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「レンタル移籍」3年目。 経産省の人材と組織はどう変わったのか?

 経産省が「レンタル移籍」を導入して今年で3年目になります。
レンタル移籍は、イノベーション人材や次世代リーダーの育成を目的に、一定期間、ベンチャー企業で働く人材育成の仕組みです(提供:株式会社ローンディール)。
 同省では、既にローンディール経由で3名が移籍を終え、2020年9月から新たに2名がベンチャーへレンタル移籍しています。経産省はなぜ、人材をベンチャーへ移籍させ続けているのか、そして、人材と組織にどんな影響をもたらしているのか。省内で人材育成に関わり、レンタル移籍の推進を行う茂木高志さんと宮井彩さんにお話を伺いました。

ベンチャー企業は世界を変える仲間
共に働いた経験が活きる

ーーレンタル移籍を導入されて、今年で3年目になりますよね。なぜ、人材をベンチャー企業に送り続けるのか、そして、どんな経験を期待しているのでしょうか。

宮井:背景からお話しますと、経産省は、若手に権限を持たせてどんどん経験をさせていくというような、主体性を重んじる環境ではあります。城山三郎さんの小説『官僚たちの夏』ではないですが、若手の官僚たちが喧々諤々、熱い議論して上を突き上げるというような文化がもともとあるんです。でも、目まぐるしく変化する社会の中で、効率よく物事を進めなければいけないことも多く、そうなるとどうしても上から手を差し伸べてしまうことも増えてしまう。それが若手からすると、“任されている感”が感じられないのだと思います。そういったこともあって、現場から、外で武者修行をしたい、力をつけたいという声も高まってきていました。

茂木:他方、国や社会を顧客として仕事をしていると聞こえは良いですが、実際のところ自分の仕事が誰のためにどう役立っているのか見えにくかったりします。また、経産省という組織としてではなく、ひとりの個人として何ができるのか、自分にどんなスキルがあるのかわからないといった悩みを持っている人間も多いようです。そうした中で、ベンチャーに行ってビジネスの現場で奮闘したり、直接的にユーザーに触れる経験によって、「自分」の仕事が社会にどう影響しているのかを実感することができるのではと期待しています。

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経済産業省 大臣官房秘書課 茂木 高志さん
経済産業省大臣官房秘書課政策企画委員 / 2004年経済産業省入省後、日米通商交渉、国連気候変動枠組み条約交渉(ポスト京都議定書)、石油天然ガス資源外交、中小企業政策(個人保証等中小企業金融、コロナ対策)等に従事。2020年より現職で、若手職員を中心とした人事評価・任用を担当。


宮井:経産省でも、人材育成の一環で、総合職は2年目になると1ヶ月程度、民間の中小企業に研修の形で受け入れてもらうんです。でも2年生で行ってもできることは限られていますし、期間も短いので、多くはお客さん的な感じで終わってしまいます。新入省員にとっては、世の中のしくみを知る上で必要なことではあります。ですが、経産省で経験を積んだ後に、課題感を持って、一定期間ビジネスの現場に身を置くこともすごく大事で。そうすることで本当にやるべきことが見えてきます。

茂木:今のベンチャーという企業は、将来は一緒に世界を変える仲間になると思うんですね。そういった人たちと同じ目線で、共に苦労して働いたっていう経験はこの先絶対に活きてくる。とても大きい価値になるんじゃないかなと。

“一歩を越えるたくましさ”が、組織の力になる

ーー現在、ローンディール経由で5名の方がレンタル移籍でベンチャーへ行き、内3名は既に戻ってきていらっしゃる。どういった経験を経て、どのような変化につながっているのでしょうか。

宮井:たとえばですが、2018年に移籍した伊藤さんは、排尿予測デバイスの販売に携わっていたのですが、そこで障がいをお持ちの方と接する機会ができ、想定していなかった課題が見えてきたと。これが、役人という立場で支援するとなったとしても、すべてを把握できるわけではないですし、現場で起こっていることが省略されてあがってくることもあります。それが深く入り込むことによって、自ら課題に直面して、その背景まで見えてくる。結果、自分の関わる政策が社会でどのように広がっていくのか、どのように広げていけばいいのか、それがイメージできたようで。分野に限らず、政策を出した後の世界まで、より想像を広げられるようになったみたいです。

 それから、今年戻ってきた田口さんは、マネタイズに関わったことで、「お金が溶けていく感覚がわかった」と話してくれました。「稼がないと終わる」という状況下で、責任を背負ってやり抜くと。「ビジネスサイドではこんなことが起こり得るんだ」という気づきを得たり、「こうやってマネタイズしていくんだ」という実体験は、現場に身を置いたからこそ。同じく今年戻ってきた高橋さんも、ほぼ自分と社長しかビジネスサイドの人間が当時いないなか、積極的に学んだり行動を起こして、組織としての支えを借りず、自らの力で仕事を回していく経験をしていました。

 こうしてビジネスの最前線に立って実経験をすることで、実ある政策づくりにつながっていくんじゃないかなと思います。

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経済産業省 大臣官房秘書課 宮井 彩さん
経済産業省大臣官房秘書課課長補佐 / 2008年経済産業省入省後、インフラ輸出施策立ち上げ、ヘルスケア産業の国際展開、特商法改正(消費者庁出向中)、伝統工芸などのクールジャパン政策等に従事。2017年よりハーバード大学客員研究員、出産後育休を経て2019年より現職で組織内の人材育成担当。


茂木:マインドの部分でいうと、戻ってきた全員が「”諦めてはいけない”ということを学んだ」といった話をしてくれています。「あれ? 甲子園に行ってきたんだっけ?」という感じなんですけど(笑)。目を覚まさせられたというか、何かを実現するためには諦めないことが大事なんだと口々に言う。絶えずプレッシャーを抱える経営者の近くにいたからこそ実感として得たものなのだと思います。一線を越えるたくましさを持って、帰ってきてくれています。

 このメンタリティは今後必ず活きてくると思うんですね。たとえば今の時代、何かを成し遂げたいと思った時、必ず意見の対立があり、避けて通れない。そうした時に、二度でも三度でも行って説得してくる、そういったパワーになるわけです。実際、そういったことができる人がインパクトを残せる。それに本人の成長だけではなくて、その人たちが先輩や管理職になった時にも下を支えて引っ張っていくことができるでしょう。苦しんでいる部下の背中を押せますから。

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宮井:そうなんですよね。自分がやり抜いた経験を持っているからこそ、部下に“させてみせ”ができるわけですし、手を離して裁量を与えて成長させてあげられる。お話した通り、経産省の文化としてもともとあったものではありますが、若手が経験を積む機会が減っている中で、実体験を持って若手を成長させられる人が増えていくことが、これからの組織の力になるはず。

茂木:そう。結局は、仕事のスキルそのものより、企業やベンチャーで働く人たちが、どれだけビジネスの現場で必死に戦っているのかって身を以て感じ、そういった環境で自分も仕事を任され、経産省の看板もない組織の一員でもない、一個人としてちゃんと役に立てたっていう経験こそが得がたい学びであり、糧となるのだと思います。

宮井:実は、その“役に立てた経験”が、「経産省の仕事って面白いんだ」という気づきにつながっているみたいなんです。今まで役所でやってきたことや学んだことで、役に立たないと思っていた経験が、実はかなり役に立ったと。同時に、経産省という立場だからこそできることがあると再認識しているようでした。改めて「自分は面白い組織にいるんだ」って考えるきっかけになっているのは嬉しいですし、これからも期待したいことです。その意識が省内で広がったり、これから霞ヶ関を目指す人にも、伝わっていくと良いのですが。

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移籍者が組織全体の“気になる存在”に。
化学反応を起こすには

ーー移籍経験者の存在が、組織にも変化を与えうるということですね。実際、組織に波及している感じはありますか?

茂木:ありますよ。移籍者本人たちの動きでいうと、戻った後、自主的にメンバーを募って新しい取り組みをしていたり、自ら省内外で経験を話す機会を作ったり。とにかく周囲を巻き込んでいく動きが見られて、組織に還元していってくれています。

宮井:事務局としても、様々な働きかけはしていまして。移籍者のインタビュー記事がメディアに出た際は、関心のありそうな方々に共有したり。移籍経験を省内で話してもらう報告会があるのですが、できるだけ多くの省内外の人に参加してもらうため、積極的に声をかけています。

 実際、報告会を開くと、省内外、現場も管理職も含めて結構な人数が集まってくれています。というのも、経産省だけではなく他の省庁も、若手のモチベーションをどう高めていくかとか、成長実感をどうやって作っていくかという課題をもともと抱えている。なので、どんな効果があるのか、どう育っているのかって、みんな知りたがっています。数ヶ月もベンチャーの現場に役人が放り込まれるってそうあるわけではないですし。早く定着させて、組織としても化学反応を生んでいきたいですね。

 あとは移籍者にとっても、組織全体を巻き込んだほうが、戻ってきた後、より動きやすくなります。なので、行く前には「こういう人たちが行きます!」と情報を発信したり、行っている最中に行う中間報告会にも参加してもらうなどして、最初から存在を気にしてもらいつつ、途中経過も見てもらうと。そうすることで「その後どうなったの?」「どう成長したのか?」って興味を持ってもらいやすい。事前に巻き込んでおくことで、戻ってきて「こういう施策がやりたい」など新しい動きをするとなった場合、協力体制がつくりやすいですし。

ーー様々な働きかけによっては、だいぶ組織にも広がっていそうですね。同時に、「自らが行ってみたい」という人も増えてるんじゃないかと思いますが?

宮井:そうですね。自分が行きたいくらいです(笑)。

茂木:僕だって行きたいですよ、みんな行きたいはず(笑)。

宮井:実際、公募をして移籍者を決めていますが、募集枠に対して10数倍程度の多くの応募が集まっています。エントリーの動機は、ベンチャーそのものに興味があるという人もいれば、自己成長のためという人も。それから、民間で何ができるのか挑戦したいという声もあって、様々です。経産省の人間って、外の人と積極的にコミュニケーションをとることが好きな人が多いんじゃないかなと感じています。その背景には「現場で役に立ちたい」という思いがあって。実際、配属も現場に近いところを希望する人が多いように思います。私自身も振り返ると、現場に近いポジションで動いていた時期がありまして、その時は応えるべき期待がすぐそばにあって、すごく成長できていたなぁと。そういう機会を多くの人が望んでいるのだと思います。

ミドル世代も外へ。
見習いたいと思われる組織づくりを

ーー個人の成長から組織の変化まで、様々な視点で人材育成に関わっていらっしゃいますが、お二人がそれぞれ、これから挑戦されたいことはありますか?

茂木:やはり僕個人としても、外の方々と職員がつながれることは積極的にやっていきたいですね。我々が政策を考える上で、本当に必要としている人たちと意見を交わしながら、考えていける環境を作っていけたら。そのためには組織と組織というより、レンタル移籍のように、組織の中の個人と個人が濃密につながっていけるような仕組みが大事。そういうことをこれからも取り組んでいけたらと思っています。

宮井:40代50代の移籍者も増やしていきたいです。移籍経験者の年齢でいうと今、一番上でも30代半ばなんですね。若手ももちろん必要なのですが、ミドルやシニア世代もベンチャーが持っているスピード感やイノベーティブを実感して、組織作りに反映してもらえたらいいなって思います。結果、見習いたいと思われる組織になっていってくれたら嬉しいですね。それから個人的には、今はベンチャーに行った人が帰ってきて組織に還元するという流れですが、外から霞ヶ関レンタル移籍者を受け入れて経産省で働いていただくとか、もっと外の動きをダイレクトに組織に還元していくようなことも、やってみてもいいんじゃないかなと想像しています。

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協力:経済産業省
ストーリーテラー:小林こず恵
撮影:宮本七生
提供:株式会社ローンディール
https://loandeal.jp/


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