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「走りながら考える。答えのない領域に挑むために必要なマインドセット」富士通 内海晃さん –後編-

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大手とスタートアップの違い。失敗を通じて学んだスピード感の重要性

富士通からクラウドロボティクス・プラットフォームの開発・提供を行うRapyuta Roboticsへ。期間限定の“レンタル移籍”を経験した内海さん。誰もがよく知る大手企業から、12ヵ国80名の社員が働く多国籍スタートアップへ。正反対の環境に身を置いた内海さんは、まずそこで「立ち止まって考えるのではなく、走りながら考える」という新たな仕事哲学をインストールした。

そんな内海さんに、執行役員の森氏は「考える精度を上げるには、たくさん失敗をし、その失敗から学ぶことが重要」とアドバイスを送る。その言葉通り、内海さんはある“失敗”から、大企業にいるとなかなか実感値を持ちにくかったある項目の重要性を噛みしめることとなった。

それは、新しく任されることとなった購買業務を通じての出来事だ。

「あるとき、マネジメント層がプロジェクトにおけるロボットの調達計画を意思決定するにあたって、私のコスト計画に関するアウトプットが間に合わなかったために、プロジェクトが遅れそうになったことがありました」

なぜアウトプットが遅れたのか。原因は、スピードに対する決定的な意識の違いだった。

「本当なら、まずは現状で最も正しいであろうと思われる情報をインプットし、上司にチェックしてもらった上で、そのフィードバックをもとに再修正して提出するべきだった。そうすればスケジュールに間に合ったのかもしれません。だけど、私はどうしても正解を求めることを優先してしまって、自分の納得できる答えが見つからないためにフリーズしてしまったんです」

スタートアップにおいて、スピード感は生命線。頭では理解していたことを、このとき、内海さんは身をもって痛感した。

「大手とスタートアップでは時間に対する感覚がまったく違う。富士通ならそのスピード感でもなんとかなったかもしれないけれど、刻一刻と環境が変化するスタートアップでは通用しない。とにかく早くアウトプットを出さないと、そのアウトプット自体が何の役にも立たなくなることがあるんだと、その失敗を通じて学びました」

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立ちはだかる語学の壁。ディスコミュニケーションを改善した、小さな工夫

また、移籍当初から大きな壁として立ちはだかっていた語学に対する苦手意識も、ある失敗を生んだ。

「オペレーション企画が主にやりとりするのは、社内のエンジニアたち。しかし、多様な国籍のエンジニアが働くRapyuta Roboticsでは、コミュニケーションはすべて英語です。どうしても英語の部分がネックになって、スムーズにコミュニケーションをとれるようになるまで2ヶ月近くかかってしまいました」

自分で勝手に壁をつくっていた、と内海さんは当時の心境を振り返る。語学そのものの壁よりも、心理的な壁がディスコミュニケーションの要因となっていたのだ。

では、その壁を内海さんはどうやって突破したのだろうか。

「英語に対して苦手意識のある私が手ぶらでエンジニアに話しかけに行っても、ままならないのは当たり前。だから、準備に時間をかけるようになりました。特に気を遣ったのが、ミーティングでの準備。クライアントが何を求めているのか。スケジュールや人員の面でどんな課題があるのか。自分が伝えたいことや落としどころを図解したものを用意しておいて、それをもとにコミュニケーションをする。そうすると、何も持たずに話しかけていた頃よりずっと明快に意思疎通が図れるようになりました」

弱みの部分こそ、それをカバーできる工夫を凝らす。心理的なネックを取り除くことで、今までよりずっと堂々とコミュニケーションがとれるようになった。

「意思疎通がとれるようになると、こちらが投げたものに対するレスポンスのスピードがぐっと上がる。エンジニアサイドもビジネスサイドの事情や優先順位をわかっているから、それを踏まえた対応をしてくれるんですね。おかげでこちらの仕事のスピードも上がった。やっぱりコミュニケーションは何においても大事なんだと改めて感じました」

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IT企業からDX企業へ。“レンタル移籍”での学びは、きっと富士通の変革の力になる

トライアル&エラーを繰り返しながら完成した保守運用のスキームも無事に承認が得られ、オペレーション企画として携わった大手物流会社のプロジェクトは、この春から運用を開始した。それは、短い移籍期間の中で内海さんが獲得した確かな成功体験だった。

「Rapyuta Roboticsでは営業、オペレーション企画、購買に加え、人材採用もやらせてもらい、複数の職種をパラレルでまわしていくという、富士通にいたら絶対にできない経験ができた。短い期間でしたけど、自分自身の人生観そのものが変わる体験になりましたね」

そう内海さんは晴れ晴れとした表情を浮かべた。

「私はもともと承認欲求が強いタイプで、仕事に対しても周りの人に認めてもらいたい褒めてもらいたい気持ちがモチベーションでした。でも、スタートアップで働く人たちは決して誰かから褒められたくて仕事をやっているわけじゃない。彼らが仕事に打ち込む理由。それは、自分のやりたいことをやるため。そしてそれが周りの人を幸せにするんだと信じて動いているんです」

ずっと自尊心を満たすことが動機だった内海さんにとって、そんなふうに仕事を通じて他者を幸せにしたいというRapyuta Roboticsのマインドは衝撃だった。だが、自分が持ち合わせていない価値観と出会うことで、内海さんの考えも大きく変化した。

「今回、“レンタル移籍”をしていちばん変わったのは、人のために何かをしたいと思うようになったこと。私にとっての“レンタル移籍”は越境体験であり、逆境体験。それを乗り越えたことで、自分自身も変わることができた。今は、かつての自分と同じように何か挑戦してみたいと思っている人たちのために、この経験をもっとシェアしたり、“レンタル移籍”を社内で制度化することを積極的にやっていきたいです」

また、思いがけぬ良い副作用もあった。

「言葉も通じない、やってきたビジネスの領域も職種も違う。そんな逆境を乗り越えたことで、チャレンジ耐性がついたというか。あの壁を超えることができたんだから、もっと別のチャレンジもしてみようと素直に思えるようになりました。チャレンジが病みつきになったと言うか、そんなふうにチャンスに対して能動的になれたのは、間違いなく“レンタル移籍”のおかげです」

移籍終了後、内海さんはシニアマネージャーに昇格。さらに異動が決まり、現在は大阪支社でエリア内の百貨店を顧客に営業を行っている。大阪という見知らぬ場所。これまで得意としてきた外食産業とはまったく異なる業態。本来なら後ろ向きになってもおかしくない一大変化だが、内海さんは「何もネガティブになっていません」と笑顔だ。

「むしろまた新しい経験をさせてもらえるんだという楽しみの方が大きい。特に百貨店は、新型コロナウイルスによって深刻な打撃を受けた業種のひとつ。まだ終息が見えない今、どの百貨店さんもウィズコロナ時代に合わせたビジネスチェンジを考えているはずです。そこに対してどんなソリューションを提案できるか。そのことについて考えるだけでワクワクしてきます」

10年後、富士通はあるのだろうか。そんな危機意識が出発点となった内海さんの挑戦。“レンタル移籍”での経験をいかに富士通へ還元していくかについても、真摯に向き合っている。

「今、富士通はIT企業からDX(デジタルトランスフォーメーション)企業になると宣言し、様々な改革を行っています。しかし、DXもまだまだ正解が確立されていない分野。どうやってお客様のDXを支えていけるか、その答えは自分たちで見つけていかなければいけません。私がRapyuta Roboticsで身につけた『走りながら考える』『まずはもっともらしい仮説を立て、間違っていればすぐに修正する』『失敗を恐れず、失敗から学ぶ』という姿勢は、きっとこのDXビジネスに立ち向かうために必要なマインドセットになる。Rapyuta Roboticsで過ごした時間は、今の自分が考えている以上に意味のあるものになっていくんじゃないかと思います」

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大手という船を飛び出し、スタートアップという未開の荒野に降り立った内海さん。舗装されていない道を走ることで、今までよりずっとタフに、しなやかになった。「40歳という年齢で、自分の価値観がまるごと壊されるような経験、なかなかない」と瑞々しく笑う。スタートアップで確かな成功体験を積んだ内海さんに、富士通も今後の改革の旗振り役のひとりとして大きな期待を寄せている。

デジタルテクノロジーの世界は進化が激しい。きっと今のトレンドも一瞬で過去の遺物へと変わっていくだろう。それでも、もう何もひるむこともためらうこともない。ゴールも標識もない世界で、内海さんは道なき道を自らの手で切り開いていく。


Fin

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【レンタル移籍とは?】

大手企業の社員が、一定期間ベンチャー企業で事業開発などの取り組みを行う、株式会社ローンディールが提供するプログラム。ベンチャー企業の現場で新しい価値を創りだす実践的な経験を通じて、イノベーションを起こせる人材・組織に変革を起こせる次世代リーダーを育成することを目的に行われている。2015年のサービス開始以降、計38社97名のレンタル移籍が行なわれている(※2020年7月実績)。→詳しくはこちら

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協力:富士通株式会社 / Rapyuta Robotics株式会社
文:横川良明
写真:宮本七生
提供:株式会社ローンディール
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