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看板ヒット商品を生み出し続ける仕掛け人の「建築思考」とは?

「つまりは妄想起点なんですよ」。そう話すのは、会社の強みを活かした看板商品・サービスを生み出し続けている今井裕平さん。
ローンディールでは昨年から、連続起業家たちのビジネスセンスの正体を掘り下げ、それをどう身につけてきたかに迫る対談イベントを実施しています。第5回目のゲストは、株式会社kenma代表であり、ビジネスデザイナーでもある今井裕平さん。建築デザインとビジネスコンサルティング、2つの「得意」を持つ今井さんが、同じくビジネスデザイナーである細野と語ったトークの一部を、要約してお届けします。

そもそも、ビジネスデザインとは?


今井:
「kenma」をやっている今井と申します。もともとは建築家になろうと思っていたんですが、建築設計事務所で2年働いた後に、「やはりデザインセンスが優れている人には勝てない」と経営コンサルの道に進み、電通が作った電通コンサルティング会社に6年間在籍しました。

ざっくりまとめると、建築デザインをずっとやっていたことと、もう1つはビジネスコンサルの経験が10年以上あるので、その両方ができることが得意ですね。特にビジネスのほうからデザインを考えることが得意です。

今井裕平さん   株式会社kenma代表 / ビジネスデザイナー
神戸大学大学院を修了後、安井建築設計事務所、日本IBM、電通コンサルティングなどを経て、2016年に株式会社kenma創業。企業の見過ごされた強みを発掘して、その会社の看板商品・サービスを創り出す「フラッグシップデザイン」を提唱。代表作のメモがわりに使えるリストバンドwemoは90万本を超える大ヒットを記録。その他、コクヨ初の賃貸住宅事業「THE CAMPUS FLATS Togoshi」、スポンジタオル「STTA」、緑茶ボトルレンタルサービス「朝ボトル」など、数字で成果を示すことにこだわり、斬新な商品・サービスを仕掛けている。グッドデザイン賞をはじめ、IAUD国際デザイン賞、フェーズフリーアワードなど社会課題解決を対象としたデザイン賞を多数受賞。東京都「デザイン経営スクール」総合監修・講師。

細野:普通、今の経歴だと逆方向にいきそうですが、ビジネス側からデザインにというのは、かなり特徴的だと思います。

細野真悟 ローンディール最高戦略責任者 / ビジネスデザイナー
2000年にリクルートに入社しリクナビNEXTの開発、販促、商品企画を経験した後、新規事業開発を担当。 2013年にリクルートエージェントの事業モデル変革を行い、1年で100億の売上UPを実現し、リクルートキャリア執行役員 兼 リクナビNEXT編集長に。 2017年から自身がヘビーユーザーである音楽コラボアプリ「nana」を運営するnana musicにCOOとして転職し月に8000万円の赤字だった事業を2年半で黒字化。 現在は企業間レンタル移籍プラットフォームを提供するローンディールのCSOを務めながら、フリーのビジネスデザイナーとしても複数のベンチャーの戦略顧問や大企業の新規事業部門のメンタリングを行う。 2020年には「仕事を辞めずに自分のやりたいことで起業する」ことを支援する一般社団法人Fukusenを立ち上げて代表理事に。著書に『リーンマネジメントの教科書(日経BP)』がある。

今井:言われてみればそうですね。僕も細野さんと同じくビジネスデザイナーを名乗っていますが、ビジネスデザインという言葉をどんな意味で使っているか、まずは2つほどお伝えします。

1つは業務範囲です。創る、立ち上げる、広げる、といったゼロイチのところは、デザイナーが活躍できることが多いんですが、その後に立ち上げて拡大していくとなると、どんどんビジネスフェーズになっていきます。僕の場合は、プロダクトをデザインしたら、その後に収支計画を作ってセットで報告したり、どうやったら認知を取れるかというPRを考えたり、全部やるので「ビジネスデザイン」と呼んでいます。

もう1つは「何をゴールにデザインするか」というところです。デザイナーってやはり完成度の高いもの、かっこいいものを作りたいんですが、ビジネスでやる以上は成果が求められます。デザイナーの多くが完成度を目指すのであれば、僕は徹底的に成果を目指すという思いで、「ビジネスデザイン」と言っています。たぶん日本で唯一、「成果を数字で語るデザイン会社」を標榜している会社です。

細野:あくまで、デザイン会社ということなのですね。

今井:そうですね。それから「フラグシップを作る」というコンセプトも掲げています。わかりやすい例で言うと、Microsoftでいう「Surface」みたいなものですね。昔は「Windows」しかない中で、「Appleがかっこよくて使いやすい」となっていたところに「Surface」が出てきて、だんだんと「Microsoftも意外とやるぞ」みたいな。そういうのって、具体的なプロダクトやサービスの力なのかなと思っています。

僕はフラグシップを「シンボル×具体」というふうに考えていて、企業によってシンボルは異なると思いますが、それを具体的なもので作ることにこだわっています。

なぜかというと、このシンボル系のプロジェクトって、ロゴやキャッチコピー、ムービーといった抽象的なアウトプットでやりがちなんですが、それだと売上や利益といった成果が出ないんですよね。電通コンサル時代に「これを具体でやるといいんじゃないか」と思っていたことを、kenmaでやっているところです。

事例でいうと、この「wemo」は、中小企業の機能性フィルムの会社の技術を使って作ったもので、ミリオンセラーになりました。

また、名古屋の日本茶カフェはコロナ禍に売上が3分の1になったお店を立て直し、コロナ前の売上の1.8倍にしました。

妄想が起点になる!?


細野:今井さんは、そのグッと伸ばしていく設計をどうやって思いついて、どういう順番で考えて実践されているのかを今日、明らかにできたらと思っています。

今井:基本的にはクライアントワークなんで、アイデアをゼロから考えるのは難しくて、クライアントが起点になるのは間違いないんですね。大きく2つあるんですが、1つはその企業の強みです。もの作りの企業さんが多いので、その固有技術をどう固有と規定して、そこからどう固有の価値を作るか、というのはパターンの1つです。

もう1つは、WILLですね。担当の方が何らかの構想・妄想を持っていて、それがすごく面白いので、どうやってビジネスまで持っていくかになります。

今回、「ヒット商品はどうやって思いつき、どうやって組み立てたのか?」というお題をいただいたのですが、僕の中では一応、こういう結論に至っています。

ユニークなことと市場性、つまりたくさんのお客さんが支持してくれるか。これってトレードオフにあると思うので、そのトレードオフを解消できたら、それは良いアイデアだろうというのが一番のコアですね。「イメージとしてはめちゃくちゃおもろい」という話と、「すげぇみんなにウケる」というのを両立させないといけません。それがこんな絵だとして、ビジネスラインでやらなきゃいけないのは右上だと思うんです。

それには順番が大事で、まず左上の「とにかくユニークネス」を突き詰めること。その上で、お客さんがどうやったら増えるかを考えて、右へ右へとアイデアを磨き込んでいくというのが、いつもやっていることですね。

細野:まずは左上から考え始めないと、看板商品にならないですもんね。少なくとも尖らないと。

今井:結局、アイデアをどうやって作るかという話に行き着くと思うんです。僕は別にオリジナルのアイデアを持っているわけではなく、世の中にはもう死ぬほどアイデアの出し方が出ているんで、それを俯瞰的にこのような構造でみています。

良いアイデアを出すには、アイデアをたくさん出すか、確率を上げるか、その両方をやる必要があります。前者は巷で言う100本ノックで、様々なクリエイターに話を聞きましたが、これをやっていない人はいないですね。パーセントのほうは「どうやって質を上げるか」で、一番有名なのは「発散させる」と「収束させる」だと思います。

抽象と具体を行き来することや、細野さんが提唱されている脱・平凡発想も「確率をどう上げるか」というためのアプローチとして理解しています。このへんは、いろいろな人がいろいろなことを言っているので。「あと残されているのはどこだ?」と思った時に、「ここが残っているな」と思って。

細野:え? どういうことですか?

今井:僕は最近、アイデアに限らずプロジェクトやビジネスなどでも、ゴールの規定の解像度が粗いというか、そもそも議論されていないなと思っていて。

良いアイデアを出したかったら、まずこのグッドの要件を決めなきゃいけないんですが、これがほとんどやられていない。何をもって良い戦略とするかってプロジェクトごとに議論しなきゃいけないのに、そこがかなり割愛されているという印象です。これをなんで話題に上げているかというと、ビジネスデザインの場合、この要件のスコープが圧倒的に広くなる。

細野:変数が多いということですね。

今井:まさにそうです。僕の場合は、ほかの人が設定しない要件も全部要件にしてしまって、ビジネスの成果を規定しながら出しています。要件を広げて変数がたくさんある中を、一発のアイデアやコンセプトで解決するのがいいなと。それで出てきたものがグッドアイデアだというのが、ここ2、3年の経験です。

さっきのお茶屋さんの例では、伊勢茶の農家さんが名古屋にカフェを出していたんですけど、売上が3分の1になったんですね。それで、固定費を軽くするために移転リニューアルするというプロジェクトを相談されたんです。

細野:よくあるやつですね。

今井:そうなんですが、クライアントと話していくと「課題、むっちゃあるやん」とわかったんです。「客数を確保しなきゃいけない」とか「新しく行くところだから、やっぱり関係を作らないとうまくいかないな」とか。あとはコンセプトが「新しい緑茶の楽しみ方」だったんで、そんなところが要件に当たるものです。

細野:「これを解決しないと、グッドなアイデアじゃないよね」というふうに定義をし直すということですよね。

今井:なので頼まれたのは空間デザインなんですけど、「朝ボトル」っていう朝に300円で茶葉が入った水出しボトルを借りて、それをオフィスに持っていくと、それで3回ぐらい本物のお茶が飲める。それを「帰りに返してね」みたいなサービスを企画しました。これで一応、全部を解決しているんです。

細野:めちゃくちゃ気持ちいい!

今井:この場合、起点はクライアントが「朝にサブスクでお茶を売りたい」と言うアイデアを出したことで、つまりは妄想起点なんですよ。それで『朝にお茶を出す』というのはなんかおもろそうやぞ」と思って、どうやったら朝にお茶を買ってもらえるか、というところから始めました。

競合相手としては、ペットボトルのお茶やコーヒーがあるんで、本物のお茶というところで勝負しなきゃと考えました。それから、ホットよりも水出しのほうが良いのではないかと思ったんです。僕はこのプロジェクトを通して、水出しってカフェインが少なくて飲みやすく、コーヒーのオルタナティブになると感じました。

そこからのブレークスルーは、ガラスのボトルが2,000円ぐらいするのでクライアントとしては渡せない。だからレンタルにするというもので、そこがポイントですかね。メディアにもたくさん出ることができたんですけど、「これはプレスリリースを書いてもいけるやろうな」と思いました。

細野:確かに、考えている時にプレスリリースのイメージが湧くかというのが結構大事な判断ポイントですね。

今井:僕の場合はクライアントに中小企業が多いので、顧客プロセスの中で頑張らないといけないのは、確実に認知の部分なんです。これはもう知恵を絞って、汗をかいて、広告費分の認知をどうやって作りにいくかを頑張ります。

でもその一歩手前でお客さんを増やすには、メディアが取り上げたくなるか。メディアって結局社会性を求めているので、社会性を満たしていくとお客さんが増えるという考え方もできるんですよね。

だから僕はメディア側とお客さん側と両方を見ておくと、基本的に失敗しないと思います。「ヒット商品」と言っていただいてますが、確実にヒットさせることはできないので、大失敗しないようにやっているんです。その時に認知も押さえて、販路も押さえて、Webも検討してもらえるように押さえてと、そんなふうに考えています。

最後に必要なのは統合力


細野:今回のテーマは建築思考で「建築にはすべてが詰まっている」みたいなサブタイトルなので、今井さんの考える「建築にいろんな要素がある」という部分をお聞きしたいなと思うんですが。

今井:建築に限らず、デザイン系学科には良いところが3つあります。まず1つ目は価値観で、ユニークなものを作るというのが大前提。2つ目は機会で、優秀な人だけがみんなの前で発表できたり有名な建築家の研究室に配属されたりするので、常に競争にさらされています。3つ目は思考の部分。僕がデザイン思考について根本のところで違うんじゃないかと思うのは、人間中心のデザイン、ヒューマン・セントリック・デザインを一番はじめに持ってきているんですね。

でも建築の課題で、「人間中心に考えて美術館作ってきました」と言ったら、「お前はアホか。そんな浅い考えで建物できると思うなよ」と言われます。建築は、その土地がどんな土地で、周りにどんなものが建っていて、歴史的にはどういう位置づけがされていて、構造とか室内環境をどうしなきゃいけないかとか、いろいろあるんです。

細野:要件が多いんですね。

今井:あとはスケールですね、25万分の1という大きい地図で見ることもあれば、間取り図みたいな100分の1で考えることもあれば、原寸のスケールで考えることもある。これを違和感なく同時に考えるのが当たり前なんです。また、普通取り扱わないようなものを一緒くたに取り扱うのですが、その順番は誰も教えてくれないので、みんな同時に考えるんですよね。そこは当たり前というか、最後は統合力ですよね。これを最後1つの答えに……。

細野:打ち手としてね、固めると。

今井:それには、建築を学ぶのが僕は一番いいんじゃないと思っていて、それとさっきの要件の話、いっぱいの変数を扱うというのが、僕の中では結びついているという。

細野:みんな新しいビジネスを考える時に、想定している変数が少なすぎるんですよね。真面目な人って1個1個解決するんですけど、それじゃ日がコストが合わないし、これを横串でバシッと貫くみたいなことがビジネスデザインなんだという感覚を持てる人が増えたらすごいいいのになと思ってこういう対談をやっているんですが、今日はそこらへんの話を過去の中で一番できたなと思います。ありがとうございました!

Fin

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レポート:渡辺裕希子
提供:株式会社ローンディール
https://loandeal.jp/

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