【「怖がらない。前に出る。」 半年前には想像もできなかった自分が、そこにいた】 大和ライフネクスト 堀江明子さん –後編-
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丸投げされると、仕事したくなくなるかも
保守の外部委託をするためのマニュアルを作りたい。
しかし、移籍前の会社では日常的にこなせていた仕事が、1ミリも進まない。
この時、堀江さんにアドバイスをしてくれたのは、当時、週に一度1on1をしていたマネージャーの森さんだった。
「エンジニアも忙しいから、丸ごと仕事が投げられているように感じると、彼らも動きたくなくなっちゃうのかも」
そう言われ、堀江さんは、ハッとした。
「たしかにこれまで自分は、わからないから教えてくれとばかり言っていたかもしれない。そうじゃなくて、『ここまではやってみたので、わからないところだけ教えてほしい』というコミュニケーションをしなくてはならなかったんだ」
そう思った堀江さんは、その日から、英文書で全てのマニュアルを作ることをやめた。ロボットの写真を撮りながら、わかる部分は説明を書き、わからない部分をエンジニアにたずね、情報収集をするようなやり方に変えたのだ。
「この作業を始めてわかったのですが、エンジニアの人たちも、最終的にどんな完成形のものを作りたいのかがわからないから、協力のしようがなかったのかもしれないと思いました」
6月から、会社に出社できるようになったのも、追い風になった。エンジニアと、face to faceのコミュニケーションをとれるようになり、身振り手振りの英語で「無いピースを埋めていく」ような仕事が進められるようになった。
完璧なマニュアルを作る必要はないと気づいたのも、ひとつのブレイクスルーだった。
大和ライフネクストにいたときは、マニュアルとは品質管理や生産性向上のためにあるもの。お客様からどんな問い合わせを受けても、一定の品質を担保した回答をするために、根拠が明確なものが求められていた。
しかし、この場で必要なのは、そういったお客様対応用の完璧なマニュアルではない。翌日にはバージョン2を出すくらいのものでもよい。とにかく、ひととおり仕上げることに専念しよう。
どんどん手直しを重ねて改良されていく、ソフトウェアのようなベータ版の商品マニュアルを作っていると思えばいい。そう考えを切り替えられたことも、功を奏した。
エンジニアとコミュニケーションが取れるようになり、仕事が進んでいくにつれ、落ち込んでいた気持ちも浮上していった。
「5月は人と自分を比べていたところがあったんです。他の移籍者の人たちは、きっともう何かしらの成果を上げているだろうなとか。それに比べて、私は仲間の協力すら得られていない状況だよ~(涙)と」
この時期、物理的にも、精神的にも、堀江さんを支えてくれたのは、ローンディールのメンターの存在、そして、ご主人の存在だった。
昔から、よく仕事の話をしあう関係だったというご主人には、ラピュタでの仕事の悩みも打ち明けていたという。
もう一人のメンターのような、ご主人の励ましもあって、6月は徐々に手応えをつかみはじめた。
月報にはこのようにある。
「自分の無力さを、前を向く力に変えられた6月」
堀江さん(左)とラピュタ・森さん(右)
毎日課題しかない
7月に入ってからは、フェーズががらっと変わった。お客様の倉庫で、ロボットが実稼働する日程が決まったのだ。
デッドラインが決まると、課題が山積していることに気づく。
たとえば、お客様から「ロボットから動かないんですけれども」という電話がくる。その場合、遠隔で、どのようにヒアリングして、どのように解決するか。そういったシチュエーションを想定して、密度濃くロールプレイングをくり返した。
このタイミングで、オペレーション担当が1人増えた。それまでほぼ1人でやってきた仕事だったが、バディを得て、話し合いをしながら進められるようになった。
「いや~、もう、毎日課題だらけだよ~。どうするよ~と言い合いながらも、答えはわかっているんです。やるしかない。次から次へと課題が出てくるのですが、それでも課題がひとつ見つかれば、一歩前に進めている実感も出てきます」
落ち込んでいる暇もない。昨日よりも一歩前進していけばいいかと、日々、タフになっていく。
「少しずつ、自分の存在価値を見いだせることになるように感じたのもこの頃でした」
この時期、堀江さんは「スタートアップ企業にとって、ファーストカスタマーがいかに重要か」を、肌身にしみて感じたという。
大和ライフネクストでは、たくさんの建物を管理していた。何か不都合が起こった場合でも、その建物固有の課題に時間を割き続けることはできない。
もちろん個別に問題は解決するが、常に課題を一般化してデータ蓄積していくといった発想になる。
しかし、ラピュタの場合、ファーストカスタマーの成功を導きださないと、次はない。これが、成熟したシーンの会社とスタートアップのシーンの違いだと強く感じた。
湧き上がる使命感
ファーストカスタマーの成功を導くためにも必要なのは、お客様と一緒に実証実験しながら、エンジニアにフィードバックすることだ。
ここに、堀江さんは強い使命感を持っていた
「エンジニアは、ある種、強いんですよね。私たちが、今日はここで不具合が出た。今日はここで課題が生まれたと頭を抱えているときも、そんなに落ち込んだりしないんです。彼らは『自分たちのシナリオ通りに動かせば、成果があがるはずだ』という仮説を持っているからです。もちろん、それはすごく重要な信念なのですが、お客様がすべてシナリオ通りにロボットを動かすわけじゃない」
信念を持つエンジニアに対して、お客様の声や要望を伝えるのは、堀江さんたち、オペレーションチームの役割だった。
たとえば、遠隔でチェックしていると、ロボットは問題なく動いているように見える。けれどもそれは、「現場の人間がロボットに遠慮して動いているから」ということを知っているのは、現場に日参しているオペレーションチームなのだ。
いま現場で起こっている問題は、個別の課題ではない。最初のお客さまの要望を大事にしていかないと、「人間とロボットの協調」という最終的なミッションも、絵に描いた餅になってしまう。堀江さんは、そう感じていた。
とはいえ、開発者側の苦労もわかっている。
当たり前のような機能であっても、それを付加するのは簡単なことではない。
解決すべき課題を抱えた状態でも、お客様に使い続けてもらうにはどうしたら良いか、
使い続けてもらえないとラピュタの事業自体を失速させてしまう。
「これまでは、仕事でリスクを負ったことがなかった」
という堀江さん。
不安と緊張の日々が続いた。
そんな堀江さんを変えるきっかけとなる出来事がおこった。実稼働後まもなく行われたフィードバックミーティングである。
ラピュタ側の問題ばかりではなかったが、繁忙期にこのままロボットを稼働させていくことに、お客さまが不安を感じてもおかしくない状況だった。
しかし、そのお客さまは、ミーティングでこう言ってくれたのだ。
「たしかに、今回はトラブルがあったが、そもそも私たちが期待しているレベルには到達している。これからもどんどん使い続けていく」
この力強い言葉に、堀江さんは心を打たれた。
これまで堀江さんが顧客と築いてきた関係性は、提供する商品やサービスに対して対価をいただくという関係性だった。
しかしここで生まれようとしている関係は、ともに事業を育てようとする、パートナーシップだった。
そのことに、胸が熱くなった。
「それまで、『新規事業にはパトロンが必要だ』などと、大雑把に考えていました。けれども、それだけではないパートナーシップがある。同じ目線で事業の成長を考え、共に試行錯誤をする関係を築くこともできるのだと知ったのです」
この発見が、堀江さんを成長させた。
「ここまでお客さまに寄り添っていただいているのだから、オペレーションチームは、プロダクト改善以外にも出来ることを考え続けなくてはならない」と、強い使命感を持つようになったのだ。
「怖がっている場合じゃない。もっと前に出て、発言しよう」
堀江さんが、大きく変わった瞬間でもあった。
お客さまと開発者の橋渡し役だけでなく、出来ることがあるはず。
ソフトもハードも課題が見えてから解決するまでにはタイムラグが常に発生する。
日々のロボットオペレーションに対するストレスを、オペレーションチームが介在することで、少しでも小さく出来たらお客様が使い続けてくれるのではないか、
それがアドホック対応でも、今後のアップデートに繋がる内容でも、
現場に適応させる方法を考え続ける。
プロダクト改善だけではないアプローチも模索するようになった。
ラピュタでは、この役割をまっとうしたい。堀江さんは、強い決意を持って、最後まで走り抜いた。
▼ 堀江さんが関わったロボットの動画はこちらからご覧いただけます。
青春が終わった
9月末で移籍が終わったとき、堀江さんは
「私の青春が終わっちゃったー」
と、感じたそうだ。
浮き沈みも激しく、でも全力で走り通した半年間。まさに、青春だった。フィードバックをくり返し、ロボットが成長していくのを見て、涙がこぼれそうになったことも一度や二度じゃないという。
移籍終了報告会で、堀江さんは
「ゴールテープはないが、マイルストーンがある」
という言葉で、この期間の仕事を表現した。
スタートアップは、自社やその商品の「こうありたい像」に向かって高い志を持って進んでいる。しかし、もちろん、そのミッションにいきなり到達するわけではない。
そこに向かうには、細かいマイルストーンがあり、それらをひとつひとつ通過していくことによって、ゴールが近づいてくる。
「このゴールに対するプロセスの解像度が、ラピュタにいた半年間で、とても高くなったような気がします」
移籍後に戻った大和ライフネクストで、堀江さんは、新規プロジェクトにも関わる部署に異動になった。この部署でも、ラピュタでの経験がおおいに生かされているという。
「ふわっとしたお題が上から降りてくる。そのお題を自分で咀嚼しなおして、どう動けばいいのかのプロセスを考える。そのプロセスに確信が持てたら人を巻き込んでいくし、もし腹落ちできていなければ、咀嚼するのに足りない材料がどこにあるのかを取りにいく。そういった思考回路を持ち戦略を立てられるようになったのは、ラピュタでの経験があったからだと思います。どんな課題でも、手も足も出ないみたいなことはない。どんな仕事でも、自分で考えて動いていけるようになりました」
新しい部署でも、暗中模索は続いている。しかし一方で、期待されていることも感じるので、仕事はとても楽しい。
最近は、「ちょっと相談したいんだけれど」と、いろんな部署の人から声をかけられることが増え、社内横断的な動きができるようになった。
思えば、このレンタル移籍中に起こった大きな変化は「発信は前進のための一歩」と思えたこと。そして、「お客さまはパートナーである」という発見だったかもしれないと、堀江さんは言う。全体を俯瞰して、意見を伝え、シナジーを生む。そういう仕事が自分自身も楽しいと感じるし、合っているなと思う。
自分を肯定できるようになった
移籍で得たのは、仕事の進め方や発想の転換だけではなかった。
実は堀江さん、レンタル移籍前は、自分に自信がもてなく、自己肯定感が低かったという。しかし、移籍期間中に、メンターや会社の人たちからのフィードバックをもらうことで、自分を肯定できるようになったのだ。
「たとえば、自分はマネージャー経験もない。転職も何回かしている根無し草であることを、どこかマイナスに思っていました。でも、『それが堀江さんのいいところなんだよ。だから、新しい発想が生まれるんだよ』といったコメントを聞くことができて、自分のキャリアを肯定的に見ることができるようになったんです。
もちろん、これまでもプロ意識を持って仕事に取り組んできたつもりでした。でもどこか、自分はまだまだだと感じてしまうことが多かったんですよね。それがこの期間中、もともとの会社の上司にも、受け入れ先の上司にも、いろんなフィードバックをもらえて、『そんなふうに自分を評価してくれていたんだ』と、自分を認められるようになりました」
堀江さんいわく、「ローンディールの移籍には、よってたかって、能力を引出そう、伸ばそうとする仕組みがある」という。
メンターからは、
「どうして、そう思ったの?」
という質問を何度もされた。
内省し、発信して、フィードバックされるローンディールのシステムによって、負がプラスに転じる瞬間を何度も経験できたという。
「仕事が好きなので、できればずっと、働き続けたいと思っています」
そう語る堀江さんにとって、この移籍中に得た“自己肯定感”という財産は、何にも変えがたい宝になるに違いない。
Fin
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<Rapyuta Roboticsより採用のお知らせ>
堀江さんがレンタル移籍した「Rapyuta Robotics」では、あらゆるポジションにて採用を行っています。ご興味のある方は以下のフォームよりお問い合わせください。
【レンタル移籍とは?】
大手企業の社員が、一定期間ベンチャー企業で事業開発などの取り組みを行う、株式会社ローンディールが提供するプログラム。ベンチャー企業の現場で新しい価値を創りだす実践的な経験を通じて、イノベーションを起こせる人材・組織に変革を起こせる次世代リーダーを育成することを目的に行われている。2015年のサービス開始以降、計46社122名のレンタル移籍が行なわれている(※2021年2月1日実績)。→詳しくはこちら
協力:大和ライフネクスト株式会社 / Rapyuta Robotics株式会社
文:佐藤友美
写真:宮本七生
提供:株式会社ローンディール
https://loandeal.jp/
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