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「AI人材を目指してベンチャーへ 2年間で学んだ“AIのリアル”」株式会社マルハン 王澤心さん -前編-

全国約300店舗のパチンコホールを中心に、ボウリング場やアミューズメント、映画館などを運営している株式会社マルハン。事業のテーマである"総合エンターテイメント"の下、人々に笑顔をもたらす仕事をしてきた王澤心(おう・たくしん)さんが、「レンタル移籍」を通じ、一時的な新天地として出向したのが、AI開発エンジニアが集結するベンチャー企業の株式会社Nextremer(ネクストリーマー)でした。
なぜAIなのか? そこでどんな発見があったのか? 2年間に及ぶベンチャー体験で得たものを伺っていきます。

─リーディングカンパニーのAI人材になるために

ーー王さんが、もともとマルハンに入社した理由は何だったんですか?

2016年4月に新卒で入社しました。たくさんの企業を訪問したところ、事業に寄せる熱量の高さをもっとも感じたのがマルハンだったんです。経営理念や社訓などを通じた「マルハンイズム」と呼ぶモットーがあるのですが、ただ名目上掲げているのでなく、実現のために社員一人ひとりが真剣に取り組んでいる姿勢が伝わってきました。そうしたところに惹かれたんです。

ーーエンターテインメントに興味が?

いえ、大学院では「知能とはなんぞや?」といったことを研究する知能システム科学を専攻していて、エンターテイメントとは無縁な生活を送っていました。でも、直接人と触れ合う接客の仕事に興味があり、学びたい気持ちも強かったんです。今は、ホールコンピュータシステムや各種データを取り扱う情報システム部に所属していますが、入社直後全国各地のホールで接客業務を行うのが通例で、私は秋田の茨島店に配属されました。

ーーそこで接客業務を学ばれたわけですね。

はい。そこで2年ほど接客業務に携わっていました。自信もつきはじめ、また何か新しい取り組みも手掛けてみたいという気持ちになっていました。一方その頃、世間ではずいぶんとAIブームが沸き起こっていて、マルハンにとってもAIを用いて何かできないか?という話が出てきたんです。

ーーそれが、王さんがネクストリーマーに出向されるきっかけに?

そうなんです。マルハンは1万2000人を超す従業員がいる大企業ですが、先進技術を活用した事業戦略を推進する情報システム部のメンバーは十数人という規模感。当然、メンバーの多くもAIについて強い興味を示していたようですが、現存するシステムの管理などであまり余裕のある状態ではなかったんですね。「AIをどう使うか?」という検討ができないだけでなく、「そもそもAIで何ができるのか?」も把握できていない状況でした。ですから、まずはAIについての正しい知識を持った人材を育てるところからスタートしようということで、私に白羽の矢が立ったのです。

ーー御社は業界に先駆けてホールコンピュータシステムを導入するなど、ITを積極的に活用されてきたと伺っています。そうしたことも背景にあったのでしょうね。

そうですね。AIは最先端のテクノロジーですし、当社は業界のリーディングカンパニーでもあることから周囲に参考となるサンプルがなく、自ら行動に移す必要があるんです。


─「研究からビジネス実装まで素早く行っているベンチャー企業」へレンタル移籍

ーー「レンタル移籍」することになるわけですが、どのような気持ちでしたか?

正直、「楽しみだ!」という想いが一番強かったです。それまでやったことのなかった接客業を選んだように、知らない環境に身を置くことに不安は感じない性格で。それに、私が大学院で所属していた研究室では脳科学に近いアプローチの仕方でしたが、AIの領域とも近いから興味はありましたし、プログラミング学習を経験していたので、どこまでやれるかというワクワクもありました。

ーーなるほど、王さんは新しい世界に飛び込もうというベンチャー気質をもともとお持ちだったんですね。

そうかもしれませんね。上司との相談の末に期間は2018年3月からの2年と決め、ローンディールさんから紹介を受けた複数のIT企業の中からネクストリーマーを選びました。

ーーうまく馴染めましたか?

はい、問題なくスタートを切れたと思います。当初配属されたのは主に量子コンピュータを研究するチームで、私はまったく知識が不足していたため、基礎の基礎から勉強する毎日でした。プログラミング言語であるPythonや、AIの基本的な知識や概念の勉強ですね。秋田のホールで接客営業していた頃とはまったく景色の異なる内容でしたけど、大学院の研究所に似た雰囲気があったのも、すぐに馴染めた理由なのだと思います。

ーーエンジニアが多いベンチャー企業ですから、研究者肌にマッチしたのですね。

はじめは本当、研究室みたいな会社だなというのが第一印象でした。ですが、ネクストリーマーは私が入る前には資金調達も終え、社会実装に舵を切っていたので、研究室のような会社から、研究メンバー・プロダクト開発メンバー・ビジネスメンバーが素早く連携して、世に出していく過程を見ることができました。

—現場を通してわかった「AIでできること」「できないこと」

ーー基礎を勉強することから、その後はどのように発展していったのですか?

ネクストリーマーに在籍していた2年間は、大きく3段階に分けられると考えています。1段階目は、時間を目一杯使って勉強していた期間。2段階目が、論文検証などネクストリーマーの業務に多少の貢献ができるようになった期間です。ネクストリーマーには、ある論文をもとに制作したAIがあったのですが、それの発展型の論文が発表されたため、実装して論文通りにいくのかを確認しました。そして3段階目は1年が過ぎて出向期限の折返しになった頃で、プロジェクトマネージャーをサポートする役割として実際にいくつかのプロジェクトに参画させてもらうようになりました。

ーーたとえば、どのようなプロジェクトに携わったのでしょうか。

とある企業と一緒に、ネクストリーマーの画像エンジンを活用して、大規模な物流倉庫で使用できる「ロボットアームの自律ピッキング用ソフトウェア」の開発プロジェクトメンバーになりました。その企業は遠隔操作可能なロボットアームを製作されていたのですが、どのようにモノの位置を確認するのか、どのようにつかめばいいのか、機械が自ら判断して実行させるAIのソフトウェアを開発する能力がなく、ネクストリーマーに依頼があったんです。物流業も人手不足が深刻な状態になりつつある業界だそうで、それをカバーするために、こうした機械に寄せられる期待感が高まっているんですね。

ーーAIビジネスのひとつの最前線に立たれたわけですね。約1年にわたって勉強されてきたとはいえ、実際のプロジェクトに参画するとなるといろいろな困難もあったのでは……?

一番困難だったのは、技術的な課題というより、クライアント企業とネクストリーマー間での認識のギャップをなかなか埋められなかったことです。「AIを使って何かをしよう」という考えは多いのですが、実は抱えた課題を解決するためにはAIよりも従来のオペレーションを発展させたほうがうまくいくであろうケースもあるんですね。ここが「レンタル移籍」の経験で得られた大きな学びのひとつ。AIに対する理解の差がプロジェクト進行の最大の障害になり得ることがわかりました。

ーーAIに対する深い知識がないからこそ、「AIを使えばなんかうまいことしてくれるんじゃないか?」と過信してしまうんですね。

そうですね。まるで万能ツールであるかのように感じてしまう方が多くて。実際、私もレンタル移籍をして学ぶまでは理解できていなかったことですが。また、さらに問題を複雑化しているのが、ネクストリーマーはAIを武器にした企業ですから、その活用を希望される顧客を前に「この場合はAIではないアプローチの方が結果がでます」とは、ビジネス的に言い出せないというジレンマもときにはありました。もちろんAIが向いている場合は提案しました。

ーー難しい立場ですね。しかし、AI利活用の線引きを意識化できたということは、そこまでAIの理解を深められたということになりますね。

そういうことになりますかね。1年が過ぎた頃には、おかげさまで根本的、基本的な概念の理解は深められた状態でした。レンタル移籍中、ネクストリーマーは「CEATEC」と「ET&IOT」という2つの業界大手展示会に参加したのですが、これらの企画にも主体的に取り組んだことも大きかったですね。「CEATEC」には、また別のプロジェクトで開発した自律ピッキングのロボットアームを出店し、来場客にAIが果たす役割やシステムについて説明するための展示物を制作したり、当日に直接説明したりしたのです。

ーー理解していないとできない役割ですね。

責任ある立場でしたが、成功裏に終えられたと考えています。それに、ある意味で文化祭的で、すごく大変だったと同時にとても楽しく想い出深いイベントになりました。「CEATEC」への出展は向井社長(移籍当時。現在は代表取締役会長)が決めたのですが、開催まで1カ月ちょっとという急なタイミングだったんです。それから展示物を決め、ロボットアームの貸出先を探し、展示内容に合わせたプログラムに差し替えて……と、なにもかもドタバタで、突貫工事で。最初は愚痴ばっかりいってました。「たった1カ月でどうするの!?」って(笑)。

ーーそこは、ベンチャーならではのスピード感の違いなんでしょうね。

まさしくそうですね。大企業との違いを感じる部分でした。

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展示会出展時の1枚。ネクストリーマーのメンバーと。
前列、一番左が王さん
AIベンチャーへの「レンタル移籍」という初めて尽くしの中、プロジェクトマネジメントにかかわるまで至った王さん。プロジェクトや展示会への参加を通じて、AIへの理解を深めていくことができたようです。2年のレンタル移籍で、自分自身はどう変われたか? その経験は、マルハンでどう役立てられているのか? 後編に続きます。

後編はこちら


【レンタル移籍とは?】

大手企業の社員が、一定期間ベンチャー企業で事業開発などの取り組みを行う、株式会社ローンディールが提供するプログラム。ベンチャー企業の現場で新しい価値を創りだす実践的な経験を通じて、イノベーションを起こせる人材・組織に変革を起こせる次世代リーダーを育成することを目的に行われている。2015年のサービス開始以降、計36社95名のレンタル移籍が行なわれている(※2020年5月実績)。→詳しくはこちら


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協力:株式会社マルハン / 株式会社Nextremer
Interview&Writing:横山博之
提供:株式会社ローンディール
https://loandeal.jp/
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