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【「弁当が売れない」から一転!?ワクワクする日々のはじまり】 三越伊勢丹 井上 匠さん –後編-

10年以上も勤めた伊勢丹のデパ地下から離れ、食のベンチャー企業・アグリホールディングスの弁当事業「BENTO-LABO」を任されることとなった井上さん。今時点でのブランド力を図るために参加した催事場では、他業者の10分の1の売上に留まるという結果に意気消沈したものの、「自分の好きなようにやっていい」とのアドバイスを受けて再起を懸けます。

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「行動」が事業立て直しへの道を拓いた

─催事場で「BENTO-LABO」の現状を理解された後、どのような行動に出たのでしょうか?

 まずは黒字化を目指し、メニューをすべてリニューアルするとともに、製造を自前だけではなく一部は委託へと転換しました。テーマも「健康」だけでなく、ビーガンやハラルなど食に関する特定の課題を持っている方もターゲットに含めるようにしたんです。大きな手応えがあり、出向期間が終わる3月には月額約100万円の売上を達成し、利益ベースでも黒字化を成功させました。

 また、新たな弁当事業として「Endy's Kitchen」も立ち上げました。研究を重ねる中で、改めて食領域における"ストーリー"の強さに気付いたのがきっかけです。売れている業者は、わかりやすく魅力的なストーリーを持っているんですね。どこの誰々が、どういう想いから商品を開発したのか……というような。アグリホールディングスでもそうしたストーリーを作れないかと検討してみると、灯台下暗しだったのですが、ずっと「BENTO-LABO」を手掛けてきた遠藤雅文シェフその人がすごい方だったんですよ。元公邸料理人で、外務大臣表彰を受賞するほどの人物なのに、それをまったくアピールできていなくて。それで、遠藤シェフには講演会の出演やキュレーションサイトへの登録など積極的に露出してもらい、彼の存在を前面に押し出したブランドを作ることにしたんです。

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※「Endy's Kitchen」のお弁当・デリバリーメニュー


─濃密な日々を過ごされていたようですね。

 半年間出向して、何の成果も残せなかったではいけませんから。時間との戦いでしたね。新規ブランドの立ち上げでは商品開発やwebページの製作、商品撮影などやらなくてはいけないことばかりで気持ちも焦っていましたけど、行動するうちにモヤモヤが晴れてく感覚がありました。「Endy's Kitchen」は完全に軌道に乗るところまで居られなかったのが心残りですが、順調に推移できていると聞いています。

─こうしたアグリホールディングスでの活動は、三越伊勢丹とは大きく違っていましたか?

 ここまでの規模の企画・販売を手掛けることはなかったですね。企業の傾向として、既存商品を売場でうまく組み合わせる編集力には自信があるのですが、ゼロから価値を生み出すのは不得手なんです。私たちのような小売業が製造から販売までを一貫して手掛ける「SPA事業」もなかなか成功できていませんから。
 またビーガン向け弁当のように、「痛みに寄り添う」モノ作りの視点も持っていなかったことに気付きました。百貨店は、やはり嗜好品や贅沢品の取り扱いが多いですから。マスの消費者が喪失して細分化されていく今後の社会では、個別の「痛み」に寄り添う感覚は絶対に必要です。こうした部分はこれからも活かしていきたいですね。

大企業の看板を外して見えてきた自分

─その他にはどのような違いを感じましたか?

 意思決定のスピードの速さには驚きました。「食を通じて日本を豊かにする」という共通理念の元にあれば、「来週に新ブランドを立ち上げたいです」「いいよ」という感じで進められるので。いちいち明確な指示やヒエラルキーがいらないティール組織だったからこそなのでしょう。そこがベンチャーのスピード感の秘訣なのだと思いました。
 また事業立ち上げの際、収益化までの道筋を厳密に計画するより、まず行動を起こすことが奨励されているのも大きな違いでしょう。KPIの設定は大切ですが、そこに縛られてはニッチな「痛み」に寄り添ってからニーズを広げていくという手法を取りづらいのだと考えます。

─普段とは異なる環境に身を置くことで、ご自身にどのような変化があったとお感じですか?

 マインドセット的なところでいうと、これまでは思い込みが激しかったのだなと反省しました。自分には販売力があると信じていたのですが、アグリホールディングスで同じように取引先にプレゼンしてもまったくダメだったんです。三越伊勢丹という看板の偉大さを痛感しました。

─ 一度看板を外してみないと実感できないものですね。

 本当にそうで。熱く伝えたつもりだったのに、自分の想いもプランもなんにも伝わってないことがけっこうあったんです。試行錯誤の末に気付いたのは、やはりここでもストーリーの大切さでした。自分は何者であるか。何を成し遂げたいと思っているのか。ストーリーをしっかり伝え、どれだけ共感してもらえるかが大事なんだと。そのためには事業家としての目線が必要でした。きちんと自分たちのストーリーを語れるようになったとき、周囲を巻き込めていける感覚が生まれたんです。

─共感を生む秘訣に気付いたのですね。

 はい。それに「Endy's Kitchen」立ち上げの際に理解したのが、行動することの大切さです。頭でプランを練るのも大事ですが、行動することで事態が進展し、新しいアイデアが生まれたり人の縁を結べたりできるのだと勉強になりました。

イノベーティブな領域にチャレンジしていきたい

─2020年3月に出向期間が終了しましたが、三越伊勢丹に戻られてからはいかがですか?

 戻ってからは、関連事業推進部に配属されました。社外のベンチャー企業と協業するアクセラレーターや社内のイントラプレナーをサポートしたり新規募集を掛けたりが主業務です。また三越伊勢丹イノベーションズというコーポレートベンチャーキャピタルにも籍を置き、株主総会や経理・財務など経営管理業務にも携わっています。いずれも、アグリホールディングスというベンチャー企業に在籍していた経験そのものを活かせる職場だと考えています。

─なるほど。出向先で培われた事業家目線を活用できますね。ただ、食領域から離れてしまうのは寂しいところがあるのでは?

 直接の食品売場からは離れてしまいましたが、百貨店の強みが食にあることは変わりません。サポートする新規事業も、デパ地下を再現するVRサービスやワインのソムリエによるHowtoを映像化するオウンドメディアなど、食とつながっているんです。利益に大きく貢献できる可能性があることと、モチベーションの高い方々と協業できることにとてもワクワクしています。

─また新しい視点を得ることができそうですね。

 アグリホールディングスへの出向によって、イノベーティブな領域にチャレンジしていきたいと望む気持ちが強化されました。AIベンチャーと協業するため、ディープラーニングに関する知識習得の証となる「G検定」を取得しました。次はITパスポートの取得にチャレンジし、こうした新しい学びも楽しみながら取り組めています。

─ベンチャーマインドも育まれたのですね。

 そうですね。一度離れたことで会社の強みや魅力も見えてきましたし、経営に近い人たちの手腕も再認識できました。やはり「BENTO-LABO」を井上さんが思うように色々とトライしていい、と言われたことが大きかったですね。
 ベンチャー企業がさまざまなイノベーションを起こしていますが、大企業だからこそ起こせるイノベーションもあるはずですし、世の中に与える影響力も大きいはずです。今後も自分の能力を磨き、新しい価値を生み出す仕事に携わりたいですね。そして、府中店のような悲しい事態を少しでもなくしていければと思います。

自ら行動して、新しい価値を生み出していく。そんなイノベーションの原点を実践で身につけた井上さん。「社内へのIT分野(ノンコーディングやAI)の教育や新規事業開発の人材育成」「プログラミング教室の参加」「会社経営の知識習得」などやりたいことはまだまだあるそうで、これからもチャンレンジをし続けます。

Fin

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Interview&Writing:横山博之
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