ポスト・コロナの越境学習を語る「今だからこそ、外へ」 -【クロスフィールズ × ローンディール オンラインイベント レポート】-
不確実性の高い今の時代において、多くの企業が変革を迫られる中、人材育成・組織開発において注目されているのが「越境学習」です。
そこで今回、企業で働く人材が新興国で社会課題の解決に挑む「留職プログラム」を提供する、特定非営利活動法人クロスフィールズ代表理事・小沼大地さんをお招きし、ローンディール代表・原田とともに、「越境学習」の可能性について語るオンラインセミナーを開催しました。「越境学習」に取り組む両社がこれからの時代に何を目指していくのか? セミナーの一部を要約してお届けします。
左上:ローンディール代表・原田、右上:ファシリテーター・ローンディール及川。中央下:クロスフィールズ代表・小沼氏
ー広がりつつある越境学習
「大規模組織に所属していれば強い」時代は終わった
——クロスフィールズは2011年に創業し、「留職プログラム」を通じて、日本の企業から新興国のNGO等へ “留職者”を送り出しています。一方のローンディールは2015年に創業。「レンタル移籍」というプログラムを通じ、“レンタル移籍者”をベンチャー企業に送っています。未来を語る前に、まずは両社の歩みと、越境学習のこれまでの変容について振り返ります。
原田:今日の事前アンケートによると、参加いただいているほとんどの方が越境学習をもともと知っていた、ということですけど、少し前だったらこの単語を知っている人ってごくわずか。こういう場でも、1割いたらすごいくらいの感覚だったので、最近増えてきたなぁと思いますね。そもそも”越境学習”が単語として使われるようになったのはここ10年くらいの話で、2012年とかにHR系のメディアで取り上げられはじめて、その頃から少しずつ使われ始めるようになっていった感じですよね。
小沼:そうですね。僕らは2011年に創業していますけど、その頃は越境って言っても誰も聞いてくれなかった。代わりに「グローバル人材」という言い方をしていましたね。以降も、リーダーシップ、働き方改革、CSV、SDGs、そしてポスト・コロナ…。世の中の流れに沿って言葉を置き換えながら、越境学習に取り組んでいます。
原田:ちなみにローンディールが創業した2015年も、まだまだ越境学習っていう言葉の認知は弱くて、イノベーションっていう文脈で話をすることが多かった。でも2010年代に入ってから、大企業でも一部の人がベンチャーと接点を持ち始めて、“外を見に行く”機会が増えていった感じがありますし、2016年くらいには副業解禁とかもあって、一気に広がったんじゃないかなと思います。
小沼:個人が活用できるテクノロジーが増えたことも大きいんじゃないかなと思いますね。インターネットの進化で、いつの間にか組織に所属しているよりも、個人でできることが強くなってきている。今までは会社にいるからこそ使えるハードがあって、名刺があるからこそ会える人がいるとか、享受できたメリットが大きかった。だから会社に入ることで個人が強くなれていた。でも今は逆転現象が起こっている。そこで組織が「このままだと中が遅れる、外に出ないと…」ってなった。そういう文脈もあるんじゃないかなって。
ー個人が会社を変えられる時代へ
トップの想いと現場の情熱が連なって…
小沼:越境学習の認知の広がりもそうですが、ここ2年くらいで、越境分野を始めようとしているプレイヤーの数も増えてきていると感じます。2015年に原田さんとお会いした時は、「こういうことをやっている人が自分以外にもいるんだ!」って感動するくらい(笑)、この分野に取り組んでいる人はいなかったので。
原田:お会いした当時、小沼さんが僕らにノウハウをシェアしてくれて。アドバイスをしてもらっていたのを今でも思い出します。本当、あの時の恩は今でも…。
小沼:いやいや(笑)。参入が増えるのはいいことだとは思うんです、広がるわけですから。ですが、やっぱりいろいろなコンセプトで越境学習を進めるプレイヤーがでてきていますよね。越境学習も次のフェーズに入ってきた感じがあります。なので、取り入れる企業側も、ただ取り入れればいいというわけではなく、何が自社にとっていい越境で、何が自社に合うのか…そういう見極めも必要な時代になったんじゃないかなって、思いますね。
原田:そうですよね、僕らも企業側にはパートナーとして一緒に取り組んでもらえたらというスタンスでいます。移籍者本人はもちろんですが、それを導入される人事や事務局の方にも、共に覚悟を持って取り組んでいただけたら。実は最初の頃、「トップダウンじゃなきゃ、こういうプログラムはやれないんじゃないか」って、よく言われていたんですね。でも実際は、人事や事務局の現場の方がボトムアップで上げてくださって、いろいろ社内調整を経て、実現しているケースも多いんです。
小沼:それでいうと、トップと現場が繋がる機会が増えてきているというのも、僕らが始めた2011年の頃との違いだと感じています。2011年の震災以降、経営のお題目に越境を意味する言葉が入ってくることが増えました。なので、トップの思いと現場の情熱が重なって、意見や提案を拾ってもらえる確率が増えたんじゃないかなって。
トップと現場が握手をして何かを変えられる時代になっている感覚があります。
ー越境経験を活かすには、組織の変化が重要
——当日は100名近い方オーディエンスが参加し、多くの質問が寄せられました。その中から、幾つかピックアップ。まずは「留職・レンタル移籍から戻ったあと、どんなフォローをしているのか?」というもの。
小沼:僕がそもそも、クロスフィールズを始めたきっかけの話につながるんですが…。青年海外協力隊に参加した時の同期で、企業からの派遣で参加していた仲間がいたんですが、彼ら彼女たちは自社に戻った後、ほぼ辞めたんですね。戻ったあとに会社から「2年間遊んできたんだから、これからはつまらない仕事をやれ」的なことを言われて、経験が活かせなかったようなんです。それを聞いて思ったんです、「これからの社会に必要な経験をした人を会社が自ら切っていっている。なんて不幸なんだ」と。それをなんとかしたいというのがありました。
なので、組織の外に行った人と、組織がどうつながるかっていうのをものすごく大事にしています。我々の場合、プロジェクトマネージャーが留職者に伴走するんですが、伴走者のミッションは、組織と留職する人が共通で持っている目標をしっかり握って、互いに、定期的に思い出していただくということなんです。留職者には、経験を元の会社でどう活かすかって、毎週のようにヒアリングします。そうすると、経験を自社で活かすことが次の夢になって、元の会社に戻るのが楽しみになるんですね。会社への貢献によって、結果、組織ともつながれる。
原田:そうですよね、組織側への働きかけは重要。我々の場合、ベンチャーに行っている間から、直属の上司には研修を受けてもらっています。「移籍者というビッチャーだけが豪速球を投げられるようになっても、いいキャッチャーがいないといい野球はできませんよね。キャッチャーもセットですよね」って。あとは「経験をどう社内で活かせるのか?」っていう部分でいうと、人事や上司の方などと一緒に、関係者みんなで寄ってたかって、移籍者をフォローするようにしています。移籍者本人も「そこまで会社が考えてくれているんだ…」って、戻った組織で頑張ろうって、スムーズに動機付けされているようです。
小沼:それは本当に同意で。若手が変われば会社が変わって、会社が変われば社会が変わるって思っていたんですが、気づいたことは、若手の変化が会社の変化に繋がるには時間がかかるということ。レバレッジを効かせようと思うと、会社の中の経営層・幹部層も変わらないといけない。僕らも、経営層やマネジメント層に向けた「社会課題体感フィールドスタディ」という新しい事業にも力を入れています。
——続いては、「越境した結果、どんな変化を起こしてきたか?」という質問へ
原田:事例が出て、今、3、4年くらい。実際に社内で事業を立ち上げたり、自分のチームを持ったり、新しい取り組みを始めたり…と、移籍者の中から、そういう動きは生まれていますが、「それらの動きが、結果こうなりました」という変化を生むには、もう少し時間がかかると思っています。ただ、本人の変化で言うと、この移籍期間にグンと成長して、それ以降も、成長角度が上がり続けています。ベンチャーから戻って、1年2年経った移籍者に会うと、明らかに成長しているんですね。そういうのが、楽しみだなと思っていています。高校の先生の気分(笑)。
小沼:先生の気分っていうの、めちゃめちゃ共感できる…(笑)。僕も、留職を通じて原体験をする定義は、“1度の角度をつける”ことだと言っています。1度くらい進路が曲がっても誰も気づかないけど、その1度の違いが、20年後には大きな差となる。1度の変化が面白いように加速していくんです。そういうのって後から気づくもの。あの時のあれがすごかったって。実はNECの方で、7年前に留職でインドに行った方が、昨年もう一回インドに行って、自社で事業を立ち上げて、ローンチするということがあったんです。彼の角度付けに貢献させてもらったのであれば、それは本当に嬉しいなって思っています。
ー大企業人材によって、受け入れ先企業も成長する
——続いての質問は、「本人の変化ではなく、受け入れた組織側の変化」について
原田:ベンチャー側の変化で言うと、大企業の方の持っているナレッジってすごく価値があるようで、移籍者が来たことで、組織が成長したってフィードバックをもらうことも多いんですね。それに、期間が決まっているので、(移籍者の)みなさん、めちゃめちゃ全力で走ってくれるんですよ。それが、(ベンチャーの)社員に刺激を与えてくれたって…言っていただくこともよくあります。
小沼:途上国の組織に送るので、日本人の勤勉さに触れられたことが、組織の糧になったという話はよく聞きます。僕らも、今は、受け入れ先の数を増やすのではなく、継続的に同じ団体に送っていくということを積極的にやっています。そうすることで、相手も日本人の使い方に慣れ、受け入れる側の力量も上がってくる。だから、留職者は、無茶振りされるんですね、「前の人はここまでやったから、できるでしょ」って。そうすると後から入った人も「やらなきゃやばい」ってなって、火がつく。
原田:僕らも、累計6人くらい受け入れてくれているベンチャーがあって。プロジェクトが受け継がれていって、その会社の成長に繋がっていったら嬉しいと思っています。これらがうまくいくのは、ベンチャーの経営者やマネジメント層が、移籍者を育てようという意識があるから成り立つことだと思っています。
——最後は、「お互いから見た、お互いの越境学習をどう思うか」という質問
原田:クロスフィールズさんは、先輩というイメージです。ですが、同じ越境というテーマであっても、ビジネスモデルやプロセスは違いますし、僕らもやり続ける中で独自進化しています。答えはひとつじゃないんだなって、いつも教えてもらっています。
小沼:僕がローンディールを尊敬しているのは本気度。やりかたを見ていると、何か理想のあるべき姿のために構造ができあがっている感じがして、美しく見える。お互い学び合えるのがすごくいいなと思います。参加者の中には、なぜ僕らが一緒にイベントを?って思う方もいるかもしれませんが、同じような世界を目指してそれぞれが成長していくことで社会が変わっていくと思っているので、パートナーでもあります。一方、同じセクターでちょっと立ち位置が違うといういいライバル関係でもある。どんどん比べてほしいです(笑)。
ー越境学習の未来について
内向きになっているからこそ、外に行くことに意味がある
——そして締めのテーマは、越境学習の未来、そして各々の今後の展開について
原田:今は、転換点にあると思っています。コロナによって働き方やビジネスモデル含めて、変わらなければいけない状況にある。そうすると、新しいことをガンガンやりましょうではなく、今あるものを整えなきゃいけないってなると思うんですね。でもそれだと、変化の最前線を経験できなくなってしまう。だからこそ、この時期に、”最前線で動かなければいけない”外の環境に行って経験することって、すごく意味があると思っています。
4月から10人程度が予定通り移籍を開始していますが、初日からリモートというスタート。ですが、そういったイレギュラーな環境だからこそ、そんな環境下でもどうやって結果を出していくのかって、より越境経験ができる。
小沼:そう思います。こういう時って、どうしてもエネルギーが内向きになりがち。でも社会を変えていくには、こういう時こそ、暴れられる場所、暴れないと死ぬ場所に向かっていって、越境する必要があると思うんです。
僕らは、外に向くエネルギーを最大化するということを守らなきゃいけないですし、どうやって挑戦を続けていくかっていうことに、力を結集すべきだと思っています。
——最後は、クロスフィールズ、ローンディール、両社の今後の展開について
小沼:今は海外には行けないので、国内の社会課題の現場に人を送る、国内からグローバル問題を解決しようとしている団体に人を送るという、「国内留職」を展開しています。また、オンラインでのフィールドスタディやVRを使ったワークショップ、また、ソーシャルセクター内での緊急雇用マッチングなどの事業に新たに取り組んでいます。この先は、やりながら考えているところなので、今日いらっしゃったような、越境に興味がある方と一緒に考えていけたら嬉しいです。
ぜひ、こんなことできないか? などがあれば、お気軽にお問い合わせください!
原田:今後でいうと、組織を変えるという文脈で、マネージャー層のレンタル移籍を増やしていきたい。また、更にその上の階層の人たちも常に関与するプログラムにしていきたいと思っています。あとは、越境って、まだ選ばれた限られた人がやれるプログラムなので、裾野を広げることもしていけたら。今思うのは、とにかくここで止めちゃいけないということ。この時代をチャンスに変えていくことって、いくらでもできると信じています。みなさんと一緒に仕掛けていけたらと、楽しみにしています!
Fin
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【レンタル移籍とは?】
大手企業の社員が、一定期間ベンチャー企業で事業開発などの取り組みを行う、株式会社ローンディールが提供するプログラム。ベンチャー企業の現場で新しい価値を創りだす実践的な経験を通じて、イノベーションを起こせる人材・組織に変革を起こせる次世代リーダーを育成することを目的に行われている。2016年のサービス開始以降、計36社95名のレンタル移籍が行なわれている(※2020年4月実績)。→詳しくはこちら
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協力:特定非営利活動法人クロスフィールズ
レポート:小林こず恵
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