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新規事業家 守屋実さんと考える「大企業で通用するビジネスアイデアを手に入れるには?」

&ローンディール

「自分事として本気になってぶつかることが、その事業アイデアを筋の良いものに転換する一歩目」。新規事業家である守屋実さんはそういいます。守屋さんはこれまで、株式会社ミスミで17の新規事業を立ち上げ、現在は、数々の大企業で新規事業のアドバイザーを務められています。新規事業が生まれにくい大企業に反して、いくつも事業を立ち上げる連続起業家は、どのようにしてビジネスアイデアを考えているのでしょうか? そして大企業で働く個人は、どうしたらそのアイデアを手に入れることができるのでしょうか? 守屋さんをお招きして開催した対談イベントの一部を要約してお届けします。

ビジネスセンスの肝は、
“想定し得る失敗”をどれだけ経験したか


細野:守屋さんは新規事業家として、ものすごい数の新規事業に携わっていらっしゃる。1,000本ノックのように事業をやり続けていらっしゃる方って、他に見たことないです(笑)。元々は株式会社ミスミで新規事業の開発をされていらっしゃいましたが、そこでの経験が大きいのでしょうか。

守屋:そうですね。19歳のときに、大学の先輩がつくった学生ベンチャーに入れてもらったのが初めての起業体験で、そのあと新卒で入社したミスミで10年、ミスミ創業者の田口さんとエムアウトという会社を創業し、そこで10年、合計20年サラリーマンをやってきました。その中で17回連続、新規事業だけにアサインされたんです。

普通、社内の新規事業ってそんなにたくさんはやらないと思うんですよね(笑)。失敗すると二度とアサインされなかったり、逆にうまくいくとその事業に専念しないといけなかったりで、そんなに次々と携わる機会はないと思うんです。でも田口さんが、それが問題なんだと。たとえば経理や法務のプロというのは、ずっとやってるから上手くできるようになるけど、一方で、新規事業はずっとやり続ける人がいないからみんな素人で上手くいかないのが根本的な原因だということでした。

だから「お前はうまくいってもいかなくても、永遠にやっとけ」って。そこから新規事業人生が始まりましたね。

守屋 実さん  新規事業家/JAXAプロデューサー
1992年に株式会社ミスミ(現ミスミグループ本社)に入社後、新市場開発室で、新規事業の開発に従事。メディカル、フード、オフィスの3分野への参入を提案後、自らはメディカル事業の立上げに従事。2002年に新規事業の専門会社、株式会社エムアウトを、ミスミ創業オーナーの田口氏とともに創業。複数の事業の立上げおよび売却を実施後、2010年に守屋実事務所を設立。設立前、および設立間もないベンチャーを主な対象に、新規事業創出の専門家として活動。投資を実行し、役員に就任して、自ら事業責任を負うスタイルを基本とする。著書に『起業は意志が10割』『新しい一歩を踏み出そう!』などがある。

細野:めちゃくちゃ本質的ですけど、過酷ですね(笑)。

細野 真悟 ローンディール最高戦略責任者ビジネスデザイナー
2000年にリクルートに入社しリクナビNEXTの開発、販促、商品企画を経験した後、新規事業開発を担当。 2013年にリクルートエージェントの事業モデル変革を行い、1年で100億の売上UPを実現し、リクルートキャリア執行役員 兼 リクナビNEXT編集長に。  現在は企業間レンタル移籍プラットフォームを提供するローンディールのCSOを務めながら、フリーのビジネスデザイナーとしても複数のベンチャーの戦略顧問や大企業の新規事業部門のメンタリングを行う。 著書に『リーンマネジメントの教科書(日経BP)』がある。

守屋:誤解のないように言っておくと、僕がスーパーマンで成功しまくったから田口さんが17回連続指名されたわけではなくて。5勝7敗5引き分けだから負け越してる。そんなに簡単にうまくいくわけがなくて、失敗しまくってます。だから正直辞めたい時期もありました。

3回連続して失敗して、成功のイメージがわかなくなっちゃったんですよね。何よりしんどかったのは周りの人の目が冷ややかだったこと。面と向かって「守屋さんってハズレくじですよね」って言われて。そんなことを言われちゃうぐらい追い詰められて、その時は、月曜日を迎えるのが本当に嫌で嫌で(笑)。

細野:守屋さんにもそんな時期があったんですね。

守屋:そう。よく勝ち方を教えてほしいって言われるんですど、正直、必勝法なんてものはいまだに分からなくて、勝ちたかったら必死に頑張るだけだよって話しています。

僕の場合、すごい頑張っていると、時々いいことが起きて、そのたまたま起きたラッキーなことをつかみ取ると成功することがある、っていうのが今の自分の地力なんです。ただこれはやばいかもしれないっていう、危険察知能力みたいなものはだいぶ身についたと思うんですね。何回も転ぶと心と身体が覚えるので。

細野:今は独立されて、より多くの新規事業や創業に関わっていらっしゃいますが、やっぱり打席数みたいなものが、ビジネスセンスをつくったっていう、そういう感覚ですか?

守屋:プロの定義っていろいろあると思うんですけど、一定の時間を費やしていれば、誰でもその分野のプロになれると思っていて。中でも、その特定の狭いエリアにおいて“想定し得る失敗”を全部経験したかどうかが肝になる。

新規事業という狭い中で、こんなビジネスプランではダメなんだとか、こんなチームではダメだとか。この程度の資金だと途中で尽きるんだなとか、そういうことを体感しているかどうかが大事なんじゃないかなと。

細野:世の中に、こうやればビジネスがうまくいくみたいなフレームワークの本とかいっぱいあるじゃないすか。みんな一生懸命読んで、その通りやるけどうまくいかないことってよくあると思うんですよね。でも、失敗してみて、こっちは危なそうだな、だからピボットしようとかっていう、その積み重ねでうまくいく確率が上がるっていう。

守屋:新規事業って十中八九うまくいかないんですけど、失敗を重ねるとその“八九”がわかってくる。たまたま上手くいった1個に汎用性って少ないと思うんですよね。だから、たった1個に賭けるのではなくて、量稽古のなかで着実に八九の経験を積み重ね、最後の1つに詰め寄る方が早くて確実なんじゃないのかなとは思ってますけどね。

それに、前人未到の課題にぶつかってるって多分あまりなくて。ただそれを知らなかったりするので、難問に思えるだけ。でも必ずやった人が過去にいるので、そういう人に教えてもらったり協力してもらったりして、とにかく経験してくのがいいんじゃないかなと思いますね。

細野:会場からのご質問で「会社が減点主義なので1回失敗するとチャンスが来ないからそれができない」っていう嘆きのコメントが届いてますが。

守屋:そもそもですよ、上司が1分の1で成功しろって言ってるとしたら、その上司は新規事業をやったことがないと思うんですよ。そんなわけないんだから。そういう環境で新規事業をやっても多分うまくいかない。やったとしても結構苦しいなと思います。

なので、僕がおすすめしているのは出島みたいなものを作るということ。僕が今働いているJRでいうと、JR東日本スタートアップという別の会社を作って、今10人ぐらいでやってるんですね。この5年間で1000以上の案件を揉んで、108個の実証実験をしています。結果として51個事業化できている。

細野:じゃあ、先程のご質問者のような場合は、社外に環境を作るしかないと。

守屋:ただ僕なりのアドバイスで言うと、みなさんが今みたいなことを上に向かって投げるのはやめた方がいいと思っていて。自ら「半沢直樹」をやっても大体は悲惨な目に遭うので。やるなら、半沢直樹を外注した方がいいと思っています。たとえば僕のような外の人間が言った方がいい。言ったからといってすぐにどうなるわけではないと思うし、無礼なやつだとあっけなく切られてしまうかもですが、でも、発注者のみなさんは生き残る。そしたらタイミングを見て別の半沢直樹に再発注する。諦めなければ、いつか景色が変わる日が来ると思うんです。

細野:半沢直樹を外注。面白いですね。ちなみに、出島を作ればあとは勝手に事業が立ち上がるってものじゃないと思うんですが、どんな環境が大事なんでしょうか。

守屋:出島を作るんだったら自社の社員だけじゃない方がいいですよ。たとえば「本業に並ぶぐらいの事業をつくる」ってことだとしたら、上場企業を作るのと一緒だと思うので、上場経験のある人を半分ぐらいそこに入居させるべきです。というのも、そういうプロたちが大量にいる中にいたら、それが当たり前になって、勝手に混血になると僕は思っています。

ニーズや課題はそこらじゅうにある


細野:ちなみに数多くの大企業の新規事業に携わる中で、守屋さんが感じる新規事業の課題とか、共通の困り事とかありますか。

守屋:ひとことで言うと、“本業の汚染”が問題だと思います。大企業がなんで大企業なのかっていうと、それは強靭な本業があるからですよね。大前提としてお客様がいて市場も決まっている。車の会社だとしたら、車をつくって売るということが決まってるので、どこの部署に行こうが車なんですよ。そこに新規事業って入りにくいんですよ、当然。

JRでいうと何が一番大事かというと「定時運行」。それを実現するために、ありとあらゆる部署の人がすごい頑張っていて。だから定時運行に関係ない新規事業は、本業で何かあったときに検討自体がストップする。そうやって、どうしても新規事業って本業の影響を受けてしまうんです。だから影響を受けない出島が必要なんです。

細野:なるほど。おっしゃったような”本業の汚染”問題はあると思うんですけど、一方で、そもそも社員が新規事業のアイデアを考られるのかどうか、についてはどのように感じられていますか。

守屋:たとえば車の会社の場合、上司も同僚も部下も取引先も競合も何もかも全部車ですよね。そうすると車に関しては、普段生活していても、自然とアンテナに引っ掛かる。他社がこんなことやってるとか、自分たちもやらないとヤバいとか。

だけど、それ以外に関してはスルーする癖がついてしまう。僕は新規事業家でやってきているから、世の中のありとあらゆることが自然とアンテナに引っ掛かる。たとえば今日みたいなウェビナーをやっているときで言うと、マイクが家の玄関の音を拾ってしまうのが気になるんです(笑)。「このマイクから半径50cmのものだけの音源をとってこられないのかな」とか。そうした日常の引っ掛かりが、ビジネスチャンスになっていくわけです。

細野:車だったら車ってことに特化しすぎて日々生きているので、ビジネスチャンスに気づけないっていうのが大きいんじゃないかってこということですね。

守屋:たとえば事業アイデアが思い浮かばないとか、どこかに落ちていないかなとか、探している人もいると思うんですけど、実はその辺に落ちていて、腐るほどあるんですよ。

僕の場合、1個の事業をやると、その事業に関する解像度が上がり、その事業の周りに別の課題があることに気づくことになる。つまり、事業を手掛ければ手掛けるほど、手掛けたいと思うことがどんどん増えるわけです。でも自分は事業を手掛けているわけだから、他の事業にまで手を伸ばすことはもうできません。やりたいけどこれ以上無理って。だから、アイデアが思い浮かばない、なんてことはないんです。

細野:そうやって見つけたニーズや課題から、どうやって筋のいいアイデアを生み出せるのかもみなさん気になるところだと思います。

守屋:”筋のいい”っていう意味が人によって違うと思うんですが、僕は「何が何でもこれを解決したい」って本人がやる気マンマンになれるものが、筋のいいやつなんじゃないかと思ってるんですよね。自分事として本気になってぶつかることが、その事業アイデアを筋の良いものに転換する一歩目なんじゃないかと。

なので、そうした湧き上がるものがなく、サクッとうまく成功させられるものを”筋がいい”って言ってるんだとしたら、それは成功に遠いから、やめた方がいいと思いますよ。新規事業ってそんなに簡単じゃないので。

細野: これって自分自身が課題と思うものをやるのか、いろんな人にヒアリングして課題を見つけてやるのかって、2つのタイプがあると思っていて。僕は自分が課題と思うやつ以外やりたくないタイプなんですけど(笑)、守屋さんってどっちのタイプですか、どっちもいけますか。

守屋:どっちもいけますね。特定の方たちが何かに困っていたり、自分が何かにちょっと引っかかるような原体験って毎日あるんですよね。その原体験に注目してて、どんどん雪だるまのように膨らませていくと、強固な原体験になると思うんですね。僕は別に人から聞いたなるほどっていう体験の追体験ができちゃうタイプなんで。

細野:感化されやすいタイプだったらヒアリングして原体験をものにしてけばいいと。

守屋:はい、そんな感じです。そして、とにかくやってみた方がいいんじゃないかと。挑戦したいと感じたら、まずは動いてみる。頭の中だけで考えていると理屈上正しい結論とか世間体がいいとか、こねくり回して変に捏造しちゃう。それよりは一旦手を動かしてみると、なんかつまらないなとか、けっこうおもしろいなとか、もっとやりたいなとか、勝手に自分の中の“本音の物差し”が出てくると思います。

細野:課題やニーズをどう探せるのかってところに着目している人も多いと思うんですが、これまでのお話を伺っていると、守屋さんは別に探してないってことですよね。生きていたら出会っちゃうみたいな。

守屋:たとえばですけど先程の「マイクがなんか変じゃないか」みたいな話って、日常でいくらでもあると思うんですね。そうした気づきに創造的な仮説を立てて、実際にやってみる。そうやって高速回転させていくことで、いくらでも思いつくんじゃないかなって。創造的な仮説を立てない、アクションして磨くことを一切やらないと、ずっと進化がないんじゃないかなと思いますね。

ビジネスセンスを鍛えるには、
勉強するよりもやってみた方がいい


細野:これまでのお話を伺うと、「新規事業にアサインされて、今から何か考えなきゃいけない」っていう状態と、守屋さんみたいに常に全速力で楽しそうに走ってるから常に身体が温まっていて、どんなボールでも打ち返せますみたいな状態になってるのと、この体温の差が違うのかなっていう印象です。

守屋:何度も言いますけど、とにかく勉強ばかりするんじゃなくて、新規事業やりたいならやってみると。自転車に乗りたいなら乗るし、泳ぎたいなら水に入りますよね、それと同じ。僕は、人は”考えたようになる”んじゃなくて“行った(おこなった)ようになる”と言っているんですが、起業家になりたいんだったら、一生懸命勉強するんじゃなくて、どんどん事業をやった方がいいんですよ。

細野:それが場数を増やすことになりますよね。

守屋:たとえば、いま勤めている会社をもっと自分ごと化させることからやってみてもいいんじゃないか、と思っていて。「自分はこの会社の社長じゃないから関係ない」っていう姿勢が良くない。社長は別にいるんだけど、自分の会社って思って働いた方がいいんですよね。

他人ごとだと役割以上に動けないし、給料分しか稼げなくなる。でも自分ごとにした瞬間に、こうしたほうがいいって動きが生まれてくるんです。まずはそうやって、自分の会社だと思うようにして、“起業体験”をしてみるのがいいと思いますよ。

それから最もおすすめなのは、修羅場の時に逃げないことですね。たとえば、細野さんの会社を手伝ってたとして、細野さんが切羽詰まってるときは、最終的には細野さん頑張ってって話になりがち。だって細野さんの会社だから。そうやって大体の人は他人ごとだし修羅場のときはヤバいって逃げると思うんですけど、そのマインドでいる限りは、なかなか事業をやっていくのは難しいと思いますね。

細野:新規事業を勉強するよりも、「これは自分の事業だ」と思うぐらいの気持ちで関わってやることで機会を増やすみたいなことですね。最後に、新規事業に挑む皆さんにメッセージをいただければ!

守屋:人は”考えたようになる”んじゃなくて、“行った(おこなった)ようになる”と思ってるので、今日こういう話を聞いて”面白かった”で終わらせると、面白かったと思ってそれで終わりで何もしない、ということが身についてしまう。そうなると今後も行動まで起こせない人になってしまうと思うんですよね。

なので、面白かったと思ったなら、行動に移すことまでしていただけるといいかなと思います。そうやって一歩進んだら必ず二歩目が出ると思うので、今日がそういう機会になったら嬉しいですね。


Fin


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