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「ベンチャーで掴んだ社会課題解決の手がかり」NTT西日本 本山裕樹さん

地元で感じた地域の課題をきっかけに、西日本電信電話株式会社(以下、NTT西日本)に入社した本山裕樹(もとやま・ゆうき)さん。入社後営業職を経て事業開発の部門に異動し、かねてから望んでいた新規事業の仕事を担当していました。

希望が叶っていたはずが、不思議と心には“モヤモヤ”がありました。
「自分は、社会に対して本当に価値のあるものを出せているのだろうか?」そんな問いに頭を悩ませていたのです。そんな中で、本山さんは、一定期間ベンチャー企業の一員として働く「レンタル移籍」を通じて、社会課題の解決をミッションとする株式会社Ridilover(以下、リディラバ)と出会います。そこには実直に社会課題に対して仮説を立て、当事者と対話し、問いを立て続けるメンバーの姿がありました。

リディラバの一員となり気づいたのは、「社会課題」に対する向き合い方。6ヶ月間のレンタル移籍期間に、本山さんはどのような経験をされ、今何を感じているのでしょうか。


はじまりは地元の「課題解決をしたい」という思い

ー 新卒でNTT西日本を就職先に選んだ理由を教えてください。

僕は出身が長野県のとある村で、豪雪地帯で人口も減少傾向の高齢化が進んでいる地域でした。高校の授業で実情を知ってから地域の役に立てるようなことがしたいと思い始め、大学でも地域の活性化をテーマにする地域創造学を専攻しました。就職のときに地元に帰ることも考えましたが、このまますぐ帰っても何もなせる気がしなかったので、まずは民間企業で力をつける道を選びました。

就職では地方や田舎を元気にするような仕事ができることを軸に選んでいましたが、その中で通信やICT業界が手段として一番地域にインパクトを与えられるなと感じていたんです。その中でもNTT西日本が最も地域に根差して事業を行っている会社だと感じ、第一志望で入社しました。

ー NTT西日本ではどのような仕事を経験しましたか。

入社して5年間は、地方で中堅・中小企業が取引先の法人営業を担当していました。その後、現在所属している組織の前身であるビジネスデザイン部に異動し、約5年間事業開発の業務に携わりました。

その部署では、NTT西日本の既存の事業の枠にとらわれない新しい事業を作るということに従事しました。

ー 実際に事業を手がけられてみて感じたことはありましたか。

複数のプロジェクトにジョインして、中にはサービス化を果たしたものもあり、達成感や充実感のある仕事ができていました。

一方で、「会社にコミットした目標を達成すること」「サービス化すること」自体をゴールのように感じてしまっている、自分自身の仕事に対する姿勢への違和感も心のどこかで感じていました。

「リリースしたサービスは本当にお客さんの役に立っているんだろうか?」
「自分は、社会に対して本当に価値のあるものを出せたのだろうか?」

と、不安を覚えることがありました。

ー レンタル移籍に挑むことになったのは、まさにそう感じていたタイミングだったのですね。

そうですね。当時感じていたモヤモヤとした課題感に対して自分なりの答えを出すには、ぴったりの機会だと感じました。

移籍先は、社会や顧客の課題解決に取り組む会社に行きたいと思って選びました。僕が選んだリディラバは、まさに「社会課題の解決」をミッションとしている会社です。

具体的なモノやサービスの提供ではなく、元々自分自身が感じていた社会課題に対して“課題起点”で向き合えるような企業を希望していたので、ここしかないと思って移籍を決めましたね。

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「社会課題解決」の最前線に立って気づくこと

ー リディラバではどのようなチームで働いたのですか。

「事業開発ユニット」という8名ほどのチームに所属しました。そこでは、企業や官庁、自治体などのクライアントとともに、社会課題解決に向けた課題の深堀、事業開発や政策立案の支援を行うことがメインの仕事でした。

ー ご自身が担当した仕事を教えてください。

大企業をクライアントとする調査事業、事業開発支援を行う3つのプロジェクトと、リディラバの新サービスの企画、開発をメインで担当しました。

移籍した初日から任された仕事は、大手自動車メーカーの事業開発担当がクライアントである「高齢ドライバーに関するヒアリングツアー」でした。この案件は、高齢ドライバーを取り巻く問題を深掘して課題の解像度を上げることで、新サービスの開発に活かしたい、ということからスタートした案件です。

ー 新しい環境で働き始めた時は、どのような気持ちでしたか。

最初は、本当にどう仕事を進めていいのかわかりませんでした。仕事のやり方やゴールイメージが全く湧かない中で進めていくという経験がこれまでほとんどなかったので、非常に戸惑いましたね。

移籍して約1か月後には、クライアント側8名の方が同席する中、高齢者2名、家族1名、有識者2名、計10時間程度のヒアリングを行ったんですが、経験がない中で行わなければならず

「本当に自分ができるのだろうか…」

と毎回緊張していましたね。

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ー 実際に“社会課題"の深掘りに挑んだわけですね。

案件について、概要は決まっていたのですが、中身をどうするかをゼロから組み立てなければなりませんでした。掘り下げるべき課題について、仮説を作った上で、「誰に、何を聞いて、何を明らかにしていくのか」ヒアリングを設計していく。その作業がとても骨の折れるものでした。

初めは、独学で仮説を作ってみたんです。「高齢ドライバー」がテーマだったことから、僕なりに「なぜ高齢ドライバーは免許を返納できないのか」という点にフォーカスした仮説を作ってみました。けれど、それを同じチームの井上さんに見てもらったところ、

「いやいや、問題の本質って本当にそこだっけ? 車に乗れるか、乗れないか、じゃなくて、高齢者の『移動の問題』として俯瞰して捉えようよ

という指摘をもらいました。

ー 「俯瞰した仮説」とは?

僕は「高齢者」と「車」という関係性だけで捉えていたんですが、「移動手段って、公共交通機関や自転車とかいろいろあるよね、もっと広義に捉えれば、インターネットみたいな、物理的な移動を伴わない移動もある。その上で、なぜ選択肢が車だけになっているのか、高齢者に最適化された移動手段が存在していないのか、それとも選択されてないのか。高齢者当事者だけではなくて、サポート役として家族や行政ができることはないのか。さらに移動した先には買い物や趣味といった高齢者にとっての目的や社会があって、それが充足、充実されることでQoLや生きがいが高まるよね」と。

そんな視点のアドバイスを得ながら「社会へのアクセシビリティによる高齢者のQoLの担保」というテーマでもう一度仮説とヒアリング設計を作り直しました。

当初自分で作った仮説は正直「なかなか良いものができた」と思っていたので(笑)、狭い視野で目先の事象にとらわれていたことに気づかされた時はとても衝撃的だったのを覚えています。

本質的な課題を見つけるためには、広い視野で構造的に課題を捉える必要があるということを学びました。

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「正解」のない社会課題解決

ー リディラバに移籍して、最もギャップを感じたのはどのような点でしたか。

移籍前、リディラバには社会課題を解決するための「正解」が存在していると勝手に思い込んでいました。実際、リディラバには社会課題に長年向き合ってきたからこそのノウハウは多分にあるんですが、当然ながら「正解」は誰も持っていませんでした。

現場に行って、当事者の話を聞いて、問いを立て、仮説を組み上げる…ということを繰り返して、“現場”と“自分”を行き来しながら自分なりの答えを見つけるしかない、ということを痛感しました。移籍前の自分を振り返ると、会社の上司の意見やネット上の誰かの意見に答えを求めることばかりしていたことにも気付かされました。

特に社会課題の領域においては、当事者本人だけではいかんともしがたい、当事者本人すら本質的な課題に気付いていないからこそ解決されずに取り残されているケースが多いので、困りごとが起きている状況をつぶさに見聞きしながら、自ら課題を紐解いて真因を特定する作業が必要なんです。

ー 移籍期間中、辛いと感じたときに支えになったものは何ですか。

リディラバのメンバーは本当に躊躇なく相談させてもらいましたし、たくさん支えてもらいました。オープンでフランクな人たちばかりなのですが、それでいてメンバー一人ひとりが「自分が社会をどうしていきたいのか」「自分がどういう人間でありたいのか」という価値観や哲学を、きれいごとではなく等身大で語れる状態で持っていて、年齢や役職関係なく本音でぶつけ合うカルチャーがありました。移籍期間通じて、モチベーション高く取り組めたのは、強くて優しくカッコいい、心から尊敬できるメンバーから多くの刺激を受け続けたからだと思います。

また、メンターである畑田さんには、自分でも気づいていない鋭い指摘をいただいたことがあります。週報でリディラバでの気付きや学びを書いたのですが、ある時、

「本当にそう思って書いてるのか」

と手厳しいフィードバックをもらったんです。
最初は素直に受け入れられない自分がいましたが、改めて考えると、綺麗な言葉、借りてきた腹落ちしていない言葉を使うことが染み付いていて、考え抜くことを阻害していることに気付かせてもらいました。

それからは「この言葉って、本当に自分が伝えたいことだっけ?」と自問するようになって、言語化に対する意識や表現方法に変化が生まれたと思います。

ー リディラバに移籍して、大切だと気づいたことはありますか。

まずは、

・仮説を持って現場を見て当事者の話を聞くこと
・その人の痛み・悩みが映像として想起できるぐらい解像度を上げること

です。そして、なぜそうなっているのかという問いを立てて、

・当事者すら気付いていない課題の本質を発見すること

だと思っています。

振り返ってみると、顕在化している表層的な問題に対して対症療法的にアプローチしたり、サービスアイディアに対して都合の良いデータを集めて課題っぽいものを後付けしたりすることを、課題解決だということにしてしまっていたな、と気付かされました。

しっかりとその現場で起きていることを見て、なぜ起きてるのか、一般的に言われていることも本当にそうなのかという視点で考え抜くことが本質的な価値ある事業をつくる上で重要なことだと思っています。

ー その事に気づいてから、何か変化はありましたか。

別の案件で「高齢者のニーズ調査」という案件があり、介護事業者様と連携して高齢者や介護の関係者など10名以上にヒアリングをしてまとめる仕事があったんです。高齢者から発露されるニーズだけでなく、その裏側にある本人も気付いていない潜在的な欲求に着目しながら、仮説構築とヒアリングを重ねて報告書にまとめて提出しました。

報告後、担当者の方が「何となく思っていたものが、こんなふうに形になるなんてすごい。ネクストアクションもすごくイメージ湧く素晴らしいアウトプット」と手放しに喜んでくれて。“正解”がない中で、自分が見て、聞いて、感じたことを言語化、構造化して、自分なりの解決の糸口を形にしたものに対して、同じ志を持って課題に向き合うクライアントが心から共感してくれたんです。嬉しかったですね。

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常に社会起点、顧客起点で事業をつくる

ー NTT西日本に復帰されてからのお仕事について教えてください。

移籍前から所属していた事業開発の部署に復帰しました。移籍前に立ち上げたプロジェクトに戻りサービス化に向けた推進を行うことに加えて、最近ではゼロから新たなプロジェクトを立ち上げることにも挑戦しています。

ー ベンチャーでの経験を経て変化はありましたか。

自分の中で、社会起点、顧客起点の判断軸、行動軸が持てるようになってきたと感じています。移籍前は会社の方針や上司の意向に多くの意識が向きがちだったのですが、「課題の本質って本当にここ?」「顧客の立場に立ったらもっとここ改善する必要があるのでは」という問いを立てられるようになり、それを打開策とセットで上司やメンバーに率直に伝えられるようになりました。主張できるようになった理由は自信がついたということもあるのですが、自分の中で社会や顧客の視点に立った問いが生成できるようになったことが大きいです。

まさに、リディラバで学んだ仮説思考が自分の中でもインストールされ始めているのかなという感覚です。


今いる場所だからこそできる、社会課題解決のアクション

ー 本山さんが今、会社に対して起こしたいアクションはありますか。

今年の7月、会社としてもよりお客さまの声を反映した事業開発ができるように、大きな組織体制見直しがありました。この方針には大いに賛同するところですし、プロダクトアウトではなく真に社会課題起点、顧客起点が実現できる事業開発組織となれるようにリディラバで学んだことを活かしながら、組織変革をリードしていければと思っています。

まずは、僕自身が成果を残さないと説得力がないと思うので、社会的価値、経済的価値が両立する自分が“心から良い”と思える事業を自らが立ち上げ牽引していくことを実現したいと考えています。それを実践する中で見つけた自分なりの“型”、勘所を周囲にも伝えていきながら、少しずつ組織に影響を与えていけたらいいなというふうに思っていますね。

ー 戻られて感じた、NTT西日本や大企業の良さはありますか。

社会課題を事業で解決するときに必要な資金、顧客基盤やパートナーとの接点、社会的信頼などを投入可能なりリソースを十分に持っている、ということです。

たとえば、様々な自治体と連携しながら課題解決に取り組みたいと考えた際、NTT日本グループであればこれまで培ってきた公共営業部門の関係性を通じて、すぐに話をさせていただける可能性がある。当たり前のように思っていましたが、これだけ多様なセクターや産業とつながりがあるのは大企業の中でも稀有だと感じましたね。

社内の合意を得て、上手くアセットを活用すれば、自分の発想次第で自分のやりたいことが実現できるということに改めて気づくことができました。
リディラバでは色んな社会課題に対して色んなステークホルダーを巻き込みながらやっていくことはできますが、実際に事業を動かす際のリソースは他社に頼る必要があります。ただ、NTT西日本であればアセット(資産)も十分にありますし、自分の社内さえ説得すれば自分の発想次第で自分のやりたいことが実現できるということに改めて気づくことができました。

移籍終了直前にリディラバの安部代表から言われたのですが、

「一旦リディラバは卒業になるけれど、社会課題に向き合うということには卒業はないんだよ」

と。つまりその持ち場が変わるだけで、それぞれのフィールドでそれぞれのその社会課題解決を表現してくれればいい、という言葉をもらったんですよね。働く場所は違えども、気持ちはリディラバで働いたときに感じた時と変わらず、社会課題に真に向き合って解決に向けたチャレンジを続けていきたいと思っています。

ー 最後に、これから本山さんが挑戦してみたいことを教えてください。

今自分で企てたいと思っているのは、自分の実家でも起こっている雪国の“負”を解消するようなプロジェクトです。雪国の多くは少子高齢化が進んでいますが、高齢の方にとって雪かきは重労働ですし、代わりに担ってくれる若者も減っている。屋根雪下ろしなどの除雪作業中の事故で、多い年は年間100人以上が亡くなっていたりするんですね。そんな負を解消しつつ、逆に「雪」を何かしらの資産、新たな価値に変えていく仕組みが作れたらいいなと。

もともと会社を志した理由でもある、僕の地元のような地域が抱えている課題をプラスに変えていくような事業に挑戦したいと考えています。

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お客さまと向き合えているのか、社会に対して価値があるものを提供できているのかという疑問から、レンタル移籍に飛び込んだ本山さん。当事者と真っ直ぐに向き合い粘り強く問いを立てるリディラバメンバーとの対話を通して「社会課題」を捉える視野が大きく広がったのではないでしょうか。
これからはNTT西日本の一員として、社内や共感する社外の方々へと社会課題を解決する同志の輪を広げていくであろう本山さん。よりよい社会の実現に向けて行う新たなプロジェクトが楽しみです。

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【ローンディールイベント情報】

12/2開催「元人事担当者と語る 『レンタル移籍』による人材育成の成果と、組織への影響力とは? 」

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協力:西日本電信電話株式会社 / 株式会社Ridilover
インタビュー:大久保真衣
撮影:宮本七生
提供:株式会社ローンディール
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