多様性と、価値観の共有っていう矛盾【ぼくらは仕事で強くなる vol.8】
連載「ぼくらは仕事で強くなる」は、ローンディール 代表 原田による個人ノートです。組織やマネジメントのこと、自分自身のキャリアについてなど、日々感じていることや取り組んだことを綴っています。週1回程度更新しています。
ローンディールという会社も社員が10人を超えてきたわけですが、チームを作っていくときに、やっぱり多様性っていうのを大事にしたいなと思っています。大企業出身者やベンチャー企業出身者、若手やミドル(本当はシニアもですね)、男性や女性、既婚も未婚も。いつも変化を求めるタイプや安定を求めるタイプ。人に寄り添うことが好きな人もいれば、組織を強くすることに興味がある人もいる。いろんな経験、いろんな指向性を持っている人たちが集うことで、総和としての感性みたいなものが決まっていくのだと思うんです。
まだまだ会社ができて5年、社員としてかかわってくれる人が増えたのはここ数年の話。これから企業文化を作っていこうという段階のローンディールという会社にとって、今このタイミングでどこまで多様性を内包できるかというのはとっても大事だと思うのです。
ところが、ここでちょっと迷ってしまったことがあります。
かかわる人が増えていくのだから、これまでの経緯を知らない人もしっかりとアジャストできるように、うちの会社が大事にしたい価値観を言語化しておこうという話が出てきているのです。それはそれで大事なこと。でも、よくよく考えてみたら、これってすっごい矛盾していませんかね。多様性が大事というのは、いうなればいろいろな価値観を受容するということ。そんなことを言っておきながら、「みんなが大事にしたいことってあるよね」という前提や価値観という大義のもとに、何かを統一しようとしている。
これって、多様性を排除しようということにはならないのだろうか?
例えば、今、うちの会社のPrinciple(信条というニュアンスが強い)として「あと一歩、もう一歩」ということが書かれています。これは「何かを完成したものと捉えてしまった瞬間に進歩が止まってしまう、だから常に未完成なものとしてとらえ続けよう」ということです。でも、多様な価値観ということでいうなら「完璧なものしか世の中には出さないんだ」という完璧主義な人がいたっていいはず。ところがこのPrincipleを表明するということは、完璧主義者はうちにはあいませんよ、と表明しているようなものですね。つまり、一つの側面において多様性をあきらめることになってしまう。
ここまでくると、もはや言葉遊びのようになってしまいますが、価値観というよりも行動原理というくらいのほうがしっくりくるかもしれません。「お互いの意見を尊重し合おう」というようなPrincipleであれば、さすがに価値観の押し付けとは感じないかな。さすがに、どんだけ多様性が大事だといっても、仲間のことを見下すような人は、やっぱりうちの会社にはいてほしくないんですよね。
そう考えていくと・・・統一しようとする価値観は必要最小限の線引き、という認識がちょうどよいのかな。
自分たちの価値観というものを表明したい、一体感を感じていたい。それは、特に不確実な環境で働くときにとても大切な安心感を与えてくれるものかもしれません。やっぱり同質性がある環境のほうが働いているメンバーにとって居心地がよいというのが人間の性だと思うんですよね。ただし、社内の居心地がよくなるほど、価値観の一致として期待されるラインが高くなってしまうリスクがある。それには十分注意を払わなければならない。価値観の違う人がいると摩擦が生まれる、本当はその摩擦とそこに生じる熱が、前に進む力になるはず。それに、心理的安全性という意味で考えても、一見、近しい価値観の人たちの集団のほうが安全性が高いと感じるかもしれないけれど、ちゃんと議論を交わせる、いろいろな価値観の人がブラッシュアップをしてくれるということのほうが、より高次の心理的安全性を生むはず。
今のところそんな風に考えて、価値観を整理してみようかなと思っているところです。
【レンタル移籍とは?】
大手企業の社員が、一定期間ベンチャー企業で事業開発などの取り組みを行う、株式会社ローンディールが提供するプログラム。ベンチャー企業の現場で新しい価値を創りだす実践的な経験を通じて、イノベーションを起こせる人材・組織に変革を起こせる次世代リーダーを育成することを目的に行われている。2015年のサービス開始以降、計38社100名のレンタル移籍が行なわれている(※2020年8月実績)。→詳しくはこちら