「外に出て気づいた『自分の強み』を組織で発揮したい」住友生命保険相互会社 青柳一輝さん
環境を変えることで、自分の視野を広げる
――住友生命ではどのようなお仕事をされていたのですか?
本社の主計部に在籍し、主に決算作業や収益管理、リスク管理などに関わる業務を行っていました。異動が多い会社なのですが、私の場合は入社してから2年間支社に勤務し、その後はずっと主計部にいます。もう12年になります。
――主計部というと、「縁の下の力持ち」というイメージです。
そうですね。外に出ていく仕事というよりは、基本的には社内に向けて数字関係の専門的なことを担当しています。目立つ部署ではありませんが、主計部ならではの面白さややりがいを感じていました。
業務の内容はかなり専門性が高く、それまでの経緯や、業務の深いところまで理解しないと良い仕事はできません。長くやればやるほど分かってくるところに面白さがあるんです。じっくりと仕事に取り組むことは私の性格にも合っていました。
――レンタル移籍をしようと思われたきっかけは。
自分が置かれている環境を能動的に変えたいと思ったんです。というのも、主計部での仕事で、一つのことを長く突き詰める良さは実感していたものの、他の業務をやったことがなかったので視野が狭くなっているのではないか……と。他の部署への異動というよりは、もっと異なる環境に身を置きたいという気持ちがありました。そんな時にレンタル移籍について知り、社内公募で自分から手を挙げました。
――新しい環境でのチャレンジで不安はなかったですか?
もちろんありました。ベンチャーでやっていけるのだろうか、果たして自分の力は通用するのか不安でした。でも1年間という期間が決まっていることで、ある意味、開き直れたところもあります。もし失敗したとしても、そこも含めて経験につながると考えたのです。それに、純粋に「面白そうだな」と感じたことも思い切ってチャレンジできた理由ですね。
――移籍先に400Fを選ばれた理由を教えてください。
同じ金融系の会社であることと、自分に求められていることがはっきりしていて分かりやすかったことが大きいです。社長の中村さんから言われたのは「会社のミッションをあなたの力で達成してほしい」ということ。会社として達成すべきことや、その中で自分が何をすればいいのかが明確に示されていたんです。
それが、私にとっては働きやすそうだなと感じた点でした。「自分はこれをやるんだ」という明確な目標を持って参加できたのはとても良かったなと思います。
それと、私が入社した当時はまだ社員が十数人だったので、その規模感も魅力でした。移籍ではいろいろなことを経験したいと思っていたので、会社の中の一部分だけに関わるよりは、全体を見ながら何でもやっていくほうが学べるのではないかと。人数が少ない会社のほうが、一人が担当する業務の範囲が広くなりますからね。
「やるしかない」のマインドで、プレッシャーを乗り越える
――400Fが提供するサービスについて教えてください。
「オカネコ」というマッチングサービスを提供しています。具体的には、お金についての悩みを持っている一般の人たちと、その相談に乗れるプロの人たちをつなぐプラットフォームを運営しています。
たとえば「住宅ローンを見直したい」「どんな保険に入ればいいのか分からない」「資産運用について相談したい」といった人たちに対して、ファイナンシャルプランナーや資産アドバイザーなど、お金のプロが相談に乗ることができる仕組みです。私は主に、相談に乗るプロの方たちを中心に、toBへの営業を担当していました。
※2023年3月に「お金の健康診断」から「オカネコ」にサービス名称変更
――営業ではどのようなことをされていたのですか?
ネットに「オカネコ」の広告を出し、それを見て問い合わせをしてくださった方たちに、サービスの詳細を伝えるのがメインになります。入社して2週間ほどは営業の上司に同席させてもらいましたが、その後は1人で顧客に会い、交渉を進めました。移籍前から「営業をやってほしい」と言われていたので、すぐにスタートできました。
――初めての営業の仕事で、戸惑いはありませんでしたか?
広告を見てサービスに興味を持ってくださった方に対する営業だったので、そこまで戸惑うことはなかったですね。とはいえ、toB向けの営業なので、相手の多様なビジネスモデルや抱えている課題を会話の中から探りながら、自社のサービスの魅力を伝えていかないとうまくはいきません。自社のサービスについて把握していることはもちろんですが、どれだけ相手の立場に立って話ができるかが重要なので、そのための準備を心掛けていました。
上手に営業トークをしようというよりは、事実をしっかり伝えることが大事だと思い、そこは意識したところです。できるだけ「こういう例があります」と相手の状況に合わせて具体的にお話ししていました。
――順調なスタートだったのですね。
細かいところが気になる性格なので、それが営業に役立ったのかもしれません。半年ほどは中小企業向けの案件を1人で担当し、月に平均30~40件は契約をいただいていました。もちろん私一人の成果ではなく広告の力と提供しているサービスに魅力があったからなのですが、任せてもらえたのは嬉しかったです。
――プレッシャーはありませんでしたか?
営業は大企業向けと中小企業向けの2つにわかれていたのですが、大企業との契約は少しずつ交渉を進めていくので、すぐに収益に結びつくものではありません。一方、中小企業向けの案件は新規の契約につながりやすく、それが会社の月々の売り上げに直接的に関わるのでプッシャーは感じていました。私が移籍した当時は、まだ営業が全体で2人しかいなかったので、自分にかかる責任も大きく、プレッシャーも大きかったです。
――どうやってそのプレッシャーを乗り越えたのでしょうか。
乗り越えたというよりは、「やるしかない」と覚悟を決めてとにかく活動し続けることに集中しました。営業は初めての経験でしたが、任せてもらえているということは、このままで大丈夫なのだろうと。そう考えて地道に続けたことで自然と乗り越えられました。移籍中はメンターの方が報告書を読んで、共感のコメントをしてくれていたのも嬉しかったですね。「私が思っていることを理解してもらえている」と感じられました。
組織の変化に合わせて見えてきた、自分の強み
――ベンチャー企業の雰囲気はいかがでしたか?
初めは社員の少なさに驚きました。もちろん入社前から規模感は分かっていたのですが、住友生命では主計部だけでも東京に60人いたので。400Fでは13人の社員のうち半分はエンジニア。だから、実際に私が営業として日々関わるのはほんの数人でした。
人数は少ない分、社員の方たちの責任感はすごいなと感じました。人が少ないので自分で決定して最後までやるしかない。もし結果が出なかったとしても、なんとかしようと諦めずに動きます。誰かにチェックをしてもらいながらやるのではなく、「これをやったらどうなるのか」を自分の頭で考えてやっているように見えました。それはベンチャーの特徴なのかもしれませんし、そうあるべきだなと思いました。
――大企業であっても、そうあるべきだと。
決定権があるかどうかでできることは違いますが、少なくとも気持ちの上では一人ひとりが「最後まで自分でやりきる」という覚悟は大事だなと。誰かがやってくれるだろうという人任せではダメですよね。それは大企業であっても当然同じだと思いました。
――これまでとは全く違う営業という仕事の中で、やりがいは感じましたか。
営業は良くも悪くも、結果が目に見えます。なので目標に届くと達成感があります。でもそうした数字よりも嬉しかったのは、実際にサービスを利用してくださったお金のプロの方たちから、「サービスを使い相談に応じたことで、顧客獲得につながりましたよ」と言ってもらえることでした。
契約が取れたことは、あくまでもスタート地点。サービスを使ったことで、契約者さまの仕事につながり、真にお役に立てたことを実感できたときに喜びを感じました。やはり「誰かの役に立つ」ことが、営業の本質ですよね。
――営業ができたことで自信がついたのでは。
もともと営業に苦手意識があったのですが、「頑張ればできる」と思えるようにはなりました。ただ、400Fの事業が大きくなるにつれて、それまで2人で営業をしていたところに中途採用で営業の経験者の方たちが入社されてきたんです。そこで分かったのが、営業のスペシャリストにはとても敵わないということ。その道のプロの人たちと比べると、自分は決して営業に特化しているわけではないと改めて感じました。それと同時に自分の強みも見えてきました。
――どんなことが強みだと感じたのですか?
業務全体を見渡して、チームとして足りていない部分、将来足りなくなりそうな部分に気づけることです。当時の営業チームにおいては、営業資料や契約書の作成、マーケティング的な視点で営業の戦略を立てることなどですね。
例えば、営業資料については、最近の傾向やこれからの営業戦略を踏まえて、より効果的なものを作成していました。
そこには、営業のスペシャリストたちが、お客さんのためになるべく多くの時間を使えるようにという気持ちがありました。そうした営業チーム内での連携や努力の結果、サービスの登録者数は私がいた1年間で1.5倍にまで増加しました。
――チームの皆さんからの反応はいかがでしたか?
作成した資料を使ってもらえましたし、私の移籍期間が終わるのを惜しんでいただけました。最初は2人で担当していた営業でしたが、最終的には5人に。会社全体でも社員が増え、会社の規模が大きくなる過程を経験できたことも貴重でした。
人数が増え、組織の中にチームができあがっていく。その変化を体感しながら自分の役割を変えていけたことはよかったなと思っています。住友生命にいた時にはチームの中で動くのが当たり前だったので、その経験も役立ったのではないでしょうか。
――移籍後半は、カスタマーサクセス(CS)やミドルオフィスへと、業務の幅を広げられていったそうですね。
CS業務として、サービス利用者との相談会にも関わりました。相手の状況を想像して会話することが大切なのは営業と変わりませんが、それぞれの業務で違う視点が求められていることにも気づきました。営業ではサービスに関心を持ってもらうにはどうすればよいか、という視点でしたが、CSはすでにサービスを利用している人へのサポートです。うまく使っていただけているかどうか、不便は点はないかなどを聞き出す必要があります。その2つの視点を持てたことで、営業にフィードバックしながらスムーズに連携させることができました。
またミドルオフィスの業務では、滞りなく契約を結べるような事務の流れを構築できたことが成果の一つです。営業やCSの管理者から「青柳さんが細かいことまで気づいてくれるので、助かっている」という言葉を掛けてもらいました。
「自分の特性を活かした働き方」を模索したい
――改めて移籍を通して、どんな気づきがありましたか。
「自分が何者なのか」をじっくり考える機会になったと思います。営業のスペシャリストの存在を知り、短いスパンで結果が求められる世界を経験したことで、自分に何ができるのか、自分の強みは何かを考えるようになりました。
私の場合は、先を見通して慎重に行動をするタイプなので、それを強みとして物事を積み上げていく役目が果たせると思います。もしかしたら「とりあえずやってみよう」というベンチャーの成長期には向いていないのかもしれませんが、時期によっては慎重に進めることも必要なはずです。自分の特性がわかったことで、その活かし方も分かってきた気がします。
――住友生命に戻ってからは、どんなお仕事をされていますか?
以前の仕事の延長ですが、2025年から保険会社の監督規制が変わることが見込まれていて、そのための態勢やシステムの準備を進めています。組織を整えたり社内のルールを変えたりと、やるべきことはたくさんあります。
――移籍前には「視野が狭くなっているのではないか」というお話もありましたが、移籍後、変化しましたか?
確実に視野は広がったと思います。個々の働く意識も含めて、多くの学びを得ました。それと同時に、大企業の良さも見えてきました。企業が大きくなるためには役割の明確化やルール作りが必須です。それを長い年月をかけて体制を整備してきた結果が、大企業の運営なのだと分かりました。
大企業には、すぐには成果が出ないことでも数年先へ投資をする余裕があります。社員の教育をはじめとした未来にコストをかけられるのです。それが大企業の強みですよね。おそらく大企業に勤める人の多くは、移籍前の私がそうだったように、その重要性や価値を認識せずにいるのではないでしょうか。目先の心配をしなくてよいからこそ顧客の視点に立った本質的な行動ができるし、社会を変えるための行動ができるはずだと思います。
――これから青柳さんが目指すところを教えてください。
会社全体を見ていくような仕事をしたいと考えています。会社の規模が大きくなると、どうしても部署ごとに責任を持ち、それぞれで対応していくのが組織のあり方ですよね。ただ全体として見ると、それだと必ずしも最適な選択ができない場合もあります。
例えば企画部門などは会社全体を見ながら考える組織。ベンチャーを経験したことで、自分がそういったことに興味があると気づきました。今後の仕事を通して、ベンチャーの良いところと、大企業の良いところ、それぞれをミックスさせたやり方を模索していきたいと思っています。
「自分の中で完結するタイプ」と話す青柳さん。その言葉通り、常に自分の行動を冷静に分析し、「こういう時はどうすればよいのか」の答えを自ら導き出していく姿が印象的でした。営業というこれまで経験したことのなかった分野でも、最大限に自分の力を発揮できる道を探っていった青柳さんは、きっとこれからも「自分の強みは何か」を考えながら、新しいことにチャレンジしていくのではないでしょうか。
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3/17「多様な人材を活かして伸ばす、ミドルマネージャーのあり方とは?」
今回のイベントでは、部下をレンタル移籍へ送り出した2社のマネジメント層の方にご登壇いただき、実例を交えてミドルマネジメントとしての取り組みについてお話を伺います。