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― 外で戦える技術者になりたくて ー パナソニック株式会社福島和亮さん

学生時代から一貫して、技術や研究に興味があるという、パナソニック株式会社(以下、Panasonic)の福島和亮(ふくしま・かずあき)さん。

高等専門学校在学中に、半導体デバイス・超伝導の面白さに目覚め、大学へ編入。物理学を学び、磁性と超伝導が関わる物性起源の解明に夢を描きました。

超伝導とは、電気を抵抗なく流し続ける技術、平たく言うとエネルギー効率を良くする可能性に満ちた技術です。

「超伝導が市民権を得るレベルまで市場普及するには、もう少し時間が掛かりそうだ。でも、自分の生きている間に、自分が関わった製品が世の中に出るのを見たい。エネルギーソリューションの開発と事業に関わりたい」
そんな思いから、2012年Panasonicへ入社しました。

入社後はパワーエレクトロニクス(車載充電器モジュールや次世代モジュール)の研究・技術開発に従事。

振り返ってみれば、学生時代からの念願叶って、エネルギーソリューションの開発に関わって7年半。

けれど、技術畑を歩み続ける中で、なかなか事業として大きく花開くところまで実現することができませんでした。

技術者としての気持ちが人一倍強い福島さんは、「事業は花開くまでの道半ば、個人として寄与・貢献できていると胸を張って言えるのか。そろそろ入社して8年になる。果たして自分は、外でも戦える技術者になれているのだろうか……」そんな無力感や閉塞感を感じていたそうです。

そんなとき、社内にレンタル移籍(※Panasonicでは「社外留職」制度として導入)という一定期間、ベンチャーにいく制度があることを知りました。

大企業とは違う開発スキームを持ち、スピード感のあるベンチャー企業に行けば、何か得るものがあるのではないか。そこでのエッセンスをPanasonicに還元したい。

その思いから、レンタル移籍の公募に手を挙げることにしたのです。

ディープテックの世界へ

社内選考の結果、留職者に選ばれた福島さんは、「とにかくその会社らしい技術を持っているところ。そして、その技術を事業化していくフェーズの会社に行ってみたい」という気持ちから、ディープテック領域で活躍するベンチャーで、かつ、できるだけ小規模で経営者に近い視点で事業に取り組めそうな会社を探しました。

※ディープテックとは
大学や研究機関で長期間かつ多額の費用をかけて研究開発された技術(眠っているような技術)を基に、世の中の生活スタイルを大きく変えたり、社会の大きな課題を解決したりする技術

その結果、マッチングしたのが、選別交配を重ねサラブレット化した「イエバエ」を使って、畜産糞尿を約1週間で有機肥料に100%リサイクルする循環システムを構築するベンチャーの株式会社ムスカ(以下、MUSCA)でした。

2019年10月、福島さんは、MUSCAにレンタル移籍をするために、単身で大阪から東京にやって来ました。

いざ、MUSCAでの勤務が始まると……

今まで技術者同士で当たり前に使っていた言葉が通じません。
「あぁ、そうか。今、自分は異分野で、なおかつ技術者ばかりじゃない環境に来たんだった」

動き方も、働き方も、発言の仕方もわからず、「何がわかっていないのかすら、わからない……」そんな中で、プラント・エンジニアリング、知財戦略の立案、事業開発と未知の業務に挑むことになったのです。

ムスカバイオマスシステム

技術者としての殻をやぶるきっかけになったメンターの言葉

仕事の手応えを感じることのできないまま、低空飛行状態でMUSCAでの業務に向き合って3ヶ月が経過。

そんな福島さんに大きな転機が訪れたのは、4ヶ月目に入った1月の終わりのことでした。

メンターである光村さんとの対話の中で、こんな言葉を投げかけられたのです。

「正直に言うと、『技術のことだからわからないだろう』というのは、エンジニア特有の負け犬根性だと思うんですね。……だって、わからせようとしてないじゃん、と思うわけですよ」

これは、福島さんが事業開発担当者との関わりの中で、「技術者じゃない人には、技術の話をしてもわからないだろう」というスタンスで接していることに対する、光村さんからの指摘でした。

この指摘を受けて、「そのとおりだな……。ぐうの音も出ない」

そう感じた福島さんは、「この人がそこまで言うんやったら、ほな一回やってみよか!」と、泥臭く動いてみることを決めました。

そして、2月からは意識的に行動を変え、Panasonicにいたままなら絶対に取れない選択肢をどんどんやってみよう。と、今までの自分とは逆張りに動いてみることにしたのです。

まずは、社内でのコミュニケーションの取り方を見直しました。

知財戦略立案のため、法務担当者の協力を得る必要があるけれど、今までうまく連携することが出来ずにいました。

どうしたら良好な関係を築けるか。考えてみた末に思いついたのは、お互い小さい子のいる身、自身の子供の写真を見せて、共通の話題から話してみることでした。

すると、思いもよらず会話が弾み、その写真をきっかけに意見交換ができるようになったのです。

その結果、「実はわたしはこう考えていて……」と、相手が自分の胸の内を明かしてくれて、自分にはない観点で議論することができ、経営層の意見も交えて、会社としての方向性を見いだすことができました。

「なんだ……。俺が思い込んでいただけか」

小さなことでも、自分が動きを変えたら、こうも違う展開になるんだ。きっかけは、たった1枚の写真を見せただけ。でもそれはPanasonicにいた自分では絶対にしないアプローチでした。

今までの自分だったら「どうせ言ってもどうにもならんわ。と思っていたけど、いざ、行動を変えてみたら……状況が変わる。なるほどな」

自分が変われば相手も変わる。対話を通じて、建設的な会話ができるようになった福島さん。

この経験から、人との関わり方が変わり、MUSCAの中で関わる仕事についても、切り込む範囲が格段に広がっていったそうです。

折しも、新型コロナウィルスの影響で、フルリモート環境になったタイミングだったこともあり、Slack上で行われる会話の中で、自分が気になることがあれば、どんどん声を上げるようになりました。

行動を変えてみたことで、状況が好転する体験を得た結果、「今までは技術を中心に考えていたけれど、せっかくMUSCAに来ているんだから、事業にどう絡むかも考えて動いていこう」と、さらに視野が広がっていったのです。

福島さんのこの変化には、パナソニックでの移籍前の上司、高橋さんも目を見張っていました。

「当時、報告を受けて、あの福島さんが(笑)そういう行動をとれるようになったのかと驚きました。自分自身が変わらないと周りを動かすことができない、ということに気づけたことはとても大きい。自ら行動を起こして変化する環境を作り出し、結果に繋げていく。この一連の経験は、これからの福島さんのキャリアにとっても貴重なものになると思います」

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(バイオマスリサイクルシステム工場視察の様子)

君はどうしたいの?

小さな一歩を踏み出したことで、変化を感じつつあった福島さん。ここで、もう一つのターニングポイントを迎えます。

社内で「全社会議をやろう!」という話が上がったとき、自分には声がかからないことがありました。

「やっぱり、自分のことを外部からきたよそ者として扱っているんじゃないか。その状況では、いま取り組んでいる業務は前進しない」

そう思った福島さんは、思い切って安藤COO(当時)にその考察と気持ちをぶつけました。すると、「そう思っているなら、もっとはっきり言ってよ。福くん(福島さん)には、僕の悩みを理解して、もっと暴れてほしいと思っている」と言われたのです。

自分の想いを伝えたことで、思わぬ言葉が返ってきました。

この日を境に、安藤COOとの距離が縮まり「君はどうしたいの?」「どんどんぶつけて欲しい」「なんでも言いに来て」と言われる関係になりました。

そして、レンタル移籍終了時には「最初の3ヶ月は完全にコストだと思っていたけど、最後には僕の業務の半分を拾ってもらった」と言われるまでになったのです。

宮崎ラボでの1ヶ月の滞在経験

技術者としての殻をやぶり、対話の重要性を学び、自分の意見も表現し、社内の色んなことに関わるようになっていった福島さん。

気づけば、いつのまにか社内でのつなぎ担当として「かけはし」のような存在になると同時に、メンバーからの信頼も勝ち取っていきました。

その結果、6月〜7月にかけて宮崎県にあるMUSCAのラボ(イエバエの原種維持や研究を行っている場所)への滞在が許可されたのです。

MUSCAは元々ロシアから旧ソ連時代の技術を輸入し、さまざまな研究開発に取り組んでいた株式会社フィールドの事業を受け継いでおり、技術には強いこだわりがあり、情報管理を徹底しているため、ラボへの立ち入りは制限されていました。

実は福島さん、移籍当初、「技術がわからないと、それを活かしてお客さんに提案することができません」と宮崎での勤務を希望したのですが、そのときは滞在を許可されませんでした。

でも、1月2月の転機を経て、行動が変わったことで経営陣のコンセンサスも得られやすくなり、もう一度、「1ヶ月間、宮崎へ行かせてほしい。今ならこれこれ、こういう仕事をしてみせる」と志願しました。

すると、費用がかかることは承知の上で、「しっかりやってこいよ」と送り出してもらえることになったのです。

隠したい技術もあるだろうに、自分は期間限定のメンバーであることも承知の上で、1ヶ月間送り出してもらえたことは、MUSCAのメンバーとして受入れ、認められたようで、とても嬉しかったといいます。

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(宮崎ラボでの作業風景)

技術者としての自分はスペシャリスト?ジェネラリスト?

そして、技術者としての道を歩む福島さんにとって、もう一つ大きな出会いがありました。

それは50代の先輩プラント・エンジニアリング技術者との出会いです。

その先輩は、「君は技術者として、スペシャリストとしてやっていくのか? ジェネラリストとしてやっていくのか? “技術者”という言葉は広義だけど、君はどう生きていきたいの?」と尋ねたのです。

この問いに対し、移籍中の福島さんは、明確に答えることができませんでした。

でも、今になって考えてみれば、Panasonicの事業の中で、自分の動きは意味があるのか。自分は技術をどう活かすのか。外に出た時に戦える技術者なのか。「レンタル移籍」というチャレンジに手を上げた時点で、一つの技術だけに固執していくスペシャリストではないんだろうな。

そして、実際にレンタル移籍を経験し、MUSCAでの業務を経験した今、自分はジェネラリスト寄りなんだろうな。という気付きがあったといいます。

スペシャリストではなく、ジェネラリスト。

レンタル移籍を通して、自ずとその道は開けていたのです。

1年間のレンタル移籍を経験して

レンタル移籍を応援してくださった人事の永野さんは、福島さんの1年を振り返り、

「パナソニック在籍組織での考え方と、本人の考え方との葛藤を抱えた中で、社外の会社や関係者と接し、様々な課題対応や価値観の体感を通じて、課題解決力や思考の幅の拡大を含めた人間的な成長を図ることができたことが、大きな成果と感じています」こんな言葉を寄せてくれました。

技術者としての自分を見つめ、新たな学びを得た福島さん。
レンタル移籍を通じて、「人に対して優しくなったと思う」と言います。

「Panasonicに戻ってから、以前に比べて、フラストレーションを溜めることがなくなったというか、ものごとを受け入れられる許容度が上がった気がするんです。

外に出て、MUSCAで働いてみて、
もしかしたら、この人はこう考えているかもしれない。
自分の知らない観点で言っているのかもしれない。
技術だけじゃない、多角的な目線で言っているのかもしれない。
そんな背景を考えるようになりました。

そして、MUSUCAでの日々刻々と変わる状況の中で働く経験をしたことで、何事も「不確実だ」という前提に立てば、大して怒らないで済むようになったんです。

自分の決めつけは認識しながらも、その枠に囚われずに、ベストじゃなくてベターな落とし所を探しましょうって、考えられるようになりました」

「外で戦える技術者になりたい!」そう思って飛び出した外の世界で、自分自身の技術者の殻を破り、一回りも二回りも大きくなった福島さん。

ジェネラリスト寄りの技術者という自分と出会い、良い意味で丸くなった今、「技術を捨てていっていないか」という不安があるといいます。

でも福島さんが捨てたのは、技術ではなく「どうせ言ってもわからないだろう」という負け犬根性です。

素直に自分を顧みて、泥臭く動いてみることで、意識が変わり、行動が変わった。

その結果、技術から事業へと、自分のフィールドを広げていった福島さんなら、これからも技術への飽くなき探究心をもったまま、新たな世界を切り開いていけることでしょう。

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【レンタル移籍とは?】

大手企業の社員が、一定期間ベンチャー企業で事業開発などの取り組みを行う、株式会社ローンディールが提供するプログラム。ベンチャー企業の現場で新しい価値を創りだす実践的な経験を通じて、イノベーションを起こせる人材・組織に変革を起こせる次世代リーダーを育成することを目的に行われている。2015年のサービス開始以降、計46社122名のレンタル移籍が行なわれている(※2021年3月1日実績)。→詳しくはこちら



協力:パナソニック株式会社 / 株式会社ムスカ
文:管井 裕歌
提供:株式会社ローンディール
https://loandeal.jp/

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大企業で働く社員が「レンタル移籍」を通じてベンチャー企業で学び、奮闘し、そして挑戦した日々の出来事をストーリーでお届けします。http://loandeal.jp