自分を語れる人は強い。”ストーリー型 自己紹介”のつくり方【新年度に向けて】
ー肩書きよりも、強烈なストーリーのほうが強い
「間違っているかもしれないから言うのをやめておこう。言ったところで何も変わらないから言わなくてもいいや…」そうやって、胸の内にしまい込んで、”なかったこと”にしてしまっている思いはありませんか?
私は10年以上、インタビューという仕事を通じ、下は高校生から上は85歳まで、立場も職業も生き方も、様々な方のお話を伺ってきました。そんな中で、年齢問わず、自分のことを語り慣れている方は、次から次へと言葉をぶつけてくれます。一方、インタビューがはじめてという多くの方は、自分の意見を発言することに躊躇し、自分を語ることに遠慮します。深くじっくりお話を伺ってようやく、そんなことを考えていたんだ…! という、その人ならではの"コアな部分"に出会うことができます。
ですが、インタビュアーがじっくり掘り下げないと「自分のコアを語れない」というのは非常にもったいないと思うのです。そもそも”語れない”要因として、「私はこうしたい、こう思う」ということを普段、口にする機会が少ないということが考えられます。
しかし、何かにチャレンジしようとしている人はもちろん、すべてのビジネスパーソンが、「自分という人間を、いつでもどこでも誰にでも伝えられる」準備をしておくことが大切です。これからの時代、会社や肩書きで仕事をするのではなく、個人が実現したいことをベースに仕事をすることが求められるようになるからです。自己紹介も「XX会社のXX部門のXXさん」ではなく、「XXの思いを持って、XXの仕事をしているXXさん」と変わっていくのではないでしょうか。
だからこそ、会社がどうこうではなく、周りがどう思うかでもなく、自分を信じて、自分という主語でしっかり語れるようにしておくことが必要です。自分がどんな思いを持っているのか? なぜそんな思いを持つようになったのか? 自身のバックグラウンドであるストーリーが重要です。
あなたの思いに共感してくれる人が増えたら、逆に、周りが変化していくことだってあるのですから、言葉にせず、なかったことにしてしまうのは、とてももったいないですよね。
現在「&LoanDEAL」では、大企業の社員が、「レンタル移籍」を通じて、一定期間ベンチャー企業に行き、「どんな思いを持って働き、どんな未来を描けるようになったのか…」などというお話を伺い、紹介しています。
何よりも、レンタル移籍を経験した方が、自分の経験を自分の言葉で伝えられるようになる、ということを大事にしています。結果、自分の経験を語れるようになったことで、共感してくれる仲間が増え、やりたいことに近づけた、という方も多くいらっしゃいます。
そこで今回は、読者の皆さんにも、是非、自分のことを語れるようになっていただきたいと思い、ストーリーで伝える自己紹介の書き方をまとめてみました。軸となる自分のストーリーをひとつ作っておけば(当然アップデートは必要ですが)、いつでも必要な時に引き出して語ることができます。
実は、本記事は全部で1万文字程度あり、通常の3倍くらいのボリュームですが、「この通りに書き進めれば、初心者でも書ける!」くらいまで落とし込んで書いてあります。全部読む必要はなく、必要な箇所だけ抜粋してご覧いただければと思います。
まもなくやってくる新年度に向け、新しい出会いの場で、是非、名刺代わりに、ストーリーで自分のことを伝えてみてください。皆さん一人ひとりが持つ、十人十色の経験や思いが、誰かの心を動かし、新しい何かが生まれる、そんなきっかけになれたら幸いです。
ローンディール ストーリーテラー
小林こず恵
* * *
—”読まれる”環境で書いて、自分をさらけ出すことに慣れる
今回の目的は、ストーリーを使って自分を語れるようになることです。
ですので、必要な時に語れれば良いことなのですが、まずは、多くの人の目に触れる場所、例えばSNSやnote、BLOGなどで書いてみることをおすすめします。理由としては、
などが挙げられます。
「誰かに読まれる…」という意識で書くことで、少しでも相手に伝わりやすいストーリーになります。また、公開したら、ぜひ周囲からフィードバックをもらうと良いでしょう。案外、自分が一番発信したい要素が伝わりにくかったり、逆に、思いもしなかったところに共感が生まれたりするもの。自分では気づきにくい部分を、第三者の意見を取り入れてブラッシュアップしてみましょう。
そして、不特定多数に自分をさらけ出すという勇気によって、自分を語ることに抵抗がなくなる、という効果もあります。いざ! というその時に向けて、まずは読まれる環境で、自分を発信してみることから始めてみてはいかがでしょうか。ボリュームは3,000文字程度を目指してみましょう。
—ストーリーラインのフレームを使えば、誰でも簡単に共感をつくれる
「それではさっそく、人生を振り返ってストーリーを書いてみましょう」。
…と言われても、何から書き出せば良いかわからないですよね。
最初は、ストーリーのフレーム(型)に沿って書いてみると良いでしょう。よく聞く悩みに、「書いているうちに何が書きたいのかわからなくなった…」「どんどん書きたいことが出てきて、全然まとまらない…」と迷走するパターンがあります。これは、”何をどのように書くか”を決めないまま、とりあえずで書き出してしまう方に多く見られます。
それは、目的地も決まっていなければ、地図もないまま、勢いで航海に出てしまうようなもの。当然、どう舵を切って良いかわからないですよね。
建築物に設計図が必要なように、料理にレシピがあるように、ストーリーも、まずはフレームに沿って、書き始めから結びまでのストーリーラインを決めておくのが賢明です。そこで今回は、自己紹介に使える5章構成のストーリーラインを用意しました。こちらの流れに沿って進めていきたいと思います。
この5章は、「あなたという主人公はどんな属性で、どんなバックグラウンドがあって、現在どんな経験をしていて、この先どうなっていくのか…」、
という流れで構成されています。論文やレポートでいう序論・本論・結論、小説でいう起承転結に該当します。まずはアウトラインに沿って、ベーシックなストーリーを書いてみましょう。
—書けないのは言語化不足。まずは”自分のキーワード”をどんどん書き出す
ストーリーラインが決まったところで、次にやることは、文章を書くことではなく”キーワード”を書き出す作業です。スムーズに書けない人というのは、いきなり完璧な文章を書こうとしている場合があります。「1節書いては、ああでもないこうでもない…」と何度も推敲を繰り返し、先に進むことができません。一方、スラスラ書ける人というのは、書く前から、流れと書きたい内容がイメージできている人。
全体の流れは先ほどのストーリーラインを使えば良いので、あとは、頭の中にあるキーワード(文章のもと)を書き出すことで、書く準備が整います。
この後、各章毎に、キーワードを書き出す作業を行います。
文章にする必要はありません。また、キーワードを全てそのまま使うわけではありませんので、思いついたら迷わず書いていきましょう。なかなかキーワードが出てこない人は、ポストイットなどを使って書き出していく方法もおすすめです。
【第1章 プロローグ】
【第2章 過去】
【第3章 現在】
【第4章 未来】
【第5章 エピローグ】
ポイントはとにかく書き出すことです。
あなたの経験に良いも悪いもありません。当然、誰の評価を気にする必要もありません。まずはアウトプットです。
ちなみにローンディールでは、自身の人生曲線をベースに「WILLを見つける」という記事も公開していますので、なかなかキーワードが出てこない、という方は以下の記事も合わせてチェックしてみてください。
また、”いいことばかり”を並べてしまう、という人も少なくないと思います。無理やり入れる必要はないですが、葛藤したことや失敗談などがあって、それらを乗り越えた経験が今のあなたに影響している(つながっている)のであれば、その経験こそがひとつの見せ場です。ぜひ書きましょう。物語の主人公は戦いを経て強くなります。そして、乗り越えたエピソードが周りに勇気を与え、共感や応援につながるのです。
あなたの見せ場はどこですか?
—イチから書こうとしてはダメ。”つなげる、つけたす”で書いていく
キーワードがある程度書き出せたら、次はいよいよ文章にしていきます。
とはいえ構える必要はありません。もうキーワードは出ているのですから、それらをまとめるだけです。
ここで行う作業は、
です。書き出した中から、まずは使うもの使わないものを仕分けします。
次に、同じようなことを言っている、似たキーワードをまとめます。
【つなげてみる】
使うキーワードが整理されたら、次はキーワードをつなげて文章にしていきます。完璧に書こうとすると進みませんので、自分を知らない誰かが読んだ時に、「自分はどういう人間で、どんな経験をしてきて、何を目指しているのか」が伝わればOK、というくらいの完成度で書き進めていくと良いでしょう。
【つけたしてみる】
キーワードをつなげて文章になると、文章の全体が見えてきます。
そこで次は、つけたすという作業をします。これは、足りない言葉を補う、足りないエピソードを加えるという作業です。
もし、文章が先に進まない…という方は、目の前にあなたのことを全く知らない人がいて、その人が「あなたのことを教えてください」と言っていると仮定して「あのね・・・」「自分はね・・・」と、しゃべっているような感覚で(場合によっては実際にしゃべりながら)書くと進むかもしれません。
—文章からいったん離れて、タイトルを考える
ここで、文章から離れて、全体を俯瞰して、ストーリー全体のタイトル・各章のタイトルをつけてみましょう。
まずは各章のタイトルですが、その章で一番伝えたいこと、もしくは、その章で書かれている内容を要約したひとこと、などが良いでしょう。章タイトルは「ここにはどんなことが書いてあるんだろう?」という、読者に向けたナビゲーションです。その先に書かれている内容をイメージできるようにしましょう。
例では、その章で一番伝えたいことと、その章でどんなことが書かれているのかを意識して入れてみました。また1つの章の内で、複数の要素について語られている場合、章の配下に、節タイトルをつけると、よりわかりやすいと思います。
次に、全体のタイトルです。
タイトルは、全体を通して、一番伝えたいこと、つまり、自分の経験や思いの“一番コアな部分”をひとことで表してみましょう。ひとつに絞りきれない場合は、複数候補を挙げておき、最後に文章を読み返して、一番フィットするコピーに決めるのでも良いでしょう。
また、インパクトがあるタイトルをつけたいという場合、お気に入りの本のタイトルや、自分が興味を惹かれた記事の見出しなどを参考に、アレンジしてみるのも良いでしょう。
もし何も浮かばない場合は、以下を参考に考えてみてください。
—文章にメリハリをつける
タイトルまでつけると、このストーリーを通じて伝えたいことがかなり具体的に見えてくるはずです。
ここからは、また文章に戻って仕上げをします。
まずは先ほど付けた章タイトルや節タイトルに沿って、文章にメリハリをつけていく作業です。各タイトルで言っていることと関係ないことや、同じようなことを何回も言ってしまっている、という箇所は思い切って削ったり、逆に、もっとしっかり伝えたい箇所は深掘りしたり、文章を厚くしたり、全体にメリハリをつけていきましょう。大事なのは、上手な文章を書くことではなく、自分の思いを自分の言葉でわかりやすく伝えることです。伝わればOKです。
そして最後に、整えるという作業です。
ほか、ファクトチェック(情報の真偽を検証する作業)や、著作権侵害に当たらないかどうかもチェックしましょう。特に著作物に関して触れる際は、引用の範囲かどうかも確認しておきましょう。
これら作業が終わったら、一旦完成です。
一度口に出して音読してみると、違和感や間違いに気づきやすいもの。
身近な人に聞いてもらうのも良いでしょう。
—「物語の主人公の行動にはいつだって動機がある」。最後にちょっとしたテクニックの話を5つほど
最後に少しだけテクニックの話を。ベースのストーリーが完成して、もっと魅力的なストーリーにしたい、という際のひと工夫としてご覧ください。
【1】行動にはいつだって動機がある。ストーリーに欠かせない「REC」
メリハリがない文章において良く見られるのが、「●●ということがありました。そして●●を経験しました。次に●●がありました」と、出来事だけを書き並べてしまうケース。レポートや報告書ならこれで良いのですが、今回はストーリーです。心に響くストーリーは、人の行動と感情によって紡がれます。なぜその行動をしたのか? その時どう思ったのか? そしてどうなったのか…など、動機や感情、変化も合わせて書くことで、読者や聞き手の理解が深まり、感情移入が起こります。もちろんすべての出来事において書く必要はなく、特に伝えたいエピソードに関して、書いてみてください。
ちなみに、私はひとつの出来事を語る時、「REC」をセットで考えるようにしています。Reason(理由)、Emotion(感情)、Change(変化)です。
【2】セリフを入れることでエピソードにリアリティが生まれる
当時を振り返り、自分が言われて印象的だったセリフ、そして自身のセリフで、今でも覚えていることなどを文章の中に入れてみてください。正確でなくても構いません。セリフが入ることで、そのエピソードがより生々しく伝わり、臨場感とリアリティが生まれます。
そして、第三者の視点も入れることも◎。「◯◯さんは自分のことを◯◯と言っていた。自分が◯◯したことについて、◯◯さんは、◯◯という意見を持っていた」など、第三者の自分に対する評価や意見を入れることで、視点が偏らず、俯瞰して捉えることができ、ストーリーが立体的になります。
【3】サイドストーリーとメインストーリーが逆転しないように。主語はあくまで自分。
これもよくある話なのですが、いつの間にか、サイドストーリーがメインになってしまうパターンです。
例えば、「世の中では◯◯と言われている。なぜなら…」、「我が社では◯◯が大事だと言われてる。それには3つの理由がある。それは…」など、自分の周辺のことに関する文章が多くなり、”私は”という主語を用いた文章がサイドストーリーになってしまうことがあります。
先ほど、第三者の意見を書くことで立体的になると言いましたが、あくまで主人公は自分自身。あなたのストーリーにおいては、主人公の物語を彩るために第三者が存在するのです。それを忘れないように、主語=自分を意識しながら書いてみましょう。
【4】やっぱりつかみは大事。ドキッとさせられるかどうか?
初対面で「もっと話したい」 と思ってもらえる工夫と同じで、文章の最初に、もっと読みたい、もっとこの人のことを知りたいと思ってもらえることは重要です。最初に、読者への問いや、ドキっとさせるひとことを入れることで興味を魅きつけることができます。
これはあくまで一例です。
要は最初のメッセージで、ドキッとした、ワクワクした、動揺した、モヤっとした…など、その感情は何でも構いませんので、読み手の心を騒つかせることができるかどうか、ということが大事なのです。
ぜひ、ストーリーの中から、言葉を抽出してみてください。
【5】難しい言葉を使わない。説明はシンプルに
ビジネスパーソンの場合、業界用語や専門用語を使ってしまいがち。
しかし、わからない単語が続くことで、読者が離脱する原因になります。
また、いちいち調べながら読まなければいけないようでは、ストーリーに集中できず、感情移入できません。極力、誰にでもわかる言葉や表現に翻訳して、どうしても専門用語を使う必要が場合は、解説や注釈を入れるなどで補うようにしましょう。
ー【最後に】自分のストーリーは唯一無二のコンテンツ。
自信を持って公開しよう
いかがでしたでしょうか。
自分のストーリーを書いておけば、対面で自己紹介をする際にも抜粋して使えますし、新しいことを始める上での経験の洗い出し、価値観のあぶり出しなど、自身の整理にもなりますね。ぜひ、新年度が始まる前にチャレンジしてみてください。
ーーー最後に伝えたいのは、自分のことを語れるのは自分だけということです。どんなに憧れの偉人になりたくても、漫画の主人公になりたくても、あなたは自分自身にしかなれません。どこか似通った情報に溢れた中で、唯一無二の価値あるコンテンツです。
大切にしつつ、自信を持って発信していただきたいです。
そして、人生、いいこともあれば、悪いこともあります。
何かに挑戦しなければいけないこともあれば、休憩が必要な時だってあるんです。だからこそ、どんな自分も認めてあげて、堂々と生きていくことが、自分を強くするのだと思います。
みなさん一人ひとりのストーリーが、世の中をより良くしていくことを願って。
(文 = 小林こず恵)
* * *
「4th place lab」のご案内
ローンディールでは、「はみだして、ためそう」をコンセプトに、会社をはみだして、やりたいことをカタチにするオンラインコミュニティ「4th place lab」も展開しています。「会社をはみだして、新しいことを始めたい」という皆様、ぜひご参加ください。
【レンタル移籍とは?】
大手企業の社員が、一定期間ベンチャー企業で事業開発などの取り組みを行う、株式会社ローンディールが提供するプログラム。ベンチャー企業の現場で新しい価値を創りだす実践的な経験を通じて、イノベーションを起こせる人材・組織に変革を起こせる次世代リーダーを育成することを目的に行われています。→詳しくはこちら