“外のモノサシ”で測ることで見えた自分の価値 【トレンドマイクロ 凌 勇樹さんのベンチャー移籍物語 -後編- 】
セキュリティ関連ソフトの大手・トレンドマイクロ株式会社から、契約マネジメントシステム「ホームズクラウド」を提供するITベンチャー・株式会社Holmesへと、2019年1月から1年間赴いた凌勇樹(りょう・ゆうき)さん。
それまでとはまったく異なる文化の中でぶち当たった壁は、CEO・笹原健太氏とのコミュニケーション。「思いがけない難題に、苦悩しかなかった」と、前編では語ってくれました。しかし、話を伺っていくと、「下期は“飛躍”でした」との言葉が出てきます。
凌さんにとってのブレイクスルーは、何がきっかけだったのでしょうか。さっそく下期の活動を、伺いましょう。
→前編はこちら
ー苦難を乗り越えられたのは“違う能力”を持った人がいたから
――アートタイプである笹原さんとのコミュニケーションという難題が立ちはだかりましたが、どう乗り越えていったんですか?
採用責任者の方が本当に優秀で、どんどんデキる人材が入ってきてくれたんです。まずは、Webマーケターとデザイナー。コーポレートサイトの改修というブランディングにかかわるデザインの業務を、まるっとお任せすることができました。
そして、最終的に私の上司として入社していただくことになるスーパーマーケター。最初はリモートでのやりとりが中心だったんですけど、メガベンチャーでテレビCMを始めとする大規模マーケティング施策を手掛けてきた人だったので、経験も知見も豊富で、私が不得意とする部分をフォローしてくれたんです。ブランディングや広報領域の業務はお任せして、見込み客の獲得や育成の施策にフォーカスすることができて、すごくラクになりました。
同じ頃にジョインしていただいた弁護士の方も、私にとっては大きな存在でした。東大を出て、四大法律事務所に入って、ニューヨーク州の弁護士資格も取得したというスーパーマンなんですが、その方が持ち前の契約や法律に対する知見を駆使して、笹原さんの言う「世界観」をわかりやすく変換してくれたんです。難しい概念も、理解しやすいように咀嚼してくれるスーパーマンのおかげで、またスムーズに仕事に取り組めるようになりました。優秀な人たちと一緒に働くことは本当に楽しいなと、心から思いましたね。
(Holmesの仲間との写真)
――なるほど、言葉を変換してくれる人物の登場によって、職場環境が変わっていったと。レンタル期間中に、人材獲得も進んでいたんですね。
そうですね。入社した1月は社員15人でしたけど、12月には50人を超えていて、ビジネスも同様に拡大していました。マーケティング部門に関しては、私も採用を担当していたんです。採用も、外のモノサシを知るいい機会でした。こういう経験をしている人は少ないのか、とかそういうことを感じられたので。
――本当にマーケティングに関わることは、すべて任されていたんですね。
下期はさらに広がりましたね。苦悩はしたものの、数字は好調に推移していたので、笹原さんから「予算は確保するから、どんなマーケティング施策がフィットするか、どんどん試せ」という指示があったんです。下期だけでなく、2020年以降にもつなげていく必要があったので、オンライン・オフラインまんべんなく、さまざまなチャンネルを使い、さまざまな仮説を立てながら、実行していきました。
――例えば、どんなことを?
その頃には、見込み客の獲得から、どう商談につなげてフィールドセールスに渡すかというところまでを主に見ていました。マーケティングの目標って、見込み客数を増やすことなんですけど、極論、コストをかけて商談化も受注もしない薄いリードを大量に取れば、目標は達成してしまう。でも、それは絶対に違うだろうと思うわけです。そのために商談化CVR(コンバージョン率)も意識しました。「すべてはビジネス拡大のため」ってことですね。
見込み客の獲得で終わりではないので、どう商談につなげていくかという、いわゆるインサイドセールスの領域にも入り込んでましたね。コーポレートサイトからの資料請求をいかに迅速にフォローするかとか、展示会で獲得した見込み客のフォローをどの優先順位で行うかとか、Salesforceを駆使しながらさまざまな策を実行していきました。
その時に私がやったことって、セールスフォース・ドットコムさんやSmartHRさんみたいな先人たちのやり方を、徹底的にパクっただけなんですよ。トリッキーなことはほとんどしてなくて、ベストプラクティスを学んで実行しただけ。でも、今振り返って、それがよかったんだなって思います。
ーよみがえった「1枚の名刺への執着」
――1年間、幅広い業務をこなしてきた中で、凌さんが得たスキルや気づいた特性はありましたか?
いままでの経験の希少さを知りましたね。BtoBの事業を行うIT企業で営業をやっていて、かつBtoBのマーケティングの経験もある人って少ないんですよ。そこに加えて、Salesforceを始めとするデジタルツールを使うのが得意だったりすると余計に。いままでのBtoBの営業・マーケティングの経験と、得意なデジタルツールを使った基盤作りやプロセスの構築を、Holmesでは全力で実行することができて、実践しながら経験を積めたことで、マーケットに対して自分のバリューを発揮できる分野が見つかりましたね。
アートの領域に弱いことを知れたのも、学びだと思ってます。トレンドマイクロにいるだけだったら、たまたまアートの色が強い業務に当たらない限り、気づけなかったと思います。不得意な分野がわかったことで、自分が貢献できる領域がさらに明確になったんですよ。多分、今後アートの領域の業務は、私には回ってこないでしょうね(笑)。
――ハードスペックの面で、より凌さん自身の特性をつかんでいった感じですね。
ソフト面でも、1つ大きな変化というか、回帰がありましたね。
「1枚の名刺への執着」という意識が、強まったなと思います。営業の頃に叩き込まれていた精神だったんです。ただ、トレンドマイクロはビジネスモデルが優れていて、企業としての安定性が高いこともあって、徐々にその精神は薄れてたんじゃないかと思うんですよね。展示会のアテンドなどもしていたけど、名刺をもらうことにどれだけ一生懸命になれていたかなって。
でも、スタートアップは、売上がないと潰れかねない環境ですよね。営利企業だから、売上を上げることが本質。その環境に身を置いたことで、「1枚の名刺への執着」がよみがえってきました。重要なのは、かっこいいドリブルをすることじゃなくて、1本でも多くのゴールを決めることなんだと。あれこれ考えてるヒマがあるなら、とりあえずやってみればいいじゃんって気持ちです。
――新卒の頃のような情熱って、大事なのに薄れがちなところですよね。レンタル移籍は、想定以上にプラスに働いたといえそうですが。
そうですね。上司が入社した時に言っていたんですよ。「この選択が正しいかどうか、今の私にはわからないけれど、正しいものにしようと思います」と。かっこいいですよね。新しいことに挑戦して、うまくいくかなんてわからないけど、正しいものにしていくことが大事なんだなって気づかされました。自分のキャリアは自分で選択していかなきゃいけないけど、間違いにしないことも自分次第だなと。
ーレンタル移籍は「キャリア形成」の面でも重要なチャレンジ
――改めて、レンタル移籍のメリットは、どこにあると思いますか?
私の場合は、自分自身を外のモノサシで測れたことが一番大きいです。トレンドマイクロの先輩方が叩き込んでくれたスキルが通用するどころか、市場価値があることに気づけたし、今後のキャリアのためにも重要な機会になりました。この経験を、転職ではなく、リスクを抑えた形でできたことがでっかいです。新卒の若手たちには、「ローリスクハイリターンなんだから、行かない意味がわかんない」ってずっと言ってますよ。
――社内でプロモーションしているんですね! レンタル移籍を通してハード面での気づき、ソフト面での変化があったとの話がありましたが、トレンドマイクロでの仕事でも活きていますか?
完全に活きてますね。1年間、トレンドマイクロから給料をもらいながら、レンタル移籍させてもらったので、少しでも還元したいと思ってます。いちビジネスパーソンとして、“Take”するだけして、“Give”しないっておかしいので。トレンドマイクロに戻ってから、トレンドマイクロのいろんな部門の方々に昨年の経験をお伝えさせていただいています。「こんなことがあったけど、トレンドマイクロでも起きそうだよね」とか「スタートアップのこういうやり方って、トレンドマイクロでも活かせそうだよね」とか。これも“Give”の1つですよね。
また、BtoB SaaSのスタートアップでは当たり前となっているセールスプロセスの分業を、「トレンドマイクロでも取り入れた方がいいのでは?」と提案して、プロジェクトを進めているところです。まさにHolmesで経験したからこそ、生まれた発想だと思いますね。大企業だから進んでいる、スタートアップだから遅れているということはなくて、うまいやり方があるなら、それをパクッて、チューニングしながら取り入れればいいんじゃないかと。
――効率的にビジネスが進むなら、言うことはないですもんね。凌さんの活躍を伺っていると、どちらの企業にとっても意味のあるレンタル移籍だったのだと感じます。
送り出してよかった、受け入れてよかったと思ってほしいですね。そのためにも、還元しなければいけない。今は新たなプロジェクトを進めてますけど、うまくいかなかったらその時に考えればよくて、まずはやってみようと思ってます。
――“やってみよう”精神は、凌さんのベースにあるものですか?
そうかもしれないですね。もともと動きが早く、手数も多いタイプで、Holmesがその部分を解放してくれた気がします。移籍中にあらゆるマーケティング施策をこなしていた時、メンターから「どうして凌さんは、幅広い業務を担うのが好きなんだろうね」って言われたんですよ。自分はマルチタスキングが得意なんだってことにも、気づけましたね。いろいろ抱えて、同時進行してる方が好きみたいです(笑)。
外の世界に出ることで、自分自身の価値を見出した凌さん。規模の違う企業で、同じ分野の業務を行うというチャレンジだったからこそ、見えてきたものもあったようです。トレンドマイクロに戻り、すぐにプロジェクトを立ち上げるほどエネルギッシュな凌さんの未来は、さらなる気づきにあふれていることでしょう。
Fin
▼ 関連記事
“外のモノサシ”で測ることで見えた自分の価値 【トレンドマイクロ 凌勇樹さんのベンチャー移籍物語 -前編- 】
【Holmesより、人材募集のお知らせ】
株式会社Holmesでは、「世の中から紛争裁判をなくす」という志のもと、契約プロセスの構築と、契約管理をオンラインで実現する、クラウド型契約マネジメントサービスを提供しています。オウンドメディアにて、採用情報に加え、社員の生の声やプロジェクトの様子も掲載中です。興味がある方は、ぜひ、ホームページやオウンドメディアをご覧ください!
・採用情報・社員インタビューはこちら(オウンドメディア)
・Holmesのサービスについてはこちら
【レンタル移籍とは?】
大手企業の社員が、一定期間ベンチャー企業で事業開発などの取り組みを行う、株式会社ローンディールが提供するプログラム。ベンチャー企業の現場で新しい価値を創りだす実践的な経験を通じて、イノベーションを起こせる人材・組織に変革を起こせる次世代リーダーを育成することを目的に行われている。2016年のサービス開始以降、計36社95名のレンタル移籍が行なわれている(※2020年4月実績)。→詳しくはこちら
協力:トレンドマイクロ株式会社 / 株式会社Holmes
インタビュアー:有竹亮介(verb)
提供:株式会社ローンディール
https://loandeal.jp/