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「ベンチャーから大企業に戻った若手エンジニアが歩む、独自のハイブリッドキャリア」TOKAIコミュニケーションズ 長島大貴さん×フューチャースタンダード 林幹久さん

 2018年10月から1年間、株式会社フューチャースタンダード(以下、FS)にレンタル移籍した、長島大貴(ながしま・たいき)さん。しかしその後、所属する株式会社TOKAIコミュニケーションズ(以下、TOKAI)に戻ることなく、FSと新たに派遣契約を締結し、そのまま7ヶ月間、ベンチャーに残り続けました。
 その時の思いは、前回のインタビュー(2019年12月)でも伺いましたが、2020年5月に復帰し、1年以上が経った2021年8月。TOKAIとFSの共同開発で生まれた「LED監視自動化サービス」リリースのニュースが飛び込んできました。目視監視によって運用されているサーバやネットワーク機器類のLED監視を自動化するよう、FSが運営する映像解析AIプラットフォーム「SCORER(スコアラー)」を活用して開発されたサービスです。この開発には長島さんも関わっていると聞きつけ、話を伺いました。レンタル移籍中の上司だったFSの林さん(セールスエンジニアリング部部長)と、当時を振り返りながら、技術者として新たな挑戦に取り組む長島さんの今、そして今後の夢に迫ります。

「AIが使いやすい土台を作りたい」思いが繋げた共同開発

ーー今回リリースされた「LED監視自動化サービス※」は、初めから長島さんが共同開発のアプローチをかけられたのでしょうか。

長島:プロジェクト自体は、移籍期間中、私とは関係ないところで始まったのですが、実は私から仕掛けた側面もあります。今回の開発を行ったIoTソリューション推進部のサービス内容とFSが提供するサービスの親和性があると思ったので、以前から様々な提案はしていたんです。

林:当時から、FSの機材を持っていって、TOKAIでの勉強会や発表で使うなんてこと、よくやっていたよね。だから移籍中に長島くんの上司とお話した時にも、FSの事業に興味を持ってもらって、今回のプロジェクトにも繋がったようにも思います。移籍終了後も延長してFSで働くことができたのも、そうやってFSのことを伝えてうまく立ち回っていたからなんじゃないかなぁ。

長島:FSが提供している「SCORER」がいいものだと思っていたし、何より「AIが使いやすい土台を作る」というFSの考え方が自分の中でしっくり来たので、上長や同僚にもこのサービスや考え方について知ってほしいと思い、紹介をしていました。

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TOKAI IoTソリューション推進部の長島大貴さん

ーー裏を返すと、TOKAIでは、AIが使いやすい土台ができていなかったということなのでしょうか。

長島:AIそのものはあっても、うまく使える環境がないというのが現状ですね。今回の「LED監視自動化サービス」は、TOKAIに復帰後、開発が進んでいることを横目で見ている状態でしたが、デバイス単体で使えるβ版の開発の次の段階、クラウドとデバイスの紐付けをする本格版の開発で声をかけられて参加しました。この開発は、お客様がウェブ画面上で全てのデバイスのデータを閲覧確認できるようにするために、クラウドへデバイスのデータを送る仕組みと、データを整理してウェブ画面へ表示する仕組みを作るというもの。当時、FSのクラウドシステムとデバイスの両方について、精通している人が、TOKAIでは私しかいなかったため、クラウド・デバイス間の調整を任されました。現状の範囲でこれならできる、これはできない、新しく追加で開発が必要、といった情報を共有し、そこからFSに依頼をかけて、出来上がったものが想定通りの動作をするかのテストをしましたね。

林:プロジェクトの目的は、LEDが点滅しているかどうかを確認するということ。そこまでならIoTに詳しくてプログラムが書ける人ならできちゃうんです。でもそれを、お客さんに通知して複数台でも管理できるサービスとして提供するまで作り込むのは、ハードルが高い。インフラの整備まで必要なんです。そこまできちんと作り込むと、よりAIが使いやすくなるというがFSの考え方です。その辺りは今回もうまく役立ったと思いますし、本番環境を整備するために長島くんに声がかかった理由でしょうね。

長島:環境を整えることが、AIを有効利用していくことにつながると自分でも思っていたので、やりたいことにもマッチしていたと思います。

林:今回のプロジェクトではTOKAIの皆さんとSlackでやり取りしていたんですが、ある時、長島君がFSにいた時のslackのアカウントがリアクティベートされたんですよ。長島くんもプロジェクトに関わり始めたんだと分かったのはその時ですね。あら久しぶりって感じでした(笑)。

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FS セールスエンジニアリング部部長の林幹久さん
※「LED監視自動化サービス」とは…
データセンターや通信事業者の中継局などの設備において、目視監視によって運用されているサーバやネットワーク機器類のLED監視を画像認識AIによって自動化するサービス。FSが運営する映像解析AIプラットフォーム「SCORER(スコアラー)」を活用し開発され、リモートによるLED監視を実現し、監視業務のテレワーク化、既存監視業務の工数削減などに寄与するサービスとなっている。

外に出ることで早期に習得できた、お客さんの要望を叶えるためのスキルとマインド

ーーFSでの経験が活きる仕事をされているようですが、復帰してからすぐに発揮できていたのでしょうか。

長島:復帰後すぐは、正直なところ満足いく仕事ができませんでした。元いたIoTの技術教育や研修をするITプロフェッショナル推進室という部署から、IoT関連の案件を請け負うIoTソリューション推進部に異動したのですが、自分に合う仕事がなく、部のほうでもどうすればいいか分からずで、満足度や貢献度が低い状態だったんです。そこで、部の現状や求められていることを理解しながら、自分ができることややりたいことを上司に話してアピールしていきました。半年くらい言い続けてようやく、自分の技術が発揮できるような業務に割り当ててもらえ、満足度がちょっとずつ上がっていっている状態です。

林:FSに1年半いて、色々やってもらったと思うんだけど、よかったことって何でしょう?度胸がついたとか?(笑)

長島:たくさんありますが、まずは開発の技術が上がったことです。要件定義、設計、開発、テストをある程度高いレベルでこなせるようになりました。あとは、顧客とのやりとりを通じて、顧客が何を求めていて、それをシステムとしてどう実現するか、という設計部分の考え方を学べました

林:それって、レンタル移籍、つまり外に出ないと身に付かないことなんでしょうか?

長島:TOKAIで経験を積み重ねれば、身に付けられることかもしれません。開発部隊の場合は、下流工程と呼ばれる製造・試験からスタートし、徐々に設計や要件定義などの上流工程を学んでいきます。また、開発業務は分業制なので、私のような若手だと顧客と直接話す機会は少なくなりがちです。そういう意味では、外に出たことで、顧客の生の声を聞いてその要望をどう叶えるかという考え方や、システムへの反映のさせ方を、かなり早い段階で習得できたと思います。

林:特定のプロジェクトをずっとやるのではなく、2〜3ヶ月単位で関わるプロジェクトも変わり、プログラミングの種類もお客さんの業種業態もバラバラで、幅広く取り組んでもらったのがよかったかもしれないですね。開発は長島くん1人しかいなかったので、動かすために書くという経験量もとにかく多かったと思います。ちなみに一番大変だったのはどの業務ですか?

長島:線路問題個所検出システムのプロジェクトで、1人で地方まで出張した時ですね。納期が守れなかったという失敗もあり、精神的に立て直すのも大変でしたが、今思ってみても、技術的な難易度が高かったです。

林:やっぱり、大変だったよね(笑)。線路の下に止まっているボルトが外れていたりしないか、人力ではなく確認できないかというお客さんからの要望でした。それに対して、電車の先頭にGoProをつけて撮影した動画を解析して検出するAIを作るという、代表の鳥海が考えた案を実現するプロジェクトでしたね。

長島:そのボルトが、今思っても小さくて難しかったです…。鶏肉を捌く会社の案件で、鶏肉に残っている小骨を検出してはじくAIも作っていたから、AIの土台を作る知識はあったし、農業にまつわる案件でディープラーニングを使った物体検出もやっていたので、なんとかなると思ったんですが…。

林:線路も小骨も農業も、AIに学習させるというところは似ていますが、結果をどう出力させるか、次の結果にどう連携するかまでやってくれていたので、業務範囲は多岐にわたっていました。JRAとNTTデータと一緒に、ギャンブル依存傾向のある方の顔写真を登録しておいて、その人が来たら関係者にメールを飛ばすみたいな実験も、メインのプログラムを書いてくれてましたね。

ーー世の中のあらゆる仕組みを知れるような仕事ですね。

林:画像解析って、文化と言語が関係ないんです。日本語でも英語でもいいし、文化も関係なければ業種・業態も関係ない。ベースの映像や画像を撮り、そこに何が写ってるかを、何かの仕組みを作って判断して数値化するということ。今回のようにLEDでサーバー管理だってできる。やり方を変えれば、様々な業種業態に対応できるのは、この業界の面白いところかもしれないですね。

長島:映像解析AIの用途についての視野は本当に広がったと思います。何か検出したいものが出てきた時に、対象に合わせてどのAIをベースに使い、どう組み合わせればお客さんの要望を叶えることができるのかという考え方はすごく養われました。

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FS 代表取締役の鳥海 哲史さん(写真左)も交えて

誰かの業務や生活を豊かにできるシステムを作りたい

ーー技術の話をしている間、終始楽しそうな表情の長島さん。技術者の楽しさは、一体どんなところにあるのでしょう。

長島:誰かの業務や生活を豊かにできるシステムを作ることができるところですね。「LED監視自動化サービス」も、1日1回の巡回がなくなって、しかもLEDが消えたとなればすぐにアラートが出て楽になった、なんて声を聞けると嬉しいです。今は同じくサーバー事業者向けに、動きがまちまちなサーバールームを全て26度で保てるよう制御する空調機AIの開発もやっているんですが、例えば空調機AIのおかげで電気代が100万浮きました、なんてなるといいなと思っています。実現するためには、お客さんの声を聞いてシステムとして形にしていくことが大事なので、楽しいところでもあり難しいところでもありますが、頑張って続けていきたいですね。

ーーこれから挑戦してみたいことは、どんなことでしょうか。

長島:今取り組んでいるAIそのものの開発です。AIとはざっくり言うと、ベースとなる脳を作って、それに勉強を教えてあげると、その脳が教えたとおりに結果を返してくれるというものなんです。FSでは、すでにある脳にうまくデータを与えて頭をよくさせて、何かしらの物体を検出するということをしていました。でも、今は脳そのもの、つまりAI本体を作っていて、これは自分の初めての試みなんです。これまで何かしらを利用してやってきたところから、ついにAIの生産者になるんです!だから今はワクワクしながら開発しています。

林:長島くんがFSにいた時は、土台となるソフトウェアがあって、それを得たい結果のためにチューニングするという業務をやってくれていました。そういった土台がないところから全部作るとなると、1あるのを10にして使いやすくするのではなく、0から1を作るということなので、難しいですよね。しかもAIだけ作ったらお客さんに喜んでもらえるわけではなく、提供するシステムにまで作り込んでサービス化しなければならない。まるで総合格闘技みたいですよ。FSで取り組んでもらった幅広い経験が徐々に効いてくるといいなと思ってます。

長島:そうですね。今はAI本体を作っていますが、作ったところでAIは結果を返してくれるだけなので、AIに与えるデータをどう持ってきて、どのように効率良く勉強をさせるか、そして最終的にAIが返した結果をお客様にどう見せるか、というところも私が考えて作らなければなりません。

林:全部1人でやるって大変そうじゃない?(笑)

長島:大変ですね(笑)。私の先輩で1人、AI本体の開発知識を持っている方がいるので、その方とも作業分担しながら、AIを活用した総合的なシステムを作るのは私が、という具合に知識を共有しながら進めています。

林:困ったらいつでも相談してね(笑)。人材採用にも関わる話ですが、AIを作る人とシステムを作る人では、求められる業務知識やスキルセットも全く異なるんですよ。AIを作る人は、例えば自動車の自動運転でいうと、こうしたら止まるとかこうしたら右に行くとかを判断できる人、そのための脳を作ることに特化した人。一方で、それを使って、車の全体を理解して最終的にどう制御するかというのは、また別のスキルです。ベースとなる脳を作ることと、システムとして組み込んでユーザーに使える形に変換して必要なものを整えること。長島くんはその両方を経験してもらっているので、強みがあるんじゃないかなぁ。

技術者として、どう生きるか

ーー長島さんは今後、どんな風に世の中と関わっていきたいのでしょうか。

長島:FSでAIに深く関わってきたので、やはりAIの普及をしていきたいです。TOKAIの中で、AIを使ったらもっと簡単にできるのではないかと思うことがまだまだたくさんあります。キャパシティ等の関係で、アイデアを考えたり、提案したけどできないこともあります。それでもうまく折り合いをつけながら、AIを利用して生活を豊かにするということを念頭に、これからも開発を頑張っていきたいです。

林:長島くんのチームができるといいよね。1人でできることには限りがあるから。長島くんの場合は、自分でゴリゴリ書いて動かしたい思いが強そうだし、FSの時からよく頑張っているなあと思っていました。でも、チームでトータルでできることが増えると、思った以上に大きなことができるようになるんじゃないかなぁ。自分が手を動かさなくても、周りの人が作ってくれるっていうのも有り難い環境だし、結果的に自分の思ったものがどんどんできるようになる。色んな人を通じて長島くんの頭の中が再現できるようになると面白そうだと思って聞いていました。部下を持てるようになるのはいつになるかな。

長島:今は部署の中でも一番年少で、末端の開発ですが、今まで自分が手を動かすことが多くて、人にお願いすることはあまりなかったので、やってみたいですね。

林:人にお願いするのはまた大変だけど、違う風景が見えてきますよ。自分で手をゴリゴリ動かしたい人ほど、ある意味ギアチェンジだから。僕の場合、院卒で7年間ソフトウェアエンジニアやった後にMBA留学して、教育業界でビジネスコンテンツ作る仕事を5年間やった後にFSに参画していますが、最近は自分でコード書く機会はだいぶ減っています。エンジニアという点では自分よりできる人はたくさんいるはずなんです。一方で、エンジニアとビジネスサイド両方と会話ができて、うまく周りを調整してお客さんに出せるようPJを進めていくというのが、自分の力が発揮できるところかなと思っています。スペシャリストでやっていくというのも一つのキャリアパスだし、色んな人と組み合わせて自分のできることを広げていくというやり方もある。長島くんはまだ20代だっけ?

長島:今年で30歳になります。

林:年齢的にもだんだん後輩や部下ができるだろうから、FSでの経験や復帰後のTOKAIでの経験を色んな人に伝えてもらって広がっていくといいんじゃないかなぁ。FSにレンタル移籍者を出す立場くらいになって(笑)。

長島:そうですね(笑)!

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ーー長島さんが技術者としてどう変わっていくのか、はたまた変わらずにその道を極めていくのか…。林さんのキャリアについても伺うことで、長島さんのこれからがますます楽しみになる時間となりました。「大きなシステム開発に携わりたい」と入社したはずなのに”開発”そのものができないモヤモヤからレンタル移籍に挑戦し、復帰後も自分のやりたいことを実現するべく上司に働きかけるなど、積極的に動き続けている長島さん。「誰かの役に立つシステムを」とワクワク働く彼から、今後どんなシステムが生み出されていくのか、楽しみです。

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▼「TOKAIコミュニケーションズの『LED監視自動化サービス』ができるまで」も、フューチャースタンダードHP内にてお読みいただけます。

(前編)AI活用で新サービス、データセンターのサーバーを監視する「眼」を提供
(後編)難易度の高い「LED点滅」の検知を技術の組み合わせの発想でクリア

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協力:株式会社TOKAIコミュニケーションズ / 株式会社フューチャースタンダード
インタビュー:黒木瑛子
撮影:宮本七生
提供:株式会社ローンディール
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