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【書籍発売!記念】なぜ大企業のマネジメント層に「リーン・マネジメント」が必要とされるのか?

多くの日本企業の中で、既存事業の変革や新規事業の立ち上げが試みられているものの、成功しているという話はほとんど聞きません。優秀な人材が多く集まるはずの大企業でも、既存事業の変革は頓挫し、新規事業の立ち上げは失敗に終わってしまうのでしょうか。それはマネジメント手法に大きな誤りがあるからだと考えます。未知なることに挑戦するときは、従来から続けてきたマネジメント手法が適しているわけではありません。未知なることに挑戦するためのマネジメント手法が求められます。

それが「リーン・マネジメント」です。

こんにちは。ローンディール最高戦略責任者(CSO)の細野です。
ローンディールでは主に、レンタル移籍事業の戦略立案や、移籍者上司向けのマネジメント講座、発想力を鍛える研修プログラムの企画運営を担当しています。これまで移籍者と移籍元上司との関係を見てきたことをもとに、移籍者が戻った後にどのようにマネジメントすると活躍してもらえるのかとお悩みの方、また、新規事業や不確実性の高い取り組みをされているマネジメント層の方にもお役立ていただける内容をお伝えします。

初めてメンターとして担当したレンタル移籍者からの突然の退職相談


5年前に起きた出来事についてご紹介させてください。
当時、私が初めてメンターとして1年間担当した移籍者がいました。彼は、移籍先で大きく変化、成長を遂げ、戻った後に自社でも新しい事業を立ち上げるんだと息巻いていました。しかし、そんな彼から1ヶ月ほど経って私に連絡がありました。

「本当に申し訳ないのですが、退職をするかもしれません」。

状況を聞くと、せっかくベンチャーで身に着けてきた仕事のスピード感ややり方が自社の従来型のマネジメントと全く合わずに浮いてしまっていて苦しいとのことでした。それまで私たちローンディールは移籍者を十分に変化・成長させれば、大企業に戻って活躍してもらえると信じていたので、この出来事は大変ショックでした。

すぐに本人と話をして、「大企業の中ではベンチャーと全く同じようには動けないが、こういう風にお願いすれば上司は協力してくれるはずだから粘り強く協力をお願いしてみて」、とアドバイスしました。結果的に、直属の上司はご自身もMBAから帰ってきて同様の苦しみを味わった方でしたので、彼のことをよく理解し味方になって支援してくれたことで、生き生きと活躍することができました。

この出来事の教訓から、ローンディールでは移籍者の戻り先の上司の方を対象に「ベンチャーのマネジメントはどのようなものなのか?」「大企業がそのマネジメントの良さを取り入れるとしたらどのような点がポイントになりそうか?」を共有させていただく講座を開始しました。それが3年前から実施している「リーン・マネジメント講座」です。

「明日からでも取り入れられる実践的な内容だった」「チームや会社をどう動かせばよいかを考えるよいきっかけになった」などのお声をいただき、これまで300名以上の方にご参加いただきました。ここでは、なぜ大企業のマネジメント層に「リーン・マネジメント」が必要とされるのか? その背景をご紹介します。

大企業が迫られるマネジメントのトランスフォーメーション


私自身、リクルートで転職支援サービス「リクルートエージェント」を担当していたときに、大企業の中で既存事業を変革することの難しさを経験しました。これまで通りに既存事業を伸ばしていく時と、未知なることに挑戦する既存事業の変革や新規事業の立ち上げとでは、求められる仕事のプロセスが全く異なるのです。
幸いリクルートエージェントの取り組みでは、1年間で100億円の売上アップという成功を収めました。実際に行ったのは、マネジメント手法の抜本的な改革でした。

マネジメント手法を大きく見直すことができたのは、リクルートエージェントを担当する前に新規事業開発を担当していた経験があったからです。私は2000年にシステム担当としてリクルートに入社し、リクナビNEXTを担当した後、新規事業開発の担当になりました。そのときに『リーン・スタートアップ』(エリック・リース著 / 日経BP)という本に出会い、むさぼるように読んで勉強しました。

「リーン・スタートアップ」とは、本格的なプロダクト開発をする前に、低コストで実験を行い、顧客の反応を見ながら改善を繰り返していくというやり方です。私はその本で学んだことを、新規事業開発チームで日々実践してきました。2年間でトータル20個ほどの小さな実験を繰り返したものの、残念ながら事業化には結びつかなかったのですが、そこでの学びは大変大きなものがありました。私も初めは、リーン・スタートアップで学んだことを実行しようとしても、うまく進みませんでした。スタートアップ企業のように日々トライアル&エラーを繰り返すのが当たり前の環境でリーン・スタートアップを実践するのと、組織構造が複雑な大企業の中で実践するのとでは、大きく異なるからです。

でも、次第にわかってきたことがあります。「べき論」「理想論」を掲げて「こうすべきです」と息巻いても会社に受け入れてもらえないけれど、「受け入れてもらえるようにするコツがある」ということです。その蓄積があったからこそ、2013年にリクルートエージェントに異動になってから、わずか1年で大きな成果を残せたのです。

リーン・マネジメントを成功させるための「3つのセオリー」とは?

そこで、自らの経験も踏まえ、典型的な日本企業、特に大企業の中で、どうすればリーン・スタートアップを実践できるかということで編み出したのが「リーン・マネジメント」という手法です。
「リーン・マネジメント」は、大企業が得意な、緻密な計画立案と着実な遂行によって行われるマネジメントとは異なり、不確実性の高い状況下で、リスクを限定した「小さな実験」を繰りかえすことでプロジェクトを成功に導くためのマネジメントです。ここでは、リーン・マネジメントを成功させるための「3つのセオリー」をご紹介します。

1.リアルオプション戦略(プロジェクトのジャッジ法)

不確実性が高い状況下で「やる・やらない」の二択を迫られる際に「小さな実験」によって選択肢を増やす戦略のことです。たとえば、500万円の高価なキャンピングカーを買うか買わないか、二択で考えている際に、購入のメリット・デメリットを書き出して机上で検討するのではなく、3万円程度の1日レンタルをして実際に体験してみることで、大きな失敗を回避することができます。

2.スモールバッチとワンピースフロー(小さく実験する)

不確実性が高い状況下で実験を行う場合には、大きなロットを分業で行うのではなく、小さなロットを一人で全工程行うほうがいいという考え方です。たとえば、作ったことのない料理にチャレンジする時、一気に10人分の量を複数人で分業して作ったりはしないですよね?まずは1人分の量を自分一人で全工程やってみることで、発生する様々な問題に柔軟に対応できます。

3.ポートフォリオ(小さな実験を組み合わせる)

不確実性が高い状況下では一つの実験に全てを賭けるのではなく、分散投資をするべきという考え方です。投資の世界では、資産を1社の株式に全投資するのはリスクが高く、株式、債券、国内、国外などに分散投資してリスクを分散させるのが定石と言われています。これは仕事においても同様で、ビジネスを成功に導く可能性に対しては薄く多方面に実験投資を行い、うまくいくことがわかったところに投資を寄せていくようなマネジメントが求められます。

移籍者は不確実な環境下での仕事のやり方を身に着けています。自社においても、不確実性の高い仕事をアサインいただき、「リーン・マネジメント」を活用することで、移籍者の経験を生かしていただければ幸いです。

今後、ますます我々は不確実な環境下で新しい取り組みを行うシーンが増えていくと予想されます。新しいことにチャレンジされる皆さんにとって「リーン・マネジメント」が進むべき方向性を指し示すコンパスのような役割になれば嬉しいです。

Fin


絶賛発売中!
『リーンマネジメントの教科書』

著者:細野真悟 / 出版社:日経BP 

「リーン・マネジメント講座」の内容が書籍化されました。上記「3つのセオリー」の解説に加えて、リーンスタートアップを実践するために必要なツールをご紹介。今後ますます大企業に変革が求められていく中で、マネジメント層の方々にとって強力な武器となる情報を1冊に集約しています!

Profile
細野真悟  /  株式会社ローンディール 最高戦略責任者

2000年にリクルートに入社しリクナビNEXTの開発、販促、商品企画を経験した後、新規事業開発を担当。2013年にリクルートエージェントの事業モデル変革で100億/年の売上UPを実現し、リクルートキャリア執行役員。2016年からローンディールに参画。ビジネスモデルの構築やメンタリングの仕組み構築、および移籍者のメンターを担う。戦略立案と新規事業立ち上げを行いながら、複数のベンチャーの戦略顧問も兼任。NTTドコモ・関西電力など大手企業の新規事業開発支援も行う。


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