間で参画するような方法もあると思うのですが、人材育成の効果として違いやメリット・デメリットはありますか?

迫田:指標作りの中で、大学の先生と一緒に、どういう研修でどういう能力・スキルが伸びるのか、フルタイムと他の方法を比較して、見える化できるようにしたいと思っています。個人的には、フルタイムの方が効果がありそうだというふうには感じています。

原田:そこに差がないと、みんな副業すればいいじゃんという感じになっていきますよね。そこはどっちが良い悪いではなくて、どういう目的かによって、このタイプはフルタイム、このタイプはプロボノとクリアに見えてくると良いなと思います。

迫田:大企業の方からは、プロボノであればすぐに人は出せるが、フルタイムとなると調整が……。という話も聞くので、スタートとしてはプロボノの方が始めやすいというのはあるかもしれませんね。目的に応じて、どっちがいいか議論できるようになればいいですね。

Q:この研修は、新規事業開発人材の育成に特化しているという位置づけでしょうか?

迫田:経済産業省の予算事業でいうと、「新規事業開発につながる人材を育成」という位置づけで、どうやって応援しようかを考えています。全員社長みたいなキャラを育てるわけではなく、社長の右腕、大企業の中で、新規事業開発を支えるサポートできる人材の育成もしたい。ということで、スタートアップへ行くと支え方もわかるのではないか?と思っていて、新規事業開発につながる人材を育成したいというのが経済産業省の思いです。

原田:ローンディールの具体的な事例でいうと、イノベーションをどこまで捉えるかということかと思います。新規事業立ち上げという意味のイノベーションや、既存事業の業態を変えていく。若しくは、マネジメントスタイル(組織・マネジメント)の変革の目的で導入いただくケースもある。この点は、経済産業省と重なっている部分と外れている部分もあるのかと思います。そこは十人十色ということでいいんですよね(笑)?

迫田:まさに十人十色で、ローンディールと重なっている部分もあるので、一緒にやっていきましょう、という話ができています。
参加者の感想:MBAと越境学習の違いは、公的機関でスキルが証明出来るかどうかかなと感じました。

迫田:おっしゃるとおり、MBAの取得は、ひとつの資格なので評価が見える化できますよね。スタートアップに留学した際にも、こういうところが伸びている、ということを証明できるといいなと思って、評価指標を作ろうとしています。戻った後にどちらが役に立つかなどは、議論の余地があると思っています。

原田:経済産業省が取り組まれようとしているのは、越境経験ある人を認定していく、というニュアンスですか?

迫田:そうです。まさにMBAは「この人は◯◯大学の卒業生」と証明できますよね。そういった形で「この人はこういったスタートアップへ留学して、こんな経験をした」というのが見える化できると、越境学習としてスタートアップに行く目的についても、より議論していけるんじゃないかと思っています。

原田:昔、経済産業省でスーパークリエイターの認定をされていたかと思うのですが、あれってスタートアップ界隈でいうと、「この人あれ持ってるんだ。すごい」みたいなのがあったんですが……。

迫田:なるほど! そうですね。そういう評価指標みたいなのが作れると、この人はこんなことをできたというのが、会社の中だけでなく横串で測れるようになって、スタートアップ出向も使いやすくなるのかな? というのがご指摘いただいたとおりです。

原田:僕らも越境学習というのが、個社の成功というよりは、全体として盛り上がって、人材の流動性が上がっていったり、イノベーションにつながっていたり、相対として広がっていくことがすごくいいことだと思って事業をやっているので、横連携しながら盛り上げていけると楽しそうだと思いました。

迫田:すぐに転職転職というアメリカみたいな市場がくるかというとそういうことじゃなくて、原田さんの言う「流動化」も、“日本型の流動化”というのがいいと思っていて。いろんなところを渡り歩いた人がいて、その人達がチームとしてやっているというのはいいですよね。
参加者の感想:MBAも越境も、経験を活かす場が与えられないと退職という流れがあるので、そういう形にならないように設計するかが問題だと思います。

迫田:うちの役所でもだいぶ問題になっています。まさに経験を活かすというところを、本当はちゃんと説明してあげればわかる人もいるし、無理だって辞めていった同期や後輩を見ていても、そこはとても難しいですよね。
本当に何がやりたかったの?というところと、ポストをマッチングさせるのは大変そうではあるなと思います。その設計をどうやっていくか、まさに退職推進事業ではないので、そこは気をつけてやっていきたいですね。

原田:それこそ何千人何万人いる会社で、いきなり全員をどうにかするっていうのは、すごい途方もない話になってしまいますよね。レンタル移籍を通じて、かろうじてできているのは、1社から数人です。ただ、その数人に対してちゃんとやってみる。

小さくやってみて、ああこういう風に活かしていけばいいんだね、と学習しながら、「越境した人だけではなくて部署全体に広げてみよう」みたいな感じで、個を活かすための方法論が、大きな会社にも蓄積されていくと良いなと思いますね。

自らも越境経験のある迫田さんが、大企業人材の新規事業創出のため、「越境学習」を推進されているお話を元に、オンラインでご参加いただいたみなさんからも質問だけでなく、ご意見も多く頂き、有意義な時間となりました。

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【レンタル移籍とは?】

大手企業の社員が、一定期間ベンチャー企業で事業開発などの取り組みを行う、株式会社ローンディールが提供するプログラム。ベンチャー企業の現場で新しい価値を創りだす実践的な経験を通じて、イノベーションを起こせる人材・組織に変革を起こせる次世代リーダーを育成することを目的に行われている。2015年のサービス開始以降、計36社95名のレンタル移籍が行なわれている(※2020年5月実績)。→詳しくはこちら

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協力:経済産業省
レポート:管井裕歌
提供:株式会社ローンディール
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