「AI人材を目指してベンチャーへ 2年間で学んだ“AIのリアル”」株式会社マルハン 王澤心さん -後編-
パチンコホールを中心とする総合エンターテイメント企業のマルハンから、AI開発エンジニアが集結するベンチャー企業のネクストリーマーへとレンタル移籍した王さん。2年の経験を経て自分自身はどう変われたか? その経験を、マルハンでどう活かそうとしているのか? 気になる核心部分に迫ります。
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─多角的な視野を持つことができた2年間
ーー前回、開催まで1カ月を切ったタイミングで展示会への参加を決定するなど、そのスピード感の違いに驚いたというお話がありました。ご自身でのそうした発見が「レンタル移籍」の魅力だと思うのですが、その他にどのような発見がありましたか?
やっぱり、ベンチャーとAIの相性の良さを実感しました。AIは、大規模な開発に向かないものが多いんですね。マルチタスク化しづらく、「1人で3カ月かかるなら3人いれば1カ月で終わる」というものでもないんです。一方、やってみないと成功するか否かわからない部分が多い。
開発そのものが投資に近いため、小規模なプロジェクトの成功を積み重ねて、高速で回していくという手法が最適なんです。一方、マルハンも含めた一般企業の多くは1年や半年おきに1回数百~数千万円の予算を掲げることが普通ですから、そうしたワークフローの違いが今後のAI開発の課題になり得ると実感しました。
ーーなるほど。それもまた、別の部分でのスピード感の違いですね。
もちろんベンチャーと大企業にはさまざまな違いがあって当たり前ではありますが。私はネクストリーマーへのレンタル移籍中、AIについての知識を深めつつも、あくまで目的は、この知識や経験をマルハンに戻ってからどう活かすか。自らコードを書くエンジニアではなく、AIを理解した上でユーザーエクスペリエンスや社内環境を改善するプロジェクトマネジャーを目指すべきだと、ネクストリーマーでの実務経験とマルハンの上司とのコミュニケーションを経て確信を深めていきました。
ーーそうした意識を持って、自律ピッキング用ソフトウェア開発のプロジェクトにも参加していたんですね。
はい。先方とは非常に良好な関係も築けたと思います。向こうのラボにお邪魔して、一緒に実験や研究を重ねました。
ーーネクトリーマーに在籍されている方々とも?
はい、積極的に話しかけてくださったり昼食に誘ってくださったりと、とてもよくしていただきました。すぐに馴染めたと感じています。ただベンチャー特有なのか、社長との距離感の近さには驚かされましたね。社長に対して、平然とダメ出しされる方もいるんです。社長からミーティング要請があったのに、「参加する意義が見いだせないので参加しません」と突き返し、納得するまで会話する場合があったりと。僕からするとちょっと考えられなくて、空恐ろしい限りでした(笑)。
ーー1万人を超す大企業ですと、たしかにそのような関係はないですもんね(笑)。そうしてネクストリーマーには2年在籍されましたが、一番ご苦労されたのは何でしたか?
やはり自律ピッキング用ソフトウェア開発のプロジェクトに参加したことです。前提としてAIに対する認識ギャップの問題がありましたし、なにより時間と労力コストの見積もりに苦労しました。AI事業はただでさえ先が読めない上、類似ソフトウェアの開発事例もなかったのです。どうにか見積もりはしたのですが、やはり開発を進める過程で新しい課題も生まれていって、途中で何度かスケジュールの引き直しをお願いすることになりました。寝る暇もないくらいの忙しさでしたが、体験することで見てきた発見も多かったと実感しています。
ーーAI関連というだけでなく、そもそもプロジェクトマネージメントにかかわること自体、はじめてだったんですもんね。その業務を通じて、自分はどのように変われたと思いますか?
視野が広くなったな、と思っています。課題に対してAIの向き不向きといった技術的な事柄だけでなく、資金面についても理解を深められたので、AIビジネスに対してより多角的な視野を持つことができました。
また、責任感もついてきたと感じています。チーム内で意思疎通を測り、対外的には窓口担当として責任を持って業務にあたっていくという経験は、それまでのマルハン在籍時代にはないものでした。私は社会人3~4年目ですから、マルハンだけに在籍していたのなら、そうした責任ある立場で仕事できるようになるまでもう少し待たなければならなかったはずです。
─自社でAIを利活用するために
ーー2020年2月末にて2年のレンタル移籍を終えられました。振り返ってみて、「レンタル移籍」のしくみについてどうお感じになりますか?
「憧れだったベンチャーをようやく体験できた」というのが一番の感想です。私も就活する際、ベンチャーに興味はあったのですが、なかなか入る勇気までは持てなかったんですね。
ですから今回、創成期を終えた資金調達後のベンチャーに行って、いろいろ体験できたのは、本当によかったです。
ーーマルハンに戻られてからは、いかがですか?
1カ月ほど東京・亀有のホールに配属され、AIの知識を身に着けた上で現場の課題の洗い出しを行いました。現在は本社に戻り、ネクストリーマーで培った経験を活かす方策を思案しています。
ーー何か具体的なプロジェクトは進められていますか?
たとえば、AIを活用したグループウエアの効率化が挙げられます。グループウエア内では社員間でメッセージが飛び交っているのですが、あまりに大量で、閲覧するだけで日に2時間くらい費やされています。メッセージには重要度の高いものから自分の担当外の内容まで含まれてしまっているのですが、閲覧するまで重要度がわからず、結局時間が取られてしまうんです。この問題を解決すべく、AIがキーワードを適切に抽出することで必要なメッセージだけが届くシステムに改善できないか、検討しています。
ーーそれは実に有意義な内容ですね。
まだ上司に提案している状況ですが。まずは実績作りも大切だと考えています。
AIを導入しようという取り組みも、マルハンにとってははじめての取り組み。いきなり大掛かりなプロジェクトをやろうとしても予算は下りませんし、AI開発自体リスクもはらんでいます。最初からこけてしまうと、次がなくなってしまうかもしれませんから、堅実にやれそうなものからはじめていきたいと考えています。
─レンタル移籍の経験がキャリア形成のマイルストーンに
ーーもう、先を見据えた取り組みをはじめられているんですね。
今年はもう小さい案件を成功させ、少しずつ、お金のかかる大きい案件をやっていくイメージです。「AIっていいものなんだよ」ということを、社内に浸透させていくのが目標ですね。
ーーあらためて、ベンチャー企業への「レンタル移籍」という経験はいかがでしたか?
本当によい経験をさせてもらったなと感じています。触れる機会のなかったAIの世界を体験させていただきましたし、プロジェクトマネジメントの仕事をやらせていただく機会もありました。AIという強みは、私のキャリア形成における大きなマイルストーンになりました。籍を置かせていただいたネクストリーマーにも、移籍という選択肢を提示してくれたマルハンにも、非常に感謝しています。まだマルハンに戻ったばかりで、ネクストリーマーに名残惜しさを感じるときがまだあるのですが(笑)、今からはこの大きな企業の中で自分の職務を果たしていきたいと考えています。
ーーありがとうございました。今後のご活躍を楽しみにしています!
社長との密なコミュニケーションやプロジェクトマネージメントなど、大企業にいたままではなかなかなし得ない経験を通じ、成長できたという王さん。「古巣に戻った今、移籍中の経験を活かしていきたい」。そう話す王さんの瞳がキラキラと輝いていたのが印象的でした。
FIn
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大手企業の社員が、一定期間ベンチャー企業で事業開発などの取り組みを行う、株式会社ローンディールが提供するプログラム。ベンチャー企業の現場で新しい価値を創りだす実践的な経験を通じて、イノベーションを起こせる人材・組織に変革を起こせる次世代リーダーを育成することを目的に行われている。2015年のサービス開始以降、計36社95名のレンタル移籍が行なわれている(※2020年5月実績)。→詳しくはこちら
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協力:株式会社マルハン /株式会社Nextremer
Interview&Writing:横山博之
提供:株式会社ローンディール
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