「このままじゃあかん」ベテラン社員の覚悟 -株式会社村田製作所 山田高明さん-
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「このままじゃあかん」ベテラン社員の覚悟 -株式会社村田製作所 山田高明さん-

村田製作所の研究開発部門に所属している山田高明(やまだ・たかあき)さん。山田さんが、「レンタル移籍」(※村田製作所では「ベンチャー留学」制度として導入)という、一定期間ベンチャーにいく制度へ応募したのは、事業開発がうまくできていないという強い危機感があったからだと言います。

山田さんが移籍先として選んだのは、コミュニケーションロボット「unibo(ユニボ)」を開発するユニロボット株式会社。未経験の営業チームに配属されながらも、山田さんはベンチャーのやり方を次々と身につけ、着実に成果を上げていきます。

はじめてのベンチャーで、山田さんがすぐに適応できた秘訣はなんだったのでしょうか? 半年間を振り返りながら語っていただきました。

研究開発部門から「もっと売上に貢献したい」と立候補

——まず、村田製作所でどんな業務を担当していたのか教えてください。

 既存事業の製造プロセスに関わる技術開発として10年間の勤務のあと、新規事業を創出するための研究開発部門に移籍して技術・事業開発に3年ほど携わりました。将来必要な事業で使う技術を予測しながら、研究開発を進めていく仕事です。

——今回、レンタル移籍に応募した理由を教えてください。

 事業開発がうまくできておらず、せっかく技術を開発しても売り上げに貢献できていない現状に危機感を抱いていたのが理由です。組織としても課題でしたし、私自身も自分が技術開発をするだけで利益を生み出せていないのが苦しく、もっと売上に貢献したいという思いがありました。そんな中で レンタル移籍の制度がはじまったので、上長のすすめもあってすぐに立候補しました。

——ユニロボット社を選んだ決め手は何だったのでしょうか?

 もともとリユース、リデュース、リサイクルという3Rのビジネスに興味があり、その関連のベンチャーを探していました。

 それから、移籍先を探していた時に、個人的にフリマアプリをはじめたのですが、不要になったものを再利用してもらえて、しかもお金になるのがうれしくて。 「売り上げたい」気持ちと、モノを大切にする気持ちがマッチングするのが楽しく、仕事でも近いことができないかと思っていたんです。

 その時に出会ったのが、個性を学習するコミュニケーションロボット「ユニボ」を開発する、ユニロボットでした。ロボットを使ったコミュニケーションビジネスは、いわば「コトのリサイクル」。日常的な人の行動や感情を拾うことでロボットが成長し人の生活を豊かにしていく、その豊かな循環がリサイクルに似ていると感じ、ここで働いてみたいと思いました。

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100パーセントじゃなくていいから、まずはかたちにする

——移籍した当初の印象を教えてください。

 すべてにスピード感がありました。業務は締め切りが数時間刻みのことも多く、村田製作所での感覚とは違っていましたね。代表の酒井さんが同じ営業チームとして隣の席に座っていて、色んなことをハイスピードで決定するのを目の当たりにしたのも刺激を受けました。

 私は営業企画に配属されたのですが、経験がまったくないのに初日から「今日中に営業資料作って」と言われた時は驚きましたね。ユニロボットの事業や顧客のことをまだ理解できていない中で、どうやって最初の資料を作ったのか。正直、必死すぎてよく覚えていません(笑)。

 ただ、この環境でやっていくために、「100パーセントじゃなくていい。半分完成したら、とにかく見せる」を心得にしていました。まずはかたちにして、フィードバックをもらう。そうしてユニロボットのやり方に適応していきました。

——移籍前のやり方をアンラーンするのに時間がかかる人も多いと聞きますが、山田さんがすぐにユニロボットのやり方に合わせられた秘訣はなんでしょうか?

 もともと完璧主義ではなかったことがあると思います。質とスピードの二者択一なら、質はあとからついてくるからまずはスピードをとろうと考えました。自分ができなければ、周りが助けてくれるだろうとも思っていましたね(笑)。

 あとは、移籍にかける覚悟が大きかったこともあるかもしれません。村田製作所で新規事業開発を担当していた3年間はうまくいかないことが続いていて、「このままじゃあかん」と感じていました。新規事業に取り組むためには、多様な視点や臨機応変さが欠かせません。「もっと柔軟にならないと」と思い続けていたことが覚悟につながったのだと思います。

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自己成長に固執するよりも大切なこと

——営業企画では、具体的にどんな業務を担当したのでしょうか?

 最初の2ヶ月は、ユニロボットのサービスを理解すると同時に、アクセラレータープログラムの担当として、大企業とのオープンイノベーションのための企画提案を行いました。いわば現状把握と種まきの2ヶ月で、順調に進んでいました。

 ところが、3ヶ月めで手持ちぶさたになってしまいました。最初の2ヶ月で20件のアクセラレータープログラムに応募したのですが、その結果がまだ出なかったんです。もともと半年スパンのプログラムなので仕方ないのですが。

 できることをやろうと、テレアポや営業など、それ以外のやり方も模索しましたが、なかなかうまくいきません。私自身の人脈も多くありませんし、知名度もまだ高くないベンチャー企業が新規営業を行う厳しさを痛感しましたね。高い壁にぶつかりました。

 この時期は私の移籍にとって「冬の時代」だったと思います。「このまま何も得られずに終わってしまうんじゃないか」という考えもよぎったし、酒井さんからは「来週商談入っていないよね? 作っていかないとまずいよね」と成果を求められるし、必死でもがいていましたね。

——成果を出せない時期が続くと、どんどん不安になってきますよね。厳しい状況を山田さんはどう乗り越えたのでしょう?

 「実は、正面から乗り越えることはできなかったんです。その状況が1ヶ月ほど続いた頃、酒井さんとメンターの方と3人で話し合い、役割を、新規開拓から、既存案件の契約に向けた動きに集中することにしました。

 具体的には、少しずつ芽が出てきたアクセラレータープログラムや、代表が獲得した商談の引き継ぎを担当することになりました。ゼロを1にするのではなく、1を10にする業務に集中することになったんですね。

——1→10に集中することに決まった時はどう感じましたか?

 私自身はもちろん、全員が納得して決めたことだったので、すごくすっきりしました。新規営業ができるようになれば私個人としての成長にはなったでしょう。しかし、新規営業は私よりも代表のほうが圧倒的に得意なのでお任せした方が効率が良いですし、私も1を10にする方法を学びたいと考えていました。

 私が新規営業にこだわった結果、ユニロボットの業績を上げられなかったら意味がないと思い、むやみに自己成長ばかりに固執するより、会社の業績のためにどんな選択をするかが大切だと認識を改めました。ユニロボットで出した成果や成功体験はそのまま村田製作所にも還元できますから、このことは強く意識していましたね。効果的な役割分担ができたことで、その後の業務はうまくまわりはじめました。大きな転換点だったと思います。

メンターの方からのアドバイスもあってこのような考えに至れたので、感謝しかありません。

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「冬の時代」を終えて、駆け抜けた後半戦

——「冬の時代」がようやく終わりを迎えたのですね。

 そうですね。この頃になると、酒井さんから「商談が増えて、忙しくなってきたね!」と声をかけてもらえたりして。冬の時代に言われた「商談ないの?」とは真逆の言葉をいただけて、励みになりました。

 酒井さんからは「一歩踏み出した行動ができている」と言っていただいたこともうれしかったですね。「一歩」にはいろんな意味が含まれていますが、特に評価していただいたのは営業時の粘り強いアクションだと思います。

——たとえばどのようなことでしょうか?

 アクセラレータープログラムの審査で落ちてしまった時、その企業の別の部門にアプローチしたり、興味を持っているキーマンがいないか探したりしていました。プログラムに落ちてすぐに諦めるのではなくて、それ以外の道を探し続けた姿勢を評価していただきました。

 それから、お客様に対して聞きにくいことも根掘り葉掘り聞くようにしていました。「決裁権を持っているのは誰ですか?」「競合の評価をされていると思いますが、その中での当社の位置づけは?」「予算の規模は?」といったことを、うまく聞けていましたね。大企業の立場や組織体系が頭に入っているので、担当者だけではなく役員に納得していただく重要性を把握していたんです。

——村田製作所に所属している山田さんならではの強みですね。

 この時点で、移籍期間は残り2ヶ月。アクセラレーター プログラムの審査が進むのにあわせて、大企業側の担当者と事業計画を作り込んでいきました。先方のニーズをくみ取りながら、ユニロボットのやりたいこととすり合わせる調整作業は、まさに村田製作所での経験が役に立ったと思います。

 終了まであと1ヶ月の時期には、ついに自分が応募したアクセラレータープログラムの1件が契約内定に至りました。ユニロボットにとって大本命の企業でしたし、予想外のスピードで回答をいただけたので、みんなで喜びましたね。おかげでチームの士気が高まり、「この先もどんどん行こうぜ!」と勢いづいたまま最後まで駆け抜けることができました。

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毎日一緒に働いてわかったベンチャースピリット

——達成感が大きいですね! 改めて振り返ってみて、他に何か印象に残ったことはありますか?

 今回の移籍では人に恵まれたと思います。特に営業チームのメンバーやその中でも新人の方とは同僚のような関係で、技術やお客様のことを教えてもらったり、逆に私が教えたり。フラットな関係を築けて助かりました。

 メンターの方にも、いつも厳しく的確なアドバイスをいただきましたね。最後は「メンターとして何人も見てきたけど、こんなに自分自身を変えられた人ははじめて」と言っていただきました。「レンタル移籍にかける覚悟」、「意固地にならずに方向転換できる行動力」と「素直さ」の3つが良かったと評価していただいて、とてもうれしかったですし自信になりました。

そして何より、代表の酒井さんには大きな影響を受けました。

——どんな影響を受けたのか、詳しく教えてください。

 「一日一日を大切にする」「できることをやりきる」「失敗は忘れて前を向く」、そんなベンチャースピリットを学びました。

 これらは移籍の初期からずっと言われ続けていたことですが、当時はよく分かっていませんでした。ある時、一緒に商談に行った帰り道に酒井さんが「これは駄目だな、忘れよう」と言うので驚いたことがあります。私としてはせっかく担当者につないでもらって、一生懸命話をした直後だから少しは期待していたいのに、ばっさり(笑)。

 最初の頃はそのシビアさをつらく感じていましたが、次第に理解できるようになっていきました。資金や人的なリソースが少ないベンチャー企業では、一日一日が本当に真剣勝負。無駄にすれば、それだけ赤字が膨らみます。そうしたサバイバル的状況では、失敗してもすぐに切り替えていかないと生き残れません。毎日一緒に仕事をする中で、やりきること、失敗しても切り替えて前を向くことの大切さを身につけることができました。

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ナンバーワンの技術がなくてもいい

——そのシビアさは、やはり村田製作所では経験できないものですか?

 ベンチャーではすごいスピードで変化していく市場に食らいついていかないと、競合に負けてしまいます。村田製作所でも営業の最前線はそうかもしれませんが、中長期的に技術開発を進めている、私が在籍している部署とは領域が異なっていることもありますが、文化が違っていましたね。そのシビアさはベンチャーならではでした。

——山田さんは村田製作所では研究開発部門に所属していますが、研究開発の担当者には何か違いがありましたか。

 ユニロボットの研究開発担当者と話して感じたのが、「品質だけを意識しているのではない」ということです。村田製作所をはじめ、大手の技術開発はナンバーワンの技術を追い求めがち。でも、コストや納期、アフターサービスやカスタマイズ力などを強化すれば選ばれるものを作れるんです。なので、技術開発する早い段階から更に意識しないといけないと思いました。


「技術開発の種」を売れるものにしていきたい

——今後、村田製作所ではどんなことをやっていきたいですか?

 現在は材料部門の技術開発に戻っています。まずはこの部署で貢献できることを探していくことになります。

 村田製作所には、事業に結びつけようとしている、あるいはしていた技術開発の種が豊富にあります。それらを売れるものにするため、事業開発ベースにのせていくことが自分の役割だと感じています。ユニロボットで学んだ視点を活かしながら、2、3年という中期的なスパンで事業開発に取り組んでいきたいです。

 村田製作所でも、新規事業を行うのであればスピードは重要です。完成度を高めてからリリースしたのでは、出遅れてしまって先行利益は得られませんから。「半分完成」の状態で市場に出すような動きは、ユニロボットでの経験が役に立つはずです。

 今はまだ半年間の移籍を終えたばかり。駆け抜けてきた日々を整理して、自分に何ができるのか、考えていきたいと思っています。

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 「一人で考え込まない。過去の自分のやり方に囚われない」。山田さんには「自分でやる」ことだけに固執せず、全体の利益を重視し、柔軟にものごとを捉える姿勢がありました。それは結果的に山田さん自身にとっても、ユニロボットや村田製作所にとっても大きな成果へとつながっていきます。

 移籍を終えて成長した山田さんには、「技術開発の種」の価値がこれまで以上にわかるはず。山田さんの新たな挑戦は、ここからまたはじまります。

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【レンタル移籍とは?】

大手企業の社員が、一定期間ベンチャー企業で事業開発などの取り組みを行う、株式会社ローンディールが提供するプログラム。ベンチャー企業の現場で新しい価値を創りだす実践的な経験を通じて、イノベーションを起こせる人材・組織に変革を起こせる次世代リーダーを育成することを目的に行われている。2015年のサービス開始以降、計47社 134名のレンタル移籍が行なわれている(※2021年4月1日実績)。→詳しくはこちら

協力:株式会社村田製作所 / ユニロボット株式会社
インタビュー:小沼理
写真:宮本七生
提供:株式会社ローンディール
https://loandeal.jp/




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