自分は会社の外に出ても通用するのだろうか?【ぼくらは仕事で強くなる vol.21】
連載「ぼくらは仕事で強くなる」は、ローンディール 代表 原田による個人ノートです。組織やマネジメントのこと、自分自身のキャリアについてなど、日々感じていることや取り組んだことを綴っています。週1回程度更新しています。
「自分は会社の外に出ても通用するのだろうか?」
この疑問が、私がレンタル移籍という事業をはじめるきっかけでした。そして今、レンタル移籍をしてくださる皆さんが、口をそろえて同じことを仰います。自分の力を、別の場所で試してみたい、もっと成長できる環境が外にあるのではないか・・・きっと、ひとつの会社で5年、10年働くと多かれ少なかれこういう感情を抱く人は多いのではないかなと思います。ということで今日は、自分が会社で身に着けた力について考えてみます。
外では通用しないかもと思う理由
「組織特殊的な人的資産」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?すごくざっくり言うと、自分の勤めている会社でしか発揮できない特殊な知識や能力のことを指すそうです。同じ会社で長く働くということは、そういう資産を蓄積していくことになるわけですが、その能力をいくら高めたところで市場価値は上がらないということになります。そして、結果的に自分はその会社と運命を共にするしかない、自分は会社の内部の人間だと考えるようになるそうです。まさに日本人は企業の特性からも「組織特殊的な人的資産」を蓄積する傾向になる、ということが言われています。
では、組織特殊的なものと汎用的なもの(こちらはポータブルスキルなんて言われ方もしますね)の比率ってどれくらいなんでしょうか。詳細は割愛しますが、転職したときに切り下げられる報酬分を「組織特殊的」と見ると、アメリカで12%、日本では20%くらいになるのではないか、と推計されています。(※ここまで、岩井克人さんの『会社はこれからどうなるのか』の一節を私なりに要約したものです。解釈がずれていたらごめんなさい。)
今ある力の80%は外でも発揮できる!?
上記に記載した「組織特殊的」ということを踏まえて、いろいろ考えてみたいなと思うわけです。まずこの「組織特殊的な能力は20%くらい」ってどう思いますか?多いか少ないか。私は、少ないなって思いました。「他の会社に行っても通用しないんじゃないか」っていう感情を持っていて、ともすると、それが理由で転職したり、社外で何か活動をしたりすることに対して抵抗感がある人はけっこういるように感じます。かくいう私も転職する(35歳で1度転職しています)前は、「組織特殊的」な能力が占める割合って50%くらいありそうな感覚を持っていました。でも、推計によると20%程度なんですよ。裏を返せば、今の会社で蓄積している知識と能力の80%は、どこに行っても使える力になるっていうことになりますよね。
実際に、私たちはレンタル移籍という仕組みで、大企業の人たちにベンチャー企業で1年程度働いてもらうわけですが、同じような印象を持っています。大企業の中で蓄積されてきた能力や経験が活き、ベンチャー企業で活躍できるというケースがほとんどです。もちろん、事業を理解することやマインドをアップデートする、といった移籍する人の努力が前提ではありますが、受け入れてくださるベンチャー企業の方からの満足度はかなり高い(受け入れ経験のあるベンチャー企業の継続希望率は100%)結果となっています。
具体的に言うと、「基礎的なビジネススキル+何かしらの専門性」という両面があります。まず、基礎的なスキルの話で言うと、ドキュメンテーション力や論理的な思考力、コミュニケーション力、確動性(やるべきことをやるべき時までにしっかりとやりきる力)といったことがあげられます。これはまさに、組織がしっかりしていて、研修制度なども整備された大企業で鍛えられる能力ですね。一方で、専門性は様々ですが、ベンチャー企業の場合(フェーズによりますけれど)本当に手が付けられていないことがたくさんあるわけです。
例えば、大企業で経理部門で3年ほど経験を積んだ人が、レンタル移籍したケースでは、ベンチャー企業が資金調達に動いているとき、今まで経営者しかできなかった資料の作成を手伝ってもらえて助かったという話がありました。他にも、開発に携わっていた人が、IoTベンチャーが量産体制を構築する際に、生産工場との間でのドキュメンテーションの残し方を決めたり、品質管理の方針を策定したりという貢献の仕方をした、といった感じです。
つまり、自分はこの会社でしか働いたことがないから、外では通用しないという不安はあまり持つ必要がなく、現実的に「まぁ2割減くらいかな」と思っておけばいいのだと思います。
組織特殊的な力は無駄なもの?
一方で、20%の組織特殊的な方についても少し考えてみたいと思います。その会社でしか発揮できない能力、これって無駄なものでしょうか?いやいや、むしろ、組織特殊的な力でどうやってレバレッジをかけていくかっていうことが、ひとつの会社で長く働く事の醍醐味じゃないかなって思うんですよね。
例えば、新卒で入った会社でずっと働くと、ジョブローテーションでいろいろな部署を回る。そうすると会社全体がどうやって機能しているか、全体感がつかめるはずです。昨今はジョブ型雇用みたいな話題も多いので、どちらかというと、専門特化してひとつの仕事をすることが正しいかのような風潮もありますが、個人的にはあまりピンと来ていません。なぜなら、大企業の方々がベンチャー企業で経験し、成長する要素の一つに、幅広く業務を担当できるということがあります。
大きな組織では、サイロ化(機能分化)が進み、縦割りになってしまって全体感がつかめない、目先のタスクに追われるという状態に陥りがちです。それが、ベンチャー企業に行って幅広く仕事をすることで視野が広がり、会社全体が作り出している価値、ひいては企業の目的や存在意義みたいなことにも意識が向くようになっていく。つまり、幅広い業務にかかわることで、本来は部署や仕事の繋がり、そして意味を理解できるようになると思うのです。時間がかかりすぎるという課題もあると思いますが、捉え方次第で、これはとても意味のあることだと思います。
また、同期や育ててくれた上司がいろいろな部署にいるということも、組織特殊的なものとして、重要だと思います。自分が何かをやりたいと思ったときに、豊富な経営資源、それは人であったり技術であったり様々だと思いますが、その組織にしかない強みというものがあります。先人たちが積み重ねてきたそういう資源の上で挑戦ができる。これはこの上ない利点だと思うのです。
レンタル移籍を終えた方が、「実は社外と同じかそれ以上に、社内に多様な人材がいることに気づいた。何か相談したら絶対に答えてくれるありがたさを感じている」と仰っていたことがありますが、まさにこれは多くの組織に言えることではないでしょうか。大きな組織にいることの面白さって、より大きな影響力を持って、社会を変えていくようなムーブメントを作ることだったりするんじゃないかな、と思います。そういうことに挑もうとするのであれば、この組織特殊的な能力、というのはとても重要、というか大きな影響力を出すために発揮するべきものなんでしょうね。
自分の力を分けて整理してみよう
ということで、今日は「会社の外でも通用するのか?」という問いをきっかけにして、いろいろと考えてみました。結論としては、今の80%くらいのパフォーマンスは出せるという期待値をもって、自信をもって外に踏み出してみたらいいんじゃないかな、ということ。そして、逆に20%分の、組織ごとの特殊な能力をうまく使うことによって社会に影響力を発揮していける。と、いったところでしょうか。
自分にとって汎用的な80%と特殊的な20%、それぞれがどのようなものになっているか、立ち止まって考えてみるのもよいかもしれませんね。まぁ、こういう時に、「○○力」「××スキル」って名付けて整理するのがとても難しかったりしますけれど、それはまた別の機会に考えてみたいと思います。
それでは。
▼ 過去のノート
【レンタル移籍とは?】
大手企業の社員が、一定期間ベンチャー企業で事業開発などの取り組みを行う、株式会社ローンディールが提供するプログラム。ベンチャー企業の現場で新しい価値を創りだす実践的な経験を通じて、イノベーションを起こせる人材・組織に変革を起こせる次世代リーダーを育成することを目的に行われている。2015年のサービス開始以降、計45社121名のレンタル移籍が行なわれている(※2021年1月1日実績)。→詳しくはこちら