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「走りながら考える。答えのない領域に挑むために必要なマインドセット」富士通 内海晃さん –前編-

コンフォートゾーンを飛び出すことで、新しい成長を掴みたかった

次々と訪れる変革の波。既存の成功パターンに執着するのではなく、マーケットの動向を先読みしながら、時代に合った事業モデルを開発していくことがビジネスの鉄則だ。特に技術革新の激しいIT業界は常に進化し続けないと、あっという間に市場からの退場を余儀なくされる。
創業85年。日本が誇るITベンダー・富士通であっても例外ではない。

「私が富士通に入社した頃と比べてもビジネス環境は様変わりしていて、当時はなかったようなクラウドアプリケーションサービスが今は主流。その中で富士通も変わろうとはしているけれど、レガシーなビジネスモデルから脱しきれていない印象があった。漠然と、10年後に富士通はあるのだろうかという懸念がありました」

そう語るのは、2003年に入社した内海晃さん。入社以来、一貫してアカウントセールスとしてキャリアを積み、外食企業を軸にITソリューションを提案。現在はマネージャーとしてチームの統括や後進の育成にも励んでいる。

「外食産業に関する知識は社内の誰よりも詳しいという自負がある一方で、せっかく富士通という会社に入ったのに、ひとつの業種しか知らずに終わるのはもったいないなという気持ちもありました。他のフィールドで自分の力がどこまで通用するのか試してみたい。もっと成長できる場がほしい。そう考えていた矢先に知ったのが、ローンディールさんの“レンタル移籍”でした」

期間限定でスタートアップへ“移籍”する。それは自己改革の場を求めていた内海さんにはうってつけのチャンスだった。今後、社内で制度化することを見越し、まずは自らがサンプルとして“レンタル移籍”にトライすることに。

内海さんの移籍先は、クラウドロボティクス・プラットフォームの開発・提供を行うRapyuta Robotics株式会社。CEO・CFOの両名がスリランカ人。エンジニアの9割が外国人というグローバル企業だ。

「面談の段階で社内のコミュニケーションは英語だと聞かされました。大学で英語を専門に学んでいたわけでもなく、仕事で英語をふれたのも入社したときに受けた英語研修以来(笑)。そんな私が社内の公用語は英語という環境に飛び込むこと自体、大きなチャレンジでした」

社会人経験は15年を超えた。ビジネスパーソンとして着実に成功体験を積み上げてきた。社内からの信頼もある。今さら挫折や失敗のリスクがある道を選ぶ必要などないようにも見えた。それでも、内海さんはコンフォートゾーンを飛び出す覚悟を決めた。背中を押したのは、メンターからの一言だった。

「『死なないんだから、どんどんチャレンジしようよ』って。その一言を聞いて確かにそうだなって、少し気持ちが軽くなりました」

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経験のない業務への挑戦。壁にぶつかったことで見えた変革の兆し

Rapyuta Roboticsにやってきた内海さん。最初はこれまでの経験を活かして営業部門を担当。セミナーに集客したり、展示会に出展したり、積極的にアクションを起こしていくことで新規顧客との接点を創出し、ビジネスチャンスを獲得していった。

営業のキャリアは15年以上。いかに社名や領域が変わろうと、蓄えたベーシックなスキルは十分に横展開が可能だ。少しずつRapyuta Roboticsでの営業にも慣れはじめ、未知なる地でも「自分の力は通用する」と自信を深めはじめていた。

そんなとき、思いがけない転機が訪れた。

「Rapyuta Roboticsに来て1ヶ月くらい経った頃だったと思います。大手物流会社のプロジェクトのオペレーション企画に、私がアサインされたのです」

Rapyuta Roboticsがクライアントに提案したのは、物流倉庫向け協働型ピッキングアシスタントロボットのサブスクリプションサービスだ。現在、物流業界では倉庫内のピッキング作業をいかに効率化し、作業者の負荷を軽減するかが課題に挙げられている。その解決策として注目を集めているのが、ピッキングアシスタントロボットの導入だ。これを、毎月定額料金で提供するのが、Rapyuta Roboticsのサービス。この分野における日本での商用化は今回が初めてという、Rapyuta Roboticsの社運を背負ったプロジェクトだ。

「その中で私は、導入に向けてのオペレーションの企画、具体的に言うとお客様に対するオペレーションの教育やマニュアル作成、導入後の運用保守体制の企画を担当しました。まずは1拠点からの導入になるのですが、今後複数拠点に導入することを考えると、より汎用性の高いプランでなければ対応できない。お客様の要望を汲み取りながら、サービスがスケールした先のことを視野に入れて、最適なオペレーションを考える。そのバランスが非常に難しく、最も意識したことでした」

これまでの営業職との違いは、「明確な答えがない」ことだった。商用化は今回が初。先行事例は何もない。誰かが確実な正解を持っているわけでもない。その中で答えを出していくことに、内海さんは苦心した。

「ただでさえずっと営業しかやってこなかった私にとって、企画部門の仕事はわからないことだらけ。何度も壁にぶち当たりましたけど、その度に執行役員の森さんに助けてもらいました」

慣れない業務に対し、日々いろんなアドバイスをもらった。その中でも特に印象的だった言葉がある。

「『何かわからないことがあったとしても、立ち止まって考えるんじゃなく、走りながら考えるんだ』と教えてもらって。それが、自分の仕事のやり方を変えるきっかけになりました」

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IREX(国際ロボット展)出展時の1枚。写真右が内海さん


間違っていたらその都度修正すればいい。まずは決めて走り出すことが大事


そう言って、内海さんはこんな例を挙げた。

「たとえばデータを収集する際に、どれくらいの頻度で壊れるのかというロボットの障害率が必要になったとします。でも、初めて商用化されるロボットだから誰に聞いてもわからない。そこでまずは国内外を問わずいろんな文献やWebサイトを当たって、まったく同じでなくても、近い領域の中から参考となる数字を引っ張ってきます。そして、その数字をもとに試算し、分析を進めながら、もし誤りが発生したら、そのときに改めて修正し、計算をし直す。これが、Rapyuta Roboticsで身につけた仕事の進め方です」

仮説を立て、実行し、検証のもと、修正を行う。それは、慎重さと確実性を期す大企業の慣習とはまったく異なる手法だった。

「もう今まで使っていた筋肉とはまったく違いましたね。でも、答えがない中で答えを出していくには、これがベストなやり方なのかなと。間違っていたらその都度直せばいいから、まずは決めて走り出すことが大事。そして、その決めの部分にビジネスパーソンとしての経験値やセンスが出るんだと実感しました」

経験値を積み、センスを磨くには、とにかく打席に立つしかない。

「森さんもよく『走りながら考える』のその『考える』の精度をいかに上げていくかが大事だと話していました。それにはとにかくいっぱい失敗をしていいから、その失敗から何かを学んでいくことが重要。そういう意味では、自分の責任で判断する機会の多いスタートアップは、考える精度を上げるいいトレーニングの場になりました」

そう言って明かしてくれたのが、内海さんが“レンタル移籍”の期間で犯したある失敗の話だった。はたして内海さんは失敗からどんなことを学んだのだろうか。

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Rapyuta Roboticsにてメンバーとの1枚。左から2番目が内海さん。一番右が、森さん。


 →後編はこちら


【レンタル移籍とは?】

大手企業の社員が、一定期間ベンチャー企業で事業開発などの取り組みを行う、株式会社ローンディールが提供するプログラム。ベンチャー企業の現場で新しい価値を創りだす実践的な経験を通じて、イノベーションを起こせる人材・組織に変革を起こせる次世代リーダーを育成することを目的に行われている。2015年のサービス開始以降、計38社97名のレンタル移籍が行なわれている(※2020年7月実績)。→詳しくはこちら


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協力:富士通株式会社 / Rapyuta Robotics株式会社
文:横川良明
写真:宮本七生
提供:株式会社ローンディール
https://loandeal.jp/

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