見出し画像

「ベンチャーで掴んだ手応え “組織の中の技術者を活かす”という挑戦」 リコー遠藤雄也さん –前編-

 組織にいながら、誰もが個々の才能を活かして働けたらどんなにいいだろうか。一方「組織なのだから仕方ない」のひとことで諦めてしまっている人も多いのではないか。精密機器メーカーの株式会社リコーで働く、エンジニア出身の遠藤雄也(えんどう・ゆうや)さんも、個人がイキイキ働ける環境を強く望んでいるひとり。遠藤さんはそれを“誰もが自然体で働ける環境”と呼び、先陣を切って、自ら動こうとしている。
 現在、実現に向けて日々奮闘している遠藤さんだが、その挑戦の物語は、半年間のベンチャー経験抜きには語れないーーー。
(※ 本記事は2020年9月のインタビューをもとにしています)

技術者がイキイキ働ける環境を

ーー遠藤さんのキャリアはリコー内でも稀有だ。エンジニアとしての経験を持ちながら、新規事業の企画を行うという、ハイブリッドなキャリアを歩んでいる。両方の立場からビジネスに触れてきた遠藤さんは、少し前から、“とある企て”を始めている。

「入社して最初の5年間はエンジニアをしていました。インクジェットプリンターやバイオ3Dプリンターの研究開発です。そのあと今の企画部門に移ってきて、事業開発を。リコーの新技術を活用して、どうビジネスに転換していくのか、ということを検討したり、組む相手を探したり。未来を担う新しい事業を作っていくことにやりがいは感じる一方、ずっと抱えているジレンマもありました」

ーーそのジレンマこそが、遠藤さんを駆り立てる原動力となり、企てにつながっている。

「今までの仕事に不満があったわけではないです。エンジニアとして、幅広い研究開発に携わらせてもらいました。ただ、僕の場合は、光に関わる仕事に興味があってリコーに入ったので、レンズやカメラの研究開発もやりたいという思いがあって。結局、関われないまま」

「会社でもジョブマッチングの仕組みを導入して解消されている部分もあります。ただ、組織の中でこういうことに悩んでいるエンジニアって、自分だけじゃなくて、社内外含めて周りにたくさんいることに気づきました。自分の興味や得意なことを活かせてない、つまり不自然な状態で働いているということ。これって本人にとっても組織にとっても良くないこと」

ーー「悩んでいるのは自分だけではない」
その現実が、遠藤さんを動かす。

「僕はエンジニアでもあるので、まずは技術者がやりたいこと、彼らが個性を活かせるような仕組みをつくりたいと、個人的に検討していました。それも人事施策ではなく、リコーの事業として展開できたらいいなって。せっかく新規事業の企画部門にいますし」

ーー自らの、そして周囲のコンプレックスが重なり、事業として解決していきたいという志を持った遠藤さん。しかし遠藤さんはまだ、事業開発を最後まで成した経験はない。それが、遠藤さんをスタートアップ留学(リコーでの「レンタル移籍」の呼称)に向かわせた。

「だからです。社内でスタートアップ留学の話を耳にした時、これはチャンスだなって。スタートアップに行ったらビジネスを起こす能力が身につくんじゃないかって。それで手を挙げました」

「———ふと思い返すと、僕は10代の頃から世の中に溢れている“不自然”な事象に違和感を感じて生きてきました。そして社会人になって、今回の問題にぶち当たった。そこで改めて思ったんです。人々が才能を発揮して、“自然体”で働くことが何よりもハッピーな状態なんだって。実は地域活動の一環で、子ども向けにプログラミングを教えているんですね。これも、将来エンジニアを目指す子どもたちにイキイキと個性を伸ばしてほしいという思いがあるんですが、それらが今つながった、そんな感じです」

一人ひとりに寄り添うサービスに向き合って。
悶々とした日々の始まり。

ーーそんな思いで選んだ行き先が、株式会社ドットライフだった。ドットライフは人生経験のシェアリングサービス「another life.(アナザーライフ)」の運営、人物取材を生かしたコンテンツ制作等を通して企業のブランディングや採用・個人のキャリアを支援している。
移籍先の候補として、ロボティクスやAIなど、最先端の技術が学べるベンチャーも多い中、“人を活かす”サービスをつくりたい遠藤さんは、人に寄り添った企業を選んだ。

「HRテック系も探しました。でも多くが組織全体に向けた施策を提供している。でも自分は一人ひとりにフォーカスして、その人が活躍できるような仕組みをビジネスとして回している会社に行きたいと思って。それで選びました。それから面白いことがあって。プログラミング仲間にドットライフに行こうと思っているって話した時、その人が偶然、ドットライフが展開している『another life.』のインタビューを受けていたんです。これは何かのご縁かもしれないと(笑)」

ーー2020年1月。こうして縁を感じたその会社で半年間、遠藤さんは「プロフィール事業」を担当することになる。ユーザーがプロフィール機能を用いて自身の経歴を公開し、PRできるというサービス。人生経験のシェアリングサービス「another life.」の、いちサービスとしての正式ローンチを目指していた。まさに人を活かす事業だ。

「すでにプロフィール機能の無料β版は公開していて。有料化してビジネスにしていくというところで事業責任者を務めることになりました。当時、世の中にプロフィール機能を無料で提供しているサービスは幾つかありましたが、それ単体でビジネスとして回している例はなかった。なので『市場に新たな価値を生み出して、ビジネスにしていく』という、求めていた環境ではありました。ですが、戸惑うことも多く、自分の中で動けるようになるまでは1ヶ月くらいかかりましたね……」

ーー理想的な仕事でありながら、なかなか動けなかった遠藤さん。
その理由のひとつに、コミュニケーションロスがあった。コロナ以前から外での打ち合わせや取材が多いドットライフでは、メンバー同士が顔を付きあわせて仕事をする機会は限られていた。自分が責任者となってチームメンバーを動かしていく立場にあった遠藤さんだが、まだ関係が浅いメンバーに対して、どう接したら良いかわからない。遠慮もある。

「まずは事業計画をチーム内で揉む必要があって。なので、メンバーに『これをやってほしい』みたいに依頼することも出てくる。経営層にも動いてもらう必要もあり、こんなことをお願いしていいのかな、言っていいのかなって不安でした。当然、そんなことで躊躇している余裕はなく、ローンチに向けて、顧客価値を明確化したり、アプローチを考えたり、いろいろ進めていかなければいけない状況。思うように進められないことに対する焦りはありながらも、悶々としていましたね」

自ら勝手に作っていた高いハードル

ーーしかし、どんなに悩んでいても時間は止まってはくれない。約1ヶ月後にはローンチが控えている。とにかく進めていかなければいけないのだ。

「まずは動こうと。価値検証のためのマーケティング施策で、顧客候補となる人にインタビューをすることにしました。インタビュー経験はリコーでも経験あったのですが、企業向けがメイン。今回は個人向けのサービスであり、且つ、インタビュー対象者を自分で見つけてくる必要がある。ユーザーとして想定していたのはフリーランスやパラレルワーカー。そもそも僕の周りにはあんまりいないんですね。『どうやって見つけたらいいのかわからない』という次の壁にぶち当たり、最初は社員の方を介して知り合いをつないでもらったりしていました」

ーーこうしてなんとか一歩を踏み出せた遠藤さんだが、後になってわかるのは「構えすぎていた」ということ。自ら人を探す、自らアポイントをとる方法は世の中にいくらでもあるのだ。

「入って1ヶ月経った2020年1月下旬頃、まだ悶々としている頃ですね。ドットライフの創業6周年パーティがありました。そこに来ていた人の中に、プロフィールサービスのβ版を使っている方がいて。早速、SNSでつながって後日連絡を取り、ヒアリングの時間をいただきました。そこまでのスピード感に、自分でも驚きました。それ以降は、SNSを通じてヒアリングを依頼する人も増えて、だいぶインタビューが進みました。ベンチャーでは当たり前かもしれませんが、SNSなどで気軽に声をかけていいんだろうかってこの時までわからなかった。インタビューまでのステップを重く捉えてしまっていたんですね。それが、こんなにカジュアルに進めていいんだってわかってからは動けるようになって、モヤモヤも減りました」

図1

ステージでスピーチする遠藤さん

ーー新しいやり方を手にいれた遠藤さんは、フットワークもマインドも軽くなった。

「やっぱり、オフィスで頭を抱えて計画を立てるよりも、話を聞きに行くことが本当に大事なんだってわかりました。行動する大切さを知った。そこから1ヶ月はひたすらローンチに向けて準備をして。無事、3月に有料版を公開できました。でも実はここからの方が大変だったんですけどね…(苦笑)」


▼「another life.profile」はこちら

▼遠藤さん自身のプロフィール


ーー動き方がわかったことで前に進めるようになった遠藤さん。
しかし自身の積極的な動きとは裏腹に、サービス自体のスタートダッシュに苦戦。遠藤さんはそれをどうやって乗り越えていったのか、サービスの公式オープンとともに、遠藤さん本人の本番もこれからだった。

→ 続きはこちら


【オンラインセミナー 参加者募集中!】
不確実性が高まる時代、
大企業の変革を促進する「レンタル移籍」とは?

「イノベーションを生み出せる人材に必要なスキル・マインドは?」「そして、組織はそのような人材をどう活かすべきか?」ローンディール代表の原田が登壇し、レンタル移籍を導入している企業の実例を交えながら、個人そして組織の両面から、組織変革の鍵を探ってまいります。本イベントを通して、イノベーションを促進させるための人材育成・組織開発について考えるきっかけになれば幸いです。人材開発・新規事業開発に携わる皆さま、ぜひお越しください。

日程:2020年11月13日(金)
時間:14:00~15:30 講演・質疑応答  
対象:大企業の人事・人材開発部門の方、ならびに新規事業開発・イノベーション推進部門の方
会場:オンライン開催。ZOOMにて配信予定
定員:30名
参加費:無料
主催:株式会社ローンディール
詳細:https://loandeal.jp/events/20201113seminar

【レンタル移籍とは?】

大手企業の社員が、一定期間ベンチャー企業で事業開発などの取り組みを行う、株式会社ローンディールが提供するプログラム。ベンチャー企業の現場で新しい価値を創りだす実践的な経験を通じて、イノベーションを起こせる人材・組織に変革を起こせる次世代リーダーを育成することを目的に行われている。2015年のサービス開始以降、計41社115名のレンタル移籍が行なわれている(※2020年10月1日実績)。→詳しくはこちら

▼ 読者アンケートご協力のお願い ▼
いつも「&ローンディール」をお読みいただき、ありがとうございます。
今後もより楽しめるストーリーや記事をお届けするために、ぜひ、ご意見・ご感想をいただけますと幸いです! ご意見いただけると励みになります。

▼ 関連記事


協力:株式会社リコー / 株式会社ドットライフ
ストーリーテラー:小林こず恵
提供:株式会社ローンディール
https://loandeal.jp/

いいなと思ったら応援しよう!