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【「やりたいこと」を持ち、ワクワクしながら仕事をし続けたい】東京海上日動火災保険株式会社 北村 奈都子さん

「会社の看板を取ったとき、自分には価値があるのだろうか?」
大企業に勤める多くの人は、この問いにぶつかったことがあるのではないでしょうか。社員の良さに惹かれ、2007年に東京海上日動火災保険株式会社(以降、東京海上日動)に入社した北村奈都子(きたむら・なつこ)さんも、「ずっとそう思っていた」と言います。
北村さんは、新卒で入社後10年以上営業の経験を積み、実績を出してきました。ただ慣れてくる中で、これまで大好きだった会社に対し「これでいいのかな?」とうモヤモヤも感じるようになったそう。そんな気持ちを抱いていた2021年、AIやロボット技術を活用し農業の課題を解決するベンチャー「inaho」にレンタル移籍をします。
180度異なるカルチャーに身を置いたことで、北村さんは自身と仕事の関わり方、そして会社の見え方が変わったと話します。そんな北村さんに、レンタル移籍を通じて芽生えた想いを伺いました。

「良い人に囲まれて仕事がしたい」

ーーまず、東京海上日動に入社された理由を教えてください。

働きやすさと社員の人柄の良さが理由です。私が入社した2007年はまだ「女性は家庭や子育て」というイメージで、私もぼんやり「新卒から3年くらい働いて辞めるのかな」と思っていました。とは言え、長く働くことも見据えて会社を選びたいと就職活動をする中で、細く長く働けそうだと思ったんですよね。

あと、社員がみんなすごくいい人で。影響されやすいタイプなので「良い人たちの中に身を置いておきたい」という気持ちもあり、東京海上日動に決めました。当時は事業というより、会社の雰囲気に惹かれていましたね。

ーー北村さんは、「ずっと会社が大好きだ」と伺いました。

そうなんです。実は、学生の頃まで金融機関に良いイメージがなかったんですよね。社会課題の解決を目的とするNPOなどと比べて、当たり前ですが、民間の保険会社は稼ぐことに主眼が置かれます。なので当時は、誠実に仕事をしているイメージが湧かなかったんですよね、正直。

それが入社したら大違い。
「こんなに誠実に仕事をしているんだ!」
とビックリして(笑)。

先輩たちが「自分たちの最大限の価値をお客様に提供しよう!」と真摯に仕事をされていて、その姿に本当に感動したんです。新人の私も明るくフォローしてくれて、会社の雰囲気が好きだなあと思っていました。

ーーその一方で、inahoに移籍する前の数年は少しモヤモヤも抱えていたとか。

移籍が決まったとき、代理店営業の部署で9年目を迎えたところでした。役職も上がり、自分の裁量でできることが増えてきた中で、少しずつ仕事に違和感を抱く場面が出てきたんです。

それは、営業の仕事をする中で実際に現場を見る機会が乏しかったということです。次第に「これでいいのかな? 本来なら、現場で課題を知ることの方が大切なのでは?」と、一歩踏み込んで仕事がしたいと感じるようになったんです。

もう1つは、社内の雰囲気ですね。自分がどうしたいかより「会社の目標・方針に沿って」動く人が多いことが気になっていました。大企業ではトップダウンも必要とは思いつつ、「もっと“自分がやりたいこと”を持って働けばいいのに!」と感じていました。

入社してからずっと会社が大好きでしたが、「もっとこうしていきたい」という自分の想いと現実とのギャップにもどかしさを感じ始めたのが、inahoに移籍する数年前でした。

移籍先で経験したかった、手触り感のある仕事


ーーそんな中で、どうしてレンタル移籍に参加したのですか?

当社の人事異動の一環です。同じ部署で長く働く中で、先程のモヤモヤを抱えていた時期でもあったので、何かヒントが得られるかもしれないという、新しいことにチャレンジできる嬉しさとワクワク感がありました。ただ不安もあって。正直「会社の看板がないと自分なんて何もできない」と思っていたので、「そもそもできるんだろうか。私で良いのかな…」という気持ちがありましたね。

ーー移籍先にinahoを選んだ理由も、抱いていた違和感と関係するのでしょうか?

自然と移籍先の候補に1次産業など、現場にサービス提供をしている会社ばかり選んでいたんです。「どうして1次産業なんだろう?」と内省する中で、「やっぱり現場を見たい、手触り感のある仕事がしてみたい」という自分の想いに気づきました。

inahoはテクノロジーで持続可能な農業を実現することをミッションに、自動野菜収穫ロボットを作っている会社です。1次産業を扱うベンチャーの中でも、現場をしっかり見てサービスを提供している印象を持ち、面白そうだと思って決めました。

ーー実際に移籍して、最初の印象はいかがでしたか?

東京海上日動との違いに早々に悩むことになりました。まず東京海上日動は人材育成に力を入れていたので、転入者や新入社員がいた場合、職場が率先して手厚くフォローをするんです。でもinahoでは、基本的に自分で解決することが求められます。そんな中でSlackとかGoogle driveとか、これまで使ったことのないツールがどんどん出てきて、「なんだこれ!」って(笑)。

「誰かに頼りたい…」と思いつつ、「そんなことに甘えてちゃいけない」とも感じて葛藤がありました。

加えて完全にリモートワークだったので、東京海上日動では気軽に出来た「周りの人にちょっと聞く」ができなかったんですよね。私は代表と同じ最年長で、「周りのメンバーと比べて社会人経験も長いのに…」とも思い尻込みしてしまって。「やっていけるんだろうか」と不安を感じたのが最初でした。

「やりたいことないの?」の問いで、改めて自分に向き合う


ーー働き方や、仕事の仕方にも違いがあったのではないでしょうか?

仕事に対する感覚は全く違いましたね。私の中では、「プライベートと仕事は切り分けるもの」というのがスタンダードだと思っていたんです。

それがinahoは全然違い、仕事が好きすぎてずっと働いているんですよ。仕事が人生の中の大切な一部になっていました。これは私の中で、新しい感覚でした。働き方の自由度も高いので、その分、プロセスを見られることはほとんどなく、アウトプットがないと仕事をした証明にもなりません。180度違う働き方に慣れるのは難しかったです。

ーーガラッと環境が変わりましたね。かなり大変だったのではないですか?

はい、最後まで大変でした(笑)。inahoでは自分が何をどうしたいか決めて自発的に動かない限り、何も生まれません。「やることが決まっているって、こんなに楽なんだ」と思いましたね。

ーー東京海上日動でのご自身の姿を、違う角度から認識し直す機会になったんですね。

そうですね。inahoのCOOの大山さんに、何をしたら良いか相談したこともあったのですが、

「むしろ、やりたいことないの?」と言われて。
「うーん…」と唸ってしまいました。

私、東京海上日動では自発的に動くタイプだったんですよ。自分もそう自負していたんです。移籍する前も、周りの人に「上司の言うことだけじゃなく、もっと“自分のやりたいこと”で動けばいいのに!」と憤っていたくらい。なのに、

「私、やりたいことないんだ…」と思って。
もう、その絶望感たるや。ショックでしたね。

そこで気付いたんです。私が自負していた自発的な行動は「大きな会社の枠の中でやりたかったこと」だったんだなと。結局、会社の目標を実現していただけで、会社という枠を取り払ったとき、「“私自身”のやりたいことなんて1つもないんじゃないか?」とハッとしたんですよね。

ここから、何をしたいのか、改めて自分に向き合うようになりました。

与えられるのを待つのでなく、
自ら“経営者目線”を持って見えてきたこと

ーーinahoではどのような業務をされたのでしょうか?

営業活動や新たな収益化のためのコンテンツ作りなどを担当しました。最初は何をしたらよいかわからず、「なんでもやります!」の姿勢でいたんです。そうしたらメンバーの下請け業務ばかりになってしまって。

やることはたくさんあるので、時間は過ぎていくんですよ。でも「これはなんか違う!」と思って。もっと自分から課題を見つけて動かないといけないと気づいたのですが、何をどうチャレンジしたら良いのかわからなくて、モヤモヤした状況を3ヶ月くらい引っ張ってしまいました。

ーーその状況をどのように脱したのですか?

メンターの酒井さんと話す中で、少しずつヒントが見つかっていきました。酒井さんがいなかったら、この移籍期間を乗り切れていなかったと思います。まず「会社として何をやってほしいか、代表と話した方が良い」というアドバイスをいただいて、そこからCOOの大山さんに定期的な1on1をお願いしたんです。疑問をぶつけたり、私から改善の提案をしたり、色んな話をさせていただけるようになりました。

ーー自ら行動されたんですね。他にもメンターの方からのアドバイスで、印象的だったものはありましたか?

「経営者目線を意識した方がいい」というアドバイスですね。それまで、私は会社の方針や期待される役割といった「言葉」を求めてしまっていたんです。そんなときに酒井さんから、「経営者目線を意識して、一歩引いて全体を見れば何をするべきか見えるはず」とアドバイスをいただきました。そのときは本当にハッとしましたね。

「私は与えられることをただ待ってしまっていたんだ」って。

東京海上日動では会社の方針が示されるのが当たり前で、その計画に対して部や自分の役割が決まっていました。でも言葉を待たなくても、私自身が経営者目線を意識して会社を見ることで、自ずと見えるものがあったんですよね。そこから、私自身が何をするべきか、だんだんと見えるようになりました。

ーー大きなヒントだったのですね。そこからご自身の行動も変わったと思います。大企業の経験を生かして取り組んだこともあったのでしょうか?

営業活動については、東京海上日動の経験を生かせたと思っています。inahoのメンバーは自分たちのAIやロボットの技術が当たり前になりすぎて、その凄さや売り込みポイントが言語化しきれていなかったんです。

もちろん、お客様の大半は技術に詳しくない方たちです。なので「表現しない限り、このサービスの凄さは伝わらないですよ!」と意識的にメンバーに伝えるようにしました。伝えたいポイントを一緒に整理しながら、実際の営業活動でお客様に伝えることはできたと思うので、この経験が今後のinahoにも役立ったらいいなと思います。これは大企業の経験があったこともそうですが、私が技術に対して素人であったからこそできた提案だったと思いますね。

次なるミッションは、「会社のネットワークを活かした社会課題解決」

ーー移籍後、東京海上日動に戻ってからはどんな仕事をされていますか?

営業の企画をする部署にいます。いまは全国の営業部と連携して取り組む、地方創生につながる企画を考えています。

ーー「こんなことをやりたい」と考えていることはあるのでしょうか?

いまの部署で地方の実態を知る中で、住民生活をよりよく変えるためには、国以上に自治体や中小企業など、住民に近い立場にいる方が頑張らないといけないと強く感じるようになりました。だからいまは、そのサポートをしたいと思っているんです。地方にお金が落ちる、採算性のある仕組み作りに貢献できないかと考えています。その点、東京海上日動は全国に大きなネットワークを持っているので、その力を生かしながらできることが必ずあると思います。具体的な打ち手をまさにいま考え、もがいてるところですね。

「ワクワクしながら仕事をする連鎖」を生み出していきたい

ーー移籍直前に抱いていた、会社への想いは変わりましたか?

カルチャーが異なるinahoを経験したことで、会社を見直せたり、モヤモヤしていたことの背景を理解できるようになったりと変化はありました。適切な距離感で会社を捉えられるようになり、「過多な愛情」から「適度な愛情」に形が変わったのかもしれません(笑)。

何より組織として、会社の目標が個人の目標にまで落としこまれる体制は重要なんだなと。移籍前はそれが当たり前だと思っていたし、重要性をそこまで理解できていなかったですが、会社の方向性が示されているからこそ、自分で「何をすべきか」判断ができるとわかりました。

組織が大きくなる中ではこういう仕組みがすごく大事だし、それができていることは重要なんだなと思うようになりました。

ーー会社の良いところを改めて見直すことができたのですね。

そうですね。あと、これまで「私自身に価値はない、だから会社の看板なしでできることなんてない」と思っていたんです。でもレンタル移籍を経験して、大手企業で働いてきたことで、私自身、社会に影響を与えられる価値をもう持っていたんだ、とわかりました。

営業のノウハウも、体系だって教えてもらったことはないんです。でも知らないうちにしっかりと基礎が身についていて、だからこそinahoでも実現できたことがあったんですよね。だからこれからは、立ち止まらずに自分ができることをどんどんやろう!と思って。自信を持って頑張ろう、と思えるようになりました。

それから一人ひとりが「やりたいことを持つ」という姿勢も、改めて大事なことだなって。自社だけでなく、社会全体でみんながやりたいことを大切にしながら仕事ができたらどんなに素敵だろうか、と思うようになりました。

ーー北村さんの仕事に対する姿勢にも変化が生まれそうですね。

いま、東京海上日動でも「ワクワクしながら仕事がしたい」って思っています。その影響か、仕事に関係する情報収集も「仕事だから仕方なくやろう」ではなくて、「これも見たい、知りたい」と自発的に行動する機会が増えていると思います。

ーー“ワクワクしながら仕事に向き合う姿勢”が伝播していったら素敵ですね。

それはすごくやりたいですね。組織としても「仕事だから」ではなく、「私たちは何がしたいか? そのために何をするか?」という議論ができたら、もっとワクワクするんじゃないかなって。そんな問いを私から投げかけていけたら面白いと思いますね。まずは自分のチームから変えていこうと考えています。

inahoへの移籍を通じて、北村さんはこれまでの自分の「当たり前」を見直し、待ちではなく自発的に行動する姿勢をいままで以上に得られました。またインタビューを通じて、北村さんが自社に対して愛着を持ち、「もっとこうなってほしい」という前向きな期待、そしてそれを変えていく当事者意識も強く持っていることを感じました。

今後、北村さんの周りではじわじわと、ワクワクしながら働く人が増えていくことと思います。レンタル移籍を通じて、改めて組織への愛情を確認した北村さん。経験を通じて得た自信と自分のやりたいことを大切に、今後一層活躍されていくことでしょう。

Fin

【ローンディールイベント情報】

3/17「多様な人材を活かして伸ばす、ミドルマネージャーのあり方とは?」
今回のイベントでは、部下をレンタル移籍へ送り出した2社のマネジメント層の方にご登壇いただき、実例を交えてミドルマネジメントとしての取り組みについてお話を伺います。


協力:東京海上日動火災保険株式会社 / inaho株式会社
インタビュー:大沼 芙実子
撮影:宮本七生
提供:株式会社ローンディール
https://loandeal.jp

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