「ベンチャーに行って見えた、今、大企業で働く自分に必要なこと」 NEC 滝口健一さん
「NECに戻ってきて、会社をリスペクトできるようになった」。
そう話すのは、NECで働く滝口健一(たきぐち・けんいち)さん。
滝口さんは2020年4月からの9月まで、「レンタル移籍」を通じてアグリテックベンチャー・プランティオ株式会社へ行きました。大きな取り組みの一端を担うだけではなく、社会的価値を生み出せるようになりたい、そんな思いからでした。
こうして半年間のベンチャー経験を終えた滝口さんは、外に出てみたことで、価値創造のヒントだけではなく、NECという会社に対しても新鮮な気づきを得て帰任。ベンチャーで働いてみたことで、どんな変化が起こったのでしょうか? 伺っていきます。
自分の仕事は、
本当に社会に求められているんだろうか
ー滝口さんは、NECではどんな仕事をされていたのでしょうか?
「お客様へシステムを提案するという業務を行っていました。扱っているのはネットワーク機器で、たとえば企業の固定電話や、サーバールームに置いてあるようなマシン。提案から導入までをサポートしていました。NECに入社する前は同業他社で働いていたのですが、その頃から、ずっとネットワーク関連の仕事をしています」
ーそんな中で、今回、なぜレンタル移籍に行くことになったのでしょうか?
「正直、仕事に行きづまり感を感じていました。やりがいはありましたし、チームでお客様の課題を解決していく喜びもありました。一方、NEC社内で、ビジョンやミッションをより浸透させようという動きもあり、僕自身も意識することが増えたのですが、『安全・安心・公平・効率という社会価値を創造する』というビジョンと、自身の『ネットワーク機器を売る』という業務に、ちょっと距離感を感じてしまっていたんです」
「目の前のお客さんには喜んで頂いていても、それって本当に社会に求められていることなんだろうか、社会課題を解決することにつながっているんだろうかって。大きな取り組みの一端を担うだけでは、気づけないことも多いのでは、と感じていました。なので、もっとダイレクトに社会的価値の創造に関わる現場で仕事をしたら、ヒントが見つかるんじゃないかって、そう思ったのがきっかけでした」
「それからもうひとつ、自分にどんなことができるのか試したかった。日々の業務は、何かひとつアクションを起こすにしても、影響範囲が大きいので慎重にならざるをえないんですね。だから、思い切って何かをしてみたことがなくて。でもこの先、チームやパートナー企業と新しい取り組みをしていきたいって考えた時に、決断力や実行力が必要になる。自分はそれができるのだろうかって、自分自身を確かめたい気持ちもありました」
ーそんな中で、行き先として選んだのが、プランティオ株式会社ですね。プランティオ社は「みんなでたのしく野菜を育てる世界へ」をコンセプトに、IoTやAIを取り入れた野菜栽培システムを開発・提供しているベンチャーですが、どういったところが決め手だったのですか?
「ずっとネットワーク分野をやっていたので、『ITの力で社会課題を解決したい』という僕個人のWILLが前提としてあって、まずはその文脈でフィットしたんです。農業や食でいうと、NECも食品ロス削減や農業支援に関するソリューションを提供していますし、僕自身の興味対象でもありました。騒音や大気汚染などの問題を抱えた地域で生まれ育ったこともあって、環境問題は解決したいひとつのキーワードだったんです」
「農業って環境負荷が高い産業のひとつですから。そんな中でプランティオは『みんなで野菜を育ててみんなで食べる』というビジョンのもと、飢餓やフードロスを解決できるしくみを提供している。しかも単なるシステムづくりだけではなく、それをカルチャーにつなげていこうとしています。そうしたCEO・芹澤さんの思いにも強く共感できました」
「一歩先、二歩先」を意識する大切さ
ー興味ポイントがかなり重なったようですね。滝口さんは、プランティオではどのようなことをしていたのでしょうか。順調なスタートでしたか?
「スタッフが数名しかいないので、とにかくいろんなことをやっていました(笑)。メインでいうと、入ってすぐは、栽培管理のアグリセンサー『grow CONNECT(グロウ コネクト)』の開発・評価を担当することに。移籍したのがちょうど2020年4月で、まさにコロナ真っ只中。世の中も会社も大変な中だったのに、受け入れてくださったので早く貢献したいって必死でした」
「順調な出だしかというと、コロナの影響もあって、どこまで動いて良いんだろうって手探りの中で動いていましたし、期待に応えなきゃって思いではありながらも、役に立てていない無力感を感じていました」
ー無力感というのは、力不足を感じたということでしょうか?
「たとえばですが、アグリセンサーの評価をするにあたって、スケジュールを切って、いつまでに何をやるかを明確に資料化してみたんです。それをCTO・日野原さんに見せたところ、『このスケジュール通りにいかなかった時にどうするかって考えてますか?』って聞かれて、全然答えられなかったり……。会議とかでも、入ったばかりの頃から『どう思いますか?』って意見を求められていたのですが、全然、いい返しができませんでした」
「要は、自分の仕事の仕方として、目の前に振られた業務のことしか考えられていなかったんです。だからそれ以上のことを聞かれても答えられないわけです。でも、プランティオのメンバーは、芹澤さんはじめ、一歩も二歩も先を考えて動いている。事業のこの先を深く考えた上で行動している。そこが大きく違っていました。だから自分もそこまで考えて行動する必要があるのに、なかなかそういう発想で考えることができなくて。悩みましたよ」
ー どうやって打破したのでしょうか?
「まずは考えの至らなさというか、自分の思考の浅さを受け止めようって。正直最初は、『その分野の専門家でもないのに……、そんなことを言われても』って反発心が生まれてしまったのですが、よくよく考えると言われた通りだから何も言えない(笑)。こういうところを変えられるかどうかで成長度合いが変わってくるなって思って、そこは素直に認めて、素人の僕に質問してくれることを有難く捉えるようにしました。そうして考える機会が増えると、だんだん深められるようになって、徐々に変わっていけたと思います」
ー「一歩先、二歩先」を意識することで、先を見据えたコミュニケーションや行動ができるようになったというわけですね。
「そうです。自分は目の前のタスクしか考えられない仕事のやり方をしてきたんだなぁって、改めて気づきました。ビジョンを持って一歩先、二歩先まで動けているメンバーを見て、すごいなぁって思うばかり。移籍して2ヶ月くらい経つと共感も高まって、『自分もここで何かを成し遂げたい』って、気持ちも行動も前向きになっていました」
「それから、自分が行動できたのは、芹澤さんのメッセージも大きいです。オフィスのホワイトボードに、ドラえもんの切り抜きが貼ってあるんですが、ドラえもんがのび太に『考える暇があるんだったら行動しなよ』って言っているシーンなんです。これは芹澤さんが貼ったもので、この姿勢が大事なんだなぁってひとつの行動指針になりました。それに、『失敗を不安に思って動けなくなるくらいだったら、失敗してもいいから動きましょう』って、芹澤さんがよく、おっしゃってくれていました」
—なるほど。そういった思いの高まりと行動が、Makuakeでの大成功につながったんでしょうか。アグリセンサー「grow CONNECT」の販売において、目標金額 50万円のところ、400万円を超える金額が集まったとか?
「僕は企画を考えるプロセスに参加しただけですが、半日で目標金額に達成したのは忘れられない瞬間でした。出来上がったアグリセンサーをどうやって販売するのが良いのか? どんなアプローチが良いのかって、メンバーみんなで必死に考えて挑んだクラファンです。リリースする直前まで、『本当に売れるのかな』『売れなかったらどうしよう』ってソワソワしていました」
「公開されたのは8月のある土曜日だったのですが、休日にもかかわらず、みんな、サイトに張り付いて、見守っていて。結果、半日で達成。みんなで喜び合いました。こういうワクワク感や達成の喜びを味わえるっていいなって、心から感じた瞬間でした」
説明することと伝えることは違う
—それは感動的な体験! 滝口さんは、センサー周りの業務以外にも、協業のプロジェクトマネジメントもしていたそうですね。
「はい。センサーに関わりながら、商業施設や空いている屋上スペースを活用して都市型の屋上農園をつくるプロジェクトに参画していました。芹澤さんと一緒に協業先との打ち合わせに出て提案を進めていく仕事です」
「先を見て動くということを得たこともあって、提案書を作ったり、協業先とのコミュニケーションはうまくできたと思います。実際、一件、自分が提案した屋上庭園の企画が先方で通り、実施に向けて動き出すことができたんです。移籍も終わりころだったので、最後に大きな結果が出せて嬉しかったですね」
ー営業提案に関しては、滝口さんもずっとNECでやってきたこと。これまでの経験が活きたこともあったのでは?
「確かに、芹澤さんの方から『大企業の雰囲気や文化がわからないから、窓口として大きな会社とコミュニケーションを取ってくれるのはありがたい』って言っていただくなど、商談の仕方も褒めていただきました。それから、提案資料や業務フローをドキュメント化したときも、評価してもらえた。こうした役に立てる領域を認識できたことも、結果につながっているのだと思います」
「あとは、NECで提案に関わる中で、ずっと大切にしてきたことがあって。『説明することと伝えることは違う』という考え方です。説明がいくら正しくても、伝わらなかったら意味がないということ。当たり前ですが、『相手に伝わること』を大事にする姿勢が身についていたのも、大きかったのかもしれません」
NECでやりたいことが大きくなった
ーNECでの経験も活かせたわけですね。こうして半年間の移籍を終えたわけですが、最初は苦戦したものの、最後には貢献や成長も大きかったように思います。ベンチャーに行く前と終わったあとで、滝口さんの中で、何か大きな意識変化は起こりましたか?
「いろいろありますが、一番は、『事業に共感している人たちと仕事をすることで、推進力がどんどん高まる』という気づきでした。プランティオでは社内はもちろん、協業パートナー含め、みんなでひとつのビジョンに向かって進んでいました。壁を作らず、関わる人たちにビジョンや思いを伝え、周りを巻き込みながら、プロジェクトを進めていたということ。結果的に、共感している人が集まり、強い推進力が生まれていました」
「一方自分は、今まで必要以上に社内と社外の壁を高くしていたかもしれない、と感じています。社内におけるセクショナリズムも意識し過ぎていたように思います。なので、プランティオで目の当たりにした『推進力』を、どうにかしてNECの中にインストールしたい。まずは組織のビジョンを理解して、自分の思いをしっかり持ち、改めて周りとの関係構築をしていきたいと考えています」
ー組織のビジョンとご自身の行動が、より、つながってきそうですね。
「そうですね。外に出てみてNECの取り組みを客観的に見てみたことで、改めて社会価値を創造している企業だと感じました。それに、芹澤さんの近くにいたことで、経営視点で物事を見ていたので、経営層に対するリスペクトも高まっています。それは会社に対してもそうで、自分たちの先輩がNECという大組織をつくってこられたんだなぁって感動すら覚えました。それも、小さくも成長期にある組織に身を置いたからこそ、感じられたストーリー」
「実は、『転職したくなった?』って、いろんな人に聞かれるんです、戻ってきてから。でも、そんなことは全然なくて、むしろNECでやりたいことが大きくなりました(笑)。組織のミッションでもあり、僕自身の思いでもある『世の中から不公平をなくすサービスやプロダクトをつくる』こと。視野を広げて、周りを巻き込んで、取り組んでいきたいですね」
Fin
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【レンタル移籍とは?】
大手企業の社員が、一定期間ベンチャー企業で事業開発などの取り組みを行う、株式会社ローンディールが提供するプログラム。ベンチャー企業の現場で新しい価値を創りだす実践的な経験を通じて、イノベーションを起こせる人材・組織に変革を起こせる次世代リーダーを育成することを目的に行われている。2015年のサービス開始以降、計46社122名のレンタル移籍が行なわれている(※2021年3月1日実績)。→詳しくはこちら
協力:日本電気株式会社 / 株式会社プランティオ
文:小林こず恵
写真:宮本七生
提供:株式会社ローンディール
https://loandeal.jp/