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「ベンチャーで掴んだ手応え “組織の中の技術者を活かす”という挑戦」 リコー遠藤雄也さん –後編-


精密機器メーカーの株式会社リコーで働く、エンジニア出身の遠藤雄也(えんどう・ゆうや)さんは、社内のスタートアップ留学(リコーでの「レンタル移籍」の呼称)を通じて、株式会社ドットライフへ。遠藤さんの挑戦ストーリーの後編です。
→前編はこちら

「言語化できない」という壁

—動けるようになった遠藤さん。しかしそれはスタートラインに立ったに過ぎない。早く走れたからといって、それが結果につながるとは限らない。

「ローンチに向けて、初動の利用者数の目標は立てていて。でも正直、思ったような結果に到達しなかった。だから改めて、利用してもらっているユーザーや想定顧客にインタビューをし直したんです。結果、属性も利用シーンも想定していたこととは異なり、価値にズレがあることがわかって。なので、ローンチ後、訴求ポイントを調整していきました」

「当初は、パラレルワーカーやフリーランサーのPRツールとして『共感を得る』というところをポイントに展開をしていた。でもコアユーザーの需要はちょっと違っていて。エモさや共感を主にしたプロフィールではなく、独立したばかりでパートナーや顧客を得たいという、ビジネスマッチングの要素を期待している人が多くいらっしゃったんです」

ーこうして、遠藤さんは打ち出し方を変えていく。インタビューを経て、改善ポイントもやるべきことも見えてきた。しかしここで再び、大きく足踏みをしてしまう。それは遠藤さんの「言語化不足」によって、チームで共通認識が持てなかったことが原因だ。

「施策を転換しようってことになり、サービスに手を入れる必要がありました。当然自分一人ではできないので、編集やデザイナーをしているチームメンバーに相談するわけなのですが、『価値やターゲットを明確にして伝えて欲しい』と言われてしまって。チームでの共通言語が生み出せていなかったんですね。こうした方がいいってわかっているのに、それをうまく言語化できない。『このままでは進まない。マズイな』って、何度も話し合いの場を作って意識をすり合わせ、合意形成をする。それを繰り返しました」

ーそもそも遠藤さんは、人を巻き込んで物事を進めていくことの経験が浅かった。「どうしたらチームが動くのか?」それを身を以て学んだ。

「大変でしたけど、自分がリーダーとなって周りを巻き込む経験はなかったので、いい学びになった。チームで走るということ、そこには高揚感もありました。同時に、『自分でこれをやりたい』って思った時に、ちゃんと言語化して、仲間から共感を得ることがいかに大事かってわかった。今回は自分が挑戦できるリミットが迫っていたので、かなり追い込まれましたけど、経験して良かったです」

“実験好き”が功を奏して

ーこうして意識がすり合ってからは、チームの動きも早かった。
そして成功体験も生まれる。

「訴求ポイントを変えていくこともそうですが。それ以前に『プロフィールを作るのが大変』という壁があることがわかったんです。それだと、いくら訴求しても、結局はプロフィールを作らずに離脱してしまう可能性が高い。なので、まずはプロフィールを作りやすくする施策に力を入れました。たとえば、作るステップにおいて、説明やガイドを加えたり、プロフィール作りのイベントを開いたり。結果、離脱も下がり、プロフィールを積極的に書く人も少しずつ増えました」

—こうした成功体験のその裏で、遠藤さん“ならでは”の動きもしていた。たとえばそれは遠藤さんの個性のひとつでもある、“実験好き”な面を活かしたユーザーのリアルマッチングだ。

「ビジネスのマッチングが価値のひとつだとわかってから、サービス上も改善していきつつ、プロフィール利用者を人力でマッチングさせるということもやってみたんです。プロフィールから合う人を見つけてきて紹介の場を設けてマッチングするみたいな。うまくいったマッチングもあって、喜んでもらえました。こういう価値提供もあるんだって。ある意味、研究者時代にやっていた実験と同じで、楽しみながらできました」

ー事業開発に向き合いながらも、サービスの可能性を広げるための実験も行った。

「ドットライフは当時、メディアの運営に関わる人はいましたけど、ビジネスサイドで意思決定を行う人がCEOの新條さんをはじめとする経営陣がメイン。そんな中でビジネスとしてどう展開していくかを考えると同時に正式ローンチ後の機能改修などは、自分もエンジニアとしてシステムの部分を作っていたりしたんですね。そういう意味では、ビジネスからプログラミングまで幅広く携わったので、少しは貢献できているのでは、と思いたいですが(笑)」

—本人はいたって謙虚、極めて控えめだ。そんな遠藤さんをドットライフのメンバーは「素直な人」という。技術スキルがあってビジネスが語れる。結果の見えない実験も厭わない。それでいて素直。だからこそ、新しいことにも挑戦できたし、自信にもつながったのだろう。

「事業責任者もそうですが、WEBのプログラミングもやったことがなかった。ただ、いざやってみると、なんとかできるんだなぁって。リコーから外に出て仕事をすることができたことも含めて、自分の自信になりましたね」

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ドットライフの仲間と。中央左が遠藤さん、中央右がCEOの新條さん

まずは自らが自然体で

ーそんな遠藤さんは、リコーに戻ってきて3ヶ月が経つ。
ドットライフでの経験が、明らかに、遠藤さんの動きを加速させている。

「ドットライフでは、やることに対して『これは会社のビジョンに合っているのか?』て、随時話しに出てくる。全員が会社のビジョンを意識していたということです。自分たちのミッションはこれだからこう進もうと。それに経営陣と接することも多かったので、ビジョンやミッションをメンバーにしっかり共有し、リーダーとして決断することの大切さを学びました。これらをこれからの新規事業に取り入れたいと思っています」

ーさらに、外に出て自社の良さもわかった。入社時に望む配属にならず、多少なりの不満を抱えていた遠藤さんだが、離れてみて、社内に対する“自身の視野”が狭かったことに気づく。自らの意識が変わったことで、リコーの魅力にも気づいたのだ。

「今社内で、ベンチャーでの知見を共有しようと思って、いろいろと発信しているんです。そしたら興味を示してディスカッションに参加してくれる人が想定より多くて。本筋の仕事とは関係ないのにプロジェクトに参加してくれようとしてくれる人もいたり。社内にも、何かアクションを起こしたいって意欲が高い人が多いんだって、今更ながらわかりました。それに帰ってきた時に『おかえりなさい』って、受け入れてもらえる環境だった。帰属意識も高まったし、前より好きになりましたね、リコーを」

—こうして共感してくれる仲間の存在は、“理想の新規事業”へ向かうさらなる糧となっている。

「部門は行く前と同じなのですが、実は今までの事業検討(リコーの新技術を活用した新規事業)からは離れて、まっさらな状態で事業探索をしているんです。僕としては、以前から考えていた、技術者のキャリアに関わる事業を起こそうと考えている。でもメーカーとは親和性があるわけではないので、当然、難しいかなとも考えてたんです。でも、僕がやろうとしていることを上司に話したら、応援してくれた。今はある程度自由に動ける環境にあるので、もしかしたら実現できるんじゃないかなって、胸が膨らみます」

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 そう語る遠藤さんには曇りがない。ベンチャーで事業を作り上げていく経験を通じて、新たな自信と実行力を得たからこそ、より“らしく”いられるのだろう。自ら実現したいことに挑戦でき、周囲も応援してくれている。それこそまさに「自然体」なのではないだろうか。遠藤さんは、まずは自らが、理想的な環境を掴みつつある。

———ドットライフが運営する、様々な人の人生ストーリーを掲載している「another life.」。そこにはまだ遠藤さんのストーリーは載っていない。遠藤さんは「取材されることを目指すのもいいかな」と、さりげなく話す。経験、マインド、環境…すべてを携えた遠藤さんのさらなるストーリーを、様々な場で目にする日もそう遠くはないだろう。



Fin

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協力:株式会社リコー / 株式会社ドットライフ
ストーリーテラー:小林こず恵
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