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【第1章 大鵬薬品から音楽の世界へ】製薬から音楽の世界へ 〜異業界で見つけた、自分のやりたいこと〜

朝の通勤電車。

女子高生らしき2人組がスマートフォンを見ながら楽しそうに会話をしている。

隣でニュースサイトをチェックしていた大西順子(おおにしじゅんこ)は、気がついたら彼女たちの会話に耳を傾けていた。

「今の流行りはこれなのね……」

大西は半年間の「レンタル移籍」を終えて帰って来たばかり。移籍中ずっと10代女子のことを考えてきた影響か、若者を見ると観察してしまう癖がある。

(1年前は、こんなことになるなんて全然想像してなかったなぁ)
大西は、自身が勤務する大鵬薬品のオフィスに向かいながら、数ヶ月前の出来事を思い出していた。

—新しいことにチャレンジしてみたい

大西は、新卒で大鵬薬品に入社した。

横浜支店に配属されて、入社から3年間はMRとして医薬品の営業を担当。柔らかな印象を持つ大西は、コミュニケーション力も手伝って、営業の現場で活躍した。また、何事にも一生懸命な性格で、熱意を持って仕事に取り組んでいた。

その熱意はやがて、本社から下りて来る指示に従い薬を売るだけではなく、「自分自身が、MRが自信を持って売り込めるような薬を持って来る側に行きたい!」という想いに変わる。

ちょうどその頃、本社のライセンス部で、語学スキルを持つ社員を探していた。帰国子女で英語が堪能な大西は、迷わず名乗りを上げた。

それからしばらくして異動が決まった。
ライセンス部は、「医薬品」のタネを外部から見つけてきて、ライセンス契約を締結し、自社で開発するという、まさに薬の事業開発の要の一つとなる部門である。

元々、「製薬の開発に携わりたい」という想いはあったものの、文系出身のため諦めていた大西は、強くやりがいを感じるようになる。

そして、ライセンス部に配属されてからというもの、他社の開発品の情報収集や情報交換のための会議を設定し、医薬品のタネを見つける、という日々を送っていた。好奇心旺盛で、情報収集が好きだった大西は、楽しんで取り組むことができた。

数年立つと、ライセンス契約の締結や、同部のアライアンスマネージャーとして、契約締結後の企業提携支援にも携わるようになる。

仕事は充実していた。満足感もあった。
しかし、ライセンス部の仕事にも慣れてきた数年前、仕事へのやりがいを見失いつつあった。

大西の仕事は、新しい薬のタネを育てることに関わる、会社の要でもある重要な業務。しかし、実際に薬剤が投与される患者さんとの距離も遠く、忙しい毎日の中で自分が何のために仕事をしているのかが分からなくなる瞬間があったり、また考えが凝り固まって来ている自分も感じていた。

いつしか、
「やりがいを感じられる新しい仕事にチャレンジしてみたい......」
そう思うようになっていた。 

そんな時、「社長室」への異動を言い渡される。
大西のミッションは、新規事業の開発である。
願ってもなかった異動に喜ばずにはいられなかった。

それが、昨年夏のことである。 

—「絶対に行きたい!」という強い想い

社長室の業務は、「製薬以外の新たな事業を開発すること」だった。

やる気はあったものの、今まで製薬の世界しか見てこなかった大西は、何をどう提案していいのか戸惑っていた。 

「もっと外の世界を見なければ……」
そう思い、視野を広げてみたものの、製薬以外のこととなるとどう事業化していけば良いのかわからずにいた。

ちょうどその頃、「社員は、社外の環境に触れて、広い視野を持つことが大切」という、小林社長の方針のもと、社長室では様々な研修プログラムの検討もなされていた。

大西は「レンタル移籍」の話を聞いた時、「自分が行きたい!」即座にそう思った。「ベンチャー企業に半年間行き、新規事業を経験できる」という仕組みに胸が高まる。

何からどう事業化して良いかわからないでいた大西は、「この仕組みで経験を積めば、今自分がぶつかっている壁を打ち破ることができかもしれない!」と期待もしていた。

その想いが通じたのか、小林社長から直々に、
「大西さん、どう?」と打診がある。
「ぜひお願いします!」断る理由はひとつもない。

大西はなんとか平常心を保ち返事をしたものの、心の中では大きなガッツポーズをしていた。

—あの頃の自分を思い出して

それからすぐに、移籍先のベンチャー企業を決めることになった。
ローンディールから提案されたベンチャー企業のリストを見て、大西は真剣に悩む。

(どの会社がいいんだろう……)
ふと、就職活動の記憶が蘇る———。

それは、大学生の頃に参加した、とある製薬会社の就職説明会での出来事。大西は当時、製薬業界に行きたいという強い意志があって説明会に参加したのではなく、DMで案内が来たから、くらいの軽い気持ちだった。

しかし説明会でのひとことが大西の心を大きく動かす。
それは、「MRだと、文系出身でも医療の一部を担うことができる」というメッセージだった。

大西は、大好きだったおばあちゃんのことを思い出す。
大西が高校生の頃に他界したおばあちゃん。その当時、冷たくなっていくおばあちゃんの手を握りながら、自分が何もできなかったことが悔しかった。

「私でも人の命を救う医療に貢献できるかもしれない……」
大きな夢を抱き、製薬業界への道を決意する。

そして最終的に入社を決めたのが、ビジョンと人に惹かれた、大鵬薬品だった。

「懐かしいなぁ……」
会社を選ぶのはそれ以来である。

—青春時代を振り返る。そして音楽の世界へ

大西は最初、移籍先として、ヘルスケア関連のベンチャー企業を希望した。
しかし、それを小林社長に話したところ、
「同じヘルスケアじゃ面白くないなぁ、全然違う業界がいいんじゃないか」とあっけなく却下。

大西は製薬会社以外にも目を向け、結果、全く業界の異なる「音楽ビジネス」を選んだ。株式会社nana musicである。

若年層を中心に、音楽を投稿&シェアできるSNSアプリとして人気の「nana」を展開しているベンチャー企業だ。

音楽ビジネスを選んだのには理由があった。
大西は大学時代、軽音サークルに入り、3つのバンドを掛け持ちするほど音楽にはまっていた。担当はボーカル。ビジュアル系からガールズバンドまで、とにかく歌うのが大好きで音楽三昧の日々を送っていた。

「自分が大好きだった音楽なら、頑張れるかも……」
大西は、当時夢中になっていた自分を思い出しながら、ワクワクしていた。

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大学生の頃に組んでいたバンドのライブ。大西はボーカル担当。

—まさかの不採用。「それでもここで働きたい!」

それからすぐに、nana musicで大西の面談が行われた。

しかし大西は、緊張してしまい、伝えたいことはたくさんあるのに、思うように話せなかった。nana musicの掲げる“音楽で世界をつなぐ”という想いに共感し、「ここで働きたい!」という想いが高まりすぎていたせいかもしれない。

そして翌日。
大西に、「先方からお断りがあった」というショッキングな通達が入る。
すっかりnana musicに行くつもりでいた大西はショックを隠しきれない。

「自分のアピールが足りなかったのかも……」
うまくコミュニケーションが取れなかったことを猛省した。

その一方、「どうしてもnanaで仕事がしてみたい……」という想いがこみ上げる。諦めきれなかった。

少なくとも、もう一度アタックしなければ絶対に後悔すると思った。

大西が大学時代、音楽にはまったのには理由があった。
小学校を海外で過ごし、中学入学時に日本に戻ってきた大西は外ではオープンな性格のように振る舞っていたものの、本当はどちらかというと引っ込み思案で内向き。家でもあまり感情を表すことなく部屋でおとなしく過ごすようなタイプだった。

そんな大西は、音楽から元気や勇気をもらい、時には慰められることもあった。自分の表現力の乏しさを補い、自分を代弁してくれるものでもあった。音楽が持つ力を信じていた。

だからこのチャンスに、音楽を通じて社会に還元したいと思った。

同日、大西はローンディールに連絡をして、「もう1回nana musicにアタックしたい!」という意思を伝える。
その想いは受け入れられ、再度の面談が行われることになった。

結果、見事nana musicへの移籍が決定する。
しかし、喜びのもつかの間、大西にとって、想像を超える悪戦苦闘の日々が始まることになる———。


↓ 第2章「 あれもダメこれもダメ。「企画」って難しい!」はコチラ ↓

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取材協力:大鵬薬品工業株式会社、株式会社nana music
storyteller 小林こず恵
提供 株式会社ローンディール
http://loandeal.jp/


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