【第1章 人生100年時代のチャレンジ】48歳、ゼロからの挑戦 〜パナソニックから弁当屋の店長に!?〜
「移籍者たちの挑戦」シリーズでは、大企業で働く社員が、「レンタル移籍」を通じて、ベンチャー企業で学び、奮闘し、そして挑戦した日々の出来事をストーリーでお届けします。
今回の主人公は、パナソニック株式会社から、農業と食のグローバル・バリューチェーン ・プラットフォームの構築を目指すベンチャー企業、アグリホールディングス株式会社に移籍した久武悟朗(ひさたけごろう)さん。久武さんは2018年10月から移籍を開始し、2019年9月末に終了予定。現在も絶賛移籍中です。そんな久武さんの移籍中のストーリーを連載でお届けしてまいります。
今回の主人公
久武悟朗(ひさたけごろう)
パナソニック株式会社 オートモーティブ&インダストリアルシステムズ社 インダストリアル事業開発センター所属(当時)。新規事業開発を行う部門にて、新規商品企画を担当。「このまま今の会社で挑戦し続けるのか、それとも……」まさに人生の岐路にいたその時、レンタル移籍に出会う。「いったん外に出て考えてみるかっ!」そんな気持ちでスタートしたものの、まさか自分が弁当屋の店長をすることになるとは思ってもみなかった。
東京の中央区日本橋にある、小さなお弁当屋さん「BENTO-LABO」。
2018年11月末にオープンしたばかりの同店は、店内でヘルスチェックが出来たり、体調や健康の悩みに合わせた各種惣菜メニューのお弁当販売を行うなど、トータルヘルスをサポートしてくれる新しいスタイルのお弁当屋さんだ。
この店の責任者はアグリホールディングス株式会社の久武悟朗。
久武は2018年10月より、株式会社パナソニックからレンタル移籍(※1)を通じて、この事業に関わっている。
「BENTO-LABO」は、昼にはオフィスで働く女性たちで賑わい、夕方になると近所の主婦が来るなど、健康志向の人々が集う場所になっている。
———しかし、立ち上げて4ヶ月目の2019年3月末。
久武は窮地に立たされていた。
店舗の調理師が相次いで退職してしまったのだ。
「スタッフが辞めるのは、これで何度目だろうか……」
店内の内装、プロモーション、オフィスへの弁当宅配など、やるべきことは山ほどある。それなのに、そもそものお弁当を作ってくれる人材がなかなか定着しない。
「何がいけないんだろうか……」
久武は求人を急ぎつつ、頭を抱える。
—会社に貢献できていない5年間……
ちょうど1年前。
まさか自分が、弁当屋の立ち上げを行うなんて想像していなかった頃、久武はパナソニックから転職しようかどうか……、そんな検討をしていた時期だった。ネガティブなものではなく、久武の知人が新しく始めたスタートアップ企業への転職だ。
久武は、もともとデジタルのプロダクトに興味があり、パナソニックに入社した。入社後はセールス部門を長いこと経験した。久武は人当たりが良く、気さくで誰とでもすぐに打ち解けるタイプ。セールスは自身でも向いていると思っていた。やりがいもあった。
しかし心のどこかでは、プロダクトを自分でも企画してみたい、という想いも持っていた。
そして2013年、今から6年前。
新規事業の立ち上げを行う部門に異動になった。
ここまで長かった。
しかし、長かったからこそ、これまでの経験が活かせると思った。
久武の配属された部門では、皆がプロジェクトリーダーとなり、事業を立ち上げる。自身で着想から行い、企画を立案する。そしてチームを編成し、プロトタイプまで作り、社内で承認されると商品化出来る。
久武も幾つかのプロダクトを企画し、そのうちプロトタイプの制作まで進んだものもあった。それらは展示会へ出展するなどして、一般消費者から声を聞くことなども積極的に行った。「そういう商品、ずっと欲しかった」と嬉しい声をもらうこともあった。
———しかし。
異動してきてこの5年間、久武の考案したプロダクトは未だ世の中には出ていない。セールスの仕事を通じて、消費者や事業者、それから技術開発の最先端に触れてきた。世の中で求められていることが分かっているつもりだった。マーケティングやリサーチ、仮説検証まで全部やった。
それでもなかなか実現しない。
プロダクトを考えるのは楽しい。
しかし「ここではもう、自分の企画は事業化出来ないんじゃないか……」いつしかそんな不安を持つようになった。
そして、5年も会社に貢献できていない状態に、居心地の悪さも感じていた。
—スタートアップに参画!?
そんな時、久武は立ち上げたばかりのスタートアップ企業への参画の誘いを受ける。
それは、久武が前々から注目していた分野の事業だった。
すでにプロダクトはあり、自ら企画開発を行うわけではないものの、事業の成長性を強く感じ、事業拡大に貢献したいと思った。
一方で、「このまま会社を去っていいのだろうか……」という葛藤もあった。まだできることがある気がする、そう考える自分もいた。
そんな悩みを社内の先輩に相談したところ、先輩から「社内のポータルを見てみろ、いいのがある」というアドバイスを受ける。
社内のポータルとは、社員向けの情報サイトだ。
そこには、「社外留職の説明会」の告知があった。
久武はそこではじめて、「レンタル移籍」と出会う。
(※パナソニックでは、社外留職の一環として「レンタル移籍」を取り入れていた)
—人生100年時代。この辺りでチャレンジもありかな……
2018年の夏。
久武は、大阪本社で行われた「レンタル移籍」の社内説明会に参加していた。数人の募集に対して、大阪会場だけでも100人くらい人がいた。
久武はこの頃、『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)―100年時代の人生戦略』という本を読んでいた。
時代は大きく変わっていく。
「100年ってことはまだ半分かぁ、この辺でチャレンジするのもあり……か、」
48歳の今、動かなかったらこのまま何も変われない気がする。
「いったん外に出て考えてみるかっ!」
久武はポジティブに決意した。
それに「ベンチャー企業と組めば、ドライブがかかるかもしれない」
そんな期待もあり、レンタル移籍にエントリーした。
—「農業界の銀河系集団」へ
部門の理解もあり、久武のエントリーは無事に採択された。
「せっかくだから、今の事業とは全然関係ないことをやってみたい。なるべくパナソニックが着手していない分野が良い」
唯一それが、久武が行き先のベンチャー企業を選択する際の希望だった。
そして、ベンチャー企業を選ぶ中で、「農業界の銀河系集団」というコピーを掲げていたアグリホールディングスに目が止まる。
「かっこいいな……」
そのキャッチーさに心奪われつつ、事業内容にも共感する。アグリホールティングスは、日本食を海外のマーケットへ流通させる新たな仕組み作りを行っているベンチャー企業。この取り組みで、日本の農業を救えるかもしれない。世界にも大きく貢献するだろう。
「このビジネスはいける……」
久武は、強く惹かれ、面談を申し込んだ。
—農家になると思っていた! しかしまさかの……
いよいよアグリホールディングスの面談日。
久武は「何がやりたいですか?」と聞かれ、「農家を経験してみたい」と答える。
今までと全然違うことに挑戦したい、と気持ちもあったが、
「今後、パナソニックと何ができるだろう?」という視点も持っていた。
価値ある農作物を育て、パナソニックの技術を使い、農業をテクノロジーで進化させていったらどうか? そう考えた。
「それいいですね、是非やりましょう!」
面談で対応してくれたアグリホールディングス COOの岩崎は、提案を受け入れた。
両者合意し、見事、久武の移籍が決まった。
それからすぐに、移籍開始である2018年10月がやってきた。
久武は、事前にアグリホールディングスより「千葉県のイチゴ栽培はどうですか?」という提案があったため、すっかりイチゴ農家になるつもりで東京にやってきた。
———しかし、移籍初日。
「久武さん、すみません、農家のこと忘れてください」
「えっ?」
「弁当屋の立ち上げをしてほしいんです」
「…弁当屋?」
アグリホールディングスから、全く異なる提案があったのだ。
弁当屋の立ち上げを軸に様々な事業構築をしてほしいという、シリアルアントレプレナーとしての実績を期待された。
「いきなり弁当屋かぁ。ベンチャーのスピード感はやっぱり違うな……」
呑気に感心していたのも束の間。
久武は移籍初日、さっそく弁当屋の事業計画書を作るところからスタートすることになった———。
(※1)レンタル移籍とは?
大手企業の社員が、一定期間ベンチャー企業で事業開発などの取り組みを行う、株式会社ローンディールが提供するプログラム。ベンチャー企業の現場で新しい価値を創りだす実践的な経験を通じて、イノベーションを起こせる人材・組織に変革を起こせる次世代リーダーを育成することを目的に行われている。2016年のサービス開始以降、計21社39名以上のレンタル移籍が行なわれている(※2019年4月現在)。導入企業の実績はこちら。https://loandeal.jp/biography
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協力:パナソニック株式会社、アグリホールディングス株式会社
storyteller:小林こず恵
提供:株式会社ローンディール
https://loandeal.jp/